昭和30年

年次経済報告

 

経済企画庁


[前節] [目次] [年次リスト]

 

提示された問題

雇用の問題

 緊縮経済によって表面化した問題の一つは、雇用の停滞と失業の増大であろう。雇用の停滞については前述したところであるが、「労働力調査」によってみると、昭和29年度に増加した労働力人口を就業者として吸収しきれなかったため、完全失業者は25万人も増えて、年度末には84万人の戦後最高を示した。また失業保険が受け付けた年度間の離職者は110万人を突破しており、失業保険の給付を受ける人の数も年度末、56万人に達して戦後の最高を記録している。

 また就業者についても、その内容には検討すべき多くのものがある。すなわち我が国では、産業構造の後進性や社会保障が十分に発達していないことを背景として、就業者の下層には零細農家、行商、呼売り、露天商、日雇人夫、あるいは雇人一人いない家内工業主、それを扶ける家族従業者等種々様々な職業に従事しているものが多く、そのうちには、とぎれとぎれの仕事にわずかばかりの収入しかえられない不完全就業者も広範に内在している。これらを正確に把握することは困難だが、若干の資料によって大体の状況をうかがってみよう。失業対策審議会の調べによれば、収入が低過ぎるとみられるものが、29年3月現在で576万人に上っている。また非就業人口のなかにも就職を希望しながら勤め口のないものが相当あって、総理府統計局の調べによると、29年10月現在で完全失業者を含めて316万を数えており、これは緊縮経済の下においてかなりの増加を示した。もとよりそのすべてを不完全就業者だ、潜在失業者だといいきるわけいにはいかないし、早急な解決を望めるほど簡単な問題でもない。しかし重要な問題であることもまた事実である。

 それに今後、要就業人口が年々70万人以上も増えるので、これにも職を与える必要がある。しかも農林業で雇用を増加することはあまり望めないので、新たな職は非農林業に求めなければならない。ところで70万という数は現在の非農林就業人口の3.1%に当るから、これを吸収するには非農林業に戦前以上の高い発展率を要求する。しかし非農林業のなかでも卸小売業やサービス業等に働いている人の数は既に相当ふくらんでおり、そのうちには前述のような不完全就業者も多い。従って要就業人口の吸収は、主として鉱工業や建設業等のいわゆる第二時産業部門に期待しなければならないが、国際競争力の強化と調和させながらこれをいかに発展させていくかが、我々に課せられた最大の問題であろう。

第17図 失業者の増加


[前節] [目次] [年次リスト]