昭和32年

年次経済報告

速すぎた拡大とその反省

経済企画庁


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各論

林業・水産業

林業

昭和31年度の林産物の動向

木材の需給状況

用材

 31年度における用材の供給と需要は 第92表 によって明らかなように、ともに相当の伸びを示した。

第92表 用材の需給状況

 需要面の大宗を占める建築材、パルプ材、包装用材などの消費量が15~16%も増えたため結局用材全体の需要は前年比10%、1450万石の増加となった。これに対して供給面では生産も輸入も増大したが、輸出もすこぶる活発であったため、需要量の伸びにわずかに及ばず6%の在庫減をきたした。

薪炭

 家庭燃料として重要な地位を占める木炭の需要量は、代替燃料の使用増大の関係もあって、31年には 第93表 にみるように前年とほとんど変わらなかった。しかし産業用の消費量が増加したため、生産量は若干増大している。

第93表 薪炭の需給状況

 薪は農村の需要が減退したことが主因となって消費量は若干減少し、生産もまたこれに応じて13%低下した。なお薪の生産量が減った理由としては、原木とパルプ、杭木、包装用材等との競合関係が強くなったことも一因として挙げなければならない。

木材の価格

 前年度に8%下落した用材の価格は、31年度に11%高騰して戦後最高となった。年度間では22%の値上がりである。これは前述したように、建築をはじめ各部門からの需要が強く、ことに紙、パルプ産業の設備能力が急速に拡充され、木材需要は長期的に拡大傾向を示したため山持の強気をさそったことと、前年度の価格の下落で蒙った打撃のため価格の動向に生産者が警戒的であったこととが絡み合って、生産は概して需要に遅れがちであったうえに、鉄道輸送の不円滑が品薄に拍車を加えてもたらされたものであった。

 薪炭の価格は第3・四半期までは比較的平静に推移したが、本格的需要期たる12月に入るや、上半期の生産減、鉄道輸送の不円滑、競合燃料の割高等のため急激に上昇し、前年同月比で木炭は21%、薪は10%高となり年度末までその水準を維持した。

日本林業の問題点

需要構造の変化

 戦前(昭和6~10年平均)我が国内地の用材需要量は、輸移出を含めて約7100万石であったが、その約75%を国内生産で賄い、15%を樺太を主とする外地から移入し、残余の10%を海外からの輸入に仰いでいた。

 戦後は、産業施設の破壊から需要は一時停滞したが、間もなく復興資材を中心として、パルプ、包装材料等の需要が増大した。ことに朝鮮動乱以降は、引締政策の影響を受けた29年度を例外として、連年加速度的に需要は増大し31年度にはついに1億6000万石になんなんとするに至った。このような戦前の2倍をこえる需要拡大の主要原因は建築材を中心とする一般用材の消費増にあるが、圧倒的な倍率を示したのはパルプ材である。

 戦前、我が国の紙、パルプ工業は樺太に施設の大半を所有し、内地の工場も原木の半ばを樺太材に仰いでいた。戦争によって、これらの施設と原木補給源とを一挙に失い潰滅的な打撃を蒙った紙、パルプ工業は、紙消費量の増大、化学繊維の生産増加等の要請に応えて、相次いで設備の新増設を行った。このため原木所要量は急速に増加し、31年度においては、6~10年平均の9.6倍に達した。

 この間、薪炭は戦後における代替燃料の生産増加と生活合理化運動とにより顕著な需要減少をきたした。すなわち昭和6~10年と31年度の生産量を比較すると、木炭は210万トンが195万トンへと8%減じ、薪は約5000万層積石から3400万層積石へと32%の大幅な減少をきたしている。もっとも薪は、この他に製材屑が相当利用されているから、消費量は生産割合ほど大幅には低下していない。

 このように、木材は燃料としての用途を逐次減少しつつあるものの、用材部門においてその数量をはるかに上回る増加を続けている。この結果 第69図 に示したように木材は戦前に比べて極めて価格騰貴率の高い物資の一つとなった。このような木材価格の高騰は需要部門における利用節減、代替物資への転換を促進するであろう。しかしそれにもかかわらず、従来最も多く利用されていた構造材の比重を年々原材料に置き換えながら、全体としての需要量は今後ますます増大をきたすであろうことが予測せられる。

第69図 木材と主要物資との価格の比較

供給弾力性の低下

国内資源の減少

 戦前我が国の森林資源は、面積4500万町歩、蓄積90億石であったから、生産には十分弾力性があった。しかるに戦争によって外地を失った結果、昭和30年度には面積2350万町歩(原野を除く)、蓄積量66億石となり、年々の成長量は1億8000万石となった。これに対して31年度の伐採量は、立木で用材1億9000万石、薪炭材7700万石であったから、成長量に対して150%の伐採率に当たる。すなわち、我が国の森林資源は自らの成長量を以てしては膨張した木材需要に応ずることができず、毎年少なからぬ蓄積資本を食い潰すことによってこれを賄っている状態である。その結果、縮小再生産をひき起こし、前途の需給に一層暗い見通しを投げ与えている。

 しかも問題はこれのみにとどまらない。増大した需要に応ずるため、奥地林の開発に必要な林道投資が不十分であったため、伐採は勢い搬出利便の里山に集中する結果となった。前述した森林資源も、そのうち伐採可能の既開発林は、1500万町歩、26億石で、年成長量は1億400万石に過ぎないから、既開発林のみについていえば、伐採率261%という極端な過伐が行われている。

