昭和36年

年次経済報告

成長経済の課題

経済企画庁


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高度成長下の問題点と構造変化

高度成長下の構造変化

地域構造の変革

 我が国経済の高度成長に伴って、産業、経済の地域構造もまた急速な変化を要請されている。事実、最近の地域構造の変ぼうは、激しい勢いで進んでいるが、それは必ずしも、国民経済的な視野から統一的に正しい方向で摩擦なく進行しているとはいいがたく、変化の過程において、さまざまな問題を生みつつある。

 問題の第1は、四大工業地帯への過剰集中がいよいよはなはだしくなり、集積の利益以上に密集の弊害が目立ってきたことである。そこでは、生産面で、用地・用水・輸送施設など産業基盤の隘路化が顕著になると共に、生活面でも、通勤地獄、住宅難、空気汚染など、都市生活環境の悪化がきわ立つてきている。第2は、既成工業地帯とそれ以外の地域との間の格差問題である。特定地域への工業の集中は、所得ひいては生活水準、文化水準のかたよりをうながし、地域間格差の拡大を招くことになる。

 地域問題は種々の形をとって現れているが、上の2つがその核心になる問題点であろう。ここでは、まず「産業の地域構造の変ぼう」として第1の問題をとらえ、集中の現状と弊害をみると共に、新しい工業立地の動向の実情をみ、次いで第2の地域間格差問題を「所得の地域格差」の問題としてとらえ、その現状と格差形成の理由をたずねることとする。さらに、地域格差是正策の一環としての地方財政を通じる所得格差縮小効果の吟味、金融面からみた地域構造の現況と資金の地方還流への努力の実情を補足としてつけ加えて、最後に、地域問題解決の方向に触れてみよう。

産業の地域構造の変ぼう

 我が国工業生産の最近の地域別構成は、いぜんとして既成工業地帯を中心とするその巨大化の傾向を示している。( 第II-4-1表 及び 第II-4-1図 )。しかしながらこれらを支える諸条件を仔細にみると、京浜、阪神工業地帯の物理的立地条件の行語りをはじめとして、戦後経済の変ぼう、技術の進歩によってもたらされた立地条件の変化は、次第にこれら四大工業地帯を核として遠心的発展の様相を示し始めた。このような既存工業地帯巨大化の傾向と、これらへの過度集中による弊害、そして各産業の立地条件の変遷がいりまじって、工業立地の問題は明日からの日本の産業の大きな課題としてクローズアップされるに至った。

第II-4-1表 工業の集積を示す指標

第II-4-1図 工業の開発度による地域分類

四大工業地帯中心の工業生産

集中すすむ重化学工業

 昭和33年の製造工業の生産額は、 9兆8,437億円で、四大工業地帯を王とする高位の工業開発地域はその71%を占め、中位の工業開発地域の18%、低位の工業開発地域の11%に対して圧倒的な比重を示している。( 第II-4-2図 )これを5前年の28年と比較すると、生産の上昇率は全国で72%、高位地域77%、中位地域65%、低位地域58%であって、関東臨海は97%とほぼ倍増に近い伸びを示している。

第II-4-2図 地域別工場生産比率

 また業種別にみれば、各地城とも車化学工業化が進み、重化学工業と軽工業の生産比率は、全国で28年には43:57であったのが33年には48:52となり、高位地域は33年にほぼ50:50に達した。

 さらに各地域の業種別生産分布をおのおのの特化係数によってみると、高位地域は過半の業種にわたって全国平均以上の比率を示し、平均以下の業種においても最低が石油石炭製品の0.86であり、おしなべて全業種が集中的に発達している。もちろんその中核をなすものは関東臨海、近畿臨海であって、前者は6業種、後者は5業種にわたって特化傾向を示している。その他の地域については、東海は繊維を主体とするむしろ軽工業部門に特化の特徴がみられ、九州北部は鉄鋼業に、山陽は輸送機械と石油石炭製品に、四国北部は非鉄、化学及び石油石炭製品において著しく特化されているが、全業種を通じてみると、各係数は極めてアンバランスを示している。

工場、労働力の集中傾向

 このような生産を営む事業所の数は33年には高位地域60%、中位地域23%、低位地域17%で、28年以来の増加率はそれぞれ30、16、13%と。高位地域のみが全国平均の23%を上回っている。

 労働力供給源である人口についてみると33年の高位地域の人口は全国の45%、中位地域25%、低位地域30%で、高位地域人口は全国の半分に満たないが、人口密度は他地域をはるかに引離している。( 第II-4-3図 )人口の28年に対する増加率は、全国の6%に対して高位地域は10%の増加であるのに、その他の地域は1ないし4%に過ぎない。

第II-4-3図 労働力の集積

 もちろんこのように集中された人口のすべてが工業の生産に従事しているわけではない。全国の製造工業従業者は人口の7%足らずで、高位地域といえども10%に満たない。しかしながらこの全国従業者の65%は高位地域に働き、中位地域22%、低位地域13%に対して大きな開きをみせている。

 28年から33年までの5年間の増加率は全国31%に対し、高位地域は36%、中、低位地域はそれぞれ23、21%である。従って人口の対全国比に対する従業者数の対全国比の比率をみると、高位地域は1.4でやはり従業者数の人口に対する特化は著しい。

設備投資の地域別動向

 最近の設備投資の地域別の構成は、高位地域が60%を占め、依然として四大工業地帯を中心とした資本の投入が行われていることを示している。

 ( 第II-4-4図 )注目すべきことは、中位地域の山陽の設備投資の増大で、全国の15%以上に達して近畿臨海の12、3%を迫越す勢いにある。このことは後に述べるように、既成工業地帯がようやく飽和状態に達し、今後の発展に新しいフロンティアを求めようとする企業の意欲を示すものといえよう。

第II-4-4図 設備投資額の地域構成

既成工業地帯集中の要因

立地条件の優位性

 我が国の工業の発達が明治以来ほとんど京浜、阪神をはじめとするいわゆる四大工業地帯にのみ集中的に発展してきた理由の1つは、これらの地域が工業通地としての優れた立地条件を具備していたということである。しかしながら、工業立地の好適条件とはただ単に平地がある、用水がある、港湾があるということだけではない。そのほかに古くからの政治、商業、交通、文“化の中心に対する資本の集中、中央集権的な保護政策、市場の形成等が原因となりまた結果となって、今日の工業地帯を築きあげたことを無視することはできない。この意味で第3次産業の集積度は工業の集積と密接な関係を持つものといえる。

 最近の就業構造をみると、高位地域は構造的にはすでは西欧型に近いところまで進んでいるが、中、低位地域は依然として第1次産業が半ばを占め、第2、第3次産業の構成比率は高位地域に比べて著しく小さい。しかもここ数年の構造変化の過程において、中位地域の第2次産業就業者の増加率は高位地域にほとんど等しいにもかかわらず、第3次産業人口の増加は低位地域並に格段に低い( 第II-4-5図 )。

第II-4-5図 地域別就業構造

集積の利益

 工業が集積するためには、そこに恵まれた立地因子が数多く揃っていることが必要であると共に集積する企業の側からみれば、集積することによって得られる利益もまた大きな魅力となる。

