第2章

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第2節 ダイナミズムと生産性の向上に向けて

起業による市場への参入や起業後の成長、市場からの円滑な退出といった企業部門のダイナミズムについてみると、我が国では、諸外国と比べて開業率、廃業率が低水準にとどまっている。

企業部門のダイナミズムを高めることにより、雇用の創出や収益力の向上が期待される。本節では、資金調達の在り方や起業意識の向上など、起業や起業後の成長促進に向けた諸課題を検討する。また、我が国の成長力の向上に向け、ダイナミズムの向上と併せて重要となる、中小企業の生産性向上に向けた課題を検討する。

1 資金調達とダイナミズム

ここでは、企業部門におけるダイナミズムを促す諸施策について、企業の成長段階に応じた資金調達の観点から検討する。

(起業資金の調達は、「創業者」、「家族」、「友人・知人」に依存)

我が国では、諸外国と比べ、開業率が低いことをみたが、その背景の一つとして、企業の設立準備段階や事業展開後の資金調達の困難さが挙げられる。中小企業庁の調査18別ウィンドウで開きますでは、2001年から2010年に起業された企業1万社に対して、起業時の課題を尋ねており、「資金調達」が最大の課題として挙げられている(第2-2-1図別ウィンドウで開きます(1))。

起業資金を調達する際の課題を探るために、起業資金の調達先をみると、「自己資金」、「配偶者や親族からの出資金や借入金」、「友人や知人からの出資金や借入金」が上位を占めており、「創業者」、「家族」、「友人・知人」という、いわゆる3F(Founder、Family、Friends)への依存度が高くなっている(第2-2-1図別ウィンドウで開きます(2))。各調達先からの調達額(中央値)をみると、3Fからの資金調達は、200万円~400万円にとどまり、他の調達先と比較しても最も小さい。他方、「ベンチャーキャピタル等からの出資金」は、4,000万円程度と最も大きいが、依存度は低く、起業資金の主要な調達先とはなっていない。起業資金の調達が困難である結果、自己資金や家族等への依存度が高くなっているが、そうした調達先からの調達額は少なく、起業資金として十分ではない可能性が指摘できる。

(中小企業の資金調達は、金融機関からの借入に依存)

次に、起業資金に限らず、事業運営資金も含めた中小企業の全体的な資金調達にはどのような特徴がみられるだろうか。中小企業の資金調達構造をみると、大企業と比べ、金融機関からの借入金に多くを依存している姿が確認できる(第2-2-2図別ウィンドウで開きます(1))。他方、社債を通じた資金調達の割合は小さく、大企業の10分の1以下となっている。

諸外国と比べても、我が国の中小企業の借入金への依存度は高くなっている。企業向けの金融機関貸出に占める中小企業向けの割合をみると、我が国は2012年に68%と、OECD諸国の中でも5番目に高い(第2-2-2図別ウィンドウで開きます(2))。また、中小企業が金融機関から借入を行う際の条件をみると、我が国では、経営者の本人保証(78.7%)や公的信用保証(52.6%)、土地・建物といった物的担保(39.9%)が借入を行う際の一般的な条件となっていることが分かる(第2-2-2図別ウィンドウで開きます(3))。

一般に、新規企業を含めて中小企業は、融資の際に担保の提供を要求されるが、そうした中小企業の多くは十分な担保を持たないと考えられる。そのため、担保に基づく貸出慣行は、中小企業への資金供給の制約となっている可能性が高い19別ウィンドウで開きます。また、個人保証に基づく融資は、経営への規律付けや信用力の補完といった役割を担う一方、倒産した場合に発生し得る経営者等個人への負担が大きく(例えば、所有する不動産や預貯金などを失い、再起が困難となる)、起業をためらわせる要因とみられている20別ウィンドウで開きます

(リスクマネーの更なる供給を通じて、企業の資金調達を支援)

中小企業の資金調達手段をみると、起業資金については、自己資金を含めた関係者からの調達、また事業運営資金については、個人保証や不動産担保等に依存している姿が確認された。起業や起業後の企業の成長促進に向け、自己資金や個人保証、不動産担保等へ過度に依存せざるを得ない状況を改善するためにも企業の成長段階に応じた資金調達手段の多様化が重要となるが、我が国ではリスクマネーの活用など、資金調達手段の多様化に向けた取組に遅れがみられる。

