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第2節 家計部門の動向

2012年末以降の景気持ち直しをけん引してきた個人消費は、夏場以降、伸びが鈍化しているものの、持ち直し傾向を維持している。ここでは、まず、最近の消費の変動要因を分析し、消費動向を評価する。また、消費の持ち直しの動きに広がりが見られるかどうかを確認する。最後に、消費税率引上げに向けて駆け込み需要が顕在化しているかどうかを点検する。

1 持ち直し傾向を維持する個人消費

まず、消費全体の動きを概観した後に、2013年に入ってからの消費の動きを財・サービス別に振り返る。また、所得や金融資産、マインドなどの消費の変動要因を踏まえて、最近の消費の動きを評価する。

(春頃の盛り上がりは一服したものの、裁量的な支出はなお高い水準)

個人消費は、2013年年初から春先にかけて急速に増加した後、夏場には増勢が一服したものの、秋口には再び増加しており、持ち直し傾向を維持している(第1-2-1図別ウィンドウで開きます)。財・サービス別に消費の推移を確認すると、春頃には証券売買手数料(サービス)と自動車(耐久財)が消費の盛り上がりに寄与していた。証券売買手数料は株式市場の活況を受けて増加した。また、自動車販売は、2012年後半にはエコカー補助金制度の終了20別ウィンドウで開きますに伴う反動減が見られたが、2013年に入ってからは雇用・所得環境が改善する中で、新型車効果も加わり、急速に持ち直した。夏場には、新型車効果が剥落したことや、株価の大幅な上昇が一服する中で証券売買手数料も落ち着きを見せたことから消費の増勢は一服したが、秋口には、自動車やスマートフォンなど耐久財を中心に再び消費は増加している。

細かな品目が把握できる家計調査を基に、財の特性を踏まえつつ個人消費の動向を確認しよう。支出弾力性21別ウィンドウで開きますの違いによって支出を必需的支出と裁量的支出に区分すると、両者とも3月にピークをつけて減少に転じている(第1-2-2図別ウィンドウで開きます)。その後、必需的支出は減少が続き年初の水準に戻りつつあるのに対して、裁量的支出は7月にかけていったん減少したものの、秋口から再び増加している。

細かい財別の動きを見ると、春頃の裁量的支出の増加の背景としては、自動車の新型車効果に加えて、高額品や嗜好性の高い財の販売増加が挙げられる22別ウィンドウで開きます。例えば、百貨店の高額品売上げは春頃に大都市圏を中心に増加した。また、衣料品については、スーパーでの販売が横ばいかやや弱い動きとなる一方、よりファッション性の高い品目が多いと見られる百貨店での販売は増加した。このほか、百貨店では身の回り品(靴、アクセサリー、ハンドバッグなど)の販売も好調であった。夏場にやや落ち着きを見せた裁量的な支出が秋口に再び増加に転じているのは、自動車販売が増加しているほか、百貨店の高額品売上げが一段と増加していることなどによる。

(消費は所得を上回る伸びを続ける)

2012年末以降、個人消費は、所得の増加率を上回って増加してきた(第1-2-3図別ウィンドウで開きます)。株価の大幅な上昇は、家計の保有する金融資産残高の増加を通じた資産効果だけでなく、消費者マインドの押上げを通じて、所得以上に消費を増加させたと考えられる23別ウィンドウで開きます。特に、裁量的な支出は資産効果やマインド改善の影響を受けやすいことが指摘されており、これまで見てきた春頃の裁量的支出の盛り上がりにも、資産効果やマインドの改善の効果が強く現れていたと考えられる。夏場以降では、マインドの大幅な改善が一服しており、消費への押上げ効果は減衰していると見られる24別ウィンドウで開きます

コラム1-2 マインド主導による消費拡大の持続性

過去の景気回復局面においても、雇用・所得環境の改善に先行してマインド主導で個人消費が大幅に増加する事例があった。ここでは、マインド主導による消費拡大の持続性について検討する。

最近では、2003年から2004年にかけて、マインド主導の消費拡大が見られた。この時期の消費、所得、マインドの動向を概観すると、雇用者報酬が改善する前に民間最終消費支出が増加している(コラム1-2図別ウィンドウで開きます)。当時は、2013年前半と同様、株価が大幅に上昇しマインドも大きく改善していた。その後、2004年後半には、引き続き雇用者報酬が横ばい圏内の推移となる中、マインドの改善が一服し、消費は減速した。2005年に入ってからは、マインドが高水準で推移する中で、雇用者報酬が増加に向かい、消費も再び増加傾向に復した。

