昭和32年

年次経済報告

速すぎた拡大とその反省

経済企画庁


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各論

建設

公共事業に対する課題

 昭和31年度の公共事業は好況に恵まれめざましい成長を続けた経済活動の影響があまりみ受けられず事業費総額についても2,069億円と30年度に対してほぼ持合いであった。その構成を 第73表の(1) によってみれば、国の施策の重点が道路港湾及び工業用水道等の産業活動の基盤の形成におかれている傾向を反映してこれらの部門が伸びており、特に道路事業においては事業費増加が目立った。他面治山治水等の国土保全部門はほぼ持合いでありまた災害発生が比較的に少なかった関係上災害復旧事業は前年度に引き続いて減少を示した。

第73表の(1) 公共事業総事業費

 次に国と地方公共団体の事業費負担の関係をみれば地方財政再建の一環として31年度においても補助率、負担率が改められ、地方財政負担額は旧率の場合に比して約77億円軽減されたので 第73表の(2) 及び 第73表の(3) にみるごとく前年度事業費に比すれば国の負担額は57億円増加したのに対し地方の負担額は44億円の減少を示した。

第73表の(2) 公共事業費の国、地方負担額

第73表の(3) 地方公共団体の負担額

 以下31年度の主な動きを概観してみよう。

 2年間連続して著しい発展をみた日本経済はその過程が急速であったため産業構造上多くの弱点を露呈したが、特に基礎構造の拡大が遅れ、経済発展を阻害する主要な隘路となったことは重要な問題点である。そして公共事業部門中の道路、港湾事業の著しい立ち遅れ及び工業用水の逼迫がその隘路の一環として注目されるに至ったのである。

 道路についてみれば昭和31年3月末における国道及び府県道延長約14.4万キロメートル中改良された部分は23.5%、舗装された部分は6.9%に過ぎず、自動車交通不能の部分が9.6%を占めている状況にある。しかも戦後における自動車輸送量は一貫して急激な上昇傾向をたどっており、31年においては14年の2倍以上に達している。質的な面においても長距離輸送の増大と車体の大型化さらには速度上昇の要請によって事態は一層困難なものとなっている。すなわち従来行われてきた道路改良の進度をもっては到底産業活動の拡大に対して歩調を合わせ得ず、自動車数の増加と大型化による輸送能力の上昇も次第に困難となりつつあったが、最近の著しい経済成長によりこの弱点が改めて問題化してきたものであって31年6月高速自動車道路調査のため来日した米国調査団もこの点を強く指摘したのであった。

 これに対する道路事業の動きをみれば、公共事業費は30年度以来比較的その伸びは大きくなっているが、前記の事態にかんがみ32年度においては前年度の約60%増と飛躍的に増加され、昭和29年度より実施中である道路整備5カ年計画についてもこれを発展的に解消して、新たに一般道路及び有料道路を合わせ一段と拡大強化した長期計画の樹立が考慮されている。

 有料道路事業については31年4月より新たに日本道路公団が発足し民間資金の導入を行って事業量も飛躍的に増大することとなった。さらに数年来懸案となってきた高速自動車道路については前述のごとく米国より道路調査団を招き名古屋-神戸間路線につき引き続き検討がなされたが、32年4月国土開発縦貫自動車道建設法及び高速自動車国道法の二法律が制定され同路線については日本道路公団により32年着工の運びとなった。

 次に港湾施設についてみればようやく施設の不足と老朽化が問題となってきた。31年度においては、貿易の伸長と内航輸送量の増大のため港湾貨物取扱量は戦前最高の2.5億トンを上回る2.8億トンに達しており、加うるにタンカー、鉱石船等をはじめとする船舶大型化の傾向は既設港湾施設との間に種々の不均衡を生み、その結果は船舶の碇泊時間の増大となって現れており、施設の近代化と増強の要請はますます高まっている。また戦後における海上輸送経路の変化と駐留軍用施設の接収も港湾施設不足に拍車をかけている。一方戦後における港湾事業への投資は戦災復旧等を中心とする既存資産についての補填的投資の域を脱し得ず、従って輸送量増大に伴う港湾施設増強の要請に応えるには程遠い状況であった。

 港湾施設近代化の中核は水深の増加、けい留施設の増強並びに荷役機械及び上屋、倉庫の整備による能率的な接岸荷役体制の確立にある。港湾事業は最近においては若干の増加傾向を示してきたが、その必要性は前述のごとく急速に増加しているので32年度事業費は前年より約60%増と格段の強化がはかられ、さらに受益者負担の法制化及び融資制度の拡充によってその促進を企図しており、主要港湾の整備と近代化に重点がおかれることになった。

 第三に31年度より工業用水道事業が新たに公共事業としてとり上げられた。鉱工業生産の最も基礎的な要件の一つである工業用水の確保は多くの主要鉱工業地帯において次第に困難となりその発展を阻む要因となっている。地下水は工業用水として水質も優れ、かつトン当たり2~3円という低コストで得られるので水源として極めて重要なものであるため多くの工業地帯で過度汲上げが行われてきた結果、水位低下、塩水混入による水質悪化とコスト増を招いており、さらに川崎、四日市、尼崎、その他の各地で著しい地盤沈下を惹起している。しかも産業の発展はますます水の需要を増大しているのであるが、地下水に代わる安価な表面水をえられる地域は少なく、また従来一部に行われた地方公共団体の工業用水道事業もその規模が不十分か、ないしは高コストのため利用状況が悪く抜本的対策となっていなかったのである。

 これに対して31年6月工業用水法が制定され地下水使用の規制が行われたが、これと平行して前記3地域における工業用水道建設事業が公共事業として着工された。予定料金はトン当たり約3.5~4円となり採算上使用可能のものと考えられている。32年度からは地盤沈下地域以外の特に工業用水が逼迫している主要工業地域の一部に対しても事業が行われることとなり産業基盤整備の面におけるその意義はますます大きくなった。

 右のような諸点において公共事業が、産業基盤の形成という角度より認識され、社会的資本としての事業に対する要請が高まってきたことは、31年度における特徴的な点ともみられるものであって、その傾向は今後一層発展していくものと考えられる。


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