昭和36年

年次経済報告

成長経済の課題

経済企画庁


[前節] [目次] [年次リスト]

昭和35年度の日本経済

設備投資

設備機械の供給構造

設備投資市場の拡大

 前年に引き続き各産業の活発な設備投資を反映して、資本財機械の市も急速な拡大を示した。

 資本財機械の需要動向を発注段階でみると 第3-6図 のごとく、35年度に入って国内も輸入も、前年より一段と上回っている。このうち、国内需要について、当庁調べ「機械受注調査統計」により、35年度の受注水準及びその内容をみると 第3-7図 の通りである。鉄鋼機械化学などの重化学工業及び電力業が増加の中心をなしているが、他の産業もかなりの拡大を続けて、ほとんどの産業からの受注がこれまでの最高水準を記録している。

第3-6図 資本財機械の市場拡大

第3-7図 国内設備機械の受注増大

 しかも一部を除いて、手持ち受注月数の推移にみるように、需給のバランスは路々均衡が保たれていたし、機械価格もほとんど安定した状態で終始している。

 これは外生要因として、原材料供給力に余裕があったこと、需要産業の機械発注態度が、長期的かつ計画的になっていたことがあげられよう。また内生要因としては、機械メーカーの生産能力が著しく拡大したこと、造船、電機メーカーのこの部門への進出が本格化したこと、小規模企業が戦力として、好況期でもたえず過熱緩衝の役割を果たしてきたことがあげられる。

 さらにまた、輸入機械市場が拡大していることも、影響が少なくないといえよう。つきに資本財機械メーカーの能力増加について述べることとする。

設備供給力の増大

機械工業の設備投資

 一般機械工業における設備投資は、 第3-8図 のごとく、34年度下期以降に上昇著しく、その内容も35~36年になるにつれて、産業機械及び金属加工機械部門に対する投資により重点がおかれてきている。

第3-8図 一般機械工業の設備投資

 また、造船、電機メーカーからの産業機械部門に対する設備投資も、35年度後半から急増してきた。

 一般機械工業に加えて、これら諸企業が製造設備機械の供給力として、本格的にその戦列に参加したので、量的にも質的にも一段と能力は増加しつつある。

設備構成の若返りと能力増加

 従来は、資本財機械部門の投資態度は他産業にくらべて極めて消極的であったが、それでも27年当時より33年度年央には、経過年数5年未満の工作機械が全保有台数の17%、第二次金属加工機が28%と、当時の2倍以上も新しい機械の割合が増えている。その後の設備投資の増勢からみて、設備能力の若返り状態は33年当時をはるかに上回るものと推察できよう。

 しかも、最近の機械は著しく高性能化されているので、加工能力そのものは著しく高まっているものと思われる。

 資本財機械の生産能力を現わす適切な指標がないので、「機械受注調査統計」の販売額の増加状況から推察してみても、この1~2年中には、かなり上昇していることが予想される。

 しかし35年も後半になると、大型の高性能機械の需要が著しく増加したのに対して、供給力は必ずしも充分とはいえず、次第に受注納期は長期化しつつある。

第3-9図 経過年数5年未満の機械比率

輸入機械増加の内容

 海外に対する機械需要の動向を、通産省調べの外貨申請状況からみると34年度下期以降に上昇著しい。しかも1件当たりの金額が上むいているのは、輸入機械価格の上昇も幾分あろうが、輸入機械に対して、これまで以上に高額の機械を要求するようになったからとみられる。

第3-10図 機械メーカーの販売及び手持月数の推移

 これを需要業種別に示すと、 第3-11図 のごとく、重化学工業の伸びが特に大きい。とりわけ機械工業の増加率は著しい。その内容をみると、産業機械関係が前年度より2倍も著増したが、そのほか自動車が81%増、電子関係が48%の増加となっている。化学工業は有機関係が中心である。

第3-11図 機械類の外貨割当構成比

 これを製品別にみると、産業機械、自動車関係では、金属工作機械が最も多い。製鉄関係はいうまでもなく、圧延機である。有機化学の関係の増加は、石油化学部門の機械装置部品が主なものとみられる。

 かかる需要の増勢は、技術革新投資の意欲の強さを反映するものであると共に、貿易自由化を目前に控えた企業の合理化対策の現れとみられよう。

今後の方向

 技術革新投資は設備機械の大容量化、高性能製品を、矢継ぎばやに要求してくる。これまで資本財機械メーカーは、海外技術の導入と、設備合理化の努力によって、この数年間だけみても、 第3-3表 のごとく、大型、高性能機械の生産を可能としてきた。

第3-3表 主要機械のトップレベル

 また、加工精度もかなり向上している。しかし、これ以上に高度の機械を受注するには、今までにないような大型、高精度の機械を投資する必要がある。一方、好景気の長期持続もあって、比較的小型の設備機械も、逐次量産化lも及び専門化できるような基盤がかたまりつつある。

 しかし工作機械のロット生産台数にもみられるように、現在の設備と生産工程では、20~40台が合理化効果の限度であるといわれる。これ以上の工数低減には、切削時間の短縮のため、高性能機械を設備し、生産方式を根本的に改善しなければなるまい。

 また、専門化生産の第1段階ともみられる各企業の集中生産には、生産機種を整理して量産化可能のものを自家工場に置き、少量生産機種は関連会社に依嘱するという形体をとる。これはポンプ、コンブレッサー、変速機、タレツト旋盤などにみられるものである。最近では需要の急増に対応して、量産のための専門工場を新設しようとする動きもみられる。

 以上に述べた一連の動きは、最近の設備機械需要の内容が、質的にいま一段と高度化してきたのに対する機械メーカーの対策といえよう。これによって、資本財機械メーカーの企業基盤は、さらに強化されると共に、海外市場へ進出するための一布石として、今後の動向が注目されるものである。


[前節] [目次] [年次リスト]