昭和29年

年次経済報告

―地固めの時―

経済企画庁


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総説

昭和28年の経済過程

鉱工業生産の増大

鉱工業生産は農産物が約1割余り減産であったのに対して、2割4分の増大であった。これは前にも示した通り世界一の上昇率である。米国は約8%の増加、世界で一番経済発展のすさまじい西ドイツもカナダもほぼその程度、第5次5カ年計画3年目のソ連でさえも約1割の上昇に過ぎない。昭和27年度の鉱工業生産は前年に対し7%増加したが、生産財は頭打ちで消費財の増産のみが目立っていた。ところが28年度は生産財、消費財平行して増産されたところに特色がある。

次に輸入の動向と比べてみると、生産2割余の上昇に対して工業用原料輸入は4割も増えており、それにもかかわらず、輸入原料在庫高はそれ程増加していない。その原因として考えられるのは、第一に前年の過少輸入の反動があったこと、しかも細かい品目の輸入増加が著しかったこと、第二に、石油のように100%対外依存の品目の輸入が増えたこと、第三に人絹パルプのように輸入品の使用割合が増大したことなどである。

生産が2割以上も増えたのに雇用量はほとんど増加していない。従って労働の生産性は同じく2割余り増えたことになる。ところが平均賃金は16%しか増えていないのだから製品一単位当たりの労務費はむしろ減少している。つまり賃金を上げても利潤は増大するわけである。これが企業利潤と賃上げの平行した理由である。しかしこれだけ増加した生産物は一体どういうはけ口を見つけたのであろうか。輸出量はそれほど増えていない。特需はむしろ減少を示した。消費はなるほど急激に増えた。しかし今までの説明は消費が増えたことを説明しようとして賃上げから生産の増大にまで辿りついたのだ。生産増大の原因を再び消費に帰するのでは循環論法になってしまう。生産上昇の発火点としては別な原因が存在するはずだ。そしてその第一に挙げなければならないのは次に述べる民間投資である。


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