昭和36年

年次経済報告

成長経済の課題

経済企画庁


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高度成長下の問題点と構造変化

高度成長に伴う4つの問題点

高度成長と貿易

輸出構造の高度化と産業構造

 産業構造の高度化を伴う日本経済の急速な成長は、技術水準の向上や、大量生産による国際競争力の強化、巨額の設備投資による生産能力の急速な増強と、輸出余力の増大をもたらし、我が国の輸出力を著しく高めている。

 とくに最近数年来、経済構造の高度化が進むにつれて、重化学工業品や耐久財を中心とする高級消費財の国内市場は、めざましい拡大を続けているが、これらの商品は、世界的にみても需要の増加が著しい。そのため、内需向けを中心に生産増加をみた商品が、品質の改善、コストの低下につれて、そのまま海外市場にも進出する、という傾向を示している。

 その結果、数年来我が国の輸出は、これらの高度加工品を中心に、年平均18%という世界一の伸びを示し、同時に輸出構造も急テンポで高度化されつつある。日本経済が、高い成長率を維持してきたのも、輸出需要の増大に負うところも少なくないが、高度加工品輸出の激増によって、充分な輸入力が確保され、高成長を可能にしたことも高く評価すべきであろう。

 国内需要が急速に増加すると、供給力の減退や輸出意欲の低下から、短期的には輸出力が低下するおそれもある。しかし、近年における我が国のように、国内需要が設備投資を中心として増加し、経済構造の近代化が進む場合には、供給力の増大、品質の向上、高度加工商品への進出などをもたらし、輸出力に好い影響を与えると考えられる。

 以下では、我が国の輸出構造の高度化が、いかに進んでいるか、それが産業構造の変化とどんな関係にあるか、また、輸出構造高度化の主役を果たしている成長商品の輸出が、国内需要とどんな関係のもとに伸びて来たかを、具体的に検討してみよう。

輸出商品構造の高度化

重化学工業化率の上昇

 我が国の輸出は、昭和28年の1,275百万ドルから、35年の4,054百万ドルへと、7年間に3.2倍に激増したが、この間に、輸出商品の構成も著しい高度化を続けている。

 まず、商品大分類によって、輸出総額のうち、重化学工業品(大蔵省通関統計による「薬剤化学製品」、「金属及び同製品」、「機械類」の合計)の占める比率をみると、 第I-2-1表 のように、戦前(昭和9~11年平均)では20%にも満たなかったのが、28年には34%にたかまり、その後、年によって若干の変動はあるが、次第に上昇する傾向をみせ、35年には41%に達している。

第I-2-1表 重化学工業化率の推移

 ひと口に重化学工業品といっても、そのなかには、硫安や普通鋼鋼材のように比較的加工度の低いものから、自動車、工作機械のように、加工度も高く、高度の技術を要するものまで、いろいろ含まれている。我が国輸出の重化学工業化率の推移をみると、 第I-2-1表 に明らかなように、まず金属の比率が上昇し、次にこれに代わって33年ころまでは、船舶の比率が著増、その後は船舶以外の各種機械が中心となっている。

 従って、車化学工業品全体の比率だけでみると、その増え方は最近2、3年やや鈍っているが、内容の変化を考慮に入れると、輸出構造の高度化は急速に進んでいると判断される。

急テンポで進む「高度化」

 いま、この点を明らかにするため、28年から31年までと、31年から35年までの二つの期間をとり、それぞれの期間内における輸出増加が、どんな商品によって実現されたか計算してみた。その結果は 第I-2-1図 に要約して示してある。(詳細は附表13参照)第1に目につくのは、重化学工業関連製品(前出の重化学工業品のほか、プラスチック製品、合成繊維製品、精密機器、時計を含む)の寄与率が大きく、しかも上昇していることである。28年から31年までに、輸出総額は1,226百万ドル増加したが、このうち43%は重化学工業関連製品の輸出増加によるものであった。

第I-2-1図 商品別輸出増加寄与率の比較

 ところが、31年から35年については、輸出増加額1,555百万ドルのうち、重化学工業関連製品が54%を占めるに至っている。

 第二に、車化学工業関連品の中でも、加工度の高い商品や、従来あまり輸出されていなかった商品の増加が著しい。たとえは、金属の寄与率は前期の10%から、後期には9%に低下し、また船舶のそれは、13%から2%へと著しく下っている。

 その反面、「船舶以外の機械」の寄与率は、12%から30%へ著増している。機械(除船舶)の中でも、従来その中心となっていた繊維機械、ミシン、電球、電線、鉄道車輪、自転車の6品目(28年には機械輸出の62%を占めた)の寄与率は6%から2%に下っている。これに対して、その他の機械の寄与率は、前期の7%から、後期の28%へと飛躍的にたかまっている。特に上昇が著しいのは、ラジオ(0.4%~8.6%)、自動車(0.9%~5.4%)をはじめ、重電機、原動力機、シネ・カメラ、テープレコーダ一などである。

 化学品の寄与率も5%から7%へたかまったが、これはもっぱら合成プラスチック材料、プラスチック製品、合成繊維など、新商品の進出によるもので、化学肥料は低下している。結局、31~35年の輸出増加の3割以上が、高度加工品によるものだったということができる。

 第三に、重化学品以外の寄与率は、全体としては低下しているが、その中でも、比較的加工度の高いもの、高級品は増えている。例えば、繊維品(合成繊維を除く)の寄与率は、28~31年の33%から、31~35年の20%へ下っているが、このうち、綿糸、綿織物、人絹、スフ製品は20%から5%へ、大幅に低下したのに比べて、絹織物、毛織物、衣類、その他二次製品の寄与率は、わずかなから上昇している。

 このような点からみても、我が国の輸出構造が、近年急速に高度化の方向をたどっていることは明らかである。

輸出構造と産業構造

 このような輸出構造の高度化は、我が国の産業構造の高度化を反映したものであることはいうまでもない。しかし、産業構造の高度化が、常にそのまま輸出構造の高度化をもたらすとは限らず、その国の経済発展水準や国際経済環境によっては、両者の間に大きな開離をもたらすことも珍しくない。

 輸出構造と産業構造の関係をみるためには、「構造開離係数」を用いる。これはある商品の輸出額が、輸出総額に占める比率を、その商品の生産額が、生産総額に占める比率で割ったものである。ここでは、我が国の輸出額の90%近くを占める工業製品だけをとりあげ、工業製品輸出額に占めるある商品の輸出額の比率を、その産業の生産額が製造工業生産総額に占める比率で割ったものをもちいることにする。(注)例えば、鉄鋼の輸出が工業製品輸出額の10%に当たり、一方、鉄鋼産業の生産額が、製造工業生産額の20%を占めているとすると、鉄鋼業の構造開離係数は10/20、0.5となる。係数が1であれば、その産業は、輸出構成と産業構成で、同程度の重要性を持っていることになり、また、1より小さい場合には、輸出額が、生産額に比べて少ない、ということになる。

