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第1節 景気局面の現状

第1節では、まず、我が国経済を振り返り、景気が急激に下向きの動きを強めていった要因を探る。また、企業の在庫変動を分析し、今回の景気局面における在庫調整圧力を評価する。さらに、内需の動向とその背景を探ることで、景気のさらなる下振れリスクの大きさを点検する。

1 弱い動きとなった景気

ここでは、2010年末にかけての足踏み局面と比較しつつ、弱い動きとなっている我が国経済の現状を概観する。その際、今回、景気が下向きに転じた要因の一つである輸出の動向とその影響を受けて減少している生産の動向を分析し、なぜ今回急速に景気が下向きの動きを強めていったのか、その要因を探る。

(2012年後半、景気は下向きに)

2009年1~3月期を底に持ち直してきた我が国経済は、2011年3月に生じた大震災による一時的な落ち込みを乗り越え、2012年夏場にかけて回復に向かっていった。しかしながら、欧州政府債務危機を背景として海外景気が減速するなかで、7-9月期には前期比-0.9%(年率-3.5%)と大幅なマイナス成長を記録するなど、年央から景気は下向きとなっていった(第1-1-1図別ウインドウで開きます(1))。

2012年には、2010年と同様、エコカー補助金が終了するのと同じ時期に輸出の減少が生じた。しかし、今回は、前回の局面と異なり、復興需要による下支えがあったにもかかわらず、景気の下振れが大きかった。その要因を探るため、2010年10-12月期と2012年7-9月期の実質GDP成長率(前期比)の需要項目別寄与度を比較してみよう。まず、外需については、今回は前回に比べて輸出のマイナス寄与が特に大きい。他方、輸入の寄与は、前回も今回もわずかなものにとどまっている。

内需については、2010年10-12月期は成長に中立であった公需が、2012年7-9月期は復興需要を背景にプラス寄与となっている。一方、民需は、今回の方が、マイナス寄与が大きい。民需の内訳を詳しく見ると、設備投資はいずれもマイナス寄与となっているのに対して、個人消費は、前回は成長に中立であったが、今回はマイナス寄与となっている。消費の寄与に差が生じたのは、エコカー補助金の政策効果の反動によって乗用車販売が減少した点は同じであるが、前回は家電エコポイントによる消費押上げ効果がそれを相殺したためである。なお、後述するように(第1章第3節1参照)、エコカー補助金の政策効果の反動は、名目個人消費を前回は1.0%程度、今回は0.3%程度押し下げたと推計され、前回よりも今回の方が影響は小さかったと見られる。

これらのことから、今回、景気が急激に下向きに転じたのは、エコカー補助金の効果が一巡するタイミングで、輸出が大幅に減少したためであるといえよう。

なお、景気動向指数(CI一致指数)の動きを見ると、大震災以降、改善傾向を示していたが、2012年3月以降、低下している。今回は、2010年末にかけての足踏み局面とは異なり、2012年9月に「下方への局面変化」、10月には「悪化」と判断された(第1-1-1図別ウインドウで開きます(2))。CI一致指数の基調を判断する際に用いている基準(「CIによる景気の基調判断の基準」)によれば、「下方への局面変化」に移行した時点で、既に景気後退局面に入った可能性が高いことを暫定的に示すとされている。景気が後退局面に入ったかに否かについては、十分にデータが揃った段階で判断されるものであるが、景気動向指数から判断すると、既に景気は山を過ぎ、後退局面にある可能性も否定できない。

(主要国よりも大きく落ち込んだ我が国の輸出)

輸出が、2012年7-9月期に大幅に減少したのはなぜだろうか。ここでは、2012年7-9月期における主要国と比べた輸出減少の大きさを比較するとともに、2010年後半の輸出が弱含んだ局面と比較しつつ、輸出数量の国・地域別、品目別の寄与を確認することにより、今回の輸出の落ち込みが大きかった要因を探ってみよう。

第一に、主要国の実質輸出の推移を比較すると、2012年7-9月期において、アメリカ、EU、韓国、台湾が底堅く推移しているのに対して、日本は大きく落ち込んでいる(第1-1-2図別ウインドウで開きます(1))。