 集積の利益としては

 1) 大規模生産による利益

 2) 関連工業、下請け企業等の技術的機構の発展による利益

 3) 質量両面にわたる雇用組織の発達による利益

 4) 原燃料、製品市場の発展による接触利益

 5) 社会的諸施設の発達による利益

 等が挙げられる。これらはさらに要約すれば、供給面においては生産費の低下をもたらす費用減少因子と、需要面においては売上高の増加をもたらす利潤増大因子とから成り立っているといえる。

行詰った産業基盤─過度集中の弊害

工業用地

 工場が集中しその規模がマンモス化するにつれて、これらの地域の工業用地が窮屈になってきた。今日、10万坪(33ヘクタール)の土地で、工業用水が1日3万立方メートル使え、1万トンの船を横付けできる岸壁を作れる用地を、東京から大阪までの間に今すぐみつけることはできないであろうといわれる。

 所得倍増計画によれば、今後10年間の工業用地の新規必要量は約55,000へクタール(1億6,500万坪)と試算されている。29年以降の農地の鉱工業用地への転用許可面積は9,000ヘクタールで、その45%は高位地域に含まれているが、関東内陸が11%と関東臨海の7.5%を上回っていることは、京浜地帯の工業用地取得が地価の高騰等のため困難になってきたことを物語っている。ここ2、3年のように毎年2,000ヘクタールの農地が、今後10年・間工業用地に転用されるとしても、倍増計画にいわれる必要量の半分にもならない。また埋立による土地造成は29年以降の工業用地埋立免許面積(完成面積ではない)でみると3,900ヘクタールで、やはりここ2、3年の増加が著しい。埋立免許面積のそれぞれ1/bは関東及び近畿の臨海部であるが、山陽が近畿、北九州の代替用地として大規模な埋立を計画している。

 通産省が35年夏に行った45年度までの「長期工業立地見通い調査」(従業者数30人以上、1,860社)によれば、45年度までに新たに38,000ヘクタールの工場用地において生産が開始され、その42%が関東内陸の一部を含む臨海地域での立地を予定し、近畿11%、東海23%(不明14%)と、相変わらず根強い企業の集中化の傾向を示している。

工業用水

 33年における工業用水の使用量は淡水、海水合わせて1日当たり5,000万立方メートル、淡水は2,400万立方メートルであるが、いずれもその過半は高位地域において利用されている( 第II-4-2表 )。高位地域の淡水の水源別の比率は井戸水が40%で断然多く、京浜、阪神の工業地帯では地下水の過度汲上げにより地盤沈下の公害まで惹起し、工業用水法による制限が行われている。

第II-4-2表 水源別工業用水使用量

 工業用水の取得にあたっては既得水利権、農業用水との競合問題もあり、今後激増を予想される工業用水需要の充足は、土地と共に決して安易な見通しは許されない。

 倍増計画に推定された45年の工業用水需要量は、淡水で1日当たり8,300方立方メートルで、33年の約3.5倍に達する見込みである。これに対する通産省の需給見通しは、自家引用水で1日2,300万立方メートル、うち地下水はわずかに800万立方メートル、上水道、工業用水道による買水は3,990万立方メートル、回収水1,990万立方メートルとなっている。その結果自家引用水は68%から28%と減少し、買水は12%から48%に急増することになる。ことに四大工業地帯では自家引用による新規供給はもはや考えられず、かえって現在の自家引用水すら一部は工業用水道を持って代替しなければならないとされている。

 このように主要工業地域の用水難は想像以上に深刻であり、これを解決するためには回収水利用の効率上昇、あるいは海水の淡水化技術の早期実用化が必要なことはいうまでもないが、水道敷設工事の進ちょくいかんは工業の発展に重大な影響を与えることになろう。

 用水量の開発と共に注意しなければならないのは価格の問題である。現在の平均供給価格は立方メートル当たり2.6円といわれるが、今後水源の遠隔化、買水のウェイトの増加等からかなりの上昇が予想される。建設中の工業用水道の供給料金が立方メートル当たり10円近くにもなるようなことになると、用水費の上昇による企業負担の増大は今後の工業発展に水をさすことになりかねない。

輸送施設

道路

 34年度の旅客及び貨物の輸送量は27年度に対しそれぞれ62%、47%の増加であるが機関別には自動車の躍進と国鉄の停滞が顕著である。

 「日本に道路はなく、あるのは道路予定地だけだ」といわれる。我が国の′道路舗装率はアメリカ60%、フランス76%、イギリス100%、西ドイツ62%に対してわずかに10%にすぎず、道路率(都市面積のうち道路面積の占める割合)もワシントン43%、ニューヨーク35%、ロンドン23%、パリ26、%に比して東京10%、大阪17%、名古屋22%と、道路の普及は質量とも、に著しく遅れている。

 このような“道路”を毎年平均18%ずつ増える自動車が走っているが、都市における最近の路面交通は特に能率低下がはなはだしく、東京の銀座通り(新橋、須田町間)は29年には12分で走れた自動車が、33年には18分もかかるようになった。そのうち正常走行時間は4分、遅滞時間は14分の割合で、走行時間の80%までが交通混雑のために消費され、平均走行時速はわずか12キロメートルという麻癖状態にある。

 そのうえ、幹線道路の一部ももういっぱいで、建設省の1級国道自動車交通量調査によれば、工業地帯を結ぶ道路の交通量はここ数年間に2倍から3倍に達し、自動車交通容量を超過している道路もかなりみられる。

鉄道

 最近の貨物輸送状況は1車当たりの輸送トン数は頭打ちの状態に達し、貨物量の増加は貨車の増加を上回り在質はいっこうに減らない。特に東海道線590キロメートルは全国鉄道営業キロの3%にもたりないが34年度の輸送量は旅客279億人キロで全国鉄の24%、貨物は112億トンキロで全国鉄の23%と超繁忙を示し、ダイヤ編成も現行の方式では限界にきた感じである。

 沿線地域の人口、工業生産の増加率からみて新東海道線の完成による貨物、旅客列車、遠近距離列車の運行の再編成が待たれるわけである。

 東海道線以外をみても、国鉄調べによれば、34年現在で北海道滝川~旭川間は輸送能力の98%、羽越線坂町~酒田間は100%、北陸線敦賀~南福井間は97%とほとんど限界いっぱいの操業状態といえる。

 また都市における通勤交通難も、住居の都心からの遠隔化と共に、ラッシュ時における乗車効率は東京の国電を例にとると27026から300%に達し、35年から36年にかけての冬には時差出勤によってかろうじて破局を回避したという状態であった( 第II-4-6図 )。

