昭和34年

年次経済報告

速やかな景気回復と今後の課題

経済企画庁


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各論

中小企業

中企業の近代化と系列化

 前節でみた通り、今回の景気後退に際し、中小企業が予想外に打撃を被らなかった理由の一半は、機械中小企業の好調にあった。これは、機械工業それ自体が、発展途上の産業であることに第一の理由がある。しかし、この急速な発展の過程で、中小企業の近代化が要請され、中企業が育成されて、大企業と中企業との補完関係が強化されてきていることにもその要因の一端を求めることができよう。

 まだその数は少ないにしても、我が国経済の高度化にとって中企業のもつ意義は大きい。我が国における中企業が、系列下で最も発達している現状からして、その実態を近代化の進展という角度から把えることとしたい。その場合、最近特に発展の著しい自動車産業に典型的にみられる部品生産での生産的系列は、従来多くみられた原料的系列(繊維、鉄鋼二次製品、塩化ビニール等)とは、技術的、生産力的な意義においてかなり異なったものと思われる。従って、主として前者に例をとりながら中企業の発展について述べよう。

 中小企業問題としては、取りあげねばならない問題は多い。しかし今回は問題を以上のことに限ることにする。

中企業発達の現状-統計的検討-

 はじめに、神武景気を経て、どのような業種のどの規模が伸びたかをみよう 第3-12表 付表26 。製造業合計では、従業者数30人以上の事業所が、29年から32年の間に約9000増加した。そのうち機械工業で増加したものは約2600(26.5%)で、増加率が最も高く、ついで金属製品、家具装備品、紙パルプ等の増加が多い。これに対し、繊維工業の増加率は最も低く、ついで食料品、印刷出版などが低い。規模別にこれをみても、各規模とも機械の増加率が一番高い。このような傾向は従業者数、出荷額 付表27 付表28 についてもみられる。

第3-12表 規模別、業種別の事業所数の発展

 機械工業の発達が最も顕著であるので、これについてみよう 第3-13表 。家族経営的な3人以下層及び29人以下の零細規模層の比重はかなり減り、小及び中規模の比重が高まっている。製造業平均に比べても機械工業における小及び中規模層の比重はかなり高い。

第3-13表 機械工業事業所数の規模別構成変化

 この間の事情は、同一企業の発展としてみればより明らかである。自動車工業実態調査に例をとれば 第3-14表 、各規模とも32年には29年の規模区分よりそれぞれほとんど一階層ずつ上層に移動している。

第3-14表 某自動車系列企業の一工場平均雇用者数の増大

 以上のように、統計的にみても機械中小企業は産業上の地位を高めているが、その影響はこれのみにとどまらない。投資ブーム、家庭電化ブーム、自動車生産の急増、エレクトロニクス等の発展は、その関連部門の広さから、金属工業、プラスチックス、ゴム、ガラス等あらゆる部門の中小下請企業に影響を及ぼしている。例えば、ラジオ・キャビネット、テレビ前面枠、配線器具等に用いられるユリア樹脂製品の増大はめざましい。 第3-15表 にみるように、ユリア樹脂成型材料が全体で最近5年間に3倍にも急増したうち、電機部品用は4%から24%も占めるようになり、約18倍にも伸びている。そのため電機関係ユリア樹脂成型加工業者の規模は、ここ2~3年の間に2~3倍に急速に拡大している。

第3-15表 電機部品用ユリア樹脂成型材料の急増

 ここでは統計上、主として従業員規模により中企業を示したが、その他、統計的には把えがたいが、質的に従来のいわゆる中小企業とは異なった中企業が、新製品あるいは製品の質の高度化に伴って各業種にわたってかなり多くみられるのは事実であろう。以下にいう中企業とはこのようなものを意味する。

中企業発達の背景

 機械中企業発達の背景は、急速な機械製品市場の拡大に際し、大企業と中小企業との生産力の断層をうめるために、大企業が下請企業を育成したことにある。生産力の断層には二つの側面が考えられる。一つは、機械設備そのものの量ならびに質の問題であり、他の一つは、生産方式の問題である。まず前者からみよう。