このように、2003年から2005年にかけての時期においては、マインド先行で消費が拡大した後、足踏み局面を経て、所得増加を背景とした消費拡大へとつながっている。その間、消費のドライバーがマインドから所得へと変化していったことが分かる。消費の持続的な拡大にとって、マインドがなお高い水準で推移している間に、所得の増加へとつなげていくことが重要であるといえよう。

2 消費改善の広がり

消費の盛り上がりは特定の層によってもたらされているのだろうか、それとも幅広い層に支えられているのだろうか。ここでは、どのような属性の消費者が消費をけん引しているかを確認し、消費改善の広がりを検証する。

(春先に高齢者層・高所得者層の消費が増加、最近では幅広い層の消費が底堅く推移)

家計調査を基に、年齢階層別・所得階層別に、振れの大きい品目(住居など)を除いた実質消費支出を見てみよう(第1-2-4図別ウィンドウで開きます)。

2013年に入ってからの消費動向を年齢階層別に見ると、いずれの階層でも春先に消費の盛り上がりが見られた。特に、60歳台以上の高齢者の消費は春頃に顕著に盛り上がった後、夏場に大きく減少したが、秋口には下げ止まった。40~50歳台の世代の消費も年初から緩やかに増加した後、夏場には減少したが、秋口には再び増加している。30歳台以下の世代の消費は、春頃に増加した後、2012年末頃を上回った水準で推移している。

次に、所得階層別に見ると、春頃には、低所得者層や中所得者層でもやや消費の盛り上がりが見られたが、特に高所得者層の消費の盛り上がりが顕著であった。その後、高所得者層の消費は大きく減少し、最近では年初の水準をやや上回る水準となっている。一方、低所得者層と中所得者層の消費は緩やかな増加が続いている。

以上をまとめると、春頃の消費の盛り上がりと、夏場の増勢一服は、高齢者や高所得者層など一部の階層に強く影響されていたといえる。これは、金融資産を多く保有するこれらの層において、株高による資産効果が春先に強く発現したためと考えられる。一方で、こうした資産効果があまり強くないその他の階層では、総じて、着実な消費の改善が続いている。資産効果の剥落によって減少した高齢者及び高所得者の消費も秋口には下げ止まりの動きも見られることから、最近の消費は、幅広い層における消費の底堅さに支えられていると評価できる。

(高所得者層ではマインドの上昇が顕著、高齢者層ではマインドに目立った変化はない)

春頃にはマインドの改善が個人消費の押上げに寄与していたが、各階層のマインド25別ウィンドウで開きますの動きには違いが見られるだろうか。

年齢階層別に見ると26別ウィンドウで開きます、30~50歳台のマインドが春先にかけて大きく上昇した後、高水準で推移している(第1-2-5図別ウィンドウで開きます)。一方、60歳台以上の高齢者のマインドには目立った変化は見られない。50歳台以下の勤労世代では、マインドの改善が消費の増加に寄与していると考えられる。一方、高齢世代では、マインドよりも、株価上昇などによる金融資産の増加の方が消費を押し上げる効果が大きかったと見られる。

次に所得階層別に見ると、年初から春先にかけて、いずれの階層でもマインドが改善している。特に、高所得者層のマインドの改善が顕著であり、こうした動きが資産効果とあいまって、高所得者層を中心とした春頃の消費の盛り上がりにつながったと考えられる。秋口からは、高所得者層のマインドが再び緩やかに改善しており、消費の持ち直しに寄与していると見られる。

一方、低所得者層や中所得者層のマインドも年初に上昇しているものの、高所得者層に比べると改善は緩やかとなっているほか、夏場以降はやや低下してきている。このため、所得階層間のマインドは格差が拡大している。しかしながら、先に見たように、低所得者層及び中所得者層の消費は緩やかに増加しており、マインド低下による消費への影響は見られない。この背景として、低所得者層及び中所得者層においては、所得が底堅く推移しており、消費の下支えとなっていることが考えられる27別ウィンドウで開きます。今後、消費が広がりを持った改善を続けていくためには、各所得階層で所得が着実に増加していくことが重要であるといえる。

3 消費税率引上げに向けた家計の行動

消費税率引上げを巡っては、2012年8月に「税制抜本改革法28別ウィンドウで開きます」が成立し、2013年10月1日には、経済状況等の総合的な勘案を経て、2014年4月に消費税率を5%から8%へと引き上げることが閣議決定された。過去の経験を踏まえれば、耐久財や半耐久財などの個人消費、住宅投資などで、消費税率引上げ前に駆け込み需要が一定程度生じると見込まれる。ここでは、駆け込み需要の発生状況を点検する。

(個人消費では、自動車販売で駆け込み需要が顕在化しつつある)

