昭和34年

年次経済報告

速やかな景気回復と今後の課題

経済企画庁


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各論

鉱工業生産・企業

産業構造高度化をめぐる諸問題

重化学工業化へのあゆみ

 上述したように、31年以降我が国産業の技術革新は設備投資の盛行を相伴って急速な進展を示した。この過程で我が国の産業構造もかなり大幅な変化を受けた。戦前、我が国産業の発展を支えてきた紡織工業、紙パルプ工業、食品工業など軽工業の比重がこの2、3年間でも相当に後退した。

 第2-22図 は、戦後の我が国製造工業の付加価値構成の変化を示すものであるがこの様相を明瞭に認めることができる。特に32年に入って機械工業のウェイトが25%をこえたことは記録するべきことである。先進諸国の例をみても機械工業の比重が20%から25%をこえるにはおおむね10年を要している。米国では1930年代の23%から1940年代の後半に25%をこえるに至るが、この間、10年以上を要した。それをわが国においては異常な投資ブームの展開過程でわずか3年で達成した。この結果、重化学工業の比重は30年の5割から32年には6割にまで高まったのである。しかし先進諸国の産業構造も静止しているわけではない。米国においては機械工業のウェイトが50年代に入って30%を突破しており、イギリスでも39%に達していることからみて我が国においても重化学工業化のより高次の段階に追いつくことが必要であろう。この点では次の事実に注目する。

第2-22図 重化学工業の比重推移(付加価値構成)

 第一に投資構造における機械工業の比重に比べて金属工業の比重が国際的にみてかなり高いことである。日本の19%に対して米国では15%である。金属工業とその市場をなす機械工業は技術的側面からみても、あるいは市場形成の側面からみても相互依存の基礎のうえにたって調和的に発展することが自然な姿である。金属工業の比重が国際的にみても高い水準に到達した現在、今後における産業構造高度化は、機械工業を軸として進める必要が認められる。特に重化学工業化の進展は投資構造における装置産業の比重を高めている。

 その結果投資一単位当たりの雇用吸収力は次第に小さくなっており、 第2-6表 に示すごとく雇用吸収力の大きい機械工業の調和的発展がないと重化学工業化が雇用構造の近代化と結合することを難しくする。

第2-6表 産業別投資単位当たり雇用吸収力

 産業構造高度化における第二の問題は重化学工業化が量的に進展したが貿易構造の高度化をもたらすに至っていないことである(「貿易」の項参照)。

 戦後の世界貿易においては繊維、雑貨など軽工業製品の比重が急速に後退しつつあり、他方において機械、金属、化学など重化学製品の進出傾向がますます大きくなってきた。我が国の重化学工業品の中では鉄鋼の比重が大きい。しかし機械工業品では、これまで船舶、繊維機械、ミシン、光学機械で進出してきたが自動車、電動機、工作機械、化学機械など世界の成長商品の輸出力がまだ小さい。このため 第2-7表 にみるごとく、世界における我が国機械輸出の占拠率は次第に拡大の傾向をみせているにせよ、わずか3%で西ドイツ、英国の6分の1に過ぎず、イタリアとほぼ同じ程度である。貿易構造の重化学工業化を進めるうえでも我が国機械工業の強化が一段と要請されるのである。

第2-7表 機械輸出における各国の占拠率

機械工業発展の方向

 それでは機械工業発展の可能性をどこに求むべきか次に検討しよう。

 近時における設備投資の累積と重化学工業化の進展は機械工業の市場拡大を刺激したが同時に自動車、耐久消費財市場の膨張が機械市場の飛躍的な拡大をを招いている点に注目しなければならない。この3年間に工作機械産業が2倍に増加したことなどは海外諸国ではまったくみられない現象で機械市場の拡大がいかに大きかったかを示すものである。この結果、一方では多角経営への動きもみられるが、我が国機械工業発展を制約してきた多機種少量生産体制から量産専門化体制へ移行する萌芽もみられるようになった。工作機械についてみると 第2-8表 にもみられるごとく旋盤の生産構成においては普通旋盤からならい旋盤、ターレット旋盤、自動旋盤など量産用機種が増大傾向にあり、専門機種化も進んで、ねじ転造盤の生産などは30年当時の約3倍に増加している。