第二に、輸出数量指数の前月比伸び率の国・地域別寄与を見ると、2010年後半の輸出が弱含んだ時期に比べて、今回は欧州をはじめとする世界景気の減速などを背景として、中国、EU向けのマイナス寄与が大きい。また、前回はプラスに寄与していたアメリカ、アジア(除く中国)向けも、今回はマイナス寄与へと転じている(第1-1-2図別ウインドウで開きます(2)、付図1-1別ウインドウで開きます(1))。

第三に、品目別寄与を見ると、前回と比べ、今回は輸送用機器、電気機器のマイナス寄与が大きい。また、前回はプラスに寄与していた一般機械も今回はマイナス寄与へと転じている。輸送用機器については、2012年前半にアメリカにおいて大震災やタイの洪水の影響等によって減少した在庫を復元する動きが見られたことから、アメリカ向け輸出が増加したが、年後半には反動減が生じた。電気機器は、世界的な需要低迷を背景として中国や台湾向けの半導体等電子部品の輸出が減少した。一般機械は、中国の内需減速等を背景に、中国向けの建設鉱山用機械や原動機等の資本財輸出が減少した(第1-1-2図別ウインドウで開きます(3)、付図1-1別ウインドウで開きます(2))。

今回の輸出の減少は、円高による価格競争力の低下による影響も大きいと思われるが、中国向けの一般機械や中国・台湾向けの半導体等電子部品などについては、輸出相手国がさらに別の国へ輸出する製品のための部品を日本が供給しているため、相手国の内需だけでなく相手国の輸出の減速の影響を受けていると考えられる1別ウインドウで開きます

(2010年以降、鈍化した輸出の増勢)

主要国の実質輸出の推移をやや長い目で見ると(前掲第1-1-2図別ウインドウで開きます(1))、2010年以降、主要国に比べて日本の輸出の増勢が鈍化しているが、これはなぜだろうか。

第一に、半導体等電子部品における我が国の競争力の低下により、輸出が減少している面があると考えられる。そこで、2010年初を基準として日本の輸出数量指数の前期比伸び率の国・地域別、品目別累積寄与を見ると(前掲付図1-1別ウインドウで開きます(3)(4))、中国や台湾向けを中心とした半導体等電子部品や半導体等製造装置がマイナスに寄与している。一方、この間の韓国と台湾の半導体等電子部品の輸出を見ると、韓国では堅調に推移し2別ウインドウで開きます、台湾では横ばい圏内の動きとなっている(付図1-2別ウインドウで開きます)。

第二に、自動車産業における海外生産移転の進展が、趨勢的な輸出の減少に寄与している面があると考えられる。2007年初を基準として輸出数量指数の前期比伸び率の国・地域別、品目別累積寄与を見ると、アメリカ向けを中心とした輸送用機器がマイナスに寄与している(付図1-3別ウインドウで開きます)。この間、自動車主要6社の海外生産台数は増加しているが、アメリカの自動車販売台数に占める日本車の割合は低下していない。

第三に、リーマンショック以降の円高傾向の持続が輸出の減少に寄与していると考えられる。内閣府の短期マクロモデルの分析結果を基に、2008年7-9月期以降の円の増価が実質輸出へ与えた影響を試算すると、為替レートが変化しなかったときに比べて、2012年7-9月期の実質輸出を約3.2%程度下押ししたことになる3別ウインドウで開きます。この間、2008年1-3月期から2012年7-9月期にかけて実質輸出は約10.6%減少しており、その約3分の1が為替レートの増価によるものであると考えられる。

このように、2010年以降、日本の輸出の伸びが趨勢的に鈍化しているのは、円高傾向の持続を背景として、日本の製造業の競争力の低下や生産拠点の海外シフトが進行したことなどによると考えられる。

(生産も主要国に比べて落ち込みが大きい)

輸出の落ち込み等を受けて、生産も減少しているが、ここでは、2010年後半の足踏み局面と比較しつつ、生産及び出荷の推移、生産の業種別寄与、主要国と比べた生産減少の大きさを確認し、今回の生産の落ち込みの要因を探る。また、生産の減少に伴う在庫の増加について、今回の動きを過去の増加局面と比較する。

