昭和36年

年次経済報告

成長経済の課題

経済企画庁


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昭和35年度の日本経済

貿易

輸入

輸入の推移

 35年度においては、鉱工業生産の上昇、設備投資の増大、消費水準の向上、さらに貿易自由化の進展などに伴って、輸入は引き続きほぼ一貫して増加傾向を続けた。その結果35年度の輸入通関実績は4,661百万ドルにのぼり、前年度を18.3%上回り、従来の最高である32年度を上回るに至った。この間、輸入物価は低下を続けたため、輸入数量の伸びはこれより大きく21.7%の増加をみた。

 35年度の輸入にみられる大きな特色は、鉱工業生産の上昇率に比べて、原材料輸入の増え方が比較的小幅で、食糧と、機械をはじめとする工業製品の増加が著しかったことである。これを輸入増加に対する寄与率でみると、34年度には増加額の87%までが原材料であったのに対して、35年度においては原材料の寄与率は54%にすぎず、工業製品が33%、食糧飲料が13%を占めている。

第1-8表 輸入指標の推移

第1-9表 商品別輸入実績

原材料輸入の相対的安定

 前年度45%の大幅増加をみた原材料の輸入は、35年度には15%の増加に留まった。重要商品類別にみても、鉱物性燃料が27%と前年を上回る仲にびをみせたほかは、いずれも増加率は前年より低くなっている。繊維原料の増加は10%に留まったが、これは紡績工業の生産増加が12%に留まったことによる。金属関係では、金属工業の増産にともない、鉄鉱石、非鉄属鉱石はそれぞれ41%、32%と大幅に増えたが、くず鉄の輸入は9%の減少をみた。これは買付け、入船の遅れから年度末にかけて輸入量が低下し、在庫のくいつぶしが行われたことと、輸入価格の低落による。また、原皮、生ゴム、大豆などが値下がりし、生ゴムの輸入量が減少したため、動植物性材料はほぼ前年度並に留まった。

 第1-7図 は、工業生産と素原材料の輸入、消費の増加率を比較したものであるが、原材料輸入の増加率は15%で、工業生産の上昇率(24%)をきく下回った。これは、34年度に、工業生産が31%上昇したのに対して、原材料輸入は45%も増加したこと、また前回の好況期に当たる31年度にも、原材料の輸入増加率(53%)は、工業生産の伸び(23%)をはるかに上回つていたのと、著しい相違である。

第1-7図 工業生産と素原材料消費、輸入の増加率

 35年度の原材料輸入がこのように落ち着いた動きを示したのはなぜであろうか。

輸入素材源材依存率の低下

 その最大の原因は、工業生産1単位当たりの輸入素原材料消費(これを輸入依存率とよぶ)が低下したことである。34年度には、生産が31%増えたのに対して、輸入素原材料の消費は37%も増大した。

 ところが35年度においては、生産が24%増えたのに、輸入素原材料の消費は18%の増加に留まった。

 その理由は2つ考えられる。

 第1は、34年度には素原材料消費(国産原材料を含む)が、工業生産の増大に歩調を合わせて増加したが、35年度には、素原材料消費の増加は、生産上昇よりずっと小幅だったことにある。

 素原材料消費の比較的大きい繊維、鉄鋼などの生産上昇よりも、素原材料消費の少ない機械工業の伸びが大きく、しかも、原単位の向上がつづいているため、工業生産1単位当たりの素原材料消費は次第に低下する傾向にあるが、短期的には、 第1-8図 にもみられるように、景気変動に伴ってかなり大幅に上下している。すなわち、 34年度には・在庫投資の増大を反映して、鉄鋼一次、非鉄一次、紡績など、比較的素原材料を多く必要とする産業の生産が大幅に増加した。このため、素原材料の消費も生産増加率にはぼ等しい29%の増加をみせた。

第1-8図 素原材料の輸入依存率、消費比率、輸入比率の推移

 これに対して、35年度の経済拡大は、最終需要が中心となり、在庫投資はほとんど増えなかったため、鉄鋼、紡績などの生産増加も前年度より著しく小幅になり、素原材料消費の増加も、12%に留まり、生産上昇率の半分に過ぎなかった。

 第2は、素原材料のうち、輸入されたものの割合─輸入比率─の動きである。34年度には、素原材料の消費が急増したため、国内供給の増加では賄いきれず、輸入比率は著しく高まった。これに反して、35年度には消費の伸び自体が小幅だったので、国内でも供給し得る商品─例えばくず鉄一については輸入比率の低下したものもみられ、全体としての輸入比率は高水準ながら横はい状態になった。

 つまり34年度には、工業生産1単位当たりの素原材料消費がほとんど下らず、輸入比率も大幅に上った結果、輸入素原材料の消費が増大したが、35年度には、1単位当たりの素原材料消費が大幅に低下し、輸入比率もあまり上らなかったため、生産の割に、輸入素原材料の消費が増えなかったのである。

 なお、輸入製品原材料の消費は、35年度も、引き続き大幅に増加しており、銑鉄や非鉄金属の輸入が著しく増加したことは見逃せない。

輸入素原材料在庫の安定

 原材料輸入が落ち着いていた理由の第2は、在庫の増加が少なかったことにある。これを輸入素原材料在庫指数によってみると、35年度中の増加は18ポイントにすぎず、前年度の31ポイントに比べても少なかった。36年 3月の在庫率が前年同期をわずかなから下回っていることからみても、35年度中の在庫投資は、消費規模の増大に見合うものであったといえる。

 このように在庫投資が落ち着いていたのは、海外原料商品価格が、85年春から年末にかけて軟調を示し、海上運賃も低位を続けたことや、企業の在庫管理が発達したという事情に負うところが大きかった。

