月例経済報告(平成10年10月)

平成10年10月9日

経済企画庁調査局

概観

我が国経済:需要面をみると、個人消費は低調である。これは、収入が減少していることに加え、消費者の財布のひもが依然として固いからである。住宅建設は、マンションの不振もあって低水準が続いている。設備投資は、大幅に減少している。特に中小企業の減少が著しい。

10年4~6月期(速報)の実質国内総生産は、前期比 0.8%減(年率 3.3%減)となり、うち内需寄与度はマイナス 1.6%となった。

産業面をみると、最終需要が低調なため、鉱工業生産は、減少傾向にある。在庫はこのところ減少しているものの、まだ高水準である。企業収益は、全体として減少している。また、企業の業況判断は、中小企業を中心に一層厳しさが増している。

雇用情勢は、依然として厳しい。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加している。失業者数の増加によって、完全失業率はこれまでの最高水準に並んだ。

輸出は、アジア向けが減少しているものの、欧米向けなどが好調なため、全体としては横ばい状態となっている。輸入は、減少テンポが弱まり、おおむね横ばい状態となっている。国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、9月は、月初の 139円台から一時 131円台まで上昇したが、その後下落し 135円台から 136円台で推移した。

物価の動向をみると、国内卸売物価は、内外の需給の緩み等から、弱含みで推移している。また、消費者物価は、安定している。

最近の金融情勢をみると、短期金利は、9月は低下した。長期金利は、9月は低下した。株式相場は、9月は下落した。マネーサプライ(M2+CD)は、8月は前年同月比 3.9%増となった。

海外経済:主要国の経済動向をみると、アメリカでは、景気は拡大しているものの、株価下落等により経済の先行きに対する不透明感がみられはじめている。実質GDPは、1~3月期前期比年率 5.5%増の後、4~6月期は一時的な減速要因から同 1.8%増となった。個人消費、設備投資、住宅投資は増加している。鉱工業生産(総合)は、このとこ ろ伸びに鈍化がみられる。雇用は拡大している。物価は安定している。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、拡大している。9月29日の連邦公開市場委員会(FOMC)では、フェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準を0.25%ポイント引き下げ、5.25%とした。9月の長期金利(30年物国債)は、低下した。株価(ダウ平均)は、9月は上下しながらも、やや上昇した。

西ヨーロッパをみると、ドイツ、フランスでは、景気は拡大している。イギリスでは、景気拡大のテンポは緩やかになっている。鉱工業生産は、ドイツ、フランスでは拡大しており、イギリスでは鈍化している。失業率は、ドイツでは高水準ながらもやや低下しており、フランスでは横ばいで推移している。イギリスでは低水準で推移している。物価は、ドイツ、フランスでは安定しており、イギリスでは一時の騰勢は鈍化してきている。なお、9月27日にドイツで総選挙が行われ、社会民主党が第一党となった。

東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポは鈍化している。物価は、下落している。貿易収支は、輸入の減少から大幅な黒字である。韓国では、景気は後退している。失業率は、大幅に上昇している。物価は、騰勢は鈍化している。貿易収支は、輸入減少により大幅な黒字が続いている。

国際金融市場の9月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、総じて減価した(モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(1990年=100)9月30日 110.9、8月末比 3.6%の減価)。内訳をみると、9月30日現在、対円では8月末比 2.8%減価、対マルクでは同 4.7%減価した。

国際商品市況の9月の動きをみると、月初に上昇した後、ほぼ横ばいで推移した。原油スポット価格(北海ブレント)は、ロシア情勢の悪化や産油国による減産合意の遵守などにより、強含みに推移した。


我が国経済の最近の動向をみると、個人消費は低調である。これは、収入が減少していることに加え、消費者の財布のひもが依然として固いからである。住宅建設は、マンションの不振もあって低水準が続いている。設備投資は、大幅に減少している。特に中小企業の減少が著しい。

輸出は、アジア向けが減少しているものの、欧米向けなどが好調なため、全体としては横ばい状態となっている。

このように最終需要が低調なため、生産は減少傾向にある。在庫はこのところ減少しているものの、まだ高水準である。

雇用情勢は、依然として厳しい。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加している。失業者数の増加によって、完全失業率はこれまでの最高水準に並んだ。また、民間金融機関は貸出に慎重な態度を変えていない。

