昭和36年

年次経済報告

成長経済の課題

経済企画庁


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高度成長下の問題点と構造変化

高度成長下の構造変化

金融構造の変化

金融構造変化の方向と現段階の特徴

長期資金供給と貯蓄形態の変化

 我が国の金融構造は、個人貯蓄が銀行に集中する一方、企業が銀行借り入れにたよって投資を進める点に特徴があった。この間接金融方式は、現在も我が国金融構造の基本的特徴となっているが、最近長期金融機関の資力充実や資本市場の拡大など金融構造にも変化が目立ってきた。これは経済の高度成長過程において企業の資金調達、個人の貯蓄形態選択の両面に変化が生じてきたことを意味するのである。

 すなわち第1にこのような変化は、企業の盛んな長期資金需要に応ずるという意味を持っていた。技術革新を反映して一単位あたりの設備投資は特に大規模化し、このため企業集団の形成や系列化が進展しているが、それだけその頂点に立つ巨大企業の社外投資も増加せざるをえず、その固定資金需要はますます尨大なものとなっている。

 このような資金需要に対応して、長期資金調達ルートかいかに整備されていったか、企業の資金バランスをみよう。これを戦後のいくつかの時期についてみたのが 第II-6-1表 である。設備投資が本格化した30年から32年にかけては長期資金の不足が著しく、固定比率(固定資本/自己資本)、固定長期適合比率(固定資本/(固定負債+自己資本))はいずれも悪化し、ために流動比率(流動資産/流動負債)は圧迫され低下した。その後34年ごろまでは設備投資が高水準を続けたので固定比率はなお急激に悪化したが、長期借入金や社債など固定負債の著しい増加があったため、固定長期適合比率の低下もおおむね回避することができた。どく最近の段階では固定比率の悪化傾向もあまり目立たなくなった。自己資本の増加テンポが投資の拡大テンポに追いついてきたことを示すものといえよう。

第II-6-1表 企業の資金バランス

 このような企業資金調達面の変化は、貯蓄形態の多様化によって支えられている。個人の所得水準が上昇し、その金融資産の蓄積が進むにつれて、個人貯蓄の形態も預貯金から金融債、貸付信託、投資信託、さらには株式投資にまでひろがってきた。短期のものからより長期の貯蓄へ、家計準備的なものから利殖目的のものへ、貯蓄の重点が移ってきたといえよう。

 第II-6-2表 は、形態別の貯蓄保有額を所得階層別にみたものであるが、これによって所得水準の上昇につれて、株式、投信などの比重が増えることがわかる。全体の所得水準が高まるにつれて、しぜんに株式、社債への直接投資も増えていく方向にあるといえよう。ただ実際には直接投資に一挙に移行することなく、金融債や投資信託などの比重が高まり、これが最近の金融構造変化の担い手となっている。

第II-6-2表 階層別種類別貯蓄保有額

金融構造変革の担い手

 次にこれらの性格についてみておこう。まずこれまでのいわゆる間接金融方式の担い手であった銀行の個人定期預金に対して、金融債、貸付信託、投資信託等がどのような伸びを示してきたかをみると、 第II-6-1図 のように最近これらの伸びが大きくなったことがわかる。

第II-6-1図 各種貯蓄の伸び

 ところでこれら金融資産形態の特徴は、個人が直接個々の企業に資金を投ずるわけではないが、証券形態をとるとか、リスクを負うとかの面で、直接金融的な色彩も加えられていることである。いわば間接金融から直接金融への過渡期の貯蓄として、両者の混合形態をなしているといえよう。特に投資信託の拡大は、企業の株式、社債の発行を容易にし、長期資金調達と資本構成の是正に寄与するものとして大きく評価されよう。

大企業の資金調達

 このような金融構造の変化に大企業がいかに対応したかをつきにみよう。

 我が国製造業における大企業の地位はどのようになっているだろうか。34年の製造業法人企業約14万社の使用総資産は9兆5,861億円と見込まれている。これに対し、以下で巨大企業と名付ける使用総資産500億円以上の製造業23社の使用総資産は1兆6,719億円に達し、また、その他の主要大企業388社(三菱経済研究所調べ)の使用総資産は2兆9,512億円となっている。社数において0.3%の大企業411社が、全体の48.2%の資産を保有し、またそのうちの5%に過ぎない23社で全体の17.4%の資産を保有しており、その経済力の強さを物語っているといえよう。

