昭和30年

年次経済報告

 

経済企画庁


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林業および水産業

林業

木材及び薪炭の需給と価格動向

 昭和29年度の木材生産量は、戦後最高水準を示した前年度に対し9779万石と約5%下回った。しかし全供給量としては輸入材の対前年度比11%に及ぶ増加と年初在庫量の対前年度比約7%の増加とによって、全体として前年度の13341万石から13109万石へと約2%の減少にとどまった。

 生産のこのような動きに対し、木材需要は輸出の対前年度比95%に及ぶ増加にもかかわらず、国内需要の対前年度比4%の減少によって、全体で、前年度の10660万石から10433万石へと約2%減少した。

 国内需要は、パルプ材及び枕木が前年よりそれぞれ約5%、2%増加を示した以外は、大部分のものが減少した。すなわち杭木関係は出炭量の減少と原単位の引下げなどにより約17%、建築関係は建築着工坪数の減少と不燃化建築への切り替えなどにより約10%の減少となり、そのほか電柱、特需等それぞれ8%、46%減を示した。国内需要のかかる減少は木材利用の合理化による使用減もさることながら、主な原因は金融引締めを中心とした緊縮政策の影響が大きかったと思われる。

 以上のごとき需給事情を反映して木材市況は、前年より一般に停滞傾向を示した。木材価格は、一般卸売物価に比較すると依然高値を維持し、特に28年度は風水害などによる需要増加を反映し、相当の高騰を示した。しかし29年度は、年初価格を頂点として以後、台風禍などによって一時若干の上昇をみたこともあったが、全体としては漸落傾向を示し、年度間において約14%の低落をみ、一般物価の低落率を上回った。

第142表 木材の需要

 これら木材価格の動きと、金融引締めにより木材業者は相当の打撃を受けた。いま木材関係の不渡手形届出状況をみると、29年中の合計は、枚数4,142枚で前年より1532枚増加し、また金額では336百万円と前年より63百万円の増加となり、緊縮政策の影響が相当現れるに至っている。

 次に薪炭の需給及び価格動向についてみるに、29年度の木炭生産量は205万トンと前年より約5%減少したが、これは前年が冷害によって異常に生産を高めた年であったからで、27年度に比すれば生産は若干の減少にとどまり、年初在庫量を加えた総供給量では、27年度より若干の増加となる。また薪生産量は前年と同程度にとどまった。このような生産事情に加えて山地の廃材利用の増加などもあり、薪炭原木伐採量は前年度の4%減8292万石となった。一方需要はガス・練豆炭の普及等の関係もあったが、主に29年の暖冬異変の影響によって一般的に停滞した。なかでも都市における減少は著しく、総理府統計局「家計調査」によれば木炭は前年比約11%減となり薪は前年より約6%の減となる。

 薪炭価格は以上のごとき需給事情なども反映して、8月以降の需要期において、都市、農村とも各月それぞれ前年同期の価格を下回り、当庁調べ「週間卸売物価」によれば29年度間に木炭は約7%、薪は約6%低落した。

緊縮政策と林業生産

 林業利潤が一般的に低く資本の回転期間が長いことは、現在価格では林業投資を積極化する誘因とはならないようであるが、森林資源を長期にわたって保持しつつ木材生産を合理的に行うためには、植伐均衡の状態に回復する必要がある。このため山林所有者に対しある程度の制約(伐採制限、造林等)を加え、その制約が実行できるように、補助金あるいは必要資金の融資などが行われてきた。ところで本年度は緊縮政策のため林野庁予算は前年度の142億円から129億円へと削減をみた。なかでも事業関係予算において著しく、林道関係では補助率の引下げ、事業分量の減少となり、木材の生産は依然里山伐採に集中され、生産の拡充あるいは森林資源維持培養と奥地林の利用開発に影響を与えた。また農林漁業金融公庫の林業関係貸付額も、前年度の44億円から36億円へと約18%の減少をみた。

 次に全国銀行の木材及び木材製品製造業に対する貸出についてみるに、30年3月末においてその貸出残高は53,941百万円と年度間約4%の増加を示したが、前年の増加率29%に比すると相当の低下で、なかでも設備資金貸出残高は前年と同一水準にとどまり、運転資金のみが前年度より約4%増加した。一方山林所有者に対する貸出は主に系統農協によって賄われ、30年3月末における農林中金の林業関係貸出残高は1,794百万円と、災害融資303百万円があるにもかかわらず、年度間686百万円の減少をみた。これは前年の1,341百万円に及ぶ増加に比し著しい変化で、年度間減少率は設備資金において42%、運転資金で39%となる。災害融資分を除いた一般融資の減少額は989百万円になる。

 林業生産者は、林業利潤の低位性と関連して、一般金融によって資金を調達することが比較的に困難なだけに事業費の削減、補助率の引下げあるいは財政融資の削減などは、林業生産者に相当な影響を与え、木材生産あるいは資源の維持培養にも反映することになろう。

今後の問題点

 木材資源の維持培養は、種々の面から考えられるが、現在のように奥地林開発の遅延によって、木材生産が、里山の伐採に集中され、森林蓄積の半分にも満たない既開発林に需要の大部分を依存し、そのため既開発林の過伐度は、供給力に対して約3倍に達している。この現状は国土保安の上からもまた木材需給均衡上からも大きな問題である。このため森林資源の開発と保全をはかるためには国家助成をはかるとともに、木材代替資源の使用普及あるいは木材の生産加工の合理化と、高度利用等木材資源の利用合理化を促進しなければならない。

 また昨年5月の5号及び9月の15号台風によって、北海道林業は相当の被害を被った。すなわちその面積は40万町歩に渉り道内林野面積の約7%に達し、材積で64百万石、道内森林蓄積の約3%に当たり、大体年間伐採量の約3倍に匹敵するもであった。

 この風倒木の処理は現在既に進められているが、生産及び販売の方法如何は、国内の木材需給ならびに価格の面に大きな影響を与えるので、これをいかに利用して国民経済に寄与させるかということと同時にその後の森林施業上の措置いかんが大きな問題である。また北洋材の輸入動向は国内木材の需給、価格面から今後注目されることがらである。


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