まず、2012年5月から9月にかけて、生産及び出荷は、2010年後半と比べ、大幅に減少した(第1-1-3図別ウインドウで開きます(1))。ただし、2012年10月には、スマートフォンや一部の復興事業向けの増産を背景として生産は増加に転じ、予測調査でも、11月はおおむね横ばいとなるものの、12月は大幅に増加すると見込まれており、生産の減少のテンポは緩やかになっている。

出荷の内訳を見ると、国内向け、輸出向けともに、前回に比べて減少幅は大きくなっているが、世界景気の減速を背景に、まず輸出向け出荷が減少している。それにやや遅れて、エコカー補助金の終了を見越して国内向け出荷も減少に転じた(第1-1-3図別ウインドウで開きます(2))。

次に、生産の業種別寄与を見ると、前回と比べて今回は、輸送機械のマイナス寄与が大きい(付図1-4別ウインドウで開きます(1))。乗用車の出荷の内訳を見ると、前回より国内向けの減少寄与は小さいが、輸出向けの減少寄与が大きくなっており、今回の生産減少は、エコカー補助金の効果一巡に伴う反動減よりも、輸出の減少の影響が大きかったことが分かる(付図1-4別ウインドウで開きます(2))。

また、鉱工業生産の動きを主要国と比較すると、日本の落ち込みは、欧州政府債務危機の震源地であるユーロ圏やアメリカよりも大きい(第1-1-3図別ウインドウで開きます(3))。これは、先に見たように、1我が国の輸出が諸外国に比べて大幅に減少していること、2国内出荷の減少には国内の景気動向のみならず政策効果の一巡が影響していること、によるものであると考えられる。

生産及び出荷の減少を背景として、在庫、在庫率にも高まりが見られる(前掲第1-1-3図別ウインドウで開きます(1))。在庫の増加について、今回の動きを過去の増加局面と比較すると、2000年代の増加局面と比べても、2009年12月以降の増勢は強い(第1-1-3図別ウインドウで開きます(4))。

このように、2012年末にかけて、景気が急激に下向きの動きを強めて行った要因は、エコカー補助金の効果が一巡するタイミングで、輸出が大幅に減少したためである。これが、生産の減少につながり、在庫も過去を上回るスピードで増加してきている。諸外国以上に我が国の輸出の落ち込みが大きい中で、今後の情勢次第で、在庫調整圧力が高まり、さらなる景気下押し圧力となる可能性があることに留意が必要である。そこで、次節では、今局面の在庫変動の特徴を分析し、在庫調整圧力の現状を評価する。

コラム1-1 尖閣諸島を巡る状況が我が国経済に与える影響

9月11日に尖閣諸島の国有化が決定され、中国各地で反日デモが発生し、日系企業の店舗や工場において破壊略奪行為等が行われた。これを受けて、2012年12月時点でも、日系製品の不買運動や取引の停止、それらを受けた日系企業の生産調整等が続いている。また、中国人の団体旅行のキャンセル等、国内においても具体的な影響が出ている。こうした影響について、人、物の流れの観点から見てみよう。

まず、人の流れを見ると、中国からの訪日客数は、8月から10月にかけて大幅に減少している(コラム1-1図別ウインドウで開きます(1))。2010年10月に起きた尖閣諸島沖での漁船衝突事件のときと比べると落ち込みが大きい。

また、物の流れを見ると、輸出数量指数についても、10月は減少している(コラム1-1図別ウインドウで開きます(2))。中国における日系車の販売は、11月は減少幅が縮小したものの、9月以降、急激に減少しており、貿易統計においても、中国向け自動車輸出は大幅に減少した。こうしたことから自動車及びその関連分野を中心に、影響の長期化が懸念される(コラム1-1図別ウインドウで開きます(3))。

中国は最大の貿易相手国であり、我が国からの進出企業も多いことから、今後の推移によっては日本の景気を下押しする要因となりかねず、引き続き注視が必要である。

2 在庫調整圧力の高まりには注意が必要

景気が悪くなると売れ残りの増加等から在庫が積み上がり(以下、「意図せざる在庫積み上がり」という)、企業は過剰な在庫を減らすために生産を抑える。こうした在庫調整圧力が高まって、さらなる景気の下押し圧力となることが懸念される。そこで、過去の景気局面と比べた今局面の在庫変動4別ウインドウで開きますの特徴を分析し、在庫調整圧力の現状を評価する。

(電気機械、輸送機械の在庫が増加)