第II-4-6図 国電ラッシュ時の輸送力と乗車効率

港湾

 港湾施設は、今まで比較的貨物取り扱い量の増加とバランスのとれた形で投資が行われてきたが、30年以降は若干その均衡が崩れはじめた。我が国の港湾の原単位(取り扱い貨物1トン当たりの行政投資による設備生産額)は1.7円から2.3円(昭和9~11年価格)、平均2.0円であった。運輸省の「港湾整備5ヶ年計画」によれば、この原単位は荷役形態の近代化、船型の大型化、港湾適地の枯渇による費用増大等から今後は漸進的に増大する必要があるとし、当面の適当原単位を2.2円としている。しかしながら31年以降の原単位はこの標準を下回り、取り扱い貨物量のこれ以上の増加は、現在の港湾施設を持ってしては不足と見られるに至った。事実、横浜、神戸等においては月末の貨物集中時には滞船、滞貨の増加の傾向を示し、海上輸送においても隘路発生の兆候が現れている。

公害

水質汚濁

 用水型産業が多種にわたって発達してくると工場排水の量の増加と共に、製品の多様性から廃水の性質も複雑となり、工場集積地における水質汚濁の問題は深刻になってきた。経済企画庁の調査計画によっても、現に被害が大きいもの、大都市及びその周辺に所在して公衆衛生上悪い影響が生じているもの、ならびに工業地帯が形成されつつあって水質保全の必要性のあるもの等早急に水質調査を実施する必要のある水域は約40水域であり、このうち約半数については既に調査が着手されている。

 また、下水道の普及の遅れ、さらには末端処理の不完全は都市における汚濁水発生の大きな要因として工場廃水と共に無視できない被害を発生させている。

地盤沈下

 工場密集地帯の長年にわたる地下水の過度汲上げは、地下水位の低下、塩水の混入、地盤沈下等の障害をおよぼす。31年に制定された工業用水法は、このような公害防止のために、被害の生じている地域を政令によって指定地域とし、地下水の彼上げを規制している。現在地域指定を受けているのは、東京(江東地区)、川崎、横浜、名古屋、四日市、大阪、尼崎の7地域である。

 東京江東地帯の地盤沈下は明治時代の末期に既に始まったといわれ、昭和12、3年の戦前の工業最盛期には年間沈下量は10~12センチメートルに達した。戦争末期から戦争直後にかけては戦災と工場疎開のために沈下現象は一時停止したが、戦後の復興と共に再び沈下量は激増し、33年には年間最大で17.5センチメートルを記録するに至った。大正7年から昭和32年までの39年間の総沈下量は2.9メートルに達している。

 尼崎地区は東京と並んで沈下現象がはなはだしく、昭和7年から、33年の26年間の総沈下量は3.1メートルで、年間平均11.9センチメートル、年間最大値は19.4センチメートルに及んでいる。尼崎地区の30年から33年にかけての地下水位及び沈下量の推移をみると、年々水位は低下し、沈下量も増大していたのが、32年10月に工業用水道が一部完成するとたちまち水位は上昇し、35年5月完成と共にさらに地下水の汲上量は減少し、水道の効果をみことに示している( 第II-4-7図 )。

第II-4-7図 尼崎地区地盤沈下量の推移

その他の公害

 以上のほかに産業公害として最近関心を集めているものに大気汚染と騒音、振動の問題がある。

 大気汚染の原因には、主として工場あるいはビル暖房、浴場で使用される石炭に加えて、最近では石油燃料、ことに自動車の激増による石油の煤塵が考えられる。

 煤塵の降下は気象条件によっても左右されるが、家庭ばい煙の多い札幌等一部の特殊事例を除き、工場密集地帯ほどその沈下量の多いことは考えられる。

 騒音及び振動による公害については、「東京都における都市公害の概況」によれば、24年から34年に至る間の工業公害発生件数6,062件のうち、最も多いのは騒音で3,323件で54.8%、次いで振動が747件12.5%、以下有毒ガス12.0%、ばい煙8.9%、粉塵5.9%、廃液1.6%、その他4.3%という構成で、工場地域内住民におよぼす騒音、振動の不快感は意外に大きいことがわかる。

新しい立地動向

消費地及び臨海立地化の傾向

 四大工業地帯の物的、自然的立地条件が行詰まりをみせてくると、企業は次善の土地を求めて新規の資本投下を始める。名古屋南部、堺、播磨の鉄鋼、千葉南部、川崎、横浜、四日市、水島の石油精製、石油化学等がその例で、ほとんどが既存工業地帯、大都市の隣接地またはその周辺部であり、そして‘大消費地に接触する太平洋、瀬戸内沿岸の良港の所在地または建設可能地である。

 生産の規模が大きくなれはなるほど、原料の相互入手、中間、最終製品の流通、販売等各面での接触利益への期待は大きくなる。いわゆる消費が消費を呼ぶ相互作用は市場を自動的に膨張させ、工場は工場を呼んで生産規模もマンモス化していく循環過程を繰り返す。しかも原材料の輸入依存度が増加するに伴って良港はすなわち原材料所在地ともいえるようになり、港湾の果たす役割は今まで以上に重要となり、港を求めて立地する傾向が強くなってきた。従って、中国の鉄鉱右。筑豊炭田の石炭を原料源とした北九州、あるいは、国内鉄鉱石、石炭産地付近の室蘭、釜石等の資源立地型から太平洋沿岸の工業地帯付近に移りつつある鉄鋼業の立地傾向などはその好例といえよう。

コンビナート立地の誕生

 工場における各作業の一貫化、規模拡大の傾向は、さらに一歩進んで、定地区に存在する同業種あるいは異業種の工場、企業が幾つか集って、相互いに原材料、製品の依存関係を結び、集団化の利益を得ようとする傾向に向かってきた。これが工業立地のコンビナート化である。

 現在その形成化の進んでいるのは、鉄鋼または石油化学を中心とするコンビナートで、前者は、製鉄所からの余剰コークス炉ガスの有効利用のために、化学、石油、電力等と結びつこうというものであり、後者は石油の精製─分析─合成を一連のコンパクトな流れを持って完成させようとするものである。これらへの参加産業はいずれも典型的な装置産業であり、生産コスト低減のためには大規模な生産が行われねはならず、大型港湾を持つ膨大な土地と用水が要求される。また参加企業は技術的、資本的にバランスがとれ、操業に当たっては常に一蓮托生的にハーモナイズされた高燥業度を必要とするため、事業の競合をめぐるチームワークのいかんが、経営の成否の鍵を握るものといえよう。

 このような大型コンビナートとは別に、最近注目を集めているのが中小企業の地域的な集団化である。これは三つの型があって、1つは産地としての団地化であり、足利地区のトリコット、甲府地区の木工、高崎地区のプラスチックは一部完了をみている。次の型は、特に機械工業において親企業の生産体制に即応する協力関係から、下請け工場群の親企業周辺への集団化で、その典型は愛知県豊田市のトヨタ系協力工場の団地化である。いま1つの型には両者を合わせたものといえる富山県機械工業センターの例を挙げることができる。

立地変化の要因としての技術革新

 戦後の経済立地に最も大きな影響を与えたのは技術革新であり、その顕著な例がコンビナート立地の傾向といえる。

 熱管理技術の発達による平炉燃料用コークス炉ガスの使用原単位の激減、銑鉄多消費製鋼法の発明によるコークス炉ガスの大量生産、そし深冷分離法の出現は、純粋水素の獲得とメタンの回収を可能にして、鉄鋼化学コンビナートを誕生させた。パイプラインに結ばれたオートメーションで稼動する石油化学コンビナートの成り立つに至っては、徹頭徹尾技術革新の所産といえる。