こうした中、企業の業況感は一層悪化しており、金融市場などでも、経済の先行きに対する不透明感が更に高まっている。

以上のように、景気は低迷状態が長引き、極めて厳しい状況にある。

このような厳しい経済の現況に対応し、まず政府は、「総合経済対策」の実施に全力を挙げており、「公共事業等の施行促進の強化策について」を10月2日に決定した。金融面においては、金融システムの再生と安定を図るために、与野党間協議を踏まえつつ、金融再生関連法案及び早期健全化に関する法律案の一日も早い成立を目指している。また、8月には、「中小企業等貸し渋り対策大綱」を決定し、すでに実施している。さらに、経済戦略会議において、我が国の経済の再生と21世紀における豊かな経済社会の構築のための構想について検討を行っている。

その上で、一刻も早い景気回復を図るため、平成11年度に向け切れ目なく施策を実行できるように、事業規模で10兆円を超える第2次補正予算の編成及び6兆円を相当程度上回る恒久的な減税を実施する。

また、景気回復のための効果的な具体策を早急に検討することとしている。

さらに、アジア諸国への 300億ドルの資金支援など、世界経済に対する責務を意識した対策も積極的に進める方針である。

これらが早い時期から我が国の家計や企業のマインドの喚起と世界経済の安定に役立つものと期待している。

1.国内需要:設備投資は、大幅に減少

実質国内総生産(平成2年基準、速報)の動向をみると、10年1~3月期前期比 1.3%減(年率 5.2%減)の後、10年4~6月期は同 0.8%減(同 3.3%減)となった。内外需別にみると、国内需要の寄与度はマイナス 1.6%となり、財貨・サービスの純輸出の寄与度はプラス 0.7%となった。需要項目別にみると、民間最終消費支出は前期比 0.8%減、民間企業設備投資は同 5.5%減、民間住宅は同 1.0%減となった。また、財貨・サービスの輸出は前期比 0.4%減、財貨・サービスの輸入は同 6.8%減となった。

個人消費は、低調である。これは、収入が減少していることに加え、消費者の財布のひもが依然として固いからである。

家計調査でみると、実質消費支出(全世帯)は前年同月比で7月 3.4%減の後、8月は2.4%減(前月比 1.1%増)となった。世帯別の動きをみると、勤労者世帯で前年同月比2.2%減、勤労者以外の世帯では同 2.4%減となった。形態別にみると、半耐久財等は増加、サービス等は減少となった。なお、消費水準指数は全世帯で前年同月比 1.9%減、勤労者世帯では同 1.9%減となった。また、農家世帯(農業経営統計調査)の実質現金消費支出は前年同月比で7月 3.1%減となった。小売売上面からみると、小売業販売額は前年同月比で7月 3.7%減の後、8月は 4.3%減(前月比 0.4%増)となった。全国百貨店販売額(店舗調整済)は前年同月比で7月 4.1%減の後、8月 4.3%減となった。チェーンストア売上高(店舗調整後)は、前年同月比で7月 1.4%減の後、8月 3.7%減となった。一方、耐久消費財の販売をみると、乗用車(軽を含む)新車新規登録・届出台数は、前年同月比で9月は 5.8%減となった。また、家電小売金額(日本電気大型店協会)は、前年同月比で8月は 6.3%増となった。レジャー面を大手旅行業者13社取扱金額でみると、8月は前年同月比で国内旅行が 2.1%減、海外旅行は 5.2%減となった。

賃金の動向を毎月勤労統計でみると、現金給与総額は、事業所規模5人以上では前年同月比で7月 2.5%減の後、8月(速報)は 3.8%減(事業所規模30人以上では同 4.8%減)となり、うち所定外給与は、8月(速報)は同 8.4%減(事業所規模30人以上では同 9.0%減)となった。実質賃金は、前年同月比で7月 2.2%減の後、8月(速報)は 3.4%減(事業所規模30人以上では同 4.4%減)となった。なお、6~8月合算の特別給与 (速報) は、前年同期比 5.0%減 (前年は同 1.4%増) となった。また、民間主要企業の夏季一時金妥結額 (労働省調べ) は前年比1.11%増 (前年は同2.89%増) となった。