大企業の資金需要の特徴

 最近のめざましい我が国経済の成長が、技術革新、国際競争力強化などの必要に基づく企業の設備投資によってもたらされていることはいうまでもない。大企業の有形固定資産は31年上期から35年上期までに1.9倍となり、特に巨大企業のそれは2.4倍にも達している。しかも特に注目されるのは、投資勘定の増加が著しいことである。その残高は上記の期間に大企業では3.3倍、巨大企業では3.6倍となった。

 このような著しい投資勘定の増加には二つの面がある。その第1は横の関係で金融機関や関連企業との取引円滑化のため株式を相互いに持ち合いう場合である。原料、製造、販売各分野間のコンビナート形成はこの動きを一層助長しているといえる。他の1つは縦の関係で、系列企業の株式取得や、これに対する出資、長期貸付金等、設備ないし長期運転資金を供与する役割を果たすものである。系列企業の増加、新企業の設立等は、経営多角化と関連して最近急速に進んでいる。一般に新設企業は独自の資金調達能力に乏しく、勢い親企業の資金供与に依存する所が大きいのである。巨大企業の場合投資勘定のうち第1の理由によるものがほほ30%、第二の関係会社向け投資は60%を占めており、その投資内容が系列会社への資金供給的性格を強く持っていることがわかるのである。

 このような投資は、その性格上長期、固定的な性格が非常に強い。設備投資の場合、減価償却分や利益の回収ができるのに対し、有価証券投資の場合には、配当金は全く望めないわけではないが、系列会社を育成する見地からは、多くを期待できないからである。現に財閥系石油化学企業などでは、配当をしていない。

 このように巨大企業は単に自己の企業内部の投資資金だけでなく、系列下の企業の投資資金までも調達している場合が多い。こうした動きを強めていることは巨大企業の大きな特徴だともいえる。

 それでは固定資産中心の資金需要の増加がどのように賄われたかというと、長期借入金、株式、社債のいずれもが、固定資産の伸びを上回る増加をみせている。このことは一般の大企業にも共通するとはいえ、巨大企業の場合にこれら資金源の伸びは一層顕著である。( 第II-6-3表 参照)以下その内容についてみていくことにしよう。

第II-6-3表 設備信金源泉の構成及び伸長率

株式市場を通じる大衆資金の導入

 31年上期から35年上期までに、大企業の資本金は2.2倍、また巨大企業のそれは3.2倍に達した。このような遠いテンポの増資を可能にした要因として、収益の増加が配当負担を特に重荷と感じさせないほど大きかったことがあげられる。例えは巨大企業の純利益金に対する配当の割合(配当性向)は、31年上期の43.3%より35年上期には34.7%へと低下した。一般の大企業でもこの間45.4%から38.4%へ低下している。このように収益面から株式資金調達可能性が大きいことが、大企業の株式資本との関連における第1の特色をなしている。

 次に大企業は増資にさいし公募を利用することが多くかなりのプレミアムをえている。すなわち公募の利用はまだ必ずしも一般化していないが、最近はかなり増えてきた。35年中の増資実行会社406社(増資等調整懇談会調べ)のうち128社がこれを行ったが、特に巨大企業23社についてみると増資会社15社、そのうち公募付は8社を数え、一般の場合より利用度ははるかに高い。その金額面の比重は第4表に示すように、35年実績でみると、公募割り当の比重は増資手取金額の4.3%、プレミアム分を加算した時価発行取得金額は15%に達し、前記増資実行会社の6%をかなり大きく上回っている。ただ公募は株価の低落要因として市場からは歓迎されない場合もあり、当面この増資方法が大勢を占めるほどに普及するとは考えられない。しかし現在、企業、特に巨大企業が株式資本調達面で資金コストを低下させる方法として、これにかなりの比重をもたせていることは否定しえないであろう。

 第3の特色としては株主層の大衆化が進んでいることがあげられる。これを所有数別株式分布でみるに一応、大衆層の持分とみられる5千株未満の比重は巨大企業においてこの5年間に39%より44%へと増大し、一般企業の場合も31%より37%へとかなりの伸びをみせている。

 大企業の株式資本面に大衆資金を動員するルートとして、投資信託が大きな役割を果たしていることが4番目の特徴である。 第II-6-2図 は所有者別株式分布状況を示しているが金融機関持分の減少に比し投資信託の増加は著しい。投資信託の持株比率は31年当時は、巨大企業も、一般企業も3%に過ぎなかったが、35年上期には、巨大企業では10%、その他一般企業では7%に達している。