機械工業における大企業との設備面の断層

 機械巨大企業は、戦時中の空白から生じた立ち遅れを取り戻すため外国技術機械を導入し、急速に技術革新を行い、下請中小企業との間に一層技術的断層を生じていった。これを統計的にみると次の通りである。

 30年「国富調査」によれば 第3-16表 、機械工業では大企業が全有形固定資産の82%を所有し、この基礎のうえに最近の巨額な設備投資が行われた。中小企業も総額としては相当大幅な設備投資を行ってはいるが 付表29 、一事業所当たりでみると 第3-17表 大企業と中小企業との格差の拡大は明らかである。

第3-16表 有形固定資産の分布における大企業への偏り

第3-17表 一事業所当たり有形固定資産投資総額の格差

 さらに、設備機械の質の面からみても、中小機械メーカーの機械設備は老朽化したものが多い 付表31(その1) 付表31(その2) 。32年末現在、業種別に多少の差はあるが、汎用の旋盤等は各規模とも10年以上を経過したものが7割以上も占め、戦前、戦中及び戦争直後の粗悪機械が圧倒的に多い。所有する設備機械が古いばかりでなく、新しく購入する機械も中古品が多い 第3-18表 付表30 。神武景気による中小企業の設備の近代化を喧伝される32年においてすら、旋盤、フライス盤等では中古品購入が8割近くも占め、300人以上の企業ではじめて新品の方を多く買う状態である。しかも、一般に中小企業の機械更新率はまだかなり低い。ただプレス、研磨盤等は多くの業種(工作機械工業は除く)で小企業に至るまで所有機械の経過年数も若く、新品を7割近くも購入している。これは単なる設備の更新増設ではなく、量産化と製品精度向上をはかるための機械の購入が行われていることを示し注目される。

第3-18表 中小企業における機械取得状況

 業者数の分布のみでなく保有機械台数の分布からみても、各業種とも約8割が小、零細企業に所属している 付表31(その1) 付表31(その2) 。このことからみても親企業は生産力としていかに多く小・零細企業に依存しているかがわかり、設備の量的、質的断層がいかに大きな問題であるかを物語っている。しかも、同じ旋盤といっても高速自動旋盤と普通旋盤の差があるように、一台一台の質を考え合わせればなおさらである。

機械巨大企業における大量生産方式の採用と下請企業への近代化要請

 このような設備機械の量と質における断層以上に、下請中小企業の近代化を要請したものは、生産方式の変革すなわち大量生産方式が、我が国の機械工業にも次第に導入されてきたことである。機械工業は30年以降急速な市場拡大に直面した。自動車の例でいえば、小型4輪トラックは25~26年の年産8千台から、30年2万台、32年8万台、小型乗用車は同じく4千台前後から1万3千台、4万7千台といずれも10倍以上の急増であり家庭用電気製品でいえば、洗濯機は28年の10万台から30年46万台、33年約100万台、冷蔵庫は同じく7千台から3万台、41万台と急増している。これらの部門でこの飛躍的な生産の拡大を可能にしたのは生産方式の変革に他ならない。

 自動車完成車メーカーに例をとれば、汎用機械を全て自動化された専用機械に変え、作業分析、工程分析を徹底的に行い、従来のロット生産から流れ生産、大量生産方式、スーパー・マーケット・システムへと展開していった。スーパー・マーケット・システムとは、納入から出荷までの全生産工程のあらゆる部面に、材料、部品が、必要な時間に、必要な数量だけ、一個の過不足なく供給され、しかもむだなストックは絶対におかないというシステムである。

 自動車工業は数千の部品からなる総合工業であり、しかも完成車メーカーは、主要な部品であるシャーシー、エンジン・ブロックなどを作るのはもちろんだが、完成車組立に重点がおかれる組立工業である。しかも日本においては下請企業の低賃金を利用し、外注割合が極めて高い。完成車メーカーの外注割合は材料費を含めれば8~9割に達し、外注部品と加工賃のみで5~6割を占めるといわれる。