ベンチャー・キャピタル投資の動きをみると、投資額は、リーマンショックを契機に減少傾向に転じた後、2013年度には増加したが、依然としてリーマンショック前の水準を下回っている(第2-2-3図別ウィンドウで開きます)。また、ベンチャー・キャピタル投資を受ける企業数をみても、2000年度の4,000社近くから2013年度には1,000社程度にまで減少している。

我が国では、起業時や起業初期、また、成長期の企業への資金供給不足が課題となっているが、ポートフォリオ管理でリスクをとることにより、ベンチャーを含む新規企業を育てるリスク資金を供給する者の増加が必要となっている。こうした中、政府は、ベンチャー企業への投資促進に向けた取組21別ウィンドウで開きますや、インターネット上で不特定多数の人々から資金を調達する仕組みである「クラウドファンディング」の利用促進に向けた制度整備を進めている22別ウィンドウで開きます。一般に、事業化する段階の企業に資金提供を行うことはリスクが高く、エンジェル投資家(ベンチャー企業に資金供給を行う個人投資家)やベンチャー・キャピタルであっても、一定程度企業が成長するまでは資金供給を見送る傾向があるが、「投資型クラウドファンディング」を利用する場合、多数の者から少額ずつ投資資金を集めることにより、リスクが広く薄く分散されるため、事業化段階の企業でも資金調達が可能になると考えられ、こうした取組がリスクマネーの更なる供給につながることが期待されている。

(中小企業向けの金融支援は、企業の発展段階や資金調達環境に応じて柔軟に)

第1節では、現行の信用保証制度の下では、結果的に制度を利用する企業も経営改善の努力を行うモチベーションを持ちにくいケースがあるのではないかといった指摘をみた。

保証割合を一律8割とする責任共有制度については、例えば、創業期には手厚く支援し、成長とともに徐々に保証利用を減らして金融機関の責任割合を高め、最終的には保証からの卒業を目指す形とするなど、企業のライフステージにあわせ、企業と金融機関が共に経営改善に取り組み続けるためのインセンティブを持たせる仕組みとすることが、現在、検討されている23別ウィンドウで開きます

(ABLの活用も資金調達手段の多様化に寄与)

政府は、資金調達手段の多様化の一環として、企業の保有する在庫や売掛金に基づく融資(ABL:アセット・ベースト・レンディング)24別ウィンドウで開きますの拡大を促進している。これは、資金の貸手である金融機関と借り手である企業の間で、企業が持つ原材料や商品、売掛金等を裏付けとして資金の貸し借りを行うこと、言い換えれば、担保資産の拡大を図ることを目的としている。しかし、こうした担保資産の処分性や適正価値・価格を評価することは必ずしも容易ではなく、その利用は十分に進んでいない。大企業と中小企業を対象とした銀行貸出のうち、ABLを用いた動産担保等に基づく貸出の割合は、2010年に5%未満であったが、2014年も同程度であり、変化はみられていない(第2-2-4図別ウィンドウで開きます)。ABLの利用拡大に向けては、金融機関及び中小企業の双方において、在庫や売掛金を含む動産担保の価値を正しく評価する技術・能力(目利き力)を高めるとともに、動産担保の評価を行う専門事業者の育成や、動産担保を処分する市場の整備等が重要となっている。

2 起業意識の向上と起業教育

起業を促すことは成長力の向上にとって重要であるが、我が国の起業への意識は諸外国と比較して低く、開業率を引き上げていくためには、起業教育等を通じた起業意識の向上が重要である。

(起業希望者数は減少傾向)