 化繊、合繊の進出と、綿紡の後退は、貿易、労働力立地の関西から用水、電力立地の東海への移動となって現れ、広葉樹を原料とするパルプ製造新技術は北海道の針葉樹地帯に偏在していたパルプ工場の本州、四国等全国的立地を可能にした。

 エネルギーの流体化革命は、燃料としての石油依存度を高め産炭地との障りを立地上のハンデキャップとしなくなった。石炭需給の不安定に悩まされてきた中京工業地帯は高炉の建設とあいまって重科学工業化のテンポを一段と早めるものと思われる。

 また、港湾造成技術、大型オアキヤリヤー、マンモスタンカーの造船技術の進歩も臨海消費地立地の傾向を促進しも今後の技術革新はますます新しい立地への転換を促さずにはおかないであろう。

所得の地域格差

都道府県間の所得格差

 我が国の所得水準は、経済の成長と共に年々向上している。しかしこれを地域別にみると、高度発展地域と未発展地域との間の所得水準の差は大きく、その差は漸次拡大の方向をたどっている。

 まず各県の所得水準をみよう。昭和33年の県民所得統計によれは、県民1人当たり個人所得は、最高の東京都の15万円から最低の鹿児島県の5.8万円まで、最高県と最低県との間に約2.6倍の大きな開きがある。各県の所得水準を経済発展の著しい工期と比較的発展の遅れた農業

 県とに分けてみると両者の差は大きい。従って四大工業地帯の中核をなし所得水準の高い東京、大阪、神奈川、兵庫、愛知京都、福岡の7県を高所得県、農業を主体とし所得水準の低い青森、岩手、山梨、島根、徳島、宮崎、鹿児島の7県を低所得県の代表にとり、その特徴をみていこう。これによってみると、33年の高所得県の1人当たり個人所得は12.4万円で、低所得県の6.6万円に比べて著しく高い。これを30年に対する増加率でみると、低所得県の22.6%に対して高所得県では31.2%増と、所得水準の高い高所得県の増加率が最も著しい。

 このように30年から33年にかけての県間の所得格差は拡大傾向をたどっているが、34年もおおむね同様の傾向をたどっているものとみられる。これについては、全体を知る資料ではないが、高所得県の東京、神奈川の34年の県民1人当たり個人所得は33年に比べてそれぞれ12.9%、12.7%増加しているのに対し、低所得県の青森、鹿児島では10.3%、7.5%の増加に留まっていることからみて、県間の所得格差は拡大しているものと思われる。

所得格差の形成要因

 このように高所得県と低所得県との所得水準の差の大きいのはおおむね次の理由によるものである。

 第1は低所得県ほど農業を中心とする生産性の低い第1次産業従業者の比、車が大きいことである。 第II-4-8図 に示すように農林水産業の個人業主及び家族従業者1人当たり年間所得は10万円程度で、非農林水産業の業主及び家族従業者1人当たり所得の24万円、雇用者の21万円に比べて著しく低い。

第II-4-8図 就業状態別1人当り所得

 第1次産業の生産性の低さは「農業」の項にみるように、我が国の農業が零細な家族経営によって維持されているためである。就業者の産業別構成比をみると 第II-4-3表 のように、低所得県の第1次産業就業者は58%と高所得県の14%に比べて著しく高い比重を占めており、またそのうち第1次産業の家族従業者が全就業者の31%を占めているのである。

第II-4-3表 県別有業者構成比

 第二の要因は、低所得県ほど中小企業労働者ないし、官公労働者の比率の高いことである。我が国の賃金は周知のように企業の規模によって著しく差がある。低所得県では就業者中に占める雇用者の比率は33%と高所得県の69%に比べて格段に低い。しかもその雇用者も 第II-4-4表 に示すように中小企業労働者の割合が多い。すなわち雇用者のうち500人以上の大企業労働者の割合は高所得県の25%に対し低所得県では12%にすぎず、逆に30人未満の労働者は低所得県では38%を占めている。低所得県の雇用者は賃金水準の低い中小企業が多いため、不完全就業者も多くなっている。不完全就業者を正確にとらえることはかなり困難であるが、例えば雇用者中の転職希望者の割合をみると高所得県の4.7%に対し低所得県では6.5%に達している。

第II-4-4表 従業員階級別雇用者比率

 第三は非農林業における収益性の低さである。非農林業の個人業主及び家族従業者の1人当たり年間所得は 第II-4-8図 に示すように23.5万円であるが、これを高所得県と低所得県に分けてみると、低所得県では15万円で、農林水産業の個人業主及び家族従業者の所得にかなり近い。これに対して。高所得県では29万円であり、両者の格差は農林水産業就業者、非農林水産業雇用者の場合に比べて格段と大きい。低所得県の非農林水産業主所得は県民の所得水準が低いために県内消費市場が発展せず、加えて自給自足的な性格の強い農家の比重が多いために企業収益は低位に留まっているのである。

 第四は低所得県ほど被扶養人口の多いことである。年齢15才未満の人口の全人口に対する比率をみると高所得県の29%に対し低所得県では36%に達している。このように低所得県ほど被扶養人口の多いのは、低所得県ほど出生率の高いことに加えて、後述するように労働力人口の県外流出が著しいためである。

 つきに県間の所得格差拡大の要因についてみよう。農業生産の比重の高い低所得県では、農業の生産性向上速度が他の産業に比べて遅いため、低所得県の所得増加率も低くなりがちである。しかし最近の県間格差拡大には、経済成長に密接な関連を持っている面も少くないようにみ受けられる。

 第1は最近の経済成長が第二次産業を中心とする発展、中でも有化学工業を中心とする発展であることである。第2次産業を中心とする発展によつて、第2次産業の比重の低い低所得県の所得増加はより小幅であった。これを産業別就業者の増加率でみると、 第II-4-5表 のように低所得県の第2次産業就業者は6%の増加に過ぎないのに対し、高所得県では19%の大幅な増加を示しているのである。また重化学工業を中心とする発展であることは高所得県の所得増加をより大きくしている。人口1万人当たり従業者数をみると鹿児島、島根等の低所得県の重化学工業従業者数は45~133人で東京、大阪等の高所得県の1割程度にすぎず、軽工業従業者の格差の2~3割に比べてかなり大きい。従って、大工築地帯を中心に重化学工業を主軸として発展する最近の経済成長の下では、軽工業を主軸とする発展の場合に比べて県間の所得格差を拡大する力がより強く働いたものとみられる。

第II-4-5表 就業状態別就業者増加率

 第二は高所得県ほど個人所得中に占める比率の高い資産所得の増加率が、勤労所得、個人業主所得を合わせた労働所得の増加率を大幅に上回っていることである。33年の県民所得統計によれば、配当所得、利子所得、賃貸料所得を合わせた資産所得の個人所得に占める比率は高所得県の11.1%に対し低所得県は6.0%と高所得県の半分程度の比率に過ぎない。しかも 第II-4-6表 に示す通り、30年から33年までの増加率をみると、勤労所得は雇用者数の大幅増加を含めても3~4割程度の増加率に過ぎないのに対して、資産所得は7~8割程度の大幅な増加を示しているのである。

