昭和35年

年次経済報告

日本経済の成長力と競争力

経済企画庁


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昭和34年度の日本経済

農業

好調な農家経済

農家所得の増加

 農業総産出額は 第7-4表 にみるように、1兆6千億円で前年度に比して620億円、4%の増加である。この増加額の5割以上は米産出額の増加によるものである。その他で前年度より増加したものに、畜産物の10%、前年度不振だった繭が回復して26%、麦類の6%増がある。減少したものはいも類の13%、野菜の2%がある。所得率が農産物価格の上昇と農業用品価格の値下り等によって、若干良くなった結果、農業生産所得は対前年度比4.4%の増加となった。33年度の増加率1.9%に比すならば、本年度の農業所得の増加はかなり大きかったといえる。一方農林省「農家経済調査」による農家の農業現金収入は、 第7-5表 のごとく10.7%、農業現金所得は13.6%と前年度に比して極めて大きな増加を示している。上述の農業総生産額、農業生産所得の増加率と比べて、この農業現金収入、現金所得の増加率が非常に大きいが、これは主として農産物の商品比率の上昇によるものである。

第7-4表 農業総産出額と農業生産所得

第7-5表 農家経済現金収支

 生産構成のうちで畜産物、果樹等商品化の度合の高い農産物の比重が多くなり、あるいは米、麦の増産分が、ほとんど市場に出回るような場合には現金所得と農家の自家消費を含めた所得の増加率とは、大きな開きが生ずるのである。だから自家消費分まで含めた農業所得の伸びは、現金のそれほど大きくないのである。

 次に農外所得では、賃労働兼業における賃金の上昇と、兼業従事者の増加によって、労賃棒給収入が対前年度比10.8%と着実な増加をみせた。

 この結果、農家所得は現金では前年度より1戸当たり約3万円、11.4%の増加となった。この農家所得の伸びは30年の豊作時の9%を上回り、近年にない大きなものであった。なお、この農家所得では自家消費分を除外してあることは既に述べたが、この点を考慮した農業所得の伸びは約6%と推定される。この場合でも、最近では例のない大きいものであることに変わりない。

農家所得の配分

 農家所得の配分面では、前年度に比して家計費の9%、経済余剰25%、租税公課1%の増加を示した。また所得増加分3万円の配分では、その約6割は家計費に向けられ、残りが経済余剰となっている。このように本年度の農家経済では、家計支出の増加が大きな特徴となっている。最近豊作の連続で農家経済は好調であるといわれながらも、家計支出の増加は非常に控え目であった。例えば昨年度は農家所得(現金)6.2%の伸びに対して家計支出は2.8%しか増加せず、また増加所得分の3割しか家計費に向けられなかった。それが本年に至って大きな伸びを示した最大の原因は、テレビを中心として耐久消費財普及のテンポが強まったことにある(「家計」の項参照)経済余剰は 第7-3図 のごとく配分された。この図を一見してわかるように34年度経済余剰配分の特徴は、固定資産投資が減少し、経済余剰の増加分の全てが、預貯金の増加となったことである。この現象は単に本年度に限ったことではなく、33年度から引き続いた傾向であり、34年度は特に顕著となった。

第7-3図 経済余剰とその配分

 固定資産増加額の内容は、 第7-6表 のごとくであるが、土地、大動物の資産減少が、固定資産投資減退の大きな要因となっている。土地は農地の宅地化、工場敷地化等によって農用以外に転用されることが多くなり、農業全体としては土地資産の減少となったものである。これに対して大農具投資は顕著な増加を示した。農機具投資の増大を出荷統計でみると、動力耕運機が前年に比して24%、動力脱穀機が12%増加し、この両者が出荷額増加の大半を占めている。このうち動力脱穀機は既に普及し尽くしており、最近では出荷数量が年々減少を続けていたものであり、34年度の動力脱穀機出荷の増加は、主として更新需要の増大によるものである。動力耕運機の出荷台数の、対前年増加率のここ数年の動きをみると、31年68%、32年43%、33年10%、34年24%と、31、32年頃の急激な普及が33年から衰えをみせており、34年も普及最盛期ほどの増加は示していない。しかし33年に比べるとその需要は強く、地域別にはこれまで普及率の低かった西日本、経営階層別では中間層での投資意欲が強かった。

第7-6表 固定資産増加額

 農家の貯金の増加を反映して農林中金の年度末の預金は約300億円、20%と大幅な増加をみせ、逆に農業向けの貸出金は約70億円、13%の減少で、農協系統金融機関が、農家の預貯金を農業外に運用するという傾向は、一層強められた。

 以上のように34年度の農家経済は、農家所得の増大、消費の堅調、預貯金の増加をみせ、好調の色が濃かったといえる。これは米、麦の豊作、好況局面の持続という二つの好条件に恵まれたうえに、価格支持制度を中心にした政策的、制度的な支えによるところが大きかった。しかしこの好調な農家経済のなかから農業生産上、あるいは制度上のいくつかの問題点が顕在化したのも、本年度農業の特徴であった。以下その主要なものについて述べる。


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