 (注)なお、ここでいう工業製品輸出とは、国際貿易標準分類第5~8類で、加工食品は含まない。従って、工業生産についても、食料品工業以外の製造工業生産額を100として、各産業の構成比を算出してある。

戦前における輸出、産業構造

 戦前においても、昭和10年どろまでには、我が国産業の重化学工業化はかなり進んでいたが、重化学工業品の輸出は非常に少なかった。すなわち、昭和10年には、重化学工業は工業生産額の53%を占め、アメリカの58%、イギリスの52%(いずれも13年)と比較しても大差がなかったが、工業製品輸出に占める重化学工業品の割合は、18%にすぎず、アメリカの78%、イギリスの53%とは比較にならぬほど低かった。その反面、繊維品の生産構成比は33%であったのに、輸出に占める比率は66%と、相変わらず圧倒的地位を占めていた。

 このように、輸出構造の重化学工業化が、産業構造のそれに著しく遅れていた第1の原因は、重化学工業の水準が、先進工業国に比べてはるかに低かったことにあると考えられる。我が国の重化学工業の発展は、第1次大戦中、海外からの重工業品供給が杜絶したのを契機としてはじめられ、その後も、軍需産業の拡充を中心として発達し、また造船、鉄道車輪、工作機械、自動車などの例にみられるように、政府の保護育成措置によって、ようやく成長をはじめた段階に当たっていた。従ってまだ国際競争力も弱く、輸出は振わなかった。

 これに対して、繊維工業は既に成熟期に達しており、国際競争力も強く、国内生産は過剰気味で、輸出圧力も大きかった。そのためイギリスを抑えて海外市場に大量に輸出することができたのである。

 つまり、当時は、世界的に需要増加の大きかった重化学工業品については、国際市場に進出する実力が備わらず、従って、輸出の伸長は、世界的に需要の停滞していた繊維品で、イギリスなど先進国製品を駆逐することによって達成されたのであった。

戦後における輸出、産業構造の接近

 これに対して、戦後においては、技術革新と消費革命によって、国内市場の充実拡大が進み、特に生活水準の向上と生活様式の変化に伴って、耐久消費財の生産が激増し、一方、設備投資の盛行に伴って、資本財機械の生産も、質、量共にめざましい発展を遂げた。その結果、重化学工業部門にも、国際競争力を有する分野が次第に増加した。かくして、まず鉄鋼を中心とする金属が輸出され、次いで船舶が、さらに軽機械から原動力機、自動車に至るまで、各種の機械が世界市場に進出しはじめるに至った。

 その結果、 第I-2-2表 にみるように、工業製品輸出に占める重化学工業製品の比率は高まり、34年には47%に達した。この間、生産の重化学工業化も一段と進み、34年には64%にのぼったが、輸出構成比と産業構成比の隔差は著しくせばめられた。重化学工業の構造開離係数をもとめると、戦前は0.4に過ぎなかったのが、34年では0.8にたかまっている。

第I-2-2表 輸出構造と産業構造

 第I-2-2図 は、重化学工業をさらに細分し、て、それぞれの構造開離係数の推移を示したものであるが、この図から、つぎのような事実がよみとれる。(詳細は附表12参照)。

第I-2-2図 日本の輸出産業構造開離係数の推移

 第1に、戦前0.4と著しく低かった金属工業の係数は、戦後急速にたかまり、1を上回ったが、最近では再び低下し、0.6~0.7となっている。これは、まず鉄鋼の輸出力が強化されたこと、そして最近では、鉄鋼がそのまま輸出されるより、さらに加工度の高い商品として輸出されるようになったためと考えられる。このような傾向は、アメリカ、イギリスにもみられたことで、産業高度化の一面をあらわすものといえよう。

 第2に、機械工業の係数は、戦前の0.5から、次第に上昇し、最近ではほぼ1になっている。特にここ2、3年についてみると、船舶輸出の相対的減少から、一時非常に高かった運輸機械の係数が1近くに低下し、その反面、電気機械、一般機械のそれが上昇して、それぞれ0.8までたかまっているのが目立つ。

 第3に、機械工業のうち、精密機械の構造開離係数が著しく上昇している。これはカメラ、映画撮影機、顕微鏡など、光学機器を中心とする精密機械の輸出競争力が著しく強いことを示している。また、この図では「一般機械」「電気機械」に含まれているが、ミシン、ラジオ、テープ・レコーダーなど、軽機械の輸出が多いことも我が国の特色である。

 第4に化学工業の場合は、開離係数は依然低水準にあり、我が国化学工業の競争力が不充分なことを物語っている。

 軽工業品を全体としてみると、戦前1.7にのぼっていた係数は、戦後はかなり低下しているが、それでも未だ1より大きく、特に、繊維の場合は著しく高い。工業品輸出に対する繊維品の比率は、戦前の66%から、34年には33%に、著しく下っているが、生産構成比は、この間33%から14%へと、さらに大幅に低下したからである。

第I-2-3図 主要国の工業製品輸出額中、重化学工業品の比率

輸出・産業構造の国際比較

 このように、輸出構造の車化学工業化は、戦後急速に進み、産業構造との差は全般的に縮小されているが、先進工業国に比べると、大きな相違がみられる。

 第I-2-2表 からも分かるように、工業生産に占める機械工業の比率は、34年には29%にのぼり、西ドイツの31%、アメリカの32%とほぼ等しい。しかし、工業品輸出に占める機械の比率は、日本が34年にようやく29%に達したのに対して、米英独は50%内外を示している。

 産業別に構造開離係数を比較すると、 ① 金属については各国とも0.7~0.9で大きな差はみられないが、 ② 機械ではアメリカ、西ドイツが1.5を上回っているのに、日本はようやく1に達した程度であり、 ③ 化学工業の場合、アメリカ、西ドイツが1をこえ、イギリスも0.8を示しているのにくらべ、日本は0.4に留まっている。

 繊維については、日本だけが著しく高い。

成長産業と輸出

 先にみたように、最近数年間の輸出増加額のうち、54%が重化学工業とその関連製品で占められ、特にその中でも、高度加工品の寄与率が著しくたかまっているが、これは経済高度化が急速に進み、このような商品の生産が、国内市場向けを中心として、急速に伸びた結果だと考えられる。