第II-4-6表 個人所得の構成と増加率

 つまり低所得県では所得水準が低いため蓄積も少なく、従って1人当たり資産所得も高所得県に比べてかなり低い。そして前述のごとく増加率の著しい資産所得の少ないことが、同時に低所得県の所得増加率を低目にする一因となっているのである。

所得格差と労働力移動

 人口の社会的移動は所得水準の低い県より高い県へ、就業機会の少ない県より多い県へ向かって行われる。このような人口移動と県間の所得格差との間にはどのような関係があるかをみよう。

 県間の人口移動は不況期に少なく、好況期に多いが、30年10月から35年9月までの5年間を累計すると、社会的流出によって低所得県の人口は約250万人減少した。人口の社会的流出と所得水準の関係をみると、 第II-4-9図 に示すように所得水準の低い県ほど人口流出率が高く、これを受け入れているのは、所得水準の著しく高い少数の県及び東京都への集中を反映した埼玉、千葉の各県に過ぎない。特に東京、大阪、神奈川、愛知の社会的流入は、人口の自然増加を上回り、例えば東京都の人口は30~35年に社会的流入で約100万人増加して自然増加の約3.5倍に達している。

第II-4-9図 所得水準と人口の社会的流入(出)率

 県間の人口移動は移動中心者の就職、就学、転勤による場合が大部分であるが、中でも就職による移動が最も多い。東京都の調査によると34年に東京都内に転入した世帯の50%は移動中心者の就職による転入であり、これに開業または求職のための加入を加えると転入世帯の56%になる。これに次いで多いのは就学、転校の16%、転勤の12%であり、その他は結婚等の特殊事情による転入である。

 また就職による転入者のほとんどは若年層である。東京都の推計によれば、32年度中に東京都に転入した世帯(転勤等を含む)の1世帯当たり世帯人員は1.17人である。転入者の年齢構成も15才未満の被扶養者は11%にすぎず、転入者の3分の2は15~24才の若年単身者である。

 低所得県より高所得県への労働力移動を中学校卒業者についてみよう。労働省の調査によると36年3月卒業生のうち他府県へ就職した者の比率は36年3月末現在で12万人と就職者の40%に達している。このうち所得水準の低い東北、山陰、九州(除福岡)、高知の各県までは就職者の3分の2以上が他府県へ就職しており、特に鹿児島宮崎では90%以上が県外への就職である。

 このような良質労働力の県外移動は経済の高度成長に伴って一層強まっている。これを中学卒業者についてみると、36年3月卒業者の県外就職比率は前述のように全就職者の40%で、32年3月卒業者の23%に比べて著しく高くなってくる。これを府県別にみると、長野以外の各県で増加しているが、特に東北、九州各県と東京及び大阪の近県の県外就職比率が高くなっており、大工業地帯へ良質労働力がより集中しつつあることを示している。

 若年労働力を中心とする良質労働力の低所得県より高所得への流出は、低所得県では就業機会が少なく労働力を充分吸収出来ないために生ずるものである。従って労働力の有効活用の面からいえば労働移動は国全体の生産力を高めるのに大きく貢献している。しかし県別所得格差是正の面からいえば、若年層の県外就職は被扶養者より収入稼得者への転化が県外で行われることを示し、これに伴って県内就職の場合に比べて稼得者1人当たり扶養人員を高める効果を及ぼすことになる。他面転入県では良質労働力の流入によって稼得者1人当たり扶養人員を低め、1人当たり所得水準を引き上げる効果を持っている。先にみたように低所得県ほど被扶養者の比率の高いのも、このような事情を反映したものである。

 このように労働力移動には二面性があるため、低所得県より高所得県の労働力移動は必ずしも県間の所得格差を縮小するものではない。最も労働移動が若年層のみならず中高年齢層でも充分行われるとすれは、世帯単位の移動となるので労働移動が格差縮小の方向に働くことはいうまでもない。しかし中高年齢層の労働移動は若年層に比べると極めて不利であり、加えて住宅問題が障害となっているため、その労働移動は円滑に行われていない。このような中高年層になると労働力の地域移動は難しいが、低所得県への工業分散等によって就業機会を増やし、その労働力を充分吸収することになれば県間の所得格差縮小の一方向になるであろう。事実工場分散などによって工業発展の落としい長野県では中学卒業者の県外就職比率は32年の47%から36年には43%に低下しており、また静岡、広島富山、三重、岡山の各県の県外就職比率の増加も他の諸県に比べてかなり小さい増加に過ぎない。従ってこれらの県では当面は大工業県の所得増加に遅れるとしても、今後の発展によってその差を縮小し、当該県の所得水準向上に貢献するところが大きいものとみられる。

地方財政と地域格差の是正

 都道府県や市町村などの地方公共団体は、教育、病院、公衆衛生、生活保護、母子福祉、警察、消防、道路、住宅などの我々の生活に極めて密接なつながりを持つ事務の大部分を行っているのであるが、そのために国は一般会計支出の半分に近い金額を地方に交付している。例えば、34年度の国の一般会計ならびに交付税及譲与税配布金時別会計の純計決算額は1兆5,277億円であるが、そのうち交付税や譲与税、また義務教育や生活保護、各種建設事業などのための国庫支出金として地方に支出される額は7,054億円と総額の46.2%にも及んでおり、差引の国の純支出額は8,223億円となっている。

 地方の普通会計歳出純計決算額は1兆6,239億円で国の規模をしのぐうえ、分担金として国に納付する額が64億とわずかなので、差引の地方の純支出額は1兆6,175億円と国の2倍もの規模に達している。

 一方、収入面を国税(専売益金を含む)と地方税とについてみると、34年度の国税収入は1兆3,724億円で地方税収入6,109億円の約2.2倍である。

 従って、国の財政と地方の財政との関係を単純化していうならば、国は収入面では総額の3分の2の比重を占めているが、純支出面では総額の3分の1しか占めず、その差額を地方に交付することによって地方は収入面では3分の1の比重だが、支出面では3分の2の比重を占め、国の場合とちょうど逆の関係を示している。支出面での地方の重要性がうかがわれる。

好転した地方財政

 終戦以来30年ごろまで、我が国経済力の激減を基因とする地方財源の喪失という歳入面の事情と、荒廃した諸施設の復旧に加えて6・3 制義務教育の実施、自治体警察の維持、社会保障の充実などの新しい仕事が必要になったという歳出面の事情が重なって、地方財政は悪化の一途をたどっていた。これを赤字団体の赤字額の推移でみると、26年102億円、28年度462億円、30年度642億円という具合である。

 30年の地方財政再建促進特別措置法は、このような情勢に直面して、国が地方財政の建て直しに精力的に取り組む出発点をしるすものであった。例えば地方交付税率は、30年度の22%から、31年度25%、32年度26%、33年度27.5%、34年度28.5%と逐年引き上げられ、35年度には臨時地方特別交付金(三税の0.3%)が設けられている。地方税面でも、軽油引取税、都市計画税の新設などが行われ、その他の措置として、起債額の削減、地方交付税を受けない団体への入場譲与税などの譲与制限、公共事業補助率の引き上げ特例、交付公債の廃止などが探られた。