今回の在庫変動を、過去の景気の山からの在庫増加局面と比較すると、以下のような特徴が明らかになる。

第一に、いずれの増加局面においても、電子部品・デバイス、化学の寄与が大きい(第1-1-4図別ウインドウで開きます)。

第二に、今回の在庫増加に対しては、これらの業種に加えて、電気機械、輸送機械の寄与が大きい。2010年以降の増加率の推移を見ると、電気機械は2011年、輸送機械は2012年に集中して増加している(前掲第1-1-4図別ウインドウで開きます)。この中には、後述するように、「意図的な在庫積み増し」が含まれていると考えられる。

第三に、個々の業種の寄与は小さいが、今回の在庫増加には業種の広がりが見られ、「その他」に含まれる一般機械、鉄鋼などでも在庫が増加している。これには、中国等の海外需要低迷が影響していると考えられ、「意図せざる在庫積み上がり」が幅広い業種で進んでいる可能性がある。

(在庫増加には意図的な積み増しの側面も)

今局面の在庫変動の特徴を業種別に見ると、在庫増加の背景には、「意図せざる在庫積み上がり」だけでなく「意図的な在庫積み増し」が混在している様子がうかがえる。そこで、在庫変動を品目別に見ると、以下の特徴が分かる。

まず、今局面における在庫増加について品目別寄与率を見ると、太陽電池モジュール(電気機械)、小型乗用車(輸送機械)、カーナビゲーション(情報通信機械)といった品目が上位に挙がっており、これらは各種政策効果による「意図的な在庫積み増し」である可能性が高い5別ウインドウで開きます第1-1-5図別ウインドウで開きます(1))。

詳細を確認するため、これらの品目の生産・出荷・在庫の推移を見てみよう(第1-1-5図別ウインドウで開きます(2))。まず、太陽電池モジュールは、2012年7月の再生可能エネルギーの固定価格買取制度開始を見据えた需要増に対応して「意図的な在庫積み増し」が行われてきたため、2011年以降急速に在庫が増加している。

また、小型乗用車とカーナビゲーションは、エコカー補助金が開始された2011年12月末以降、急速に在庫が増加しており、「意図的な在庫積み増し」が行われたと考えられる。ただし、その後、カーナビゲーションは在庫調整が進展したが、小型乗用車は外需の弱さから想定よりも需要が伸びず、在庫が消化できていない面があることもうかがわれる。

このように、2010年以降の在庫増加への寄与が大きかった品目の動向から判断すると、結果として、在庫が積み上がってしまった面もあるものの、各種政策効果等の影響による「意図的な在庫積み増し」の側面があると考えられる。

(企業の適正在庫水準が震災後に高まっている可能性も)

今回の在庫増の一部が、政策効果等を背景とした「意図的な在庫積み増し」であったことを述べたが、ここでは、この他に在庫増に寄与する要因として、企業の在庫保有行動の変化について分析する。

まず、企業の在庫過剰感と在庫率の推移を比較すると、他の局面では在庫率の高まりとともに過剰感も大きく高まっていたが、今局面では過剰感の高まりは見られず、企業は2010年以降の在庫率を「おおむね適正」と判断している可能性がある(第1-1-6図別ウインドウで開きます(1))。その背景として、現在の在庫の中には「意図的な在庫積み増し」が含まれており、過剰感の増加につながっていないことも考えられる。他方で、過去と比べて、企業自身の在庫保有行動が変化している可能性もある。

そこで、一定の出荷量に対してどれだけ在庫を保有するかを表す指標である限界在庫率の動きを見ると、長期に渡り低下傾向で推移していた。しかし、2008年に入って下げ止まり、その後上昇に転じ、さらに2011年以降急上昇している(第1-1-6図別ウインドウで開きます(2))。背景には、東日本大震災によるサプライチェーンの寸断により、経済活動が一時機能不全に陥った経験から、企業が適正な在庫水準を引き上げている可能性がある。

(積み増し要因を差し引いても在庫は増加)

それでは、生産抑制につながる「意図せざる在庫積み上がり」の状況はどうだろうか。最近の在庫率の動きを見てみよう。

2012年に入り、輸送機械は年間を通じておおむね上昇に寄与しているほか、年前半は情報通信機械、年央にかけて電子部品・デバイスの上昇寄与が大きかった。また、最近では、鉄鋼、一般機械、化学なども上昇に寄与している(第1-1-7図別ウインドウで開きます(1))。