 ここでは、生産が急激に増加した商品の輸出が、どのくらい増え、輸出増加にどれほど貢献してきたかをみることにしよう。

新製品の輸出伸長

 近年における工業生産の急速な伸長は、技術革新に伴う新製品の続出によるところが大きい。(「工業高度化と産業構造の変化」の項参照)。

 これらの新製品の輸出額は 第I-2-3表 の通りで、石油化学製品や動力耕運機など、こく一部をのぞき、いずれも大幅に増加している。特に、ラジオ、電蓄、シネ・カメラ、テープレコーダーなどの耐久消費財的軽機械、合成繊維、合成樹脂、乗用車、小型四輪トラック、金属加工機械、などの増加は著しい。新製品35品目の輸出額は、28年には9百万ドルに過ぎなかったが、33年には104百万ドルへ、35年にはさらに375百万ドルへと激増している(附表14参照)。31年から、35年までの、我が国の輸出増加のうち、22%はこれら新製品によるものであった。

第I-2-3表 新製品の輸出額

 しかも、このなかで、輸出が中心となって生産が伸びたとみられるのは、トランジスター・ラジオだけで、そのほかはすべて、国内市場向けの生産を中心として発展していることも注目される。例えば、30年の生産額のうち、輸出に向けられた割合をみても、原動力機の21%が最も高く、1%にも達していないものが多い。

産業機械の内需と輸出

 次に、最近生産が著しく伸びている産業機械についてみると、28年から35年までの7年間に、出荷額は3.1倍に増えたが、輸出の伸びはさらに大きく、 第I-2-4図 のように、28年には35百万ドルに過ぎなかったものが、35年には170百万ドルへ、4.9倍に増えている。この間の輸出総額の増加に対して、5%に当たるわけである。

第I-2-4図 産業機械輸出の増加

 主要機種別に内需の伸びと輸出の増加率を比べると、 第I-2-4表 の通りで、内需の伸びが大きいものほど、輸出の伸びも高いという傾向がみられる。すなわち、内需が平均の3倍以上に伸びた冷凍機械、通信機械、重電機などは、輸出増加率も平均を上回り、反対に、内需の増加率の比較的低い繊維機械、製紙機械などは輸出の伸びも割合小さい。ただ鉱山、土木建設機械は内需に比べて、輸出の伸びが著しく大きい。

第I-2-4表 産業機械の輸出と内需の増加率

国内需要の高度化と輸出伸長

 このようにみてくると、輸出増加の過半を占める車化学工業品については、国内需要の増加が生産拡大をもたらし、市場の拡大につれて、量産化による生産性の向上、価格の低下、品質の向上がみられ、やがて国際市場にも進出する、という方向をたどっているものが多い。

 もちろん、最近の輸出伸長には、重化学工業品以外の商品も大きく貢献しており、特に魚介類、合板、家具、木製品、絹織物、毛織物、衣類などの繊維二次製品、真珠、履物、がん具などの増加は著しい。このなかには、履物(サンダル)、真珠などのように、主として輸出品として生産の伸びたものもあるが、その多くは、比較的高級な消費財として、国内需要も同時に著増している商品である。

 このような点をも考慮すると、最近数年間における我が国輸出の好調は、日本経済の高度成長によるところが極めて大きかったといえる。すなわち産業構造の高度化が急速に進み、先進工業国との隔差が次第に縮小したうえ、生活水準の向上に伴って、国内需要商品と海外需要の均質化が進んだ。このため、高度加工品の輸出が可能になり、輸出構造と産業構造のギャップも縮小されたものとみられる。

 しかし、重化学工業の輸出力は、先進工業国に比べると、未だ劣っている。このことは、我が国機械工業の構造開離係数が、アメリカ、イギリス、ドイツなどに比べて低いという点にも示されている。また機械輸出の内容をみても、軽機械、精密機械が多く、車機械輸出は、船舶、繊維機械など一部をのぞき、近年ようやくその緒についたばかりで、未だ金額としてはあまり多くない。

 軽機械や精密機械は、高度の技術水準と、豊富な労働力が併存するという特色を有する我が国にとって、国際分業上有利な商品であり、品質の一層の向上、市場の開拓によって、輸出を一段と伸長させる必要がある。一方、重機械については、高度成長のもとで、国際競争力の強化につとめると共に、輸出入が並行して増大し、国際分業の利益を充分享受し得るよう、自由化を漸進的に進めることが望ましい。

高度成長と輸入依存度

輸入依存度と輸入構成

 戦後我が国の輸入依存度の推移をみると、昭和27、28年どろまでは、終戦直後の異常に低い水準からの急速な回復過程をたどってきた。

 しかし、28年以降の輸入依存度は、 第I-2-5表 にみられるように、年によって景気変動に伴う循環的変動はあるが、すう勢的な上昇傾向はみられない。経済の急速な成長にもかかわらず、まず安定した推移を示しているものといえよう。

第I-2-5表 輸入依存度の推移

 しかし、これを個々の商品についてみれば必ずしも同じ動きを示しているわけではない。 第I-2-6表 は商品類別に輸入依存度の推移をみたものであるが、これによると経済の成長に伴う産業構成の変化を反映して、輸入商品構成、商品類別輸入依存度はかなり大きく変化している。即ち食欲料の低下傾向、素原材料の安定傾向に対して、鉱物性燃料、製品原材料、機械類等には上昇傾向が明らかであり、また素原材料の中でも、繊維原料の低下に対して金属原料は上昇している。

第I-2-6表 商品類別輸入依存度

 特に食飲料の低下傾向が著しく、それによって燃料や機械その他製品の依存度上昇分をほほ相殺しているということができる。全体の依存度安定という点からみれば食飲料の果たした役割は極めて大きかったわけである。ただ一方では製品原材料、鉱物性燃料、機械、雑品等の依存度が根強い上昇傾向をたどっているので、これら品目の今後の動向が注目される。これについては以下に、それぞれについて述べよう。

 我が国の輸入依存度を安定させてきたもう1つの大きな要因として挙げておかなければならないのは、輸入物価の下落傾向である。我が国の輸入物価は大蔵省調べの貿易物価指数でみると、昭和35年は28年を100として、81.7にまで低下している。一方国内の物価はその間に11%程度上昇しており、もし両者の価格が28年以降変化しなかったとすると、依存度は28年の12.7%から、35年の15.5%へとかなり高くなっていたことになる。

 ( 第I-2-5表 実質依存度参照)。

工業生産と原材料輸入

原材料輸入の推移

 我が国経済の発展につれて、原材料の輸入はすう勢として年々増大傾向をたどってきた。原材料輸入額は昭和28年から35年までの間に、15.5億ドルから33.1億ドルへと2倍以上に増大している。

 しかし、その間の原材料の輸入依存度は、既に見たように、昭和31~32年の異常な増大期を除けば、大体8%程度で推移しており、28年以降の輸入増大も、長期的にみれば、経済の拡大に見合った落ち着いた推移であったということができよう。