第II-6-2図 所有者別株式分布

第II-6-4表 増資にしめる公募の地位

起債市場における巨大企業の優位性

 事業債の発行高は36年に入って大幅に増えているので、従来の傾向だけから判断を下すことにはやや問題があるが、もともと起債市場の利用は大企業に限られ、特に巨大企業に有利な条件を備えているといえよう。

 社債を発行した会社の範囲をみると、35年度には213社を教えたが、これは最近数ヶ年ほとんど変わらず全国上場会社数に対しても27%に留まっている。

 また社債発行額の資本金との割合をみると、巨大企業は特に有利で37%となっていて一般大企業の19%を上回っている。

 巨大企業にとってさらに有利なのは、起債条件に格差があることである。

 巨大企業は超一流債ないし一流債として格付されているが、これは超小型債より4厘内外低利である。現状では発行条件は自由化されていないので、本来の格差は現れていないと思われる。発行条件を自由化すれば、発行機会はより平等化するかもしれないが、金利面の格差は一層拡大する可能性がある。

 また起債単位についても大口化が進んでいる。1回当たり起債額は巨大企業の場合31年度の平均371百万円から35年度には788百万円に2.1倍に膨張し、これを除く一般事業債でも235百万円から308百万円に1.3倍となっている。

長期借入金と取引金融機関の拡大

 以上のように株式、社債市場の拡大は著しかったが、この期間においては株式、社債によって十分な資金が供給されるには至らなかった。資金源泉として最も大きな役割を果たしたのは長期借入金だったのである。長期借入金の中でも長期信用銀行、生保、信託などの比重が高まり、政府金融機関、都市銀行どの比重は低位に留まっている。この傾向が特に著しいのは巨大企業の場合である。

 最近4年間における巨大企業の長期借入金の増加額は2,775億円に達しているが、金融機関別にみると、長期信用銀行(寄与率31%)、貸付信託(24%)、外資(22%)、生保(12%)の順に大きく都市銀行がこれに続いているが、その比重は6%ていどである。( 第II-6-5表 )このような借り入れにおける取引の関係をみると、1企業平均取引銀行数は31年都市銀行3.9行、信託銀行4行より35年には、都市銀行4.8行、信託銀行4.8行と取引範囲は拡大している。これは巨大企業にあっては設備投資資金が尨大化するにつれて、少数の主取引金融機関のみでは所要資金をまかないきれなくなったことを意味している。

第II-6-5表 巨大企業の機関別長期借入金残高

 以上急速な経済成長の過程において、大企業がいかにその資金調達を行ってきたかをみた。その中心は長期借入金でこれは割引金融債、貸付信託など先にみたような混合貯蓄形態の普及に支えられている。そのうえこく最近では、株式、社債による資金調達の増加も著しい。換言すれは大企業は金融構造の変化にマッチした方向で資金調達を進めており、巨大企業はそれを最も活用しているといえよう。

中小企業金融の動向

 一方中小企業金融面にはどのような変化がみられるだろうか、最近の経済成長下における金融構造の変化が中小企業金融にどのような影響を及ぼしているかに焦点を合わせて考えてみよう。

中小企業金融の安定化

借り入れの困難性

 中小企業問題の中でも、中小企業の資金調達難は重要な地位を占めている。中小企業にとって借り入れが困難である企業側の理由としては、収益力、物的担保力、人的信用力などの低さがあげられよう。特に景気後退期には金融ひっ迫の影響を受け、中小企業の金融難は激化しがちがあった。

経済の高度成長の影響

 ところが最近の高度成長を反映して中小企業金融にも変化が現れてきた。すなわち、金融機関の総貸し出し増加額中に占める中小企業向け貸し出し額の比重をみると、 第II-6-6表 にみるように金融繁忙をみせた35年においても。41.7%と29年(21.6%)、32年(26.5%)のような大幅な低下を示さなかった。もちろん35年の金融繁忙と、29、32年の金融引き締めとではひっ迫の度合いが異なることは否定できないが、金融繁忙下の中小企業同貸し出しの比重として、これは従来例をみない高さで、中小企業金融の著しい改善ということができる。

第II-6-6表 貸出金に占める中小企業貸出の比重

 では、中小企業金融がこのように安定をみせ始めた原因は何であろうか。

 日本経済全体の安定成長体質改善、中小企業の基盤強化がもちろん前提条件であるが、資金の流れにも変化があったことは明らかである。中小企業への資金供給は内部金融を別とすれば、全国銀行貸し出し、中小企業金融機関貸し出し、さらに加えて大企業よりの売掛超過などが主であるが、この点について検討しよう。

