昭和29年

年次経済報告

―地固めの時―

経済企画庁


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各論

貿易

輸入

輸入の増大

国際収支悪化の主因である輸入の増加を通関実績によってみると、昭和28年の輸入金額は2,410百万ドルで、前年より19%増加した。また前年に比べると、海上運賃の値下がりもあって輸入単価が13%低落しているので輸入数量としては37%増加し、戦前の74%に回復した。( 第5表

第5表 輸入金額及び数量の推移

輸入の推移

年間における輸入(通関実績)の推移をみると、1~3月は27年秋の炭労ストによる石炭の緊急輸入があった他は一般に低調で、この間の月平均は182百万ドルに止まったが、4月から7月にかけては27年度下期外貨予算による輸入物資の入着期に当たったため、米、砂糖、羊毛、石油等の増加を中心に月平均204百万ドルに急増した。しかしその後の季節的な減少期においても、内需が旺盛であったこと、石油、石炭、鉄鉱石などの増加があったことなどによって減少の度合はあまり大きくならず、8~11月の月平均は196百万ドルとかなり高い水準を続けた。さらに12月から本年4月へかけては、28年度下期外貨予算による物資の入着が時期的にもはやめられ、さらに食糧の追加輸入も増加したので、食糧をはじめ綿花、レーヨンパルプ、石油、木材などを中心に全般的に急増し、月平均248百万ドルの多額に達した。

このような輸入急増から国際収支が悪化し、このため本年度上期の外貨予算編成に当たってその均衡をいかにして確保すべきかが検討されたが、結局国内の引締め対策の浸透状況を考慮して漸進的な改善が図られることになり、輸入縮小を主とする均衡は下期以後に繰り延べられることになった。この結果上期の予算は実質的には前年度同期と大差のないものとなり、年度間の赤字は約1億ドルと見込まれている。しかし下期は食糧、繊維原料等の買付期であり、その予算規模は上期をかなり上回るのが通例である。従ってこの期に物価反騰などの影響を伴うことなく輸入を所期の規模に縮小し得るか否かが問題になろう。もっとも引締対策の強化などによって輸入は実際にはかなり縮小しており、輸入信用状、輸入為替決済額などは2月以降漸減に転じている。

第25図 輸入の動向

輸入増加の実態

昭和28年の輸入金額(通関実績)を物資別に前年と比べると、減少した主な品目は綿花、麦類、鉄鉱石、燐鉱石、塩など少数に止まった。商品類別にみると 第6表 の通り、「飲料、たばこ」が微減し、「食糧」がほとんど増加しなかった外は、「原料」、「機械類」をはじめとして各類とも増加し、特に「原料」及び「機械類」の増加が顕著であった。まず輸入の大宗を占める「原料」は前年より2億5,000万ドル急増し、輸入総額の増加(3億8,000万ドル)の65%に達したが、このうち5,000万ドル未満の品目が合計で1億4,000万ドル増加し、第6表に特掲した主要原料の増加よりかえって増加が大きかった。「機械類」については主として合理化用とみられる鉱山用、産業用機械及び金属加工機械の増加(対前年3,000万ドル増)が著しかったが、一方乗用自動車も国内払下分を含んで約1万台増加した。なお「食糧」は凶作による追加輸入の入着が本年1月以降に持ち越されたため28年中は増加が僅少に止まった。

第6表 商品類別主要商品別輸入金額の対前年比較

このように28年の輸入は比較的金額の少ない物資も含めて全体的に増加し、特に一品目当たり5,000万ドル未満の小口品目(輸入総額の36%)の増加は合計2億8,000万ドルに達し、輸入総額の増加の7割以上を占めた。( 第7表

第7表 金額区分による輸入増加の状況

さらに輸入増加を数量面からみると輸入品単価の値下がりによって、一層増加が著しい。( 第26図第8表

第26図 商品類別商品別輸入数量水準

第8表 主要商品の輸入状況

また28年の輸入のうち、食糧、綿花、羊毛ないし耐久消費財までを含めた広い意味での消費関連物資の輸入額は約17億ドル(輸入総額の約7割)、これらを除いた生産関連物資の輸入額は約6億5,000万ドル(輸入総額の3割弱)で、前年に比べると前者は2億2,000万ドル、後者は1億4,000万ドル増加した。

次に地域別の輸入構成( 第27図 )をみると、28年年間としてはドル輸入への依存がやや減少したが、ポンド輸入の割合はほぼ前年並みであり、一方オープン勘定輸入はその比重を高めている。これは27年から実施された別口外為貸制度などを通じて輸入の非ドル地域への転換が促進されたこと、ポンド貨の実勢が回復しポンド物資が買い易くなったこと、貿易拡大のためにオープン勘定貿易において輸入増加が図られたことなどに基づくが、28年下期以後はこれらの動向がかなり変化している。すなわちポンド収支の悪化からポンド輸入は減少を余儀なくされ、輸入は再びドル地域ないしオープン勘定への依存を強め、この結果前述(国際収支の項参照)のごとく、各勘定とも収支悪化を招いている。