住宅建設は、マンションの不振もあって低水準が続いている。新設住宅着工をみると、総戸数(季節調整値)は、前月比で7月 9.3%減(前年同月比11.3%減)となった後、8月は 7.2%増(前年同月比11.4%減)の9万8千戸(年率118 万戸)となった。8月の着工床面積(季節調整値)は、前月比10.4%増(前年同月比10.4%減)となった。8月の戸数の動きを利用関係別にみると、持家は前月比 8.2%増(前年同月比 3.7%減)、貸家は同 0.1%減(同13.3%減)、分譲住宅は同25.4%増(同16.8%減)となっている。

設備投資は、大幅に減少している。特に中小企業の減少が著しい。

日本銀行「企業短期経済観測調査」 (9月調査) により設備投資の動向をみると、主要企業の10年度設備投資計画は、製造業で前年度比 4.8%減 (6月調査比 2.3%下方修正) 非製造業で同 1.0%減 (同 0.5%下方修正) となっており、全産業では同 2.3%減 (同 1.1 %下方修正) となった。また、中堅企業では、製造業で前年度比10.4%減 (6月調査比 2.3%下方修正) 、非製造業で同12.7%減( 同 0.3%上方修正) となり、中小企業では製造業で同17.1%減 (同 3.1%上方修正) 、非製造業で同16.5%減 (同 4.1%上方修正) となっている。

なお、10年4~6月期の設備投資を、大蔵省「法人企業統計季報」 (全産業) でみると前年同期比で10.6%減 (うち製造業 7.9%増、非製造業19.0%減) となった。

先行指標の動きをみると、機械受注 (船舶・電力を除く民需)は、前月比で6月は 5.6%増(前年同月比18.6%減)の後、7月は 3.7%減(同24.1%減)となり、基調は減少傾向となっている。

民間からの建設工事受注額 (50社、非住宅) をみると、このところ弱い動きとなっており、8月は前月比16.3%減 (前年同月比19.9%減) となった。内訳をみると、製造業は前月比24.8%減 (前年同月比39.1%減) 、非製造業は同12.9%減 (同14.3%減) となった。

公的需要関連指標をみると、公共投資については、前倒し執行が促進されているものの、10年度当初予算額や9年度補正予算における積み増し額が前年度に比べて大きく減少していることもあって、着工総工事費は前年を下回る水準で推移している。

公共工事着工総工事費は、前年同月比で6月 7.5%減の後、7月は 6.1%減となった。公共工事請負金額は前年同月比で7月10.7%減の後、8月は 3.5%増となった。官公庁からの建設工事受注額(50社)は前年同月比で7月 7.1%減の後、8月は14.7%減となった。実質公的固定資本形成は、10年1~3月期に前期比 1.9%減の後、10年4~6月期は同 0.1%増となった。また、実質政府最終消費支出は、10年1~3月期に前期比 0.6%減 の後、10年4~6月期は同 0.6%減となった。

2.生産雇用:依然として厳しい雇用情勢

鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、生産・出荷は、減少傾向にある。在庫はこのところ減少しているものの、まだ高水準である。

鉱工業生産は、前月比で7月 0.6%減の後、8月(速報)は、鉄鋼、パルプ・紙・紙加工品等が増加したものの、一般機械、電気機械等が減少したことから、 0.6%減となった。また製造工業生産予測指数は、前月比で9月は機械、軽工業等により 3.0%増の後、10月は機械、鉄鋼により 1.0%減となっている。鉱工業出荷は、前月比で7月 0.3%減の後、8月(速報)は、非耐久消費財が増加したものの、資本財、耐久消費財等が減少したことから、 0.9%減となった。鉱工業生産者製品在庫は、前月比で7月 0.7%減の後、8月(速報)は、石油・石炭製品、パルプ・紙・紙加工品等が増加したものの、輸送機械、一般機械等が減少したことから、 0.5%減となった。また、8月(速報)の鉱工業生産者製品在庫率指数は 113.2と前月を 2.0ポイント上回った。