我が国において、起業希望者数25別ウィンドウで開きますは、1990年代末以降、減少傾向にあり、1997年の167万人から2012年には84万人と半減した(第2-2-5図別ウィンドウで開きます(1))。また、起業家数26別ウィンドウで開きますは、同期間中に、20万人~30万人程度で推移しており、増加がみられていない。起業家を増やしていくためには、まず、起業希望者数を増加させることが重要である。起業希望者数が減少する背景には、バブル経済の崩壊以降、20年間にわたって国内経済が低迷してきたといった起業環境の厳しさに加え、そもそも我が国では、起業家の地位や職業選択に対する評価が低いことが指摘できる。OECDの調査によれば、我が国では、働く世代の3分の1程度が、「起業家がよい職業選択である」と回答しているが、これは、OECD諸国の中でも最も低い水準となっている(第2-2-5図別ウィンドウで開きます(2))。

起業活動の促進に向けては、ベンチャー・キャピタル投資を始めとするリスクマネーの供給拡大といった資金調達環境の改善に向けた取組が進められているが、そうした取組の効果を高めるためにも、起業への意識を高める中、起業家が増え、魅力的な投資対象が増加することが重要となる。

(起業意識の向上には起業教育も重要)

「日本再興戦略」では、2020年までに開業率を倍増させることを目標としているが、目標の実現に向け、社会の起業に対する意識改革の必要性を指摘している27別ウィンドウで開きます

我が国では、欧米諸国に比べて、周囲の起業家との接点が少ないこと等を理由に、起業に必要とされる知識・能力・経験等を蓄積する場が限られていると考えられることからも、起業意識を向上させ、起業希望者を増やすため、起業教育の果たす役割が重要となる。OECDの調査によれば、起業教育と起業に対する好感度の間には、正の関係がみられるが、我が国についてみれば、学校教育が社会における起業家の役割を理解することに役立つと回答した者の割合は2割程度とOECD諸国の中でも低く、同時に、起業に対して好感を持つ者の割合も低くなっている(第2-2-6図別ウィンドウで開きます)。

こうした中、政府は、大学等の研究開発成果を基にしたベンチャーの創業や、既存企業による新事業の創出を促進する人材の育成等を目的として、「グローバルアントレプレナー育成促進事業」を立ち上げ、先進的な起業家育成を行う大学を支援している。

3 中小企業の生産性向上に向けて

我が国の成長力向上に向けては、企業部門のダイナミズムを高めることに加え、既存企業の生産性を高めることも重要となっている。中小企業の生産性は、大企業と比べても低く、改善の余地も大きいとみられるが、以下では、中小企業の生産性向上に向けた諸課題を検討する。

(中小企業にみられる生産性向上の遅れ)

ここでは、大企業との比較を通じて、中小企業の生産性の動向を概観する。まず、企業規模別に労働生産性の推移をみると、1980年度以降、中小企業の労働生産性が大中堅企業の労働生産性を下回って推移する中、両者の労働生産性の差が拡大傾向にあることが分かる(第2-2-7図別ウィンドウで開きます(1))。こうした労働生産性格差について、リーマンショック以降の拡大の要因を分析するため、大中堅企業、中小企業それぞれについて、2010年度以降の労働生産性上昇率を「資本装備率要因(有形・無形固定資産/従業員数)」と「TFP要因」に分けてみると、大中堅企業、中小企業共に「TFP要因」が労働生産性上昇率に同程度プラスに寄与する一方、「資本装備率要因」については、大企業に比べ、中小企業での押上げ効果が小さいことから、労働生産性格差が拡大している(第2-2-7図別ウィンドウで開きます(2))。この背景には、第1節でみたように、中小企業の投資姿勢が、大中堅企業に比べても消極的であったことが影響している可能性がある。

次に、企業規模別のROAをみてみよう。ROAは、企業が総資産を基にどの程度効率的に収益を上げたかを示し、企業経営の面からみた効率性を表すと考えられるが、第1節で確認したように、1990年代半ば以降、中小企業のROAは大中堅企業のROAを下回って推移する傾向を示している。こうしたROA格差の要因を分析するため、ROAを「売上高経常利益率(経常利益/売上高)」と「総資本回転率(売上高/総資本)」に分けてみると、「総資本回転率」については、中小企業と大中堅企業の間に大きな差がみられない一方、「売上高経常利益率」については、1995年度から2014年度にかけて、大中堅企業が3%以上増加しているのに対し、中小企業では1%程度の増加にとどまっており、1990年代半ば以降のROA格差の主因となっている(第2-2-8図別ウィンドウで開きます)。