このうち、輸送機械の状況は前述の通りであるが、電子部品・デバイスについては、在庫調整が進んでおり、在庫調整圧力は大きくない(コラム1-2参照)。情報通信機械については、地上波デジタル放送への完全移行により、駆け込み需要が見込まれていたことから、2011年7月にかけて液晶テレビの在庫を積み増したが、駆け込み需要によって消化された。その後、需要の停滞から積み上がりが見られたが、最近は急速に調整が進んでいる。

最近増加している品目のうち、鉄鋼、化学は、エコカー補助金の終了を見越した自動車の減産等を背景に在庫が積み上がっている面がある(第1-1-7図別ウインドウで開きます(2))。さらに、一般機械については、中国向けの輸出の減少から建設機械等の在庫が積み上がっている面がある。

このように、今局面では在庫が急速に増加しているが、「意図的な在庫積み増し」が行われていた面やサプライチェーン寸断の経験を踏まえて企業が適正在庫率の引上げを行っていた可能性がある。ただし、結果として、自動車や鉄鋼、化学、一般機械においては、「意図せざる在庫」が積み上がっている面もある。今後の情勢次第で在庫調整圧力が高まるリスクがあることには留意が必要である。

コラム1-2 電子部品・デバイスの在庫調整圧力6別ウインドウで開きます

前述した通り、今局面の在庫増加には、電子部品・デバイスの在庫増加が一定程度寄与している。2010年以降の各年の動きを見ると、2010年に集中して積み上がっており、2011年以降積み上がりは見られない(前掲第1-1-4図別ウインドウで開きます)。

そこで、2010年以降の電子部品・デバイスの在庫調整圧力について確認するため、出荷・在庫バランスを見てみよう(コラム1-2図別ウインドウで開きます)。半導体の世界需要の停滞を背景とした輸出の減少から、出荷は減少傾向にあったが、企業が生産調整を行ってきた成果もあり、在庫は減少を続け、2011年中に在庫調整圧力は相当程度弱まった。2012年年央以降の動きを見ても、引き続き在庫調整圧力が弱い状況が続いており、生産を取り巻く環境は改善しているといえる。

また、電子部品・デバイスの生産は、一般に、増加局面において大きく増加し、減少局面において大きく減少する傾向があり、鉱工業生産の変動に対して、自動車と並んで潜在的に大きな影響力を持っている。最近では、電子部品・デバイスの生産に持ち直しの動きが見られており、減少してきた鉱工業生産の下支え役になることが期待される。

3 景気がさらに下押しされるリスク

景気が弱い動きとなっており、今後の情勢次第では、在庫調整圧力が高まるリスクにも注意が必要である。こうした中で、今後、海外景気が改善に向かうとすれば、我が国経済は再び回復に向かうことが期待されるが、景気が一段と下押しされるリスクはどの程度あるのだろうか。以下では、企業部門の収益や投資の動向、雇用・所得環境、家計部門の支出動向を点検する。

(企業収益は製造業を中心に弱含み)

企業部門の動向のうち、企業収益は、大震災以降、持ち直し基調にあったが、2012年4-6月期、7-9月期と2四半期連続で前期比減少しており、弱含んでいる(第1-1-8図別ウインドウで開きます)。これを業種別に見ると、製造業は非製造業に比べて弱めの動きとなっている。製造業では、欧州や中国向けを中心に輸出が減少していることや、夏場以降エコカー補助金の政策効果が一巡したことから売上高が減少しており、これが企業収益の下押し圧力となっているものと考えられる。これに対して、非製造業では、震災で先送りされた需要(ペントアップディマンド)を含めた広い意味での復旧・復興需要の発現が企業収益の下支え要因となっているものと考えられる。

(弱い動きとなっている設備投資)

企業の収益改善が弱含むことになれば、設備投資にも悪影響が及ぶことが懸念される。

SNAベースの設備投資は、大震災後、2011年半ばから年末にかけて急激に持ち直したものの、2012年に入ってからは、輸出や生産が徐々に弱い動きとなるなかで、減少傾向にある。