 一方、地方公共団体においても、国の積極的な諸施策に対応して、脱収入の確保など収入面に力を注ぐと共に、歳出面においても単独事業の圧縮、人件費の合理化、庁費の節約などを行って赤字の解消に努めた結果、地方税の多額の自然増収とあいまって、地方財政は改善の方向に進むこととなった。

 すなわち、 第II-4-7表 にみるととく、赤字団体の赤字額は、30年度の642億円から、32年度93億円、34年度127億円と減少している。

第II-4-7表 地方財政実質収入の推移

 黒字団体をも含めた総額でみると、30年度には549億円の赤字であったのが31年度以降黒字に転じ、34年度には370億円の黒字を生んでいる。また、財政調整や滅債などのための積立金も累積して34年度には319億円に及んでいる。なお、30、31年度において財政再建債423億円を発行して赤字を将来の負担に繰り延べる措置がとられたが、この再建債を考慮して赤字団体の赤字額の推移をみれば、80年度732億円、32年度445億円、34年度318億円となる。黒字団体をも含めた総額でみると、30年度640億円の赤字をピークに次第に赤字額が減少し、34年度には、はじめて59億円の黒字を生んでいる。

 歳出規模についてみると、30年度の対前年度増加率はわずかに0.5%であったが、31年度7.3%増、32年度9.2%増、34年度11.9%増、36年度(計画)24.3%増と、32年度ごろから歳出規模を拡大しながら均衡するという好ましい姿に転じている。歳出の内容でも、投資的経費の構成比は、30年度の27.6%から32年度の30.5%へと上昇している。歳入面についても、地方税収入が30年度は歳入総額の32.896であったのが32年度には、36.5%に上昇し、これに交付税及び譲与税を加えた一般財源は48.5%から52.6%になる一方、地方債歳入が30年度8.3‰から32年度4.6%に減少するなど、好転の姿がうかがわれる。

 以上要するに、戦後悪化の一途をたどった地方財政は、30年度を境に改善の方向に進み、32年度以降、特にここ2、3年はかなり好転しているといえる。それは既に述べたような国、地方を通じる財政健全化の成果であると同時に、国、地方の収入の増加をもたらした30年以降の我が国経済のめざましい成長の結果なのである。

 ところで、経済の成長とそれに伴う生活水準の向上は、産業関連施設や環境衛生施設等の整備充実を必要としている。従って、かなりの好転をみたとはいうものの地方団体が、全体として均衡ある財政を維持しながら長期にわたって、行政水準の向上と住民福祉の増進を図るためには、なお一層の努力を要することはいうまでもない。地方行財政制度全般にわたって、例えば国と地方団体間の財源配分及び地方団体相互間の財源調整、地方税制度、税外負担、経費の効率的使用など解決されるべき問題も多い。このうち最近特に一般の注目を惹くようになったものに地域格差是正問題がある。例えば、36年度から後進地域における開発的公共事業の国庫負担率を、その財政力が低くなるほど度に応じて段階的に引き上げる措置がとられることになったが、これは地域格差是正問題への1つの接近を示すものであろう。以下、地方財政の現状を地域格差の是正という観点から把えるとどのようになっているか、その実情を紹介することとする。

地方財政と地域格差の是正

 さて、 第II-4-10図 は、34年度決算によって高所得県、低所得県の歳入、歳出がどのようになっているかを、1人当たりの額に換算して示したものである。

第II-4-10図 1人当り都道府県歳出歳入(昭和34年度決算)の構成比較

 歳出面をみると、高所得県の歳出総額10,177円に対して、低所得県のそれが11,174円と多くなっていることが注目される。内訳では、教育費、土木費、産業経済費、公債費は低所得県が多く、社会及労働施設費、警察・消防費、議会費・庁費は高所得県が多い。このうち土木費についこみると、高所得県の1,596円にたいし、低所得県は2,188円と592円も多いが、内容では災害土木費の増400円が大きく、河川、砂防、海岸費の69円増を合わせると、低所得県が自然との闘いにより多くの努力をかさねねはならないことを示している。一方道路、橋、港湾費も高所得県に比べて356円多く、都市計画費の189円減を考慮にいれても、産業基盤充実への低所得県の努力も相当なものであることを示している。高所得県、低所得県のおかれている自然的、社会的、経済的環境が大きく異なっているので、単純な比較は危険であり、この図だけで簡単な結論を出すことは慎しまねはならないが、低所得県も高所得県に伍した活動を行っていることが知られるのである。

 次に歳入面をみてみよう。高所得県の歳入総額は10,696円、低所得県は11,320円で低所得県が多い。しかし、その内容を詳しくみると低所得県の財源面での制約がはっきりしてくる。すなわち、高所得県は地方税収入が、5,580円もあ、り歳入の52%を占めており、交付税、譲与税、国庫支出金、地方債を除いた財源は歳入の7割に及んでいる。これに反して低所得県は、地方税収入がわずかに1,163円、歳入の10%にしか過ぎないため、交付税3,463円、30.6%、譲与税455円、4.0%、国庫支出金4,349円、38.4%と歳入の7割以上を国からの支出に依存しなけれはならず、地方債収入も437円、歳入の3.9%となっている。このような歳入面の姿は低所得県財政のぜい弱さ、国への依存の大きさを示しているものであるが逆からいえは、これは国の低所得県財政の維持に対する努力の大きさを示しているものである。このような国の努力があってはじめて、低所得県も高所得県に伍した行政活動が可能になっているのである。

 ところで、このような低所得県財政強化のための国の支出は、いうまでもなく国税によって賄われており、その国税は高所得県からより多く、低所得県からより少なく徴収されている。一方、既にみたごとく、地方への国の支出は低所得県により多く、高所得県により少なくなされているのだから、太ってみれば、低所得県は割安の価格で必要な地方行政サービスを得ているとみることができる。従って、もしも、地方行政サービスの内容には各県の間であまり大きな隔たりがなく、1人当たり歳出総額で把えることが可能であり、また、国の行政サービスも各県の間に同等に与えられていると仮定することができるならば、地方財政についての国の働きは、高所得県と低所得県との所得格差の是正に役立っているとみることができる。それはちょうど、高額所得者から累進税率で税金をとり、低額所得者に社会保障などで所得補助を行う場合の国の働きと似たものとみることができるのである。

 第II-4-8表 は、このような所得格差是正の効果を33年度の数字によって示したものである。

第II-4-8表 地方財政を通ずる地域格差是正効果

 この表によると、高所得県民は地力税、国税合わせて30,040円の租税を負担し、その租税負担率は22.4%になっているが、国からの支出が、3,825円あるので、この国からの支出を必要な地方行政サービスの便益を通じて地方に還元されるものと考えると、受益調整後の負担額は差引26,215円となり、その負担率は19.6%になる。同様にして、低所得県民は9,816円、所得の15%の租税を負担し、9,305円の還元を受け、受益調整後の負担額は501円、負担率は、0.8%となっている。