 それ故完成車メーカーでのスーパー・マーケット・システムの採用は、親工場内の各職場の流れのはやさが、完成車組立ラインのコンベアのタクトの速さによって同時化されるのみでなく、ピラミッド型の下請生産機構の底辺に至るまで同時化されねばならないということである。

 31年から32年初めにかけ、下請企業は親企業から増産につぐ増産を要求され、大量生産に伴う規格の厳密、製品精度の向上、コスト・ダウン、しかもスーパー・マーケット・システムによる確実な納期(ものによっては毎日定時に所定数の納入をせねばならないものすらある)を迫られた。

 神武景気の間はそれでも何よりも増産が第一義的な要求であり、下請中小企業は小規模ほど残業につぐ残業、さらに 第3-14表 でみたような急激な雇用増大で対応した。しかしこのような労働強化のみでは、とうてい親企業の要請には応じきれないのは明らかであり、下請企業は合理化、近代化に力を注がざるを得なくなった。

 しかも32年夏以降、一時減産に転じた中では、製品精度の向上、納期の確実等はむしろあたりまえのことであり、激しい親企業間の市場競争のためコスト・ダウンを軸として合理化、近代化はより厳しく要請されるようになった。

 以上、自動車の例でみたように、トランスファー・マシンに代表される親企業の膨大な設備投資と、それに基づく大量生産方式、スーパー・マーケット・システムの採用が下請中小企業の合理化、近代化を要請し、中小企業発達の背景をなしている。

 これに類したことは程度の差はあるにしても、外注割合が極めて高い組立産業である家庭用電気器具等においてもおこっている。同じ電気機械の下請企業でも外注割合が比較的少なく一品一品の規格、形式が異なる重電機器の下請企業の発達が遅いのに対し、量産型の家庭電機、汎用モーター等での下請企業への近代化要請は極めて強く、その発達ははやく、きわだった対照をなしていることからみても生産方式の変化がもつ意義の大きさがわかろう。

生産的系列としての中小企業の育成

 以上みたような設備機械における断層と、それをもとにした大企業での大量生産方式への転換は、必然的に大企業による中小企業の自らの好む型への育成を必要とした。事実、神武景気当時、各自動車完成車メーカーは相互に猛烈な下請企業の獲得戦を演じ、ある程度の設備技術をもつプレス機械加工関係中小企業は、ほとんどいずれかの系列下に組み入れられてしまったといわれるほどである。

 自動車工業における系列の一例をみると、有力百数十社で協力会を組織し、親企業は協力会を通じて、常時技術指導、合理化研究、管理技術の指導等を強力に進め価格の引下げを行っている。親企業はまた系列企業に不用になった汎用機械の払下げ、貸与、さらに借入保証を行う等の金融的援助を与えたりしている。また材料は、品質の均一、規格化のため親企業から支給のところが多い。

 このように系列内企業は工場のレイ・アウト(機械の配置)から設備生産計画、工程管理等あらゆる点で強く親企業に結びつけられている。ここではもはや景気変動に対する単なるクッションとしての旧来の下請利用のみではすまされない。全生産工程の部分担当者としての中小企業-特に中企業-の親企業の生産に完全に適合した育成が必要となり、近代化、生産性の向上が至上命令となる。

 この点、繊維、鉄鋼二次製品、塩化ビニール等に従来みられた原料的系列とは、その生産力に与える影響を異にしている。繊維についていえば、そこでの系列の主眼は、一方で原糸代金の確実な回収、原糸消費市場としての賃織の確保、原糸価格の維持を、他方では最終消費市場における激しい繊維間競争にうちかつための製品の高度化、製品価格の引下げをはかることにある。この二つのことは、元来矛盾するものであるとともに、織物技術にさほどの技術差がないので、もっぱら賃織業者の低賃金に依存し、加工賃を切り下げることに関心がはらわれる。しかも系列の進展、チョップ織物製品(主として原糸メーカーのマーク入り銘柄品)の比重が高まることは、景気後退下においては、ますます原糸メーカーに自社賃織製品の滞貨を増大させ、負担を大きくしている。それ故、原料的系列においては、部品生産における生産的系列よりも技術進歩、生産力の向上に対する役割は弱く、系列関係も浮動的であるようである。原糸過剰と製品市場の相対的狭隘化に対し、系列の強化で対応できる余地は狭められているといえよう。

