昭和30年

年次経済報告

 

経済企画庁


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提示された問題

金利体系の歪み

 前述したオーバー・ローンの改善についても、その実態はなお不安定で、金融正常化の前途に横たわる問題はまだまだ多い。

 第1は、金利体系の現状からみて、今後再びオーバー・ローンに逆転しないという保証がないことだ。金利体系は概してグラフの左から右へ移るにつれて低くなるのが、銀行の日銀依存を避けるという点で正常な姿であり、戦前はそうなっていたが、現在は相当デコボコである。その結果、銀行は日銀から借りて企業に貸せばそれだけ利ザヤが入り、しかも高いコストをかけて預金を集めるよりトクになる。ただ日銀からあまり借り過ぎると二次高率にかかるが、少なくともその限度までは日銀へ依存しがちになる。つまり日銀貸出の公定歩合が相対的に低過ぎるから、こうしたことが起こるわけである。

 それでは日銀が貸出金利さえ調節すれば十分かというと、そうではない。ここに新しく登場してきた問題がある。それは最近、二次高率にかかる分を返してしまった銀行が多く、なかには日銀からの借入を全部返済した銀行も出てきたために、日銀貸出金利の調節だけでは手の届かないところが増えており、これを別の手段で操作しようとしても、やはり現在の金利体系では難しいという問題だ。例えば国債売買による信用の調節すなわち公開市場操作をやろうとしても、銀行の余裕金がコールに流れて、金利の安い国債に買い手がつかないから思うようにいかない。日銀に対する銀行の依存度が減ってきたことは結構だが、このままでは日銀の信用調節力が弱ることにもなるだろう。

 このように金利体系の現状は金融の正常な運営を妨げているが、これが是正の道を複雑にしているもう一つの問題は、金利水準が高いということである。例えば一流商業手形の割引歩合は年7分7厘であるが、戦前は4分7厘だったし、また最近でも米国は2分、英国は4分5厘で比べものにならない。これが借入過多とも相まって企業の金利負担を重くしていることはいうまでもなかろう。こうした高金利は、資金の蓄積が少いところへ企業からの需要が多かったためでもあるが、一方では銀行の資金コストが高いという問題も控えている。銀行の資金コストは現在、年7分を超えているが、その有力な原因は、資金の扱い量が少いうえに銀行の事務量がふくらんでいるからであろう。ともかく金利体系の是正に当っては市中貸出金利の低下を伴うことが最も望ましいわけだから、銀行としても預金の増加とならんで、合理化による一般経費のきりつめという問題を真剣に考えなければならない。金利体系の歪みも金利の高水準も、結局はインフレ的な経済膨張の名残りで、その背後には借入過多にみられる企業資本の弱さという問題が残されている。

第14図 国際収支の好転


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