 このように原材料全体の輸入動向は安定していたが、原材料をややこまかく商品別にみると、その動きはかなり異なっている。原材料を素原材料、鉱物性燃料、製品原材料に大別して、それぞれの構成比を示すと 第I-2-7表 の通りであり、素原材料の比重が漸次低下してきているのに対して、鉱物性燃料、製品原材料が増大傾向にあることがわかる。

第I-2-7表 原材料別輸入構成比

 経済の成長に伴う産業構成の変化によって、輸入構成も漸次変わってきているといえよう。ここでは、28年以降の原材料輸入を、素原材料、鉱物性燃料、製品原材料の3つに大別して、その推移、工業生産との関係などを明らかにし、原材料の輸入構成の変化をたどってみよう。

素原材料輸入

素原材料輸入の推移

 我が国の素原材料輸入は、全体の輸入に占める比重ではほほ5割、原材料輸入に占める比重では6~7割に達している。素原材料の輸入動向が全体の輸入に及ぼす影響は極めて大きい。

 しかし、素原材料の輸入依存度は 第I-2-6表 によれば、28~30年平均が5.4%であったのに対して、33~35年平均で5.0%とむしろ低下しており、安定した推移を示している。

 ただ、素原材料輸入の品目構成比については、 第I-2-8表 にみられるようにかなり激しい変動がある。特に、繊維原料の比重が低下しているのと、金属原料の比重が大きくなっているのが目立つ。これは我が国の産業構成が、漸次高度化していることを示すものである。

第I-2-8表 素原材料輸入構成比

工業生産と素原材料輸入

 次に全体の素原材料輸入の動向を、工業生産との関係において検討してみよう。

 第I-2-5図 は31年以降の工業生産指数と輸入素原材料の消費指数を対比してみたものである。輸入された原材料は、生産のために消費されるか、在庫蓄積に充てられるかであるが、在庫蓄積による短期的な輸入変動を除いて考えると、輸入は大体消費の増大に見合って増える。

第I-2-5図 工業生産と輸入素原材料消費

 この図によれば、33年第2四半期から35年第4四半期の間では、工業生産が1%増えると、輸入素原材料消費は0.89%増えるという関係がみられる。

 (ここでは石油、石炭は鉱物性燃料であるため除外したが、これを素原材料に含めて考えると、輸入素原材料消費は1.02%の伸びとなる。)輸入素原材料の消費の伸びは生産の伸びに比べて相対的には低かったわけである。

 次に各時点における輸入素原材料消費指数と工業生産指数を比べてみると、その比率は 第I-2-6図 のように、すう勢としては低下傾向をたどっている。

第I-2-6図 素原材料の輸入依存率、消費比率、輸入比率の推移

 この生産と輸入素原材料消費との関係(輸入依存率)を決めるものは素原材料消費と輸入素原材料消費との比(輸入比率)及び工業生産と素原材料消費との比(消費比率)であるから(輸入素原材料消費/工業生産=輸入素原材料消費/素原材料消費x素原材料消費/工業生産)、この1つの要因についてそれぞれ検討してみよう。

 まず輸入比率についてみると、景気動向に伴う循環変動が明らかである。31年から32年にかけてと、33年から34年にかけて、輸入比率は上昇している。景気上昇期には、国内の原料供給が間に合わず、輸入にたよらざるを得ない部分が大きくなるからである。 第I-2-9表 は主要原材料について品目別に輸入比率をみたものであるが、溶解パルプ、鉄くず、鉄鉱右などに循環的変動がみられる。これらの原材料が全体の輸入比率の変動に影響を及ぼしているものとみられる。

第I-2-9表 主要原材料輸入比率

 輸入比率の長期的すう勢をみると、素原材料については、 第I-2-6図 では上昇傾向が明らかでないが、鉱物性燃料を含めた指数では、生産の上昇につれて輸入比率も上昇している。国内資源の自給度の限界があることを思えば、生産の拡大に伴って輸入比率は、長期的には上昇傾向をたどらざるを得ないものと思われる。

 もう1つの要因である消費比率については、あきらかにすう勢として低下してきているということができよう。この消費比率低下の原因としては、原単位の向上と産業構成の高度化を挙げることができる。

 まず、原単位は、最近各業種とも向上を示している。一例として鉄鋼業について言えば、高炉におけるコークス、鉄鉱右などの使用量は逐年減ってきている。最近の技術の発展に伴い、この傾向は、各業種について今後も持続されるものと思われる。

 もう1つの原因は、我が国の産業構成の変化である。ここ数年の我が国産業構成の推移をみると、素原材料消費の比較的大きい繊維、鉄鉱、皮革、ゴム、紙パルプなどの生産の拡大よりも、素原材料消費の少ない機械工業の発展の方が相対的に大きくなっている。

 例えば、機械工業生産の製造工業生産に占める比重は、昭和30年の19.9%から、35年の37.3%へと増大しているのに対し、繊維工業は、同期間に17.6%から12.1%へと低下している。原単位の向上、産業構成の高度化は今後も一層進展するとみられるので、消費比率も漸次低下傾向をたどるものと思われる。

 このように、輸入比率が循環的な変動を示しながらすう勢としては、若干上昇しているのに対して、消費比率は、ほほ一貫してかなり大幅な低下傾向をたどっているために、工業生産1単位当たりの輸入素原材料消費はすう勢として低下している。

 しかし工業生産の増加率は国民総生産の伸びより大きいので、国民総生産に対する素原材料輸入の比率はむしろ上昇する傾向を示している。

製品原材料輸入

製品原材料輸入の推移

 製品原材料輸入は素原材料輸入に比べるとその比重はまだかなり小さい。昭和35年における原材料輸入構成比でみると、素原材料が全体の63.6%であるのに対し、製品原材料は14.0%に過ぎない。しかしその増加率という点では昭和28年から85年までに、ほほ3.5倍の大きさになっており、素原材料の増大がほほ1.9倍であるのに比べるとかなり大幅である。

 製品原材料輸入の内容についてみると 第I-2-10表 にみられるように、薬材化学製品のうち原材料として使用される部分と、金属がそのほとんどを占めている。薬材化学関係では、有機、無機の薬品類などの輸入が大きく、次いで合成プラスチック材料、コールタール染料などである。

第I-2-10表 製品原材料輸入構成比

 金属では鉄鋼、銅、すずの比重が大きい。

 製品原材料輸入について特徴的なことは、景気の変動に伴う輸入の変動が極めて大きいことである。特に金属にその傾向が著しい。

 金属について主要商品の輸入推移をみれば 第I-2-11表 の通りであるが、これによって、金属の大幅な変動の原因は、大部分鉄鋼特に銑鉄によるものであり、次いで非鉄金属のうち銅、鉛、アルミがこれに似た動きを示していることがわかる。すずと亜鉛は比較的変動が少なく、すう勢的な上昇傾向を示している。金属の輸入変動幅が大きく、景気に伴う循環的変動を免れないのは、主として国内の金属、特に非鉄金属精錬部門の生産能力が需要の増大に対してまだ限られているので、生産の急激な上昇期には勢い製品輸入に頼らざるを得なくなるためと思われる。