中企業近代化の実態とその影響

合理化、近代化の進展と現段階

 以上のような系列企業に対する近代化の要請も、同時に全面的に行われるわけではない。資本力が小さく、設備が貧弱で、優秀な技術者群をもたない中小企業ほど量産に対し残業、雇用の増大で対応せざるを得ない。従って、まず第一に合理化の時期が企業の規模に応じて段階的におくれている。先進的な中企業は、ブーム中に着手し、合理化の効果をブーム中にある程度発揮し得たが、おくれた小さい再下請企業ではブームの最終局面で着手し始め、減産下という悪条件のもとで本格的に遂行しなければならなくなり、企業間格差をひろげている。

 中企業の近代化により、最近、切削加工では自動ターレット盤、多軸ボール盤、倣旋盤、自動歯切盤等、プレス関係では大型プレス、スポット溶接機、鋳物ではシエルモールド法等の精密鋳造法、塗装では静電塗装、検査器具ではバランシング・マシンその他の検査具、あるいは治具ボーラー等かなりの新鋭機械、設備も導入されている。これには機械工業振興法による低利設備資金の供給等が大きな役割を果たしている。しかし新鋭機械の数はあまり多くはないし、まだ汎用機械が多く中古機械が大部分である。

 従って、量産体制下にあって、先進的な中及び小企業が考え出したあまり金をかけない合理化の方法は、まず運搬過程の合理化であり、第二に機械の半自動化であり、第三に生産のライン化である。

 事実、中小機械工業の現状では、「ムダ」と「ムリ」を排除する工程管理、生産管理を徹底的にやることで生産性を大きくあげる余地が実に多い。業種、業態により差異はあるが、例えば小物プレスの場合、素材を加工場所にもってくる時間と製品を置場所におく付随作業時間が、製品を型の上でプレスする実働時間の2倍は要するといわれているし、一般に旋盤切削における切削速度は適正速度の5~60%である場合が多い。従って、多くの工場で材料置場と製品置場を改善し、簡単な机を置くなどのことで身体の曲伸歩行による無駄な労力をはぶき軽労働化している。

 機械切削加工の例でいえば、運搬過程の合理化は、機械導入あるいは中古の汎用機械の単能化、多刃旋盤化による半自動化の形で進められる。半自動とは、作業をいくつかの単純工程に分解し、汎用機を専用機に改造し、自工場で作った簡単な自動送り、自動停止装置を取り付けるなどのことによって、運搬時間の節約をすることである。機械への材料の取りつけ取りはずしは人間が手でやるが、機械の切削時間(従来は作業者にとっては手まち時間であった)に作業者が数台の機械の取りつけ取りはずしができるようになり、一人の持台数が多いのは5~6台にも達している。一台一台の機械の能力は同じでも休みなく稼働させ人間も同じく休みなく稼働することによって、金をかけずに一人当たり生産性を非常にあげている。半自動化された機械は工程順にラインをなして並べかえ、その間はシュート(とひ)あるいはコンベア等で結びつけられる。

 この機械の半自動化を実施するには、ある程度の機械をもっていなければならない。また自工場内に治工具室をもち、治工具の作成、機械の改良が行えることが必要である。バイトの研磨、機械の修理、改造整備、段取り等の熟練を要する仕事は全て集中的に行い、ラインは若年未熟練、女子労働者で行えるようになっている。従ってこのような合理化を行い得るのは、大体100人以上の工場が多い。