輸入価格の低下

 原因の第3は、輸入価格が低下したことである。

 35年度の輸入物価指数は、前年度を3.4%下回った。繊維原料は堅調を続けたが、鉱物、金属が、くず鉄、すず、鉛などを中心に35年末まで低下を続け、鉱物性燃料も前年度に引き続き、値下がりをみせ、また生ゴム、原皮など、動植物性原材料が大幅に下落とした結果である。最も、価格の低下した商品には、鉱物性燃料をのぞき、くず鉄、原皮、生ゴムなど、輸入量の減少したものが少なくない。一方値上がりした綿花、麻、木材などの輸入量は増加した。従って、商品構成の変化を考慮すると、価格低下による輸入額の減少は、それほど大きなものではなかったとみられる。

 主要原材料15品目について、価格変動の影響を計算してみると、全体で40百万ドル程度の外貨が節約されたことになる。

食、飲料輸入の増大

 数年来漸減傾向を続けてきた食糧、飲料の輸入は、35年度には19%の増加をみた。これは、米と大麦は減少を続けたが、小麦、砂糖がやや増え、そのうえ飼料が6割、その他の食、飲料が35%と、大幅に増加した結果である。

 食、飲料の輸入は、米穀自給度の向上に伴って、28年度以来年々減少傾向を続け、我が国の輸入依存度の安定に寄与してきたが、この傾向が35年度に入って逆転したのは、つきのニつの事情によるところが大きい。

 第1は、従来輸入減少の主因とたっていた米、大麦の輸入が底をついたことにある。35年度上期には、大麦の輸入は皆無となり、米も15万トンにすぎず、東南アジアの米輸出国との関係からいっても、これ以上の大幅削減は困難な状態となった。

 第2に、国民の食生活水準の向上、畜産の振興にともない、飼料の需要が急増し、輸入が激増している。飼料の輸入は28年度の20百万ドルから、33年度の57百万ドルへと漸増を続けていたが、最近、とうもろこしを中心に、34年度67百万ドル、35年度108百万ドルと、増勢を強めている。

 第3に、消費水準の向上に貿易自由化の影響も加わり、肉類、酪農製品、煙草製品、飲料など、高級品、嗜好品を中心とする各種の食、飲料品の輸入も急速に増大している。特に35年度には、需要の急増による需給のひっ迫、価格上昇を緩和するため、肉類、ミルク、バター、チーズ等の緊急輸入が行われたことも加わって、肉類、酪農品の輸入は著しく増加した。

工業製品輸入の増加

 35年度の工業製品輸入額は1,097百万ドルにのほり、前年度比28%の増加を示した。特に機械類、金属、消費財の増加が著しい。

 機械の輸入実績は、34年末に増加に転じて以来増加の一途をたどり、35年度には432百万ドルと、前年度を25%上回った。しかも、設備投資のひき続く増大、自由化に備えての盛んな合理化意欲などから、輸入承認額は著しく増加し、36年1~3月には年率6.5億ドルにのぼつている。機種別にみると、特に増加の著しいのは工作機械、事務用機器などである。

 つきに、金属の輸入も前年度比64%の激増を続けた。鋼材生産の上昇に対し、製銑能力の拡充が遅れ気味とな、鉄の輸入は33年度の0.2方トンから、34年度46万トン、35年度112万トンへと激増した。また、非鉄金属も、需要の伸びが国内精錬設備の増加を上回り、鋼、アルミ、鉛などを中心に、前年度を6割上回る108百万ドルの輸入をみた。

 この他、消費水準の向上、自由化の進展にともない、医薬品、化粧品、宝石類、繊維製品、衣類、時計、雑貨など、消費財の輸入が著増している点も注目される。上記品目の輸入額は、33年度の56百万ドル、34年度の69百万ドルから、35年度には95百万ドルと大幅に増加した。

第1-9図 食、飲料品輸入の推移

最近の輸入動向

 以上のように、 35年度の輸入を全体としてみると食、飲料と工業製品は大幅に増加したが、原材料の輸入が比較的落ち着いていたため、輸入総額の増加はそれほど大きくなかった。

 しかし、原材料輸入の相対的安定をもたらしてきた要因の多くが、35年末ごろから、いずれも変化しはじめている。第1に、アメリカ景気の好転や、西欧経済のひき続く好況を反映して、海外の原料商品価格は、生ゴム、羊毛、綿花、銅、すずなどの値上がりを中心に、35年末ごろから堅調に転じ、海上運賃も底固い動きをみせるようになった。これを、ロイター原料商品相場指数でみると、35年4月の431(1931年=100)から、12月には406まで下っていたものが、1月から上向き、36年4月には425まで回復した。我が国1の輸入物価指数も、35年末から下げどまり状態となっている。

 第2に、輸入素原材料の在庫は、36年に入って、かなりのテンポで増加しはじめた。これを在庫指数でみると、35年末には206.2(30年=100)に低下していたが、その後綿花を中心に増加し、3月末には226.7まで回復した。

 36年度に入ってからも、原材料の輸入は、繊維原料、くず鉄を中心に高水・準を続け、消費をかなり上回っている。

 また、工業生産1単位当たりの輸入素原材料消費は、35年中に大幅に低下したが、これは、前述のように、循環的要因によるところが少なくなかった。

 従って、今後経済拡大が続くにつれて、上昇に転ずる可能性もある。

 現に、輸入、比率は、36年に入って若干の上昇をみせている。

 このように、食、飲料、製品が根強い増勢を続けているうえ、原材料の在庫補充が加わったため、36年1~3月の輸入額は、月平均433百万ドルと、35年10~12月に比べ16%増加し、その後も4月439百万ドル、5月513百万ドルと高水準を続けている。

第1-10表 輸出入物価


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