第I-2-11表 卑金属輸入推移

工業生産と製品原材料輸入

 このように、製品原材料の輸入は、主として金属の動きによって、生産上昇期には大幅に増大するが、これを生産と輸入製品原材料消費との関係においてみると、 第I-2-7図 の通りである。これは、素原材料でみたと同じように、製品原材料輸入依存率と消費比率、輸入比率をみたものである。消費比率は、素原材料の場合と同様低下傾向にあるから、依存率は、もっぱら輸入比率の大幅な循環的変動によって規制されている。輸入比率、即ち製品原材料の消費に対する輸入分の比率が上昇するに伴って、輸入依存率も上昇傾向をたどっている。

第I-2-7図 製品原材料の輸入依存率、消費率、輸入率推移

 また、工業生産の伸びと輸入製品原材料消費の伸びとの関係をみると、33年第2四半期から35年第4四半期の間に、工業生産の伸び1%に対して、輸入製品原材料消費は1.7%、35年だけをとってみると1.9%増えている( 第I-2-8図 )。輸入素原材料消費の伸びが同じ期間に1%以下であるのに比べてかなり大きい伸び率を示しているといえよう。ただ28年と35年とについて、この両者の関係をみると、輸入製品原材料消費の伸びはほぼ工業生産の伸びに見合っている。長期的すう勢としてみた場合には、製品原材料の輸入増も、生産の上昇に比べてそれほど大きなものであったとはいえない。しかしその場合も製品原材料の輸入依存度は、工業生産の伸び率の方が国民総生産の伸び率よりも高いので、すう勢として上昇傾向をたどっている。

第I-2-8図 製造工業生産と輸入製品原材料消費

鉱物性燃料輸入

 鉱物性燃料の輸入も年々大幅に増えてきている。昭和28年の輸入額は2.9億ドルであったが、35年には7.4億ドルに増大している。輸入全体に占める比重も、28年の12%から35年には16.5%に変わっている。

 燃料の輸入は主として石油と石炭であり、石油は原油、石炭は原料炭がほとんどである。このうち、石油輸入は、燃料輸入の大半を占めている。

 燃料輸入の増大は石油輸入の増大によるものといえよう。

 石油輸入の増加も、単に工業生産に必要とする石油輸入だけについてみれば、それほど大きくない。昭和28年以降の石油輸入のうち、製造業内部の需要分を推算して生産の伸びと比較すると、大体工業生産の上昇率と同じ割合で石油の輸入も増えている。今後も(イ)産業構成の変化が、比較的エネルギー使用の少ない機械工業発展の方向にあり(ロ)エネルギー消費効率の向上が考えられること等により、製造工業部門でのエネルギー需要の伸びは生産の伸びにくらべてむしろ低下する可能性の方が大きい。

 しかし、石油需要は単に工業部門からの需要だけでなく、その他の部門からの需要も大きい。例えば34年の石油製品の部門別需要構成をみると、農林水産業11.4%、製造工業39.5%、運輸通信公益事業30.3%、その他18.8%となっている。今後(イ)自動車輸送、火力発電、民生用などの石油需要がさらに増えると思われること。回エネルギーの中心が石炭から石油に移りつつあること( 第I-2-9図 ) w石油は石炭と異なり国内での自給力がほとんどないことなどを考えると、石油の輸入はほぼ恒常的に増大を続けるものと思われる。

第I-2-9図 エネルギー供給推移

 いま昭和28年以降の国民総生産と石油輸入の関係をみると、国民総生産1%の伸びに対して石油輸入は1.5%の伸びであり、今後もこの関係が大きく変わるとはみられない。石炭輸入については、石油に比べて輸入額も少なく、年々の輸入もほぼ安定している。ただ輸入比率は年々上昇しており、31年度の9.5%に比べて35年度は16.8%に上昇している。

機械輸入

機械輸入動向を決定する要因

 輸入総額のうちに占める機械輸入(船舶を除く)の構成比は 第I-2-12表 のように33年以来高まってきた。

第I-2-12表 輸入総額のうち機械のしめる割合

 さらに機械輸入の内訳をみると 第I-2-13表 のようであって、その主要部分は設備投資用の機械類であり、年々の機械輸入総額のほぼ四分の三を占めている。また設備機械輸入の伸びは29年の例外を除いて着実であり、設備投資の急速な伸びと共に増大している。

第I-2-13表 機械輸入のうちわけ

 耐久消費財機械の輸入は時計類の占める比率が大きいが、28年の消費景気の時期、31年の神武景気のあとを受けた32年、また35年に大きくふえて、景気循環との関連が大きい。

 自動車の輸入は28年をピークにして現在まではむしろ減少傾向にあった。

 航空機の輸入は、34年まではあまり増えていないが、35年には急激な伸びを見せ、35年中の機械輸入増加額の50%は航空機によるものであった。従って現在までの機械輸入の動向は、(一)設備投資を中心とした急速な成長要因(二)景気変動要因(三)自動車の例にみられるような政策的な輸入抑制要因の三つによって決められているが、景気変動に左右されるとみられる耐久消費財機械の輸入は機械輸入総額の1%前後にすぎず、やはり機械輸入の動向を基本的に左右するのは設備投資の高い成長であると考えられる。これにさらに自由化要因が。

 どの程度加わるかによって将来の機械輸入の動向は決定されよう。

設備投資と機械輸入

 設備投資と機械輸入との関係は 第I-2-14表 に示す通りである。(ここでは設備投資として個人企業は省き、政府投資は企業特別会計のもののみをとった)。

第I-2-14表 わが国の設備投資と機械輸入

 設備投資のうちに占める機械の割合は27~8年以来ほほ50%前後であり、近年ややその率が高まっている。また設備用機械の輸入比率は平均して8%程度であり、そう大きな変動はない。35年にはこの比率が5.6%へと下っているが、他方設備投資の中で機械の占める比率は高まっている。

 (ただし35年設備機械生産額は推計値であるので多少の誤差は免れない)。このため設備機械の輸入はほぼ設備投資の伸長と平行して増大してきている。

 次に設備投資と機械輸入との関係について国際的な比較をしてみよう( 第I-2-15表 参照)。

第I-2-15表 設備投資と機械輸入との関係

 固定資本形成(個人住宅を除く)のうち機械類(輸送用機械を除く)の占める割合は国によって多少の相違はあるが大体35~45%であるとみてよい。ところが、設備投資額に対する機械輸入の比率は国によって著しい相違がある。セイロンのような後進国の場合にその比率が特に高いのは当然であろうが、ベルギー、オランダ、スウェーデンのようなヨーロッパ諸国でもその率は20%を超え、設備用機械の半分以上を輸入に頼っている。イギリス、フランスは大体6%前後であり、イタリアは多少高くて8%程度である。