法人企業統計を用いて業種別の動向を見ると、製造業では、エコカー補助金や復興需要を背景として、大震災以降、2012年1-3月期にかけて設備過剰感が和らぎ、それに伴って設備投資も持ち直してきた(第1-1-9図別ウインドウで開きます)。しかしながら、2012年4-6月期以降、外需の減速や前述した収益環境の陰りを背景に、設備過剰感にも幾分上昇が見られ、設備投資は2012年7-9月期まで2四半期連続で前期比マイナスとなった7別ウインドウで開きます。また、非製造業では、大震災以降、復興需要等を背景として、不動産業や小売業を中心に設備過剰感が解消に向かった。こうした状況の下、2011年10-12月期に大幅に増加した後も、大震災前を上回る水準で推移している(前掲第1-1-9図別ウインドウで開きます)。ただし、2012年に入ってからは、2012年7-9月期にかけて3四半期連続で前期比マイナスが続いている。製造業も非製造業も、設備過剰感は歴史的に低く、ストック調整面から景気が累積的に悪化するリスクは小さい。

なお、復興需要が設備投資を下支えしてきた面もあるとみられる。建設財出荷を財別に見ると、大震災後、セメントや板ガラスが堅調に推移しているほか、2012年に入ってからは、道路用コンクリート製品や護岸用コンクリートブロックも増加している(付図1-5別ウインドウで開きます)。また、資本財出荷を財別に見ると、建設用クレーン、ブルドーザー、ショベル系掘削機械、ショベルトラックが、大震災後から2012年半ばにかけて堅調に増加していた。ただし、それ以降は増勢に一服感が出ている8別ウインドウで開きます

(設備投資増加の鍵は期待成長率)

設備投資は弱い動きとなっているが、こうした状況は一時的なものだろうか。今後の設備投資の動向を探るため、資本ストックの調整圧力、企業向け貸出、企業の手元資金の状況について見てみよう。

まず、資本ストック循環図を見ると、大震災による設備投資の落ち込みにより、投資・資本ストック比率は低下した。その後、復旧・復興需要などに支えられて設備投資は持ち直してきたものの、投資・資本ストック比率はリーマンショック以前と比べてかなり低い水準にとどまっており、資本ストック調整圧力は小さいと考えられる(第1-1-10図別ウインドウで開きます(1))。一方、この図から推察すると、企業の期待成長率も0%をやや超える程度の低い水準にあるが、今後、期待成長率が高まれば、最適な投資・資本ストック比率も高まり、設備投資も復調に向かう可能性がある。例えば、潜在成長率並みの期待成長率(2012年0.4%、13年0.6%)を仮定すると、投資・資本ストック水準から算出される設備投資の伸びは、2013年に前年比+5%弱となる。また、内閣府「企業行動に関するアンケート調査」の今後5年間の期待成長率(1.45%)が徐々に実現される場合の期待成長率(2012年0.5%、13年1.0%)を仮定すると、設備投資の伸び率は2013年に前年比+11%程度とさらに高まる。

次に、設備投資を巡る企業の資金繰りの状況を見てみよう。法人向け貸出動向を見ると、大震災以降は全体として改善傾向にあるが、使途別に見ると、設備資金用資金の貸出の増加幅は横ばい程度にとどまっている(第1-1-10図別ウインドウで開きます(2))。背景としては、企業が設備投資の増加を手元資金で賄っている可能性が考えられる。そこで、設備投資・キャッシュフロー比率を見ると、同比率は低い水準となっており、資金面から設備投資が制約されるような状況ではない(第1-1-10図別ウインドウで開きます(3))。

このように、これまでのところ資本ストック調整圧力は弱く、マクロ的に見れば資金繰りにも比較的余裕があると考えられることから、企業の景況感が改善し期待成長率が高まれば、設備投資も復調に向かうものと期待される。

(雇用情勢は改善の動きに足踏み)

企業の収益や投資は弱い動きとなっているが、家計の雇用・所得環境はどうだろうか。労働需給、賃金の動きを点検する。

第一に、遅行指標である完全失業率は、10月には4.2%となっており、緩やかに低下してきている。一方、有効求人倍率は、有効求人数が減少していることなどから、9月に低下に転じ、このところ横ばい圏内となっている(図1-1-11別ウインドウで開きます(1))。企業の人手不足感を見ると、全産業ではおおむね過不足はないが、業種別に見ると、製造業では過剰感が高まっており、今後その影響が懸念される(図1-1-11別ウインドウで開きます(2))。