個人消費においては、まず耐久性が高い商品から先に消費税率引上げに向けた駆け込み需要が生じやすいと考えられる。1997年の消費税率引上げの際にも、耐久財(自動車、家電など)の消費が最も早く増勢を強め、非耐久財の消費29別ウィンドウで開きますは直前になって増加した。サービスについては、増税前の駆け込みはほとんど見られなかった。耐久財の中でも、自動車販売については、消費税率引上げの半年ほど前からトレンドを上回る増加が見られていた30別ウィンドウで開きます,31別ウィンドウで開きます

それでは、最近の自動車販売には、駆け込み需要が生じているのだろうか。今回の消費税率5%から8%への引上げに際しては、同時に自動車取得税率の引下げなどの措置を採ることが検討されている32別ウィンドウで開きます。もっとも、エコカー減税対象車(以下「エコカー」という。)の自動車取得税は既に免税・減税になっている。また、エコカーの販売シェアは年々高まっており、最近では約8割に達している。このため、駆け込み緩和策の効果は限定的との指摘も聞かれる。実際、2013年秋以降のエコカー販売は増勢を強めており、最近では、景気ウォッチャーや自動車会社などから、駆け込み需要の顕在化を指摘する声も聞こえ始めている(第1-2-6図別ウィンドウで開きます)。

以上のことから、自動車販売については、駆け込み需要が一部顕在化し始めていると考えられ、先行きについても、当面、消費の押上げ要因として寄与していくと見込まれる。

(住宅投資では駆け込み需要が顕在化)

住宅投資については、97年の消費税率引上げの際にも、駆け込み需要とその反動減が発生していた33別ウィンドウで開きます。しかし、今回の場合には、前回とは異なり、消費税率引上げ後の住宅ローン減税の拡充などの措置34別ウィンドウで開きますがとられており、駆け込みとその反動減を平準化させることが期待されている。ただし、住宅ローン減税は居住用の住宅が対象であることから、貸家については適用されず、駆け込みを緩和する効果はない。また、居住用の住宅についても、住宅ローン減税制度による平準化の効果には不確実性がある。

今回の消費税率引上げに際しては、前回と同様、2013年9月末までに契約35別ウィンドウで開きますを締結した場合は、住宅の引き渡しが2014年4月以降であっても、消費税率引上げ前の税率が適用されるため、住宅の受注や販売については、2013年9月にいったんピークを迎えると考えられる。実際に、戸建注文住宅及び賃貸住宅の受注戸数について、ハウスメーカーの景況判断指数の動向を確認すると、7-9月期までは非常に高い伸びを続けたが、10-12月期には一転して大きく低下する見通しとなっている(第1-2-7図別ウィンドウで開きます(1))。これは、駆け込み需要が生じた96年においても見られた動きである。首都圏のマンション販売についても同様の動きとなっており、販売戸数は96年と2013年のいずれの年においても、9月にピークを迎え10月に急減している(第1-2-7図別ウィンドウで開きます(2))。戸建・賃貸住宅や分譲マンションの受注・販売については、駆け込みのピークを既に迎えたと見られる。

(着工は駆け込み受注の進捗などに支えられて当面は増加)

注文を受けた住宅はやがて着工に移されていくことになるが、住宅着工のピークはいつになるのだろうか。過去の平均的な傾向を基に受注から着工までのラグを試算すると、戸建注文住宅で4か月前後、低層賃貸住宅で5か月前後のラグが存在することが分かる(第1-2-8図別ウィンドウで開きます(1))。9月までの受注増加は、4~5か月程度のラグをもって徐々に着工に移されるものと見られる36別ウィンドウで開きます。なお、分譲マンションについては、持家や貸家のような受注という形態をとっていないことから、その着工には駆け込みは生じにくいと考えられる。

最近の住宅着工の動向を見ると、97年の消費税率引上げ時とほぼ同様の動きとなっており、潜在需要をもやや上回るようになっている(第1-2-8図別ウィンドウで開きます(2))37別ウィンドウで開きます。先行きについても、当面は、9月までの駆け込み受注が徐々に着工に移される中で、潜在需要を上回って推移すると見られる。

ただし、駆け込み需要と反動減の大きさは、97年の消費税率引上げ時に比べると、小幅なものにとどまる可能性がある。上述したような政策対応がとられていることに加え、建設労働者の不足感が強まっているため38別ウィンドウで開きます、供給にボトルネックが生じ、結果として着工が平準化される可能性がある。また、金利や住宅価格の先高観や雇用・所得環境の改善などを背景に消費者の住宅取得マインドが堅調であることが、反動減を緩和することも期待される。10-12月期における住宅受注戸数の景況判断指数は、7-9月期に比べて急落しているものの、その低下幅は前回に比べると小幅なものにとどまっている(前掲第1-2-7図別ウィンドウで開きます)。住宅事業者においても、先行きの住宅需要について、幾分明るい見通しを抱いていることがうかがわれる。

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