 これに対して日本は3~4%にすぎず、特に率の低いアメリカを例外とすれば、世界の先進諸国の中では西ドイツと共に設備投資のうち輸入機械に依存する率が最も低いのである。

 このように日本の比率が低い理由としては、1つには日本の機械工業が各分野に一応方遍なく分化しているので、設備機械を大幅に輸入に頼らないでも国産で賄うことができるためであると考えられるが、さらに従来の輸入制限措置が大きく作用していることは否めない。

 従って、もし今後の自由化の過程の中で、設備投資の輸入機械に対1する依存率が少なくともイギリス、フランス、あるいはイタリア並にまで高まる可能性があるとすれば、機械輸入の伸びが設備投資の伸び以上のスピードで高まることも充分予想されることである。

国内技術の充実と国際分業化への方向

 31年から35年にかけての機械輸入の推移を機種別にみると 第I-2-10図 の通りである。ここで注目されることは、従来かなりの速度で輸入量が伸びてきた、重電機、ポンプ、ボイラー、蒸気機関などが35年は減少に転じていることである。これはこの種の国産機械の国内市場における競争力が大きくなったことを示すものであろう。これらの機種は従来特に大型機において技術的に劣っているといわれていたが、35年は特に重電機、ポンプなど、大型機の輸入減少が大きいことをみるとようやく国内技術が充実してきたことを感じさせる。これに対し35年に特に増加の著しいのは、工作機械、事務用機器、及び航空機である。

第I-2-10図 機種別機械輸入の伸び(金額)

 工作機械についてみれば、国産工作機械のトン当たり価格は77.3万円であるのに対して、輸入工作機械はトン当たり99.0万円であって、汎用機は国内生産、特殊高級品は輸入に頼るという形がはっきりみられる。このような国産機と輸入機械との価格の差は従来国産工作機械の技術的後進性を示す指標とされていたが、国産品の技術・生産性とも向上しつつある今日ではむしろ国際分業化に伴う当然の形とも考えられるのであって、 第I-2-16表 に示すように先進諸国においても、輸入工作機城のトン当たり価格は国内生産品のそれよりもかなり高いのが通例である。

第I-2-16表 工作機械のトン当り価格(1959年)

 以上のことからみると、機械輸入の構造は、未だ全面的に自由化を可能にする段階ではないが、国内市場における競争力は徐々に高まりつつあり、汎用的なものは輸入に頼らず国内生産し、特に外国に優れたものがある場合には輸入に依存するという形に進んできている。これは正常な国際分業化へと少しずつ近づいていることを示すものであろう。そして将来、機械類全体としての輸入依存の程度は正常な国際分業の上に立って西欧先進国並には高まってくるのではないだろうか。

 国際分業化をいう場合、むしろ問題は輸出入のバランスである。正常な国際分業化をめざす以上輸入するものは輸入しても別の面でそれに劣らぬ技術を持った製品の輸出がなければならない。

 機械類の輸出入バランス(輸送用機械を除く)は 第I-2-17表 に示す通りであるが、機械類全体としては輸出が輸入を上まわっており、35年には特にその傾向が顕著である。このこと自体はやはり機械産業の国際競争力がついてきたことを示している。しかしその内容をみると 第I-2-18表 のように、トランジスターラジオ、ミシン、繊維機械、カメラなどの比重が大きく、工作機械、金属加工機械などでは依然として大幅な輸入超過となっている。従ってこうした面での後進性はまだ残っており、アメリカあるいは西欧先進国と対等な国際分業関係に入りうるには、まだ多少の時日を必要としよう。

第I-2-18表 機械輸出のうちわけ

第I-2-17表 わが国の機械類(輸送用機械を除く)の輸出入

食糧輸入の問題点

 第2部で述べたように、食糧輸入は35年になって反転して増加に転じた(91~92ページ参照)。35年中の対前年増加額は約50百万ドルである。外*輸入は30年には140万トンもあったが、35年は17万トン、20百万ドルにまで減少した。36年はさらに減らされる予定であるが、既に食糧輸入の減少をリードするほどのウェイトを持たない。

第I-2-19表 35年中の食料品輸入と対前年増加額

 これに対し、畜産関係の輸入がクローズアップされてきた。35年中は牛乳の消費と生産のギャップが大きく開き、夏場を迎えて乳製品価格の騰貴がみられた。肉類についても同じような状況であった。そのために「緊急輸入」という形で乾燥ミルク、バター、牛豚羊肉などが相次いで輸入され、価格の暴騰は防ぐことができた。その後たしかに需給関係は緩和されている。

 しかしながら、牛乳並びに酪農製品の需要は今後ますます増大すると思われる。所得倍増計画によれば45年度には国民1人当たり牛乳消費量は基準年の5倍になることが見込まれているし、現に最近までの都会における牛乳消費の伸びの消費支出に対する弾性値は 第I-2-20表 にみるように極めて高い。このことは肉類についても同様である。一方国内の生産体制の方は、生産、ご流通の両段階について相当抜本的な施策を講じなければ、急速な発展は望めない状態にある。もし国民の消費支出が現在のすう勢で伸び、その支出内容が近代化し、一方生産の方は追いつかないということにでもなれは、畜産品の消費と生産のギャップが大きくなり相当大量の酪農製品、肉類を輸入せざるをえなくなるだろう。

第I-2-20表 畜産製品消費の消費支出に対する弾性値

 さらに問題となるのは飼料である。草食性の役肉牛の比重が減って濃厚飼料を大量に消費する鶏、豚、乳牛の比重が大きくなっているが、輸入濃厚飼料のみに頼らず、牧草を増やし、農業生産と結合したかたちで畜産を発展させる必要がある。さもないと現在でも1億ドルに近い飼料を輸入しているのが、将来畜産物の増大する需要を賄うだけ国内生産をするためには相当多量な飼料輸入が必要とされることになろう。

 畜産製品を輸入するにしても、飼料を輸入して国内生産するにしても、畜産品の消費増が輸入を誘発する度合いは将来かなり大きなものとなるおそれがある。

高度成長と輸入依存度

 素原材料の輸入依存度は今まで比較的安定した推移を示してきた。しかし今までの依存度安定には1つには工業生産に対する素原材料消費の伸びが安定していたことも役立っているが、さらに輸入物価の下落が果たした役割が大きい。輸入物価は昭和28年から35年の間にほぼ18%下落としており、もしこの値下がりがなかったとすれば、素原材料の輸入依存度は上昇していたことになる。また素原材料輸入の伸びは工業生産に対する関係では安定しているが、工業生産の伸びは、国民総生産の伸びよりも大きい。従って国民総生産に対する輸入依存度としては必ずしも低下するとはかぎらない。素原材料輸入依存度は今後の物価の動向にもよるが、漸次上昇の方向にあると思われる。