 第1に全中小企業貸出のほぼ50%を占める全国銀行貸し出しをみると、その比重は、幾分低下傾向を示しているが、その変動は少なくなっている。もともと銀行貸し出しは金融繁閑の影響を最も大きく受けるところからその中小企業同貸し出しは29年の金融ひっ迫期にはマイナスを示し、32年にもその銀行総貸し出しに占める比重は11.4%へと低落として、中小企業金融を圧迫する結果となった。ところが、35年には金融繁忙から低下をみせつつも、その度合いは前2回の場合に比べるとはるかに弱く、中小企業金融安定化の役割を果たしたといえる。また35年度下期には資本市場拡大を背景として増資、起債の増加により、大企業への貸し出しは相対的に減少をみせ、中小企業に対して従来より多くの資金を供給しえたといえる。もちろん、本来なら銀行へ集る資金が直接に証券市場へ回ったとみられるものもあるが、相対的には全国銀行ごとに都市銀行の資金繰りを好転させ中小企業貸し出しのための余裕をもたせたものと思われる。

 第2に中小企業金融機関は、戦後急速な膨張を続け、その中小企業金融に占める比重は 第II-6-3図 に示すように、着実なペースで伸びている。これが中小企業金融を緩和したのは当然のことであろう。(最も相互銀行、信用金庫の貸出のうちには一部大企業も含まれているとみられる)なお、相互銀行、信用金庫の成長については次項で触れることにする。

第II-6-3図 中小企業向貸出増加額の金融機関別比率

 第3に大企業からの売掛超過は、大企業による系列強化、下請け依存度の上昇に伴いすう勢的に増加傾向をたどり、中小企業金融の緩和に役立つと期待されている。また最近の金融構造の変化による大企業の流動性向上は売掛超過の形での資金供給増大の可能性を一層大きくしよう。

 以上にみたように中小企業金融は、根底に借り入れの困難性を根強く残しつつも、金融構造の変化によってマイナスではなくプラスの影響を受けている。従来、格差をつけられて、いわば閉鎖的な下級金融市場にとじこめられていた観のある中小企業金融が金融の流れの変化と共に自ら金融流通の循環に遂げこむことが可能となったといいうる。

中小企業金融機関の成長

現状

 全金融機関預貸金に占める中小企業金融機関の地位は 第II-6-7表 に明らかなように、着実なペースで伸びており、最近相互銀行は6%強、信用金庫は5%強の比率に達している。他の金融機関の地位が横ばいないし低下をみているのにくらべ顕著な発展傾向といえる。

第II-6-7表 全金融機関預貸金にしめる比重

 次に貸出金の業種別構成をみよう。ここでも日本経済の高度成長に伴う変化がみられる。第1に成長業種の比重増大である。相互銀行において30年末貸出残高と35年末とを比べると化学4.4倍、金属4.2倍、機械4.2倍、電気機器5.7倍、輸送用機器8.3倍に達し平均の2.6倍を大幅に上回っている。その結果、以上5業種の総貸出残高に占める比重は30年の4.8%から35年には、8.9%へと著増を示した。第2は設備資金貸し出しの比重増大である。設備資金貸し出しの伸びも成長業種で顕著で化学10.5倍、金属9.9倍、機械7.9倍、電気機器11.6倍、輸送用機器28.8倍に達し、平均の3.9倍をさらに大きく上回っており、この結果、以上5業種の比重は30年の3.2%から、35年には8.9%へと大幅に増加している。信用金庫の貸し出し増加状況も同様な傾向が顕著である。

 次に資金調達形態をみると、相互銀行では、30年3月には掛金57.7%、預金42.3%であったものが35年3月には33.3%、66.7%に逆転している。

 以上のように相互銀行、信用金庫を始めとする中小企業金融機関の発展の特色としては銀行化の傾向が指摘されよう。貸し出し形態、貸し出し内容、資金調達形態など市中銀行との区別が少なくなったといえる。最も個々の金融機関の形態は決して一様ではない。例えば相互銀行について最上位8行とその他64行に分けてくらべると総資金量は35年3月には30年3月に対して上位8行は、2.7倍、その他は2.2倍であって企業規模の開きが目立っている。

