昭和30年

年次経済報告

 

経済企画庁


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物価

29年度における価格構造の検討

 以上のように、昭和29年度中に国内物価水準は低落し、国際的な物価割高現象はほぼ解消したわけだが、商品別にみると、その下落率はかなりの相異がある。下落率に相異があるということは、言い換えれば、物価の相互関係、価格構造に変化が起こったということである。

 そこで、最後に、29年度の価格構造がどうなっているかという点について、少し長期的な検討を行ってみよう。この検討は、今後の日本経済の構造を問題にするとき、生産構造とともに見逃すことのできない重要な点であるからだ。

 ところで、29年度の価格構造をここでは二つの面から調べてみることとする。すなわち一つは、労働生産性、賃金との関係からであり、他の一つは、輸出構造との関係からである。

生産性、賃金との関係

 長い期間でみると、ある商品の労働者一人当たりの生産量が他の商品のそれより多くなれば、もし原料条件や分配率に大きな差がないとするならばそれはその商品の価格を安くするか、またはその産業の賃金を高くするか、いずれかの形で吸収されるはずである。言い換えると物価の高低は、賃金の正比例的な高低かあるいは生産性の逆比例的な高低と見合うことになるわけである。

 そこで29年度の物価を戦前の昭和9-11年頃と比較して、その高低をみると、 第56図 のように、物価全体では約350倍になっているが、商品類別には製材製品の430倍から、機械の150倍まで、かなりまちまちな倍率を示していることがわかる。ただこの機械物価指数はかなり品目数も少ないので必ずしも正確ではないが、しかし、概して、いえば物価倍率が繊維、窯業など軽工業において高く、金属、化学品、機械など重化学工業において低いという価格構造になっているようだ。

第56図 昭和29年における物価と賃金、生産性との関係

 次に、生産性をみると、これも製材業や食料品工業のように、戦前の水準以下に落ちているものもあるし、化学工業のように、戦前より5割近く上昇しているものもあって、かなり凹凸はあるけれども、概して軽工業に比べ、重化学工業の方が相対的に生産性は上昇率が大きくなっているようだ。

 また、賃金の9-11年からの上昇率をみると、一般にかなり生産性の動きと呼応した動きをしていることがわかる。そして軽工業の方は、どちらかというと生産性上昇率と賃金の上昇率がかなり見合っており、また重化学工業では、賃金の上昇率が生産性の上昇率にあまり見合っていない。これは重化学工業においては戦前から戦後にかけて原料条件がかなり悪くなっているために所得率が低下していることも一つの原因となっているが、また重化学工業では軽工業に比べ相対的に生産性の上昇がより大きく価格引下げの作用を果たしたことも一つの原因になっていると思われる。こうみてくると生産性・賃金の動きは、どちらかというと、賃金コストを重化学工業に低く、軽工業に高く形成させることになっており、価格構造もこれとほぼ見合っていることがわかる。

輸出構造との関係

 それでは、このように賃金コスト構造とかなり強い関連性をもっている最近の価格構造は、輸出増進という点からみるとどういう意味をもっているのだろうか。戦前の我が国の輸出品構成は 第107表 のように、繊維類が全体の約6割を占めていたが、最近では繊維類の比重はなお相当大きいけれども方向としては比重がなかり小さくなって、逆に金属や機械類の比重が相当大きくなる傾向にある。

第107表 輸出品構成の戦前、戦後の変化

 これを物価の点からみると、戦前は 第57図 に示すように繊維類特に綿製品の価格が米国や英国に比べ非常に安く、また金属類などの価格は相対的にかなり高い水準にあった。この物価差が戦前、繊維類の輸出を極めて容易にした一つの原因とみることができる。しかるに、最近では繊維類の価格はなお米国や英国に比べて低い水準にあるけれども、その差はかなり縮まってきている。そして逆に金属などでは戦前より米国や英国の価格に近づき、かなり輸出に有利になってきており、最近の我が国輸出額のうちに占める繊維類の比重の低下、金属、機械類の進出に一役かっているとみるべきであろう。

第57図 戦前、戦後における比較生産費的にみた我が国の価格構造

 しかし、今後我が国が世界市場の趨勢などからみて輸出の重点をさらに、金属、機械などの重化学工業品に移していくためには、一層重化学工業の生産性を上昇せしめることによって、重化学工業品の価格が国際的に割安になるようにすることが望ましいわけである。

 以上のようにみてくると、昭和29年度中の物価は、緊縮政策によってかなり水準も下がって国際水準に近づき、国際的競争力もかなり強化されたけれども、その構造において、いわば、戦前の軽工業品の輸出を重点にした構造から、今後の重化学工業品の輸出を重点にした構造へ脱皮するための過渡的な段階にあるといい得るであろう。


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