第二に、先行指標である新規求人数はこのところ減少している(図1-1-11別ウインドウで開きます(3))。世界景気の減速を背景とした輸出や生産の減少から、製造業では総じて減少しており、特に輸送用機械での減少が顕著である。また、非製造業でも、製造業における減産の動きを背景に、サービス業における職業紹介・労働者派遣業や卸売業など、求人数を減らす業種が見られる(付図1-6別ウインドウで開きます)。

第三に、こうした雇用情勢のもと、所得環境を見ると、実質雇用者所得は、これまでのところ底堅い動きとなっている。これは、賃金がおおむね横ばい圏内で推移する中で、物価と雇用者数要因がプラスに寄与していることによる。ただし、賃金は、2012年央に押下げ要因となっている(図1-1-11別ウインドウで開きます(4))。これは、6月以降、前年度の企業業績悪化を背景とした夏季ボーナスの減少により、特別給与がマイナスに寄与したためである(図1-1-11別ウインドウで開きます(5))。

また、2012年夏以降、生産の減少を背景に、製造業の残業時間が減少しており、所定外給与による賃金の押下げが強まっている。さらに、日本経済団体連合会が11月に発表9別ウインドウで開きますした大手企業の2012年年末賞与・一時金の増減率は、前年比マイナスとなっており、年末にかけて特別給与がマイナスに寄与する可能性がある。

(個人消費はおおむね横ばい)

前述のように、実質雇用者所得は底堅く推移しており、個人消費はおおむね横ばいとなっている。

大震災後、2012年半ばにかけて個人消費は増加が続き、日本経済の牽引役となっていた。この背景には、エコカー補助金等を背景とした乗用車販売の増加、ペントアップディマンドの発現を含む広い意味での復興需要などがあった。消費者マインドも改善し、旅行や外食といったサービス消費も拡大した。その後、政策効果の一巡等を背景として、秋口にかけて一時弱い動きとなったが、自動車販売に下げ止まりの兆しがみられ、最近では全体としておおむね横ばいとなっている(第1-1-12図別ウインドウで開きます(1)、(2))。

また、震災後、緩やかに持ち直してきた消費者マインドは、2012年に入ってからも、おおむね横ばいで推移してきた。ただし、雇用の先行き不安やエコカー補助金終了によって、最近では弱含んでいる(第1-1-12図別ウインドウで開きます(3))。

最後に、好調と言われていた高齢者の消費動向をチェックしておこう。「家計調査」によれば、65歳以上の高齢者世帯の実質消費支出は、大震災以降、全世帯に比べて堅調に回復してきた(第1-1-12図別ウインドウで開きます(4))。年央からは、全世帯が減少する中で、おおむね横ばいで推移してきたが、最近では弱さが見られる。消費者態度指数(60歳以上の単身者世帯)により高齢者の消費者マインドを見ても、消費支出と同様に年央から横ばいとなり、年末にかけて弱含んでいる10別ウインドウで開きます(前掲第1-1-12図別ウインドウで開きます(3))。

(住宅建設は底堅く推移)

家計関連の支出項目でも、住宅投資は2012年半ば以降、前期比で増加が続いている。ここでは、先行指標である住宅着工戸数の動きを中心に、住宅投資を巡る状況を整理する。

第一に、住宅着工戸数を利用関係別に見ると、持家、貸家、分譲住宅いずれにおいても、大震災後持ち直し傾向で推移し、最近では底堅い動きとなっている(図1-1-13別ウインドウで開きます(1))。この間、住宅エコポイントの受付が2009年12月から2012年7月まで11別ウインドウで開きます行われ、2011年7月末、2012年10月末にその着工期限を迎えたことから、前後に駆け込み及び反動減の影響が見られる。また「フラット35S」の申請受付が平成17年6月以降行われている(付図1-7別ウインドウで開きます)。