 銀行化の傾向は大規模化した相互銀行、信用金庫において特に著しい現象である。

第II-6-8表 相互銀行信用金庫の貸出構成

発展の背景

 では中小企業金融機関はなぜこのように顕著な発展を示したのであろうか。基本的には中小企業自体の堅実な発展、各中小企業金融機関の企業努力、店舗網の充実などがあげられるが、さらに金融市場のあり方も作用している。すなわち都市銀行は日銀借入依存が高く、その資金ぐりはたえず圧迫されていたのに対し、中小企業金融機関の資金ぐりは比較的ゆとりがあった。特に金融引締めが日銀窓口規制を通じて行われる結果、金融引線め期には都市銀行資金繰りの窮迫は著しくなるのが例であった。このような事情から都市銀行の中小企業金融機関の比重を高める方向に作用したとみられる。ただ都市銀行の資金繰りは将来資本市場の拡大や現金通貨供給方式の多様化につれて緩和することも考えられる。このような事態に備え、中小企業専門金融機関としては、今後とも金利の低下、経営の合理化につとめる必要があろう。

中規模企業の成長とその資金調達

 我が国産業構造の特徴の1つは、一方で近代的な大企業が存在すると共に他方では零細な中小企業が多数密集し、その中間に中規模企業が成り立つする余地に乏しかったことにある。しかし最近の高度成長の結果、中規模企業がかなりの増加をみせるまでになった。このような中規模企業の増加は、機械や化学などの成長分野に多い。中規模企業は技術革新と消費革命の展開に無視できない役割を果たしていることが察せられよう。

 それゆえに中小企業から中規模企業への成長を金融面からも支援していくことが今日特に要請されているといえる。中小企業から中規模企業への成長を支持する最初の段階は中小企業金融機関自体が成長企業の育成につとめることであろう。相互銀行、信用金庫の成長産業向け貸し出しの増加については先にもみたが、これは一面では中小企業金融機関の成長が中規模企業の成長を支えていることの現れといえよう。個別の企業の成長がさらに可能であるならばやがて都市銀行、長期信用銀行の利用へ進むことが望ましくなるであろう。その場合中小企業金融機関から銀行への引継ぎが円滑に進められ、金融機関にとってはそれぞれ独自の領域をまもりながら、企業の発展を支えていく体制がそなわっていなければならない。

 さらに中規模企業の上層部に達したものについては資本市場を利用した資金調達の途がひらかれている。現在いわゆる店頭市場においてその株式を公開し、増資を行う企業が急速に増加している。これらの企業のうち、成長力が強いものは増資のテンポはかなり速く、増資が資金源泉としても重要な比重を占めるに至ったものも少なくないのである。ただ中規模企業のなかには同族や親会社の一方的な支配下にあって大衆資本の導入にふさわしくない経営形態をとっているものも少なくない。現在店頭市場を組織化して第二市場部を設置する機運がもり上っているが、それは中規模企業に資金調達のルートをひらくだけでなく、その経営の近代化を促すきっかけとなることが、期待されよう。

第II-6-9表 店頭企業の資本構成

結び

 我が国の金融構造はいまや間接金融から直接金融への過渡期にある。間接金融一本槍の姿から直接金融的色彩を持った混合形態の貯蓄ルートが生み出されてきた結果、金融のあらゆる面で大きな変化が生じつつある。

 これまでの変化は、まだ従来の金融構造の性格を著しく変えるほどのものではないが、既にトップクラスの企業では、新たな条件に応じた資金調達を行っている。長期資金の調達に当たって、普通銀行以外の多くの倍入れルートを利用しているし、株式、社債の発行面でも有利な条件を獲得している。

 このことは単にこれら企業の成長を助けたばかりでなく、都市銀行への資金需要の集中を相対的に緩和する結果ともなった。中小企業金融機関の成長とあいまって、中小企業金融も比較的安定した推移をたどっている。

 一般大衆や投資家も新たな貯蓄ルートの出現から利益を得、これを取り扱いう金融機関や証券会社の成長もめざましい。

 だが、金融構造の変化に伴って二つの問題が生じている。

 すなわち第1は従来比較的比重の小さかった各種貯蓄の成長によって、それにふさわしい制度の整備と貯蓄ルート相互間の調整が必要とされるに至ったことである。例えば投資信託について委託販売会社の証券会社からの分離が進められつつあるのはそのような意味を持つものといえよう。第二は従来の窓口規制一本の金融政策ではこれらの資金の流れを直接にはコントロールしえないことである。基本的にはコール市場や社債市場を正常化し、金利機能を活用する体制を整えていくことか望まれよう。


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