第2-8表 工作機械の生産構成

 一方このような有利な条件を背景に機械工業の技術的蓄積もかなりの進展をみせ、機械工業のアキレス腱といわれた工作機械技術の分野においてすら著しい発展がみられるようになった。最も困難だとされていたハイポイド・ギアの歯切において独自の理論による歯切盤が開発され、輸入に依存していた光学式治具ボーラーを国産化し、数値制御方式による中ぐり盤、フライス盤の試作に成功し、トランスファーマシンの国産化を行ったことなどがその代表例である。

 しかしながら我が国機械工業が先進諸国のそれに比べなお低位にあることも争えない事実である。第一に我が国機械工業の資本蓄積率は先進諸国に比べ非常に低い。 第2-9表 は産業別の蓄積率を国際的に比較したものである。米国や西ドイツと比肩し得るものは電気機械部門のみで自動車や一般機械部門では蓄積率は先進国の7割程度である。このことは我が国機械工業の設備更新がおくれ、技術装備に大幅な懸隔があることを示している。

第2-9表 日独工業の物的資本蓄積率比較

 業種別にみると耐久消費財など需要増大の大きかった電気機械、光学精密機械工業の設備更新がかなり進んではいるが一般機械では27年から32年に至る5年間に設備台数の15%程度の購入を行ったに過ぎない。27年当時設備台数の95%が5年以上経過したものであったことを考慮するならば老朽設備の比重がなお極めて高いことを知り得るであろう。市場拡大のテンポが大きいとはいえ市場の絶対的大きさは資本蓄積を十分に進め得るだけの水準に到達していないのである。特に米国や西ドイツの生産構造と比較するとき電気機械の比重が大きく産業機械、輸送機械での蓄積がおくれている点に留意する必要があろう。

 第二に先進国に比べた我が国機械工業の低位は輸入依存度の高さにあらわれている。資本蓄積の不足が技術的蓄積の低位を招いているからである。機械輸入の輸出に対する比率をみると1957年において日本は46%であるのに対し米国は14%、英国は15%、西ドイツは12%となる。機種別にみると 第2-10表 にみるごとく機械の母機たる工作機械及び最近発展している電子計算機など事務機械の輸入依存度は生産額の40%以上にも達している。

第2-10表 機械工業の輸入依存度及び輸出率

 なお、 第2-11表 にみるように工作機械の機種別輸入状況をみると30年に比べると設備投資の増大した31年から33年にかけては各機種の輸入が著増している。内訳をみると研磨盤が台数、金額において圧倒的に多く、歯切盤は台数では少ないが金額では2倍の比重を占めている。いずれもこれら高級機種における我が国の技術的弱さを示すもので当該部門の市場拡大を制約する条件をなしている。

第2-11表 工作機械輸入状況

 以上のように最近の機械工業は耐久消費財に支えられた電気機械工業を中心に著しい発展の途上にあるが、生産構造における工作機械や産業機械など基礎機械部門の脆弱性はなお解消されていない。 第2-12表 は工作機械、鍛圧鋳造機械、熔接機、測定機、などの基礎機械部門及び軸受、バネ、ネジ鋳鍛造品、ダイガスト製品など共通部品部門の生産構成を示すものであるが、これら基礎部門の比量は市場の著しい拡大にかかわらずなお高まっていない。高度アセンブル工業が未発達のため市場の狭隘によって基礎部門の発展が制約されていた戦前の歪みが残っていることを示す。例えば工作機械についてみると機械生産に占める比重は西ドイツの9.6%(1956年)に対し我が国は3%(1957年)に過ぎない。従って先進国の発展様式にみられるごとく自動車工業など高度のアセンブル工業の発展を軸としてわが国機械工業の量産化専門化体制を整え、工作機械に代表されるこれら基礎部門の資本蓄積と技術水準の飛躍をはかることが必要であろう。