そこで、さらに、「売上高経常利益率」を売上高に対する営業利益、営業外収益、そして営業外費用の比率に分けてみると、大中堅企業では、特に、2013年度以降、営業利益や営業外収益が増加し、「売上高経常利益率」を押し上げてきた。輸出や海外への事業展開を進めてきた大中堅企業では、為替差益の影響や海外からの所得の受取(主に、海外子会社からの受取配当金など)を背景に営業外収益が増加するとともに、コスト削減の動きや安定的な価格転嫁力を反映して営業利益が高まったとみられる。中小企業については、大企業に比べ、営業利益の改善に遅れがみられてきたが、最近では、デフレ状況ではなくなる中、コストの上昇を販売価格に転嫁しやすい状態が続くこと、また、原油を始めとする資源価格下落の影響により仕入価格が低下していることなどを背景に収益環境が改善し、営業利益が高まっている。

(ソフトウエア投資は付加価値の上昇に寄与)

ICT投資は、業務の効率化等を通じて生産性を引き上げることに加え28別ウィンドウで開きます、大企業と比べて遅れがみられる資本装備率を高める。中小企業では、労働集約的な特性を反映し、大企業と比べて、従業員一人当たりの資本装備率が低いが、そうした傾向を資産形態別にみると、ソフトウエアの装備率が大企業の10%未満と最も低くなっている(第2-2-9図別ウィンドウで開きます(1))。従業員一人当たりのソフトウエア装備率と付加価値成長率の間には、大企業、中小企業共に緩やかな正の関係が確認されるが(第2-2-9図別ウィンドウで開きます(2))、特に、ソフトウエア装備に遅れがみられる中小企業については、ソフトウエア投資に代表されるICT投資を拡大することで、付加価値を高め、生産性を改善する余地が大きいと考えられる。また、ICTを活用することは新たな販路の開拓にも寄与することが期待される29別ウィンドウで開きます

(生産性向上に向け、イノベーション活動が重要)

中小企業の生産性向上に向けては、ICT投資の拡大に加え、研究開発を始めとするイノベーション活動への取組が重要となる。中小企業における研究開発とROAの関係をみても、両者には緩やかな正の関係が確認され(第2-2-10図別ウィンドウで開きます)、研究開発を進めることにより、収益力の強化につながることが期待される。他方、我が国のイノベーション活動は、これまで、大企業を中心に行われてきた。研究費の動向をみると、リーマンショック以降、再び増加傾向となる中、2013年度には、13兆円程度にまで回復したが、中小企業の占める割合は3%程度と大きな変化はみられていない(第2-2-11図別ウィンドウで開きます)。

「第3回全国イノベーション調査報告30別ウィンドウで開きます」を基に我が国における企業のイノベーション活動の動向をみても、プロダクト、プロセス、組織、マーケティングのいずれのイノベーションにおいても、企業規模が小さくなるに従い、イノベーションを実現した企業の割合が低下することが示されている(第2-2-12図別ウィンドウで開きます)。企業規模とイノベーションの実現割合にみられる関係は、我が国に限らず、欧州諸国においてもみられるが、企業規模によらず、我が国企業におけるイノベーションの実現割合は、欧州諸国に比べ、総じて低くなっている。

企業規模が小さくなるに従いイノベーションの実現割合が低いが、こうした背景を探るために、企業規模別に、イノベーションの実現に向けた阻害要因をみると、中小企業については、「資金不足」や「コストが高すぎる」といった資金面の課題を挙げた企業が多い(第2-2-13図別ウィンドウで開きます)。他方、大企業についてみると、資金面の課題を挙げた企業は1割未満と必ずしも多くない。こうした結果からは、大企業と比べ資金力に劣る中小企業にとっては、イノベーションの実現に向け、資金面での課題克服が重要となることが示唆される。リスクマネーの更なる供給拡大を含め、イノベーションに取り組む中小企業の資金調達の円滑化を図り、イノベーションの実現に向けた環境を整備していくことが求められる。

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