金融の地域構造

資金循環にみる都市集中

 次に金融の持つ二重構造が産業の地域的二重構造にいかに関連し合いそれがまたどのような金融の地域格差を形成しているかをみよう。

 まず金融の地域的特性を預金面からとらえてみる。地域的預金構造は各種金融機関分布の密疎によっても形成されるが、やはり基本的なものは 第II-4-9表 に示されるように地域の就業ないし所得構造であろう。むしろ就業構造が金融機関分布をも規定するものといえる。すなわち第1次産業部門構成比の高い北海道、東北、南九州地区では金融機関の中でも普通銀行の分布が疎であり預金も先進地区に比し農協、郵便局預金の比重が高い。逆に先進地域では銀行預金の比重が圧倒的な割合を占め、また銀行預金の中でも通貨性預金の比重が高く、第二、三次部門の流通活動の盛況を示しているといえよう。それではこのような預金構造の下における地域間格差の形成要因を資金量と貸し出し条件の二面から考察しよう。

第II-4-9表 地域間構造指標

 まず資金量の較差は地域間資金循環における資金流入地域と流出地域の問題としてとらえられる。その指標として 第II-4-10表 の金融機関別預貸金比率(表面預金に対する貸し出しの割合で債券を含んでいない)をみるに、地方資金の都市流入がかなり明りょうに示されている。その経路としてあげられるのがまず都市銀行であり、そこでは後進地域の預貸金比率は50%を下回る所もあり地方支店の預金店舗的性格を明確かに表している。

第II-4-10表 地域別金融機関別予貸金比率

 次に地銀では大都市所在の店舗を通じる大企業向け貸し出しがある。 第II-4-11表 は地銀の本店所在地外地城における預貸金比率である。この表によると近畿・中国、東海地域のごとく、大都市ないし工業地帯では、貸し出し超過にあり地銀の大企業向け貸し出しの一端を示している。この他大企業の直接貸しの形態をとらず金融機関を通じての間接的資金供給方法がある。金融市場の構造はこの形を明りょうに示しているものといえよう。 第II-4-12表 にうかがわれるようにコール資金の取手側大手は都銀と証券業者であり、出し手側では、地銀、信託が大宗をなしている。すなわちこのことは、地方銀行の余資がコール・ローンとして都市へ流入していることをものがたるものである。

第II-4-12表 コール市場資金構成表

第II-4-11表 本店所在地外地域における地銀予貸金比率

 地銀全国合計ではコール資金に有価証券保有を加算したものの運用総資産に対する割合はほほ20%前後を占めている。

 また 第II-4-10表 にみるごとく北海道地区を除く農協系機関の預貸金比率は、はなはだ低く、農林中央金庫、信用農業協同組合連合会等上部機関のコール放出を通じる農村地帯資金の流出経路を表している。

 このように地方資金の先進地域集中は貸し出し面における大都市集中の形態をかなり明りょうに示してきている。 第II-4-13表 は全国銀行貸し出し残高比較であるがこの表によると後進地域の貸し出し量の相対的減少と大都市都府県集中を端的に表している。そのうち東京偏在がきわだつており大都市部の中でも較差を生じていることがうかがえる。これは貸出しが地方投資の場合でも東京本店を通じて行われる点を考慮しても企業がその他大都市に比し一層東京へ集中していることをうらがきするものであろう。

第II-4-13表 全国銀行貸出残高構成表

 また最近新しい資金流出形態として投資信託の出現がある。 第II-4-12表 の信託銀行の放出は、投資信託のコール・ローンであり、投資信託投資の飛躍的増加に伴いコール市場における投信の比重は地銀に並ぶものとなっている。

 投信の地域的応募状況からすれば先進地域が圧倒的な割合(35年度実績関東37%、近畿地区26%)を占めていることはいうまでもないが、北海道、東北、南九州、四国等4地域合計でも10%前後を占めている。最近は公社債投信の出現も加わり、新しい貯蓄形態が農村部にも滲透する傾向にある。これに従来からの株式投資等も勘案すれば貯蓄形態の多様化は、地方資金にとってはこれまでの間接金融方式と同様にあるいはそれ以上に、都市への資金流出を強める側面を持つものともみられる。

 以上みてきたように資金循環の地域的構図は農業所得や地方交付金浄財政資金散布を重要な所得形成要素とする第1次産業地域の所得性通貨が、金融機関預金及び証券投資のパイプを経由して都市へ流出し、大企業の資本形成資金に転化しているとみることができよう。

 かくて大企業の都市集積によりこの資金流出のパイプ圧は強まり、農村肝貯蓄の相当部分は企業資金に転化してその発生地域への還流は少なく、後進地域では投資活動が不活発となり、所得水準を相対的に低める結果となっている。

貸し出し条件にみる地域間格差

 これまでみてきたことは資金流出入構造に表れた地域間資本形成の量的格差であった。次に貸し出し条件の差異に基づく貸し出し資金の地域間格差をみよう。

 資金の質的格差とは、貸出金利の高低、貸し出し期間の長短、提供担保の軽重等でとらえられる。一般に中小金融機関ほど資金コストが高く、勢い貸出金利は高くなる傾向にある。35年12月末の貸し出し平均金利でみるに、都銀2,114銭、地銀2,2284銭、相互銀行2.70銭、信用金庫2.84銭、農協3.0銭となり、都銀と中小機関とでは最高適用レートで比較した場合2銭以上の較差がある。

 従って金融機関との取引態様が一応金利格差を表わすものとして 第II-4-14表 の金融機関別貸し出し構成かこれをみてみよう。

第II-4-14表 金融機関別貸出構成

 この表では同一規模企業の金融機関取引機会における地域間較差をみるため、都、地銀は資本金1,000万円以下の中小企業向け貸し出しを選んだ。これによると、関東、東海、近畿の都銀本店所在地域では都銀貸し出しが全企業間貸し出しの4割~5割を占め、一方、東北、北陸、四国、南九州では、1割にも満たず、同一規模企業間でも地域により、かなりの金利較差があることをものがたっている。しかし都銀との取引機会増加は、都銀の全国的店舗数増加を持って解決されるものではない。それは都銀の地方支店が預金店舗的性格の強いことからも裏付けられ、かつ都銀の店舗数分布地域別比較では、四国、南九州の対全国比は約1%であるが、貸し出し構成では0.2%であることからでも推定される。

地域別産業別貸し出しの動態

 次に産業構造の変ぼうが金融に与える影響を 第II-4-15表 の貸し出し面からみてみる。この場合金融は、受動的な動きを示すと同時に、また構造変化を推進する能動的な作用をも及ぼしている。

