昭和36年

年次経済報告

成長経済の課題

経済企画庁


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昭和35年度の日本経済

国民生活

消費生活向上の内容と特徴

消費生活向上の内容

 35年度の国民消費水準を四半期毎にみると、4─6月期の4.7%増、7─9月5.4%増、10─12月7.4%増としり上がりに上昇し、1─3月には消費者物価の再騰貴などの影響もあって若干伸びが低下したものの7.3%増と好調を続けている。これを都市と農村に分けてみると、消費者物価の高騰の著しかった都市では本年度前半は、4.1%増と30年度以降最低の増加率であったが、年度後半になると前年同期の水準を7%前後上回る増加となった。また農村は各期とも都市世帯の伸びを1~2%上回る好調な増加を続けた。

 まず都市世帯について消費向上の内容をみよう。35年度の全都市全世帯の消費支出は33,741円(5人30.4日換算)と前年度に比べて9.8%増と大幅に増加したが、一方消費者物価が4.0%騰貴したため増加支出の約4割は物価騰貴に吸収され消費水準では5.6%の増加に留まった。消費水準の増加率を費目別にみると、最も増加の著しいのは被服費で、前年度に比べて14.3%増加し、光熱費の10.2%増がこれに次いでいる。これに対して前年度には9、2%増と各費目中最高の増加を示した住居費は、後述するように耐久消費財購入の鈍化を反映し本年度は3.2%増に留まった。食料の中では主食は横ばいであり、非主食でも物価騰貴に吸収される面が大きかったので、乳卵類、果実類等では前年と同程度に増加したが、全体としては前年度の増加率を下回っている。

 一方農家の消費は昨年に引き続いて顕著な増加を示した。農家の消費は現金消費支出で前年度に比べて9.4%(人員、日数調整済み)、消費水準でも7.4%増加し、前年度の消費水準増加率5.0%増をさらに上回る28年度以降最高の増加率を記録した。消費生活の内容においても、兼業収入の増加などを反映した生活の都市化への傾向が前年度より一層明らかである。すなわち家具什器支出が前年度に比べて35%増加したのをはじめ、被服費の12%増、教養娯楽費の21%増、外食費の13%増などの費目の増加が著しい反面、米類は2%減少し雑穀類も12%減少している。また冠婚葬祭を中心・とする臨時費の増加も前年に比べて5%増と消費支出の伸びをかなり下回っている。

第13-2表 費目別消費水準増加率

第13-1図 増加消費支出の産業部門別配分状況

35年度消費生活の特徴

 前述したような消費内容の変化を大きく分けると四つの特徴があげられる。その第1は農林水産物このように35年度の家具器具支出は大都市の停滞傾向に対して小都市、農村での増加が著しいが、これを都市勤労者世帯について所得階層別にみると、後述するように低所得層のみが前年に比べて4割あまりの増加をみせ、最高所得層(第Ⅴ階層)では逆に若干の減少となっている。これは、ここ数年急速に普及してきた家庭用電気器具購入の大都市より農村へ、高所得階層より低所得階層へという波及過程を示すものであるが、その中心をなすものはテレビ購入の変化によるものである。当庁調べの「消費者動向予測調査」によるとテレビを持っている世帯は35年2月に都市44.7%、農家11.4%であったのが、36年2月には都市62.5%、農家28.5%と増加しているが、その増加率をみると都市では著しく鈍化し、農家ではなお高い増勢を保っている。さらに都市世帯について階層別に36年2月の保有率をみると、年収40万円以上の層では80%以上の保有率を示してほぼ飽和状態にある。しかし、テレビ以外の電気冷蔵庫、扇風機、電気掃除機、H.F増幅器等はいずれも順調に増加を続けているので、テレビを除いた耐久消費財の支出増加率は前年度とあまり変わらなかった。

 第三の特徴は被服消費が都市、農村を通じて急増したことである。35年度の被服支出は前年度に比べて都市世帯で16%、農家世帯で12%の顕著な増加を示した。このような被服費の急増は、他の物価に比べて被服物価が比較的安定しているうえ、所得弾力性の高いことなども一因であるが、それ以上に大きな影響を与えたのは前述したように、テレビ購入が一巡したので増加した購買力が被服に向ったためである。昨年までの被服消費は新製品の相つぐ登場や強力な広告、官伝などにもかかわらず、各世帯の購入意欲の面ではテレビにおされがちであった。しかしデモンストレーション効果が強く、同時に比較的安価に家庭娯楽をたのしめるテレビ需要の一巡と共に再び被服消費の増加が始まったのである。

 被服支出の増加の内容は次の四方向に分けてみることができよう。第1は購入数量の増加、第2は物価騰貴、第3に品質の向上による購入単価の増加、第4は上地から既製品への加工度の向上による支出増加である。35年10~12月のき都市全世帯の被服支出の増加をこの構成に応じて推計するとおおむね次のような割合となっている。第1の購入数量の増加は被服支出増加の約45%で、和服類、婦人服、下着類などを中心とするものであり、第2の純粋の物価騰貴による部分は約15%である。これに対して第3の綿製品から合繊製品へ、あるいは中級品から高級品への質的向上による部分が約25%を占めている。第四の生地類から既製品への加工度の向上による部分が約15%であるから第三と第四を合わせると支出増加の約40%と第1の購入数量の増加による支出増加に近い比重を占めることになる。このように最近の被服支出の増加は購入数量の増加のほかに質的変化による部分がかなり大きな比重を占めていることが大きな特徴である。

 さらにもう1つの特徴は国民がより多くの余暇を求め、余暇を楽しもうとする傾向が強くなってきたことである。35年度の都市家計では教養娯楽費、1交際費、交通費、外食費等の余暇消費的な支出は前年度にくらべ11%増加し、繊維品の増加率よりはやや低いが耐久消費財の増加をかなり上回っている。余暇を求める傾向はまず労働組合の労働時間短縮要求に強く現れている。35年度の主要労組の要求項目には時間短縮が強く掲げられてきている。また、家庭においても電気洗濯機電気冷蔵庫、電気掃除機等、家庭電気器具の購入とインスタント食品といわれる即席料理食品が普及してきて主婦の家事労働が軽減されてきている。余暇消費の主要な形態は家庭外で楽しむ、旅行、スポーツ、登山等と家庭内で楽しむテレビ、ステレオ等である。運輸省の調べによると消費性旅客を主たる利用者とする乗用車、貸し切りバスの利用者は激増し、周遊乗車券の発売枚数や団体旅客数の増加も著しい。また少数ではあるが特急、急行列車や航空機利用の旅行も増えてきている。当庁調べの消費者動向予測調査(36年2月)によると、過去1年間に1泊以上の旅行をした世帯は49.3%に溝しており、1世帯平均の旅行費用は年間で1万6千円に上っている。しかし一般的な所得水準の低さや過長な労働時間等のために、休日には家庭内で休養する者が圧倒的に多い。前述した消費動向予測調査によると世帯主の休日の余暇時間はテレビ、ラジオ、新聞、ごろ寝、読書等で費やす者が大部分を占めており、旅行は未だ全体の3%程度に留まっている。

第13-2図 家具什器支出の推移

第13-3表 全都市勤労者世帯 可処分 消費支出の推移


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