昭和36年

年次経済報告

成長経済の課題

経済企画庁


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成長経済の課題

経済企画庁
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経済白書の発表にあたって

 経済企画庁では、毎年、年次経済報告、通俗にいう経済白書を発表することになっている。私は、昭和36年度の年次報告書を作成するにあたって、担当者に対して、いわゆる政治的配慮を排して、経済研究者の立場に立って素直に観察し、記述するように指示した。ここに成稿をえて、通読した所感を託して序に代えたいと思う。

 この報告でも明らかなように、昭和36年度の日本経済は、国民各位の創意と勤勉によって、前年度に引き続いて世界首位の高度成長を遂げ、国民生活はさらに一層向上していることについて、我々自身、日本経済の活力にいまさらながら驚くと共に、国民所得倍増計画の早期達成も決して困難ではないという自信を深めえたことは、まことに喜ばしいことである。

 率直にいって、日本経済は、生産の面においても、消費の面においても、重大な構造的な革新をなしつつあることは確かである。私は、国民のすべてが、すなわち、政府を経営者も、雇用者も、消費者も、また工業者も、商業者も、農業者もすべて、この進化に順応して、考え方、行動の仕方を進化させていくことが、何よりも必要なことだということを痛感する。経済の進化と人間の考え方、行動の仕方との間のずれが大きければ、そこに多くの摩擦が起こって、経済全体の成長を阻害する現象が起こってくる。伝統は尊重すべし。因襲は打破すべし。まさに1億総進化の時であると思う。

 国民所得倍増計画は、国民のすべてに働く場所を与える完全雇用の計画であり、また生産性向上の計画である。同時にまた、国民生活向上の計画である。従来日本経済は、生産の面においては労働力の過剰従って労銀の低位を前提として、構成されたきらいがあり、消費の面においては、サービス過剰の傾向があった。今後の日本経済は、生産面においては優秀な生産性、消費面においては高度の合理性のうえに構成されなければならない。それには、近代人らしい知識と見識が絶対に必要である。それが、日本経済が今後とも、均衡のとれた、安定性のある高度成長を遂げる、まず第1の要件であると信じる。

 それにはまず、国際的の視野に立つことである。日本経済と世界経済との関連はさらに一層深くなる。新しい技術、新しい商品、新しい傾向に対して、国際的に広い認識を持つと共に自由主義経済発展の原動力たる競争も、国際的の立場において行わるべく、国内的な競争にのみ気をとられるような狭い考え方は是正されなければならない。また徒らに外国品を尊重するような不見識も許されない。一方後進国に対する経済援助を真剣に考えることも、国際性の1つであろう。

 次には社会的見地に立つことを一層拡大することである。元来、自由主義経済は、欲望を出発点としているといわれるけれども、今日のように、生産も、消費も、高度の社会的相関関係に立つ以上、自己の利益のみを追及することは許されないのであって、経営についても、労働についても、生活についても、社会全体の観点から、自己の欲望を自ら或る程度規制する必要がある。近時、設備投資の速度がはやすきることが論評され、政府も極力慎重ムードの浸透に努力しているのであるが、貿易為替の自由化を控え、国際競争力培養の見地からは、その規模は絶対必要であるにしても、他の経済要因との均衡を考えるときは、すなわち、社会性を考えるときは、おのずからその速度が規制されるべきところであると思われる。

 第3は、過去の夢を追わず、将来を直視することである。我が国では、食生活でさえ急速に変化しつつある。人手は急速に不足しつつある。現今は、技術や社会情勢の進化が、非常に急速であるが故に、過去の経験にのみたよろうとすることは、人を憶病にする作用が多い。学校で教わった技術は、短い期間に役立たなくなる。結局必要なことは、不断の勉強である。今は、昔よりも、もっと多くしかも絶えず勉強していかなければ時勢において行かれる外はない。

 私は、日本経済を発展せしめ、国民生活を向上するためには、あくまでも自由主義経済を維持することが絶対に必要であると信じる。私は、過去の統制経済の経験にかえりみて、統制とは、権力者たる人間が神様の真似をすることであると思う。人間の社会、人間の経済は、どこまでも、それぞれ人間がめいめい自らの責任において運営して行くべきである。この昭和36年度年次経済報告は、わが自由主義経済発展のために、1つの有用な鏡の役を果たし、これによって、反省し、将来の発展の基を培うために活用されんことを切に希望する次第である。

昭和36年7月14日 迫水 久常 ( 経済企画庁長官 )


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