 製品原材料については鉱工業生産が急速に増える時は輸入依存度も急速に高まるという関係にある。製品原材料の輸入は、特に非鉄金属の場合、製錬部門が増大する需要に対して立ち遅れ気味であることを考え合わせると、鉱工業生産が今までと同じ歩調で伸長する限り、それ以上の速度で増大すると思われる。燃料輸入についてもその伸びは国民総生産の伸びよりも高い。

 エネルギー構造の変革期にあって、その依存度も長期的に上昇する傾向にある。

 機械輸入は国際分業化の方向をとりながらも、設備投資の増大と共に増えている。35年下期予算から機械類の自動割り当制への移行も少しずつ進められている。自由化の進展と相まって機械類の輸入依存度も将来増加する傾向にある。

 一般的に戦後国際貿易の方向は工業国間の貿易が工業国、後進自問の貿易よりも大きく進展する動きを示している。 第I-2-21表 は1953年から59年にかけての各国の経済成長率(名目)と工業製品輸入の伸びを比較したものであるが、カナダを唯一の例外として各国とも工業製品輸入の伸びは、経済成長率をはるかに上回る傾向を示している。日本の場合もこのことは例外ではない。日本についてもこれまでのところ工業素原材料輸入や穀物輸入などはあまり増えないけれども、工業製品については輸入依存度が高まるという傾向がみられるが、今後ともこうした傾向は続くであろう。

第I-2-21表 工業製品輸入の伸びと国民所得の成長率

 最後に消費需要と輸入との関係について考えてみたい。最近30年から35年にかけて個人消費支出は年平均6.4%の率で伸びているが、その消費支出の構造をみると、より高度のもの、あるいは耐久消費財的なものの比重が高まっている。畜産品の消費が急速な伸びをみせ、輸入が増大しつつあるのもその一端であるが、今後自由化の進展と共に、外国製の自動車、耐久消費機械への需要がどう動くかは日本経済の将来にとっても大きな問題となろう。

 いわゆる消費物資・雑貨類については34年度下期外貨予算から自由化が着手され、35年度中にも高級雑貨、石油ストーブ、ゴルフ用具、家具その他国産品との競合のおそれの薄いものから徐々に自動承認品目への移行が行われている。35年1月にはいわゆる輸入禁止品目の自由化が行われ、洋酒、タバコなども自由化はされなかったが、グローバル予算としたり、外貨割り当枠を広げるなどの措置がとられた。しかし表面の派手な割に輸入の伸びはそう大きなものではない。しかし消費構造の高度化と共に将来消費需要が輸入消費財に向けられてくることも充分考えられることである。

 このようにみてくると、日本経済の高度成長、重化学工業化は、機械、化学工業などの国内市場における競争力が増すことにより、また繊維原料などの比重が低下することにより、輸入依存度を低める要因も持つが、むしろ全体としては依存度を高める方向に作用すると思われる。また自由化も長期的にみれば輸入を増大させる方向に作用するだろう。

 しかし今後とも国際競争力の強化が図られ、適切な経済運営と慎重な自由化措置がなされるならば、国内市場を大幅に外国製品にゆだねるような事態はさげることができよう。

 真に国際競争力が充実し、正常な国際分業体制に入った場合でも、おそらく輸入依存度は現在よりは高まるであろうが、その段階で落ち着きをみせてくるのではないかと思われる。

世界経済の動向と日本の輸出

 最後に、世界経済の動向が、日本の輸出にどう影響してきたかという過去の事実をふり返って検討し、将来の輸出の見通しや、対策を考える足がかりとしよう。

 日本の輸出に与える海外経済動向の影響は、地域により、また時期によって異なる。ここではそれを長期的な経済成長による輸出成長への影響と、短期的な景気循環による輸出変動への影響に分けて、主としてアメリカ及びアジア向け輸出について考察することにする。

輸出の地域構造と成長率

 輸出市場を大きくアメリカ、アジア、ヨーロッパ、その他に分け、1950~60年について通関輸出実績の構成比率をみると 第I-2-11図 のようになる。

第I-2-11図 日本の輸出の地域構成

 すなわち、アメリカと「その他」のウェイトが漸増、アジアのそれが漸滅、ヨーロッパがほぼ横はいの傾向を持っていることがみられる。次に「その他」を除く3地域について、日本商品がその中で占めるシェアを相手側の輸入統計から計算すると 第I-2-22表 のようになる。

第I-2-22表 東南アジア、アメリカ、OEEC諸国の輸入に占める日本商品のシェアー

 日本のシェアは各地域において著しく増大してきており、戦後の輸出がどの地域においても、非常な伸び方をみせたことを示している。これを可能にした要因としては、需要面では日本の輸出商品構成が工業製品によって8割以上を占められているために、輸出全体の所得弾力性が極めて高いこと、供給面では日本の豊富な労働力と盛んな設備投資により、供給能力が漸増したこと、の二つが重要であると思われる。

 このような有利性が最も強く表れているのは、対米輸出であって、それがシェアの増大によく反映している。ヨーロッパに対しては、地理的ハンディキャップと共に、日本商品に対する強い輸入制限が働いて需要面から輸出の伸びをチェックしている。東南アジアでは、国際流動性の制約、及び国内産業保護のための消費財輸入制限から、日本の競争力の最も強い消費財に対する需要の伸びが押さえられても・て、相対的に不利な資本財部門で工業諸国と競争せざるを得ないというハンディキャップがある。

 輸出需要の成長の基盤となるのは相手方の経済成長率である。欧米の経済成長には、日本の政策はほとんど影響を与え得ないが、東南アジアの経済成長については、日本も工業諸国の一員として、影響を与え得る。またその国際流動性不足についても、日本が何らかの寄与をすることによって、輸入制限緩和をもたらすことが期待できるから、対東南ア輸出需要の長期的発展については、日本の開発援助政策が重要なポイントとなるであろう。ヨーロッパに対しては、輸入差別の緩和が最大の問題であり、長期的にはその方向に向かうであろうが、日本としても、これについて努力を払うと共に、距離的1なハンディキャップをどのように克服するかの工夫が必要である。西欧市場′に対する依存度を大幅に高めることは無理だとしても、現在の日本のシェアが小さいことからいって、もっと大きくすることはできよう。アメリカについては、その経済成長率さえある程度高ければ、今のところ長期的にはたいした問題はない。