第II-4-15表 全国銀行業種別貸出動向表

 この表は全国銀行貸し出しの36年3月末残高構成と35年度中貸し出し純増額における、地域別業種別特化係数及び業種別貸し出し増加寄与率を現したものである。特化係数は地域内のA業種に対する貸し出し比と全国のA業種に対する貸し出し比との割合で、1以上の係数は、当該地域のA業種に対する貸し出しウェイトが高いことを示すものである。従って残高構成からは現状の産業構造を、増加寄与率と特化係数からは、将来の方向をみようとするものである。ただここで採用した期間が最近1ヶ年間のものであること、大企業の貸し出しは都市所在店舗貸しが多く必ずしも使途先の地域とり致しないこと等を考慮してみなければならないが、大体の傾向は把握できると考えられる。またこの表は生産の特化係数表を参照することにより金融の産業構造変革に及ぼす能動的な役割が一層明らかにされるであろう。さて、この表から導き出される傾向は一応次の三者に要約される。その1つは、産業の地域構造の項でも述べられているように、各地域おしなべて工業化を指向しており、特に増加寄与率にうかがわれるごとく機械工業の比重を高めようとしていることである。機械工業生産比の大きい関東、中国地域では一層機械工業を推進する気配が示されるが、軽工業比重の高い北海道、東北、四国等においても機械工業同貸し出しが増加していることは、単に現在の好況が機械工業により多く現れていることのみの反映ではなく、やはり今後の構造方向を示すものであらう。

 第二は各地域の特色とされていた業種のなかに資金需要減退がみられることであり、これが比較的軽工業業種に現れている点は前述の傾向とうらはらの関係を示しているといえよう。地域別にみると北海道(食料)、東海、九州、関東北部(繊維)、近畿、山陰、北陸(パルプ、紙)、四国(窯業)等があげられる。第三の傾向は既在の特色が温存、あるいは一層伸長される方向にあるものである。これは東北(食料、鉄鋼)、近畿(繊維、鉄鋼)、北陸(化学)、東海、中国、九州(窯業)、四国(パルプ、紙、繊維)等であり、資源立地的業種が多い。このことは、車化学工業化を一様に指向しながらも、一方では、特産資源に立脚する地域間分業のあり方をも示すものであろう。

 さらに現在の生産比重は小さいが貸し出し増加額からみる限り今後の伸びを予想されるものとしては、東海地区の鉄鋼が見出される。なお、関東地域は、繊維を除くほとんどの主要業種にわたり平均した貸し出し増加を示しており生産の関東地区集中が金融面からも強く支援されていることを裏付けている。

資金の地方還流の方途

 これまでみてきたことは、資金還流の先進地域集中の構図であり、それは預貸金面において大都市企業に有利に作用し、産業の都市集中を一層容易にしているものであった。都市集積の弊害がいわれるにしてもなお有利な条件、が残存している限りこの傾向は留まらないであろう。現在のひっ迫している資金需給を緩和させるならば、地方への資金供給にもゆとりがうまれるであろうが、それが直ちに望ましい資金循環の構造をもたらすとはかぎらない。

 こうした中で、後進地域に対する資金還流的効果をあげているものとし1つの動きがみられる。

 その1つは政府金融機関の地方開発融資である。31年には北海道開発公庫が設立され、32年には東北地方をも対象地域に加えた。現在は九州、四国、中国、北陸等を中心とする後進地域を対象として日本間発銀行の地域開発融資も具体化されるに至った。融資額でも36年度開発資金は360億円にのぼり、31年当時の46億円に比し大幅な伸びをみせている。なお、この他にも政府金融機関における融資のなかには後進地域開発資金的性格のものもあり、これらを含めると、政府金融機関の地域融資はかなりの額となっている。

 政府融資は長期かつ低利なので金融面から地方の企業活動を振興する効果が大きく、さらに民間金融機関の協調融資による資金の地方還流効果も少なくないものである。この民間金融機関のなかで最近注目されるものに地銀の動向がある。景気の末端滲透もあって、地方企業の資金需要はさかんであるが、さらに地銀としては地元産業の振興をめざして長期貸し出し拡充(例えばタームローンの開始)の意向を示すなど意欲的な動きをみせている。

地域問題解決の方向─地域構造の変革

 既に述べてきたように、現在の地域問題は、第1に、四大工業地帯への過剰集中の弊害の激化、第2に、地域格差の拡大傾向の2点に集約的に現れている。

 第1の問題は、工業通地の不足、工業用水の入手難、輸送の陸路現象など、産業基盤の狭隘化の問題と、市街地の無計画な膨張、通勤交通、住宅問題の悪化、学校、上下水道、公園等の公共施設の立ち遅れ、地盤沈下、空気汚染などいわゆる過大都市問題とを含んでいる。これ等の解決のためには大幅な社会資本の投下を必要としているがそこでの公共投資は今後は次第に効率の悪いものにならざるを得ない。産業基盤の拡充強化、都市問題緩和への努力は現に続けられているが、問題の解決には、たんに局地的局部的な施策ではなく、より広い視野に立った総合的な施策が必要になってきている。

 既に企業は、四大工業地帯から次善の地を求めて、大都市の周辺部や太平洋、瀬戸内海沿岸の良港を中心とした臨海部に新しい立地を形成しつつあるご集中と分散との交錯するこのような現状の中にあって、私企業の利益と、国民経済的な合理性を調和させながら、しかも後述の地域格差の是正のための地域開発を加味した新しい工業配置の基本方向が明らかにされ、それにそった施策が進められるべきであろう。過大都市問題についても、例えば東京都では首都圏整備法による計画が進められ、関東一円の中で首都と衛星都市に人口を分散配置する方策が打ち出され、また新首都の造成などの論議も展開されているが、新しい工業配置と相まって全国的な新しい都市作りの構想が必要なのである。

 第2の地域格差拡大の問題は、主として既成工業地帯への工業の集中によってひき起こされている。従って格差是正のためにはまず工業の地方分散化が図られねばならない。過剰集中問題の解決と同様に、ここでも全国的な工業の適正配置が要請されるのである。しかし、工業の地方分散は画一的にどの地域にも万遍なく行えるものではない。自然的、経済的条件から、農業を中心とする発展が望ましい地域もあり、農業の近代化、生産性向上による農工間格差の是正、ひいては地域格差の縮小を進めることも重要である。

 農業生産性の向上を産業の地域配置の面からみれば、農業内部において適地適種による生産地形成を図ると共に、工業都市の分散配置に伴う農業人口の円滑な流出、市場条件の有利化の効果を大きくするような農工業の組合わせを考慮する必要があろう。いいかえれば、工業の適正配置のみならず、農業その他をもふくめた産業の地域構造の再編成が望まれるのである。

 経済の高成長に伴って急激に顕在化してきた地域問題の解決は、結局、産業の地域構造の変革によって達成される。その方向は、都市の過大化を防止し、地域間格差を縮小するという配慮のもとに、高度安定成長達成のため、日本経済の持つ資本、労働力、技術、天然資源等各種生産要素の最も効率的な利用を図ることであろう。こうした狙いは既に「所得倍増計画」に示されたが、工業適正配置、広域都市建設、地方基幹都市建設、低開発地域工業開発、などの構想も出されており、国土総合開発計画も新たに策定されようとしている。これ等の計画や構想が具体化されていく過程では、私企業の自主性を尊重しつつ、政府は必要な誘導政策と、産業基盤造成のための公共投資を先行させることが必要となろう。


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