第2-12表 機械工業の生産構成

 第三に上述の方向に沿って機械工業が量産方式へ移行する場合においてもいくつかの問題が残されている。

 最近の自動車工業は国内市場の拡大と輸出の好調によって5年前に比べ4倍の生産水準に到達し、主要企業の月産台数はようやく1万台をこえるに至った。この結果トランスファー・マシンの導入に代表される量産化体制の条件が次第に整ってきた。自動車性能の点でも気筒容積1480CC、時速125KMの乗用車や空冷2サイクル機関を備えた高性能、軽自動車などの出現にみられるように発展の跡が著しい。

 自動車工業を取り巻く諸条件が大幅に改善されつつある点も見逃せまい。コストの5割を左右する原材料価格の低下が目立ち、鉄鋼業における広幅ストリップ・ミルの稼働により世界一高いといわれた高級仕上鋼板が冷延ストリップ製品に代わり、品質の均一化とともにこの3年間に価格は2割方下落した。現在薄板価格は米国よりは割高だが西欧諸国に比べれば割安となった。もちろんこれら各国では市場価格以下の供給システムと価格の安定が成立しているので国産車の競争力強化のためにこうしたシステムも考慮されねばならない。車体や部品の剛性、耐久度を左右する特殊鋼も高合金鋼では先進国に比べると立ち遅れているが、設備合理化の成果によって品質、価格の改善が著しい快削鋼が普及しつつあることも機械加工費の切下げを可能にしている。

 このようにコスト高要因の一半が解消しつつあることは国産車の競争力を大幅に向上させているが、一方競争力の強化を制約する諸条件も根強く残存している。二重構造を反映した部品系列下の中小企業の存在がそれだ。「中小企業」の項においてみられるように最近の下請部品工業は確かに著しく合理化が進んできている。しかし資本蓄積力は依然として弱く海外諸国でみられるごとく下請企業が独立したパーツ・メーカーへ発展し、量産化、規格化を通じて技術水準の向上をはかることが要請される。

技術開発の役割

 以上のごとく技術革新の進展により我が国産業構造の重化学工業化は著しく進んだが、機械工業においてなお高度化の必要がみられる。特に基礎機械の輸入依存度が高いことなどこの部門の技術水準がなお低位にあることは機械工業における技術の開発を一層要請するものである。工作機械のみならず化学機械など産業機械における技術開発を進めることは機械の国内市場拡大や後進国へのプラント輸出など海外市場の獲得に欠くことのできない条件である。技術革新の代表とみなされる石油化学第一次新設計画においては総建設費820億円のうち技術提携に伴う支払金額は200億円に達しこのうち半分は化学機械の輸入にあてられたのである。化学機械、電子工業など機械技術と化学あるいは電気、金属技術の密着を基礎とした境界領域の新技術発展が著しい現在、技術の総合的な開発がますます必要となっている。

 我が国における技術開発の現状を研究投資の比較によって検討してみると研究投資の絶対額は日本を1として米国は68、ソビエトは27、英国は7、西ドイツは3と比較にならないし、国民所得に対する比率でみても我が国の0.7%に比べ、アメリカやソ連は2.5%と程度とはなはだしい懸隔がみられるのである。これを反映して我が国の技術導入に対する対価支払いは 第2-23図 のごとく30年と比較しても2倍に増加し、この間技術輸出は遅々として進んでいない。

第2-23図 技術導入と技術輸出の推移

 もちろん最近における技術開発の努力が次第に高まり技術研究費の増加テンポが大きくなっている点は注目してよい。 第2-13表 は最近3ヶ年間の技術研究費の増加率を日本とアメリカについて比較したものであるが、全産業平均の研究費の伸び率ではむしろアメリカより高い。しかし機械工業においては、伸び率でもなお低く、機械工業の弱さがこの面にも反映されている。産業構造高度化の鍵が機械工業にあるとするならば、機械工業の技術発展が一層望まれるのである。

第2-13表 日本とアメリカの産業別研究費3カ年増加率

 我が国の産業発展の現段階からすれば、海外から技術導入をすることによって新しい技術の消化に努めることはなお必要であろうが、技術の自立的基盤を確立していくために、我が国独自の技術を創造、開拓していくこと、そして技術輸出を通じて、国際技術の日本に対する一方交流から相互交流へと発展させていく方向も考慮されねばならないであろう。


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