昭和36年

年次経済報告

成長経済の課題

経済企画庁


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昭和35年度の日本経済

労働

労働生産性の向上と労賃コスト

 35年度の労働生産性は大巾な向上を遂げた。日本生産性本部調べの生産性指数によると、35年4~12 月の製造業工業生産性指数は前年同期に対し11.2%の上昇となった。これは前年度の上昇に比べると若干鈍化している。一方鉱業は前年度上昇率の3倍にも達する17%の大中上昇を示した。

 最近数年の労働生産性上昇は年度平均にして製造業では約7%、鉱業では約3%であったことに比べると好況の連続で鉱、工業とも生産性上昇率を著しく高めているということができる。このような生産性の高上昇は二つの要因によってもたらされている。その第1は技術革新による近代化投資である。これは従業者1人当有形固定資産の推移によってみることができる。法人企業統計によって労働者1人当有形固定資産をみると34年には5%、35年にも7%の増加を示している。第二の要因は操業度の上昇である。いかに設備の近代化が行われてもその操業度が低い場合には生産性の向上は難しい。我が国の労働生産性を短期的にみると好況期に上昇し不況期に停滞するのは操業度の変動が大きく影響しているからである。通産省調べの稼働率指数をみると34年は149635年でも7%上昇している。

 産業別の生産性上昇率では石炭、鉄鋼、輸送機械、鉄道車師、精密機械、セメント、石油製品等の基礎産業や重化学工業の上昇率が高く、特に機械工業の影響力は大きい。製造業生産性上昇率の45%は機械工業によるものである。これに対し繊維、紙パルプ、製材等の軽工業の上昇率は低く、食料品ではかえって低下している。

 一方、賃金をみると鉱業は6%、製造業は8%しか上昇していないので、賃金コストは鉱業では大中に低下し製造業でも2.7%の低下をみている。しかし、製造業については前年度に比べるとその低下率は鈍っている。業種別には生産性の著しい上昇によって労賃コストの大中な低減をみているものと生産性上昇が低いために労賃コストが上昇しているものとみられる。

 前者の代表的な業種は自動車を主体とする輸送用機械であり、4~12月で生産性は38%上昇し、労賃コストは23%減少している。同じ成長率の高い産業でも、一般機械は生産性の上昇と賃金上昇との差が少なかったために労賃コストは2.6%減に留まり、電気機械も年間としてみれば、ほぼ同様な状況で労賃コストも1.0%の減少に止まった。その他の大部分の産業は5%前後の労賃コストの減少をもたらしたが、化学と繊維は生産性を上回る賃金上昇のため、それそれ4.9%、2.8%の労賃コストの増大を示した。また食料は生産性が低下したため労賃コストは11.0%とかなり大巾に増大している。さらに比較的中小企業的性格の強い陶磁器、医薬品、綿織物などでは生産性の向上を上回る賃金の増大のためにいずれも若干の労賃コストの増大がみられた。

第12-4図 製造業生産性と賃金

第12-10表 生産性、賃金、労賃コストの対前年変化


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