主な業種について最近の動きをみると、一般機械では、生産、在庫ともに2か月連続で減少した。電気機械では、生産は2か月連続で減少し、在庫は8月は減少した。鉄鋼では、生産、在庫ともに8月は増加した。

農業生産の動向をみると、平成10年産水稲の全国作況指数(9月15日現在)は、98の 「やや不良」となっている。

雇用情勢は、依然として厳しい。雇用者数が減少し、勤め先や事業の都合による失業者が増加している。失業者数の増加によって、完全失業率はこれまでの最高水準に並んだ。労働力需給をみると、有効求人倍率(季節調整値)は、7月0.50倍の後、8月0.50倍となった。新規求人倍率(季節調整値)は、7月0.84倍の後、8月0.88倍となった。雇用者数は、減少している。総務庁「労働力調査」による雇用者数は、8月は前年同月比 0.3%減(前年同月差18万人減)となった。常用雇用(事業所規模5人以上)は、7月前年同月比 0.1%減(季節調整済前月比 0.2%減)の後、8月(速報)は同 0.2%減(同 0.1%減)となり(事業所規模30人以上では前年同月比 0.4%減)、産業別には製造業では同 1.6%減となった。8月の完全失業者数(季節調整値)は、前月差17万人増の 295万人、完全失業率(同)は、7月 4.1%の後、8月 4.3%となった。所定外労働時間(製造業)は、事業所規模5人以上では7月前年同月比18.2%減(季節調整済前月比 0.0%)の後、8月(速報)は同16.5%減(同 1.2%増) となっている(事業所規模30人以上では前年同月比17.8%減)。

前記「企業短期経済観測調査」 (全国企業、9月調査) をみると、企業の雇用人員判断は、製造業、非製造業ともに過剰感に高まりがみられる。企業の動向をみると、企業収益は、全体として減少している。また、企業の業況判断は、中小企業を中心に一層厳しさが増している。

前記「企業短期経済観測調査」(9月調査)によると、主要企業 (全産業)では、10年度上期の経常利益は前年同期比27.9%の減益 (除く電力・ガスでは同28.3%の減益) の後、10年度下期には同 8.9%の増益 (除く電力・ガスでは同11.3%の増益) が見込まれている。産業別にみると、製造業では10年度上期に前年同期比32.6%の減益の後、10年度下期には同13.0%の増益が、見込まれている。また、非製造業 (除く電力・ガス) では10年度上期に前年同期比18.8%の減益の後、10年度下期には同 7.9%の増益が見込まれている。売上高経常利益率は、製造業では10年度上期に2.92%になった後、10年度下期は3.96%と見込まれている。また、非製造業 (除く電力・ガス) では10年度上期に1.40%となった後、10年度下期は1.52%と見込まれている。こうしたなかで、企業の業況判断をみると、製造業、非製造業ともに「悪い」超幅が拡大した。

また、中小企業の動向を同調査 (全国企業) でみると、製造業では、経常利益は10年度上期には前年同期比69.0%の減益の後、10年度下期には同 0.5%の減益が見込まれている。また、非製造業では、10年度上期に前年同期比19.7%の減益の後、10年度下期には同 7.6%の増益が見込まれている。こうしたなかで、企業の業況判断をみると、製造業、非製造業ともに「悪い」超幅が拡大した。

企業倒産の状況をみると、件数は、高い水準で推移している。

銀行取引停止処分者件数は、8月は 1,029件で前年同月比 7.9%増となった。業種別に件数の前年同月比をみると、製造業で35.0%、卸売業で26.5%の増加となった。

3.国際収支:輸入は、減少テンポが弱まり、おおむね横ばい状態

輸出は、アジア向けが減少しているものの、欧米向けなどが好調なため、全体としては横ばい状態となっている。通関輸出(数量ベース、季節調整値)は、前月比で7月3.3%増の後、8月は3.6%減(前年同月比4.3%減)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、輸送用機器、化学製品等が増加した。同じく地域別にみると、アメリカ、EU等が増加した。