 以上のように集中研磨、治工具の活用あるいは倣装置等により個人差はなくなり精度は向上し、半自動機械のライン化により、従来のロット生産から作業標準、生産計画に基づく流れ生産になり、量産、納期の厳格化に対応し、非常に生産性を高めて相次ぐコスト・ダウンにたえている。

 中規模機械工場の現状では、あまり金はかけられないし、また創意工夫の余地も大きかったのである。部分的には新鋭機械も入っているが、まだ検査、熱処理などの部門の近代化はおくれている。中企業の近代化も以上のような程度であり、ようやくその緒についた段階であるといえよう。

合理化、近代化の影響

 主として中企業にみられるこのような合理化、近代化は、企業経営、雇用構造その他あらゆる面に変化をあたえている。

 企業経営についていえば、従来のカンと職人的技術にたよる個人的経営から、近代的合理的経営に脱皮せねばならなくなっている。近代化の初歩では、直接工の比重が高まり生産性をあげるが、さらに一歩前進すると、科学的な工程、生産管理、あるいは経理、労務管理等のため、より質の高い管理技術者を必要とするに至り、企業主の意識の変革がどうしても必要となっている。このため系列内企業では、ほとんど連日あらゆる講習会、研究会に出席させられているのが実情である。この程度の合理化の現段階では意識の変革をなし得た企業の発達は非常にはやい。

 次に労働面にあたえる変化をみよう。まず第一は、未経験若年工、女子工員の著しい増加である。自動車に例をとると 第3-19表 第3-20表 の通りである。これはラインにおける軽労働化、単純労働化が進んだ結果である。本工も臨時工も同一のラインで並んで同一の作業をしており、機械切削工場にも女子の工員の進出がかなりみられる。

第3-19表 工員中の臨時工の増大(男女計)の一例

第3-20表 工員中の女工の増大の一例

 第二は労働密度の増大である。軽労働化、単純労働化されても、半自動化により手まち時間はなくなる。集中研磨も工具の修理、研磨に伴う息抜き時間をなくした。ロット生産と異なり流れ生産では、個人差は認められず作業標準どおりに行われ、慣れれば作業標準はさらに引き上げられ、スピード・アップされてゆく。

 第三は熟練工の役割の変化である。ラインにおいて若年工、女子工員を使うためには、その準備作業、段取り、治工具の作成、集中研磨、機械の改良、修繕等が必要であり、従来の熟練工がラインからはずされその要員になっている。熟練工としては、従来の手労働のカンと熟練が要求されるのではなく、このような高い知識、技能が要求されるようになっている。またラインにのらない少量生産の部門にまわされ従来の熟練をいかしていることもある。第一と第三の変化の結果、人件費比率は相対的に低めることができる。

 第四は質の高い管理職員の比重の増大である。現に大学出の技術者等が相当採用されている。

 第五は製品精度の向上を要求され、生産がライン化されると個人差がなくなり、出来高賃金制の割合が減少し、固定給の割合が多くならざるを得ない。これは景気後退期にはある程度賃金の下支えとなる可能性をもっている。

 第六は、以上のいくつかの結果として、労働組合結成の可能性が生まれており、従来のおくれた労使関係を是正し近代的経営になる一要素となってくることが考えられる。

系列下における中企業発達の問題点

クッションとしての役割の変化

 以上みてきたように、生産的系列下にある下請中企業の合理化、近代化は急速に進められ、従来の単なる景気の調節弁ではなくなり、親企業の要請にマッチした技術は向上し、ある程度の経営の安定、資本蓄積が行いえたのは事実である。ここに生産的系列の積極的な側面をみることができよう。

 しかし、乗用車の輸出価格でもわかる通り、国際的水準に比べれば一社一車種当たりの生産量の少なさもあって、価格はまだまだ非常に割高である。そのうえ親企業間のはげしい市場競争が加わって親企業からの部品単価の引下げは厳しく、下請中小企業にとっては、その近代化努力の成果がほとんど帳消しにされているのも事実であろう。例えば、自動車小物部品の機械加工工場においては 第3-21表 、わずか5ヶ月の間に単価は2~3割も引下げられる状態である。これに対し、下請企業は工数を3~4割も短縮し、先にみたような合理化の方法でこれにたえている。

