昭和32年

年次経済報告

速すぎた拡大とその反省

経済企画庁


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各論

国民生活

住宅問題の現段階と基本的方向

31年の投資景気と住宅建設

 戦後の都市生活は戦前(昭和9~11年)の6割以下という低水準から出発して29年には全体として一応戦前水準にまで回復した。しかし「住」の面ではいまなお戦前水準にも到達せず、種々問題を提起している。ところで31年度の顕著な経済成長が、この最も遅れた「住」の生活にどの程度の改善をもたらしたろうか。

 31年の住宅投資は近年にない増加ぶりを示した、31年の着工住宅建築額は居住専用、居住産業併用の合計で約2,400億円と、前年に対し約500億円26%の増加で、前年の122億円7%に比べ著しい増加であったといえる。延面積で12%、戸数では約16%前年を上回った。26年から30年間の平均の増加が年率4%であるから、31年の増加は近年にない著しいものであったといえる。その大部分が新築で、そのうち持家が72%を占めて圧倒的に多く、貸家住宅は16%に過ぎない。しかし増加率としては、貸家が高く増勢が強まってきていることを示している。また建売等の住宅も大幅な増加をみせていることも特徴的である。建築主別には、個人建設が圧倒的に大きいが、増加率では公的なものもかなり高い。このような31年の住宅建設増加は次のようなことに支えられたと思われる。

 1)政府機関の財政支出が約1割増加したことと、30年の支出が後半から出て31年にかなりずれ込んだこと。2)企業が利潤増加の一部を従業員住宅や自己住宅および営業所の建設に充てたこと。3)増加した個人貯蓄の一部が住宅投資に向かったこと等である。

第171表 着工住宅新設工事別利用関係別種類別延面積推移表

戦後の住宅事情の推移

 このような住宅建設の増加も、全国で230万戸(32年4月1日建設省推計)の住宅不足の現状では、住宅難緩和には十分とはいえない。しかも世帯増による需要増と住宅の自然朽廃、災害滅失による減少とを合わせると年22~23万戸に達するので26~30年間、年平均29万戸増では純増としては6万戸程度に過ぎなくなる。この程度の増加数では現実に国民一人当たりの住宅使用量が急激に増加するはずがない。

 25年から30年までの5カ年間の一人当たりの畳数の増加を国勢調査の結果からみると、表のごとく全国ではわずかの増加に過ぎないが、市部、郡部別には若干増加しており、特に市部は約15%ほど増加している。そのうち、持家と給与住宅の一人当たり畳数が増加し、反対に貸家と貸間では若干減少している。さらにこれを所有関係と従業上の地位別居住でみると、もっとも程度の低い非住宅と間借の世帯が減少し、増加世帯の大部分は持家で増加しており、借家と給与住宅の増加数は少ない。従って持家の比重は25年の64%から30年には68%に拡大している。特に個人業主世帯は圧倒的に持家の比重が高く、83%から87%に上昇している。これに対して民間の雇用者は持家の比重は個人業主のほぼ半分であるがかなりの増加をみ、借家および給与住宅の比重は若干減少している。官公雇用者の場合はやや傾向を異にし、持家の比重がやや縮小し、借家、給与住宅が拡大している。このように住宅難の緩和速度は極めて微々であるが、幾分ずつ好転の方向に向かいつつあるといえるようだ。

第172表 建築主別住宅建築の増減

第173表 世帯主の従業上の地位別住居状況

第174表 各国の所有形態別住宅投資

住宅難解消を困難にしている基本的問題

 住宅事情は以上みたように漸次好転の方向にあるが、いまだ速度は極めて遅くひとりとり残された形となっている。その基本的原因は、戦災による都市住宅の広範の焼失と、戦後の急激な都市集中である。さらに我が国の住宅建設投資は国民総生産に占める比重が小さいことも挙げねばならない。例えば30年には2.4%に過ぎず、戦前の1.8%よりは幾分増加しているもののイギリスの4%、アメリカの3.6%等に比べかなり低い。この程度の住宅投資では戦後拡大した住宅難を早急に解決するには困難であることはいうまでもない。住宅投資が欧米並みに拡大しないのは、住宅に対する低利資金の不足と採算に合う投資でないということのようである。イギリスの場合はその66%までが政府及び公共団体の投資によるものであり、個人投資は34%に過ぎない。ヨーロッパの諸国は大体イギリスの形態に近いとみられる。アメリカは公共投資はわずか3%で大部分が個人投資で占められているが、その資金の約半額が政府保証の住宅抵当債券(金利4分~4.5分)によって支えられている。これに対し我が国は政府及び公共団体の公共投資は11%に過ぎず、個人投資が71%、法人及び団体が18%でこの二つの投資が大部分を占めている。もっともこれらのうちにも公庫、公団住宅等政府関係資金で支えられている部分もあるが、これも全体の約2割に過ぎない。次に住宅が一般の投資として採算が合わないということである。その原因は地価と建築費の値上がり及び金利高である。勧銀調べによると、31年9月の市街地価格は昭和11年を1として384、木造建築価格は402に上昇している。これに対しC.P.Iは9~11年の299倍であるから、地価や建築費は一般物価に対し約3倍以上昂騰していることになる。また高金利の問題も確かに大きな問題であり、それだけ低利回りの投資を困難にしている有力な一因ではあるが、基本的には地価や建築費が余り高く、現在の一般勤労者層の家計負担で耐え得ない点にあるようだ。

現在の住宅政策と今後の方向

 現在の住宅政策は大きく分けて三つに区分できる。1)公営住宅2)公庫住宅3)公団住宅である。1)は政府補助金、資金運用部資金、地方公共団体の出資金により建設されているもので家賃は木造1,000~1,700円、耐火2,000~2,700円であるから低所得層の家計負担にも耐え得るもので、31年度にも47千戸建設されたが競争率は10倍以上という激しさである。2)は中所得層以上を対象として、若干の手持資金は保有しているが建築資金には足りない者に低利長期の資金を供給するもので、持家の建築を促進し、併せて産業会社に対する社宅資金及び住宅協会の貸家資金を供給する政策である。31年度は政府融資額196億円で建築戸数は約75千戸であった。これもやはり5倍程度の競争率にある。3)は中所得層以上を対象とする耐久構造中心の貸家及び社宅用分譲住宅、特に土地の効率的利用や地域的問題の緩和をはかろうとするものである。31年度には政府関係資金と民間借入金で213億円で建設戸数23千戸であり、公営、公庫住宅に比してかなり少ない。これらの他に財政支出関係の住宅建設も若干あるが、上記の三つとこれらを総計しても31年度で178千戸で、全体の建設計画43万戸に対して4割であるから圧倒的に民間自力建設の比重が大きいということになろう。

 なお今後の住宅政策は「とり残された生活面」の改善のために社会政策的な見地から強化拡充が要請されているが、さらに雇用政策及び産業政策との関連において勤労者向け貸家住宅建設の必要性は一層強まることになろう。また、一方では住宅の不燃化対策等も重要な課題であろう。


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