昭和30年

年次経済報告

 

経済企画庁


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建設

新規建設活動停滞の影響

 昭和29年度における新規建設活動が下期に至って減退傾向をみせたことは建設コスト、労働、建設業、関連産業などに種々の影響を与えたようだ。

 まず、建設コストは資材価格の下落を通じて年間にわずかながら低落を示した。資材価格をみると、木材のように金融引締めの影響によって29年3月頃から下落したものと、セメント、砂、砂利のように建設活動の減退が目立った下期に至って下落したものとがある。建設コストのなかで注目されるのは、昭和27年以降他の物価や建設コストとかけはなれて高騰を続けてきた木造建築費が、年間を通じてわずか2-3%程度ではあるが低落したことであろう。さらに、建築コストではないが、ことに住宅建設に多大の支障を与えてきた宅地価格も、これまでの急騰からようやくその騰勢が鈍化してきた。このように需要の停滞は資材価格、地価の面で有利な条件を生んだが、需要増加に際して再びもとにもどる可能性がある点に問題が残されている。

 次に、建設労働について年度平均の建設業就業者数をみると、28年度より3%増加したが、これを四半期別にみれば 第43図 にみるごとく建設活動の減退に伴って10-12月にはかなり収縮した。これは同時期における建設業の失業保険受給者の激増からも知られ、29年中のその被保険者に対する比率は他産業に比べて最も高率となった。なお1-3月に就業者数が再び増加をみせたのは季節的な事情もあるが、失業対策事業による雇用増加が含まれているからであろう。建設業は生産場所が固定せず、その雇用は拘束性に乏しいため、工事の多少が直ちに雇用の多少に影響するので、建設工事の減退が雇用の縮小を招いた。ところでその特性と事業費当たりの雇用量が大きいために雇用吸収産業と考えられ、一方で失業対策として取り上げられることになってきた。

第43図 建設業就業者数及びセメント販売高の推移

 また建設業では手持工事残高や仕掛工事量を上期まではなんとか持ちこたえたが、下期には次第に減少の傾向がみられた。このため大企業は中規模工事にまで進出するようになり、中小企業の市場が縮小化するに至ったので受注競争が激化し、下請けへのしわ寄せやダンピング的な入札がしばしばみられた。

 しかし経営面では建設業の生産期間が長いため、本年度の売上高にはむしろ前年度以前の影響が強くでている。土木を主とする建設業者と建築を主とする建設業者について、それぞれ上位クラスをとって、その完成工事高をみると( 第52表 参照)、前者では29年に著増し、後者では28年下期に著増したまま横ばいを続けているが、両者とも土木工事が一挙に約2倍に増加したのが目立っている。またそれぞれ民需と官公需に分けてみると、民需の方が増加しているが、これと土木工事の著増をあわせて考えると、電源開発工事が上位の建設業の生産高に極めて大きな影響を与えたことが知られる。また、このような大量の工事が完成してきたことが、大企業の中小工事への進出となったのであろう。

第52表 建設業完成工事高の推移

 上期における建設活動の高水準と下期におけるその後退は、建設資材産業にも下期不振の様相を与えたが、セメントを例にとると第43図にみるようにその販売高は土木、建築双方において下期にかなり急激な減少を示し、これまで設備の増設によってようやく需要をまかなってきたセメント業も、年度末には5年ぶりの在庫量をかかえるに至っている。


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