第27図 輸入の地域別構成

輸入増加の原因

輸入増加の基本的原因

昭和28年の著しい輸入増大の基本的な原因としては第一に国内の購買力が増加したことが挙げられる。すなわち国内の購買力が増加すれば、その一部は輸入品に買い向かって輸入を増大させるからである。この3年ほどの傾向をみると、実質額でみて国民所得の増加分の約4分の1位は輸入の増大に向かっている。28年の国民所得の対前年増加額は約16億ドル(28年価格)であったから、この割合によると約4億ドルの輸入増加があるはずである。もっとも28年の実際の対前年輸入増加額は後にも述べるいろいろな理由もあってこれよりもかなり大きく、約6.5億ドル(28年価格)であったが、国内の購買力の増加が輸入増加の最大の原因であったことは右の関係から明らかであろう。

第二には輸入品価格に比べ国内価格が相対的に高く、このため輸入による利益が大きかったことである。すなわち 第9表 にみるごとく、28年の国内卸売物価は前年よりやや騰貴し従来の高い水準を続けた反面、輸入品の物価は前年より13%低落し、しかも為替レートが固定化していたため、一般に輸入品価格が国内価格より割安であったからである。個別商品についても、例えば砂糖については、安い粗糖(原料)を輸入して国内向けに精糖(製品)を高く販売できたこと、レーヨン・パルプについては国内産品より輸入品の方が割安であったこと、また国内炭の代わりに輸入石油を使う方が企業の採算上有利であったことなど、輸入が利益をもたらすような各種の価格条件があった。( 第28図

第9表 輸入品物価と国内物価

第28図 個別商品の輸入価格と国内価格

輸入増加の特殊な原因

また輸入増加の特殊な原因としては第一に凶作による食糧の輸入増加が挙げられる。これは28暦年の輸入にはほとんど影響していないが年度としてはかなり大きな要因となっている。すなわち主食の輸入は28年度下期予算において約1億7,000万ドル追加され、29年に入ってその入着が急増した結果、28年度の入着は当初の主食輸入計画を1億3、4000万ドル上回るに至った。第二には思惑需要による輸入増加を数えることができる。すなわち昨秋から本年はじめにかけて外貨予算の削減懸念、国内物価の先高期待などから輸入需要が増加し、特に輸入の承認が自動的に行われる自動承認制品目に対しては輸入申請が殺到し、思惑対象品目の輸入受付が停止されるに至った。また外貨割当制による計画品目についても思惑気配は予算消化率の上昇に反映された。かくて思惑関連商品(亜麻仁油、生ゴム、鉄鋼くず等)の価格は一時騰貴したが、一方で金融引締めの影響が強まるとともに鎮静に復し、物価全般に波及するには至らなかった。これはまた本年度上期の外貨予算が前述したようにあまり削減されなかったことにもよっている。

輸入金融の支え

一方このような輸入増加を全般的に支えた大きな要因としては、「金融」の章で述べるように、別口外為貸、輸入決済手形、及び輸入物資引取に関する日銀スタンプ手形の三つの制度を中心に輸入金融が優遇されていた事実を挙げなければならない。

生産消費に比べた輸入急増の理由

これらの原因によって昭和28年の輸入数量は全体として前年より37%増加し、このうち大宗を占める原料関係では44%増加した。28年の鉱工業生産、国民消費の対前年増加がそれぞれ22%及び13%であったことと比べて、輸入の増加は特に顕著であったわけである。このように輸入増加が生産や消費の増加よりも一層高かったことは次の諸点から説明されよう。第一には28年の輸入を27年と比べると、27年の輸入が少なかったために、増加率の高くなるものが多かったことである。すなわち朝鮮動乱後の輸入は昭和26年に入って急増したが、この時期に海外物価が反落に転じたため、大量の物資が高値で入着する結果となり貿易商社は大きな打撃を蒙った。このため27年の輸入は手控えられたが、同年中の生産、消費によって前年に増加した輸入在庫がほぼ消化され、翌28年には再び輸入増加が必要となった。 第29図 は主要輸入原料について生産との関係を示したものであり、28年の輸入の対前年増加率は、これに対応する生産の増加率をいずれも上回っている。このように輸入が増加したにもかかわらず、主要物資についてみると原料在庫の増大したものは比較的少なく、羊毛、生ゴム等が挙げられるに過ぎない。ただ小口の物資については、例えばコプラ、亜麻種子、桐油、ニッケル鉱、ボーキサイトなどのごとく、輸入数量が増大し、かつ在庫も増加したものが多いが、これはまた28年の輸入増加が前述したように主要物資に限らず全体に亘っていたこととも関連している。

第29図 生産及び輸入の対前年比

第二には輸入依存度の増加したことである。その顕著な例としてはレーヨン・パルプ、製紙用パルプ、木材などが挙げられるが、また右に述べた羊毛、生ゴムなど本来輸入依存度の高いものについても輸入増加が著しかった。輸入依存度の増加は前述の価格効果にもよるが、一つには国内生産には限度があり、生産の増大以上に輸入が増加し、従って限界依存度が増加する傾向があるためである。また28年中には直接消費財の輸入依存度が上昇しているが、この点については「国民生活」の章で述べる通りである。


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