貿易事情の変化

 このような国内資源の減少に対して輸入の動向と見通しはどうであろうか。

 戦前、昭和6~10年平均の木材輸入量は760万石で、そのうち65%をアメリカ、カナダ両国で占めていた。31年には輸入量は930万石と約22%増加しているが、特に内容的には北米、ソ連材が減退し南洋材の比重は戦前の12%から89%へと圧倒的に増大した。

 相手国側の事情をみると、戦前我が国に対する最大の輸出国であったアメリカは、戦後自国の需要増大から世界最大の輸入国に転じた。その結果、国内価格の高い長大材ならばともかく、一般材の輸入量を増加させることは採算的に困難になってきている。

 ソ連材の輸入は、昭和7年まで毎年100万石を上回っていたが以後急減し、13年に10万石を割り、爾来29年度まで杜絶していた。輸入再開後は連年急テンポで増加し、31年度には25万石余に達した。しかし決済制度と港湾及び輸送関係に隘路があるため、現状では年間数十万石以上の輸入を期待することはできない。

 南洋材は戦後最も輸入量を増大し、戦前の北米材及びソ連材にとって代わった。南洋材の大部分はフィリピンのラワンであるが、生産地が漸次奥地へ移行するにつれてコストが高騰するため前途は楽観を許さない。

 このようにみると、いずれの国からも今後輸入量を増大するには相当の努力を必要としよう。しかし国内資源の枯渇と国土の荒廃を回避しながら、国民経済の要望する木材需要を充足してゆくためには相当量の輸入を必須とする。この意味においては原材料の需要が増加しつつある事情や、コストに占める海上輸送費の大きさなどを勘案すると、ソ連沿海州材の輸入拡大などが一つの方途として考えられる。

 木材輸出についていえば、戦前は170万石程度で、そのうち100万石余が丸太、挽割材、枕木など加工度の低いもので、その資材も大部分国産材であった。これに対して31年度の輸出量は658万石に伸びているが、輸入材を使用したラワン合板だけで230万石を占めている。すなわち戦後の木材輸出は加工貿易の性格を大きくしつつあることが特徴である。

生産性の向上とその隘路

 前述したように、我が国の森林生産力と伐採量は著しく均衡を破壊されており、これを是正する当面の措置として林道の延長、新設による奥地林の開発を行う必要がある。しかしかかる措置だけで資源の危機を解決できないのは明らかである。事態を根本的に改革するためには森林生産力の大幅な上昇をはからねばならない。我が国の森林生産力は 第94表 にみる通り成長率2.7%、陌当たり成長量7.6石で、西欧先進国のそれに比較すると極めて低い。

第94表 森林成長量の国際比較表

 気象条件が温暖多湿で樹木の生育環境に恵まれていながら、我が国の森林がなおこのように低い生産力しか持ってない原因は何であろうか。一言でいえば、我が国の森林には成長が年率1.6%程度に停滞している天然性過熟林と、成長率は5.7%と極めて高いが蓄積が過少なため成長量のはなはだ少ない薪炭林が多いこと、換言すれば人工用材林が少ない事実に帰着しよう。

 天然林の総平均成長率は約2%であるが、人工林のそれは6.4%であるから、今後は天然更新の有利な樹種は別として、極力林種改良による人工林化をはかっていけば、森林生産性はまだ十分高まる余地がある。結局、造林面積の拡大へ最高の努力を傾注することが生産性上昇の前提である。また現実に造林臨時措置法あるいは改正森林法などによる法的規制を通じて、さらに財政支出及び投融資等の援助によって、連年造林面積は拡大を続けている。31年度の人工造林面積は、国有林と民有林とを合わせて39万3000町歩で、年度末の総造林面積は590万町歩となり、全林野面積の25%に達した。またこの年をもって既往の伐跡地、造林未済地等はおおむね整理された。

 しかし人工造林をさらに積極化するには種々の問題が存している。

 まず、奥地の天然生林を伐採して人工林へ転換するような場合、造林費の高騰のため再投資意欲を振興することはますます困難となるであろう。里山の薪炭林についていえば、その所有は極めて零細に分化し、5町歩未満の所有者が全所有者の94%、面積では41%を占めている。これらの零細所有者は大部分農家であり、その零細林地は販売若しくは自家用の薪炭の給源及び飼肥料等の採取地として農家経済ないし農業経営と不可分に結び付いており、それぞれの用途に応じて最高度に生産性を発揮すべきものである。しかして合理的土地利用区分の結果、林地とされたところにおいても資本の不足と固定化は、奥地林に比し一層転換を困難とするであろう。

 このように困難な条件を克服して私有林の人工造林を拡大するためには、先に挙げた各種の援護措置はもちろんであるが、土地所有者と資本の所有者を媒介結合して造林を推進する方途も真剣に考慮されなければならない。またこれらと関連して森林組合の整備、強化策も講ずる必要があろう。

 いずれにしても林業では生産期間が長く、資本が長期間固定し、利潤の薄い条件が産業としての発展を阻害する根本原因であるから、品種改良、早生樹種の導入、林地肥培等によって伐期の短縮をはかり生産性の向上に務めなければならない。それがまた木材需要のなかで原材料の割合が高まり、質よりもむしろ量の増大を期待している国民経済の要請に応じ、林業それ自体の採算性の向上をはかる途でもある。


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