輸入は、減少テンポが弱まり、おおむね横ばい状態となっている。通関輸入(数量ベース、季節調整値)は、前月比で7月0.0%増の後、8月は2.9%減(前年同月比5.2%減)となった。この動きを品目別(金額ベース)にみると、原料品、鉱物性燃料等が減少した。同じく地域別にみると、中東、アジア、EU等が減少した。

通関収支差(季節調整値)は、7月に1兆3,406億円の黒字の後、8月は1兆1,436億円の黒字となった。国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。7月(速報)の貿易・サービス収支(季節調整値)は、前月に比べ、サービス収支の赤字幅が拡大したものの、貿易収支の黒字幅が拡大したため、その黒字幅は拡大し、8,487億円となった。また、経常収支(季節調整値)は、経常移転収支の赤字幅が縮小し、貿易・サービス収支の黒字幅が拡大したものの、所得収支の黒字幅が縮小したため、その黒字幅は縮小し、1兆3,133億円となった。

投資収支(原数値)は、1,235億円の赤字となり、資本収支(原数値)は、1,604億円の赤字となった。9月末の外貨準備高は、前月比27億ドル増加して2,121億ドルとなった。外国為替市場における対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、9月は、月初の139円台から一時131円台まで上昇したが、その後下落し135円台から136円台で推移した。一方、対マルク相場(インターバンク17時時点)は、9月は、月初の78円台から一時76円台まで上昇したが、その後下落し80円台から81円台で推移した。

4.物価:国内卸売物価は、弱含みで推移国内卸売物価は、内外の需給の緩み等から、弱含みで推移している。

8月の国内卸売物価は、加工食品(そう菜)等が上昇したものの、電気機器(電子計算機本体)等が下落したことから、前月比0.1%の下落(前年同月比2.1%の下落)となった。また、前記「企業短期経済観測調査」(主要企業、9月調査)によると、製品需給バランスは緩んでいる。輸出物価は、契約通貨ベースで下落したものの、円安から円ベースでは前月比1.4%の上昇(前年同月比9.7%の上昇)となった。輸入物価は、契約通貨ベースで下落したものの、円安から円ベースでは前月比1.2%の上昇(前年同月比3.3%の上昇)となった。この結果、総合卸売物価は、前月比0.2%の上昇(前年同月比0.2%の下落)となった。

9月上中旬の動きを前旬比でみると、国内卸売物価は上旬、中旬ともに保合い、輸出物価は上旬が3.1%の下落、中旬が0.7%の下落、輸入物価は上旬が2.5%の下落、中旬が1.1%の下落、総合卸売物価は上旬が0.6%の下落、中旬が0.2%の下落となっている。企業向けサービス価格は、8月は前年同月比0.4%の下落(前月比0.2%の下落)となった。商品市況(月末対比)は「その他」等は上昇したものの、非鉄等の下落により9月は下落した。9月の動きを品目別にみると、天然ゴム等は上昇したものの、亜鉛地金等が下落した。

消費者物価は、安定している。全国の生鮮食品を除く総合は、前年同月比で7月0.1%の下落の後、8月は一般食料工業製品の下落幅の拡大等の一方、外食が下落から上昇に転じたこと等により0.1%の下落(前月比0.1%の下落)となった。なお、総合は、前年同月比で7月0.1%の下落の後、8月は0.3%の下落(前月比0.1%の下落)となった。東京都区部の動きでみると、生鮮食品を除く総合は、前年同月比で8月0.1%の上昇の後、9月(中旬速報値)は医療保険制度要因のはく落等により0.3%の下落(前月比0.4%の上昇)となった。なお、総合は、前年同月比で8月0.1%の下落の後、9月(中旬速報値)は保合い(前月比0.9%の上昇)となった。