 将来の輸出成長を決定するもう1つの要因は、日本側の供給能力の増大である。これは需給バランスを通じて輸出価格に影響し、再び輸出需要にはね返ってくる。労働力の増加は経済外的要因であるから、これを与件と考えるならば、供給力増加を決定するものは設備投資である。これはまた輸出商品の種類と品質を高度化し、需要の所得弾力性を高めるためにも、大きいことが望ましい。しかしながら短期的にみた場合には、設備投資は大きな国内需要々因であって、その動向は国内景気を通じて輸出供給力に強く影響するから、海外需要と輸出供給力の関係を短期的に把握して、適切な短期的政策を立て、長期的政策目標と調和させて行く必要がある。

アメリカの景気変動と対米輸出

 アメリカの景気が、日本の輸出に対して与える循環的影響を考察しようというのがここでのねらいである。

 まず、アメリカの景気の動きを、四半期毎の工業生産指数で表すことにする。つきに、1949年から現在までを3循環期に分割する。これは、底→回復→繁栄 →下降→底とみられる部分を1循環と考えるものである。こうすると3循環期は次のようになる。

 第1期49年第III四半期~54年第III四半期 5年と1.四半期

 第2期54年第III四半期~58年第II四半期 4年

 第3期58年第II四半期~61年第I四半期 3年

 次に考えなければならないのは、この3時期はいずれも上昇トレンドを持っていることである。これを除去して純然たる循環運動だけの形に直すために、各期について、最小自乗法による傾向線を引き、各四半期の、生産の実績値が、傾向値からどれだけ離れているかをみることにする。その結果は 第I-2-12図 に示されている。

第I-2-12図 対米輸出実績

 次に通関統計から四半期別の対米輸出実績をとり、これの変動がアメリカの景気変動に影響されているかどうかを調べてみよう。四半期別の実績は、毎月の数字を季節指数で修正して季節性を除去し、それを3ヶ月毎に集計して求めた。

 この対米輸出実績を、前述のアメリカの景気循環期に合わせて3時期に分類し、前と全く同様にして傾向線を引いて、それからの偏差を求めてみると、 第I-2-13図 のようになる。

 以上からいえることは、(イ)対米輸出の傾向線が漸次上向きになってきている。(ロ)アメリカの景気変動と対米輸出変動はほほ同時に起こるが、時によってずれることがある。(ハ)第3期に至って、対米輸出の変動幅が、アメリカの景気変動幅に比べて著しく大きくなっている、の3点であろう。

第I-2-13図 対米輸出とアメリカの景気変動(傾向線からの偏差)

 (イ)については、各循環期を通じて、アメリカの工業生産の上昇トレンドと対米輸出のそれとを比べてみると次のようになる。(注)

 (注)上昇トレンドは、前述の時系列回帰式から求められたもの。

 アメリカの生産増加(A) 対米輸出増加(B)B/A

 (1. 四半期当たり) (1.四半期当たり)

 第1期1.03ポイント 1.6百万ドル 1ポイント当たり1.6百万ドル

 第2期0.38〃 5.8〃 〃 15.2〃

 第3期1.23〃 8.4〃 〃 6.8 〃

 第3期の輸出傾向線が、第2期よりも上向いているのは、この期間のアメリカの工業生産上昇率が高い(1958年の大きな落ち込みからの回復を含むため)ことによるものと思われるから、対米輸出の上昇傾向が、最も著しかったのは第2期だといえるだろう。

 (ロ)については、両者の時期的なずれは、ほとんど日本側の供給要因の変化に基づいたものと考えられる。 第I-2-13図 にみるように、アメリカの景気回復に先立って対米輸出が回復に転じたのは、1949年のドッジライン、1954年と57~8年との国内引綿政策の時であり、アメリカの繁栄期にもかかわらず対米輸出が早く落ちはじめたのは、朝鮮動乱期、1953年の消費景気、56~7年の神武景気といった、国内過熱の時期である。対米輸出はアメリカの不況期にも大して影響を受けていないようにみえるのは、それがたまたま国内の急激な引き締め政策が、輸出ドライブとなって、需要の不振を相殺する効果があった時と、ちょうど一致したためと思われる。

 内については、1時期だけで速断するのは危険であるが、輸出品の所得弾力性が高まっているためと考えられる。そうだとすれば、今後アメリカの景気変動の影響はシャープになろう。所得弾力性が高ければ、好況期の伸びも高い代わりに不況期の落ち方も激しいと考えられるからである。

アジア向け輸出の変動

 東南アジア向け輸出においても、需要々因と供給要因の変動が、その動向を左右することに変わりはない。しかし東南ア向け輸出需要は、対米輸出に比べるとはるかにつかみにくい。それは、短期的な所得変動を示す統計がないこと、後進国には工業国におけるような意味での景気循環がないこと、輸入規制によって需要が人為的にかく乱される度合いが強いこと、等によるものである。

 ここでは需要々因として東南アジアの輸出変動をとってみた。その理由は、(イ)四半期毎に得られ、しかも地域全体として総合できる唯一の指標は貿易統計である、(ロ)所得の過半を占めるのは第1次産業所得であり、その内、循環的要因を持つのはほとんど輸出原料と食料である、という2点である。

 次に、対米輸出と同じく、過去の実績から傾向線を引いてその変動幅をみるわけだが、統計の前後がとれないので、全期間を通じて傾向線を引いてみた。(季節性は除去してある)その結果は 第I-2-14図 の通りで、日本のアジア輸出がかなり上向きのトレンド(1四半期ごとに700万ドル増)を持っているのに対し、東南アジアの輸出がほとんど横ばいに近い(1四半期に300万ドル増)ことがみられる。

第I-2-14図 日本の対アジア輸出

 つきに東南アジアの輸出変動をアメリカの工業生産変動に対比させてみると、日本の対米輸出のようには両者はうまく対応しない。これは、輸出先がアメリカの外に日本、ヨーロッパ、域内等から形成されていて、それ等の影響が入ることと、商品格価の変動が非常に大きいことによるであろう。しかし大局的には、アメリカの景気がかなり強く影響しているといえよう。

 日本の対アジア輸出変動を東南アジア諸国の輸出変動に重ねてみると 第I-2-15図 のようになる。

第I-2-15図 日本の対アジア輸出変動と東南アジアの輸出変動

 もともと東南アジアの輸出変動はその輸入需要々因の変動とは正確かには一致しない。輸出向生産以外の所得変動は、輸出のそれとは異なるであろうし、用所得と輸出には時期的なずれがある。また輸入統制政策の変化によって、需要が人為的にコントロールされる上、援助や賠償の動きも輸入需要に関係する。従って厳密にいえば、 第I-2-15図 は日本の輸出変動を説明する極めて不満足なものであるのは当然であろう。しかし非常に大ざっぱにいって、日本の輸出は、東南アジアの輸出と無関係ではない。時期によって異なるが、最大は1年位から、最小はゼロに至るタイムラグを持って、共に変動している。時によってラグの期間が異なることは、東南ア諸国の輸入政策の違いによって生ずるといっていいだろう。


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