第3-21表 コスト・ダウンの一例

 従って、生産的系列下の下請企業は全生産行程の一部に組み入れられ、量的クッションとしての役割は幾分緩和されたとしても、依然としていわば質的な、価格面でのクッションとしての役割を負わされているといえよう。 第3-11図 はこれを如実に示している。これは金額指数であるが、親工場の建値であるのでほとんど生産量の推移とみてよいであろう。これに対し、下請企業は量的にはほとんど親企業と同じ足取りの受注をしたにもかかわらず、価格が3~4割も相次いで引き下げられた結果このような差ができている。

第3-11図 親工場と下請工場の生産金額指数の開き

 かくては親企業への受注依存度を急速に高めてきた系列下中企業の資本蓄積にもおのずから限界があり、今後のより本格的な近代化にとって大きな問題とならざるを得ないであろう。

今後の問題点

 系列下の中企業は、価格面でのクッションの役割を負わされている以外にも系列の中での近代化であることにより、この発展の限界もまた多い。

 系列化は、いわゆる経済の二重構造を利用して近代化を進めたといえよう。すなわち、生産力を高めるうえでもっとも大きな役割を果たした生産的系列においても、親企業は特に技術指導を通じて系列企業を強く拘束している。例えば、自動車系列においては、直接の競争相手たる他の親企業からの部品を同時に受注できる系列企業は少なく、独自の市場をもちにくい状態にある。従って系列中企業は、生産量をカバーするために例えば二輪車の部品を受注するなどのことを行い、そのための設備を新設し、多種少量生産に拍車をかける結果になっている。

 一般に、親企業間の製品の標準化、単純化が進められないために製品の互換性がなく、下請中企業の専門メーカー化が進まないといわれている。しかしたとえ互換性ができたとしても、現在のような系列関係があると、系列下の中企業が専門メーカーとして発展するには、多くの困難があるといえよう。親企業の生産にマッチした個々の技術、生産性が向上しても、専門メーカーとしての発展が容易でないことは、自動化された専門機械が導入されにくく、今後の本格的近代化を困難にし、社会的分業としての大企業と中企業の相互依存関係が確立できにくいことを意味している。

 系列化はこの他資本、金融、原材料、労働等いろいろな面で、中小企業の独自性をせばめ縦断的に結合し、横断的な組織化、協同化をはばんでいる。系列内中企業は親企業からの厳しい単価引下げ要求のため、そのしわを再下請、再々下請に転化し、事実減産下では再下請への発注をかなり切ったところもある。ここでは依然として量的クッションとしての役割も強く負わしている。また下請代金の支払いが電気機械、輸送用機械等で特に悪いという公正取引委員会の調査は、系列外あるいは再下請企業に多くしわが寄せられている事情を示しているといえよう。これらのことは企業格差を大きくする要因となっている。

 いきおい系列外の小零細企業は、資本蓄積が容易でなく低賃金と時間延長によらざるを得ず、二重構造の改善、産業構造の近代化を困難にしている。

 発展の兆しのみえてきた系列下の中企業を真に独立した専門メーカーにするためには、技術、資本、公正取引等資本蓄積を可能にするための強力な政策が従前にもまして必要であろう。

 また、合理化、近代化のおくれている小、零細企業は「ムダ」と「ムリ」を排除しなければ、今後一層高度化される製品精度の向上、コスト・ダウンにはたえられないであろう。先にみた機械保有台数の分布からみても、機械工業においては小、零細企業の比重が圧倒的に多い。ここでの近代化がはかられてはじめて機械工業の一層の発展が可能となるであろう。そのためには、個別経営内部の近代化に対する指導援助のみならず、中小企業をとりまく外的諸条件の整備が特に必要である。


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