5.金融財政:短期金利は、低下最近の金融情勢をみると、短期金利は、9月は低下した。

長期金利は、9月は低下した。株式相場は、9月は下落した。マネーサプライ(M2+CD)は、8月は前年同月比3.9%増となった。短期金融市場をみると、オーバーナイトレート、2、3か月物ともに、9月は9月9日に日本銀行が金融市場調節方針を緩和したことを受けて低下した。公社債市場をみると、国債流通利回りは、9月は低下した。なお、国債指標銘柄流通利回り(東証終値)は9月18日に0.670%となり、史上最低を更新した。国内銀行の貸出約定平均金利(新規実行分)は、8月は短期は0.010%ポイント低下し、長期は0.079%ポイント低下したことから、総合では前月比で0.029%ポイント低下し1.873%となった。

マネーサプライ(M2+CD)の月中平均残高を前年同月比でみると、8月(速報)は3.9%増となった。また、広義流動性でみると、8月(速報)は3.5%増となった。企業金融の動向をみると、金融機関の貸出平残(全国銀行)は、8月(速報)は前年同月比2.3%減となった。9月のエクイティ市場での発行(国内市場発行分)は、転換社債が100億円となった。また、9月の国内公募事業債の起債実績は8,595億円となった。前記「企業短期経済観測調査」(全国企業、9月調査)によると、資金繰り判断は「苦しい」超が続いており、金融機関の貸出態度も「厳しい」超が続いている。民間金融機関は貸出に慎重な態度を変えていない。株式市場をみると、日経平均株価は、9月は下落した。

6.海外経済:

アメリカ、利下げ主要国の経済動向をみると、アメリカでは、景気は拡大しているものの、株価下落等により経済の先行きに対する不透明感がみられはじめている。実質GDPは、1~3月期前期比年率5.5%増の後、4~6月期は一時的な減速要因から同1.8%増となった。個人消費、設備投資、住宅投資は増加している。鉱工業生産(総合)は、このところ伸びに鈍化がみられる。雇用は拡大している。雇用者数(非農業事業所)は8月前月差30.9万人増の後、9月は同6.9万人増となった。失業率は9月4.6%となった。物価は安定している。8月の消費者物価は前月比0.2%の上昇、生産者物価(完成財総合)は同0.4%の低下となった。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、拡大している。9月29日の連邦公開市場委員会(FOMC)では、フェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準を0.25%ポイント引き下げ、5.25%とした。9月の長期金利(30年物国債)は、低下した。株価(ダウ平均)は、9月は上下しながらも、やや上昇した。

西ヨーロッパをみると、ドイツ、フランスでは、景気は拡大している。イギリスでは、景気拡大のテンポは緩やかになっている。4~6月期の実質GDPは、ドイツでは、4月の付加価値税引上げの影響などから、前期比年率0.4%増、フランス同2.8%増(速報値)、イギリス同2.0%増(改定値)となった。鉱工業生産は、ドイツ、フランスでは拡大しており、イギリスでは鈍化している(鉱工業生産は、ドイツ7月前月比3.8%増、フランス6月同0.3%減、イギリス8月同0.3%減)。失業率は、ドイツでは高水準ながらもやや低下しており、フランスでは横ばいで推移している。イギリスでは低水準で推移している(失業率は、ドイツ9月10.7%、フランス8月11.8%、イギリス同4.6%)。物価は、ドイツ、フランスでは安定しており、イギリスでは一時の騰勢は鈍化してきている(8月の消費者物価上昇率は、ドイツ前年同月比0.8%、フランス同0.7%、イギリス同3.3%)。なお、9月27日にドイツで総選挙が行われ、社会民主党が第一党となった。

東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポは鈍化している。物価は、下落している。貿易収支は、輸入の減少から大幅な黒字である。韓国では、景気は後退している。失業率は、大幅に上昇している。物価は、騰勢は鈍化している。貿易収支は、輸入減少により大幅な黒字が続いている。

国際金融市場の9月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、総じて減価した(モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(1990年=100)9月30日110.9、8月末比3.6%の減価)。内訳をみると、9月30日現在、対円では8月末比2.8%減価、対マルクでは同4.7%減価した。国際商品市況の9月の動きをみると、月初に上昇した後、ほぼ横ばいで推移した。原油スポット価格(北海ブレント)は、ロシア情勢の悪化や産油国による減産合意の遵守などにより、強含みに推移した。