第二に、後述するように(第1章第2節1参照)、被災3県(岩手県、宮城県、福島県)の住宅着工は、2012年に入ってから2010年比プラスで推移しており、震災に伴う復興需要や震災直後に滞っていたペントアップディマンドが現れているものと考えられる。2011年3月以降の各月における対2010年同月差の累計(マイナスの月も含む)は、岩手県で1,663戸、宮城県で5,689戸、福島県で300戸となっている。これは、岩手県、宮城県については、各県の復興見込戸数16,000戸、72,000戸に対して、それぞれ10.4%、7.9%にとどまっている。このため、被災3県では今後も復興需要が続いていくと見られる(図1-1-13別ウインドウで開きます(2))。

第三に、住宅取得マインドは、住宅展示場来場者組数が前年比プラスで推移し、不動産購買態度指数も持ち直しているなど回復傾向にある(付図1-8別ウインドウで開きます)。今後、復興需要や回復傾向にある住宅取得マインドを背景として、住宅建設は底堅く推移することが期待される。

他方、建設労働過不足率の推移を見ると、大震災以降、西日本に比べて東日本において不足感の高まりが見られる。特に、関東や東北においては、不足感の高い状態が続いていることが特徴的である。これら地域における建設労働者の需給の状況を見ると、大震災以降、有効求人数が上昇している一方、有効求職者数は減少しており、有効求人倍率は全国平均と比べて高い水準となっている。建設労働者不足が住宅供給の制約となっている可能性があることに注意が必要である(第1-1-14図別ウインドウで開きます)。

(公共投資は2013年1-3月期には増勢が一服する可能性)

公共投資は、2012年7-9月期まで3四半期連続して増加している。先行指標となる請負金額の動きを中心に、その動向を確認しよう。

公共工事請負金額は、復興関連予算の執行が本格化したことを背景に、2011年8月以降、前年比でみておおむねプラスを維持してきた(第1-1-15図別ウインドウで開きます(1))。しかし、前期比ベースで見ると、2012年7-9月期は、小幅ではあるが震災後初のマイナス(-0.3%)となっている(第1-1-15別ウインドウで開きます(2))。請負金額と公的固定資本形成の算出に利用されている公共工事出来高の時差相関を見ると、出来高が4ヶ月遅行する場合に正の相関が最も強くなっている(第1-1-15図別ウインドウで開きます(3))。これらを踏まえると、増加基調となっていた公的固定資本形成も、2013年1-3月期には増勢が一服する可能性がある。

東日本大震災復旧復興関連予算は、2012年度当初予算時点で既に18兆5,000億円余りとなり、集中復興期間(当初5年間)に予定されている公費投入額19兆円に対して、98%弱までが措置済みとなっている。そのため、2013年度以降は2011年度補正、2012年度本予算で手当てされた復興関連予算による下支え効果は弱まっていくと考えられる。一方、後述するように(第1章第3節3参照)、2012年11月30日には、「日本再生戦略」における重点3分野(グリーン、ライフ、農林漁業)を始めとする施策の実現前倒し、東日本大震災からの早期の復旧・復興及び大規模災害に備えた防災・減災対策等を内容とする、新たな経済対策「日本再生加速プログラム」が策定されており、今後の公共投資の押上げにも寄与することが見込まれる。

なお、2011年秋以降、被災地域での公共工事の入札において、参加者がいない等の理由で開札に至らなかった「不調」が急増し、復旧・復興需要発現のボトルネックとなっていた(付図1-9別ウインドウで開きます)。その後、国土交通省により「復旧・復興事業の施工確保対策」が打ち出されたことなどにより、2011年度末から2012年度初にかけて不調率は低下傾向となっていた。もっとも、2012年5月頃からは再び高止まりしており、今後の公的固定資本形成の動向に影響を与えかねない要因として注視する必要がある。

このように、企業部門では、特に製造業において、輸出の減少等から、収益が弱含んでいるなかで、設備投資も弱い動きとなっている。また、家計部門では、雇用・所得環境の改善に足踏みが見られる。収益や所得が弱まる中、景気の調整圧力が高まるリスクには警戒が必要である。ただし、住宅建設、公共投資は景気を下支えしており、個人消費も全体としておおむね横ばいとなっている。

コラム1-3 円高のメリット

円高には景気に対してプラス、マイナスの両面があるが、短期的にはマイナスの面が大きい。購買力が高まり、内需が刺激されるという側面がある一方、価格競争力が低下し、外需の減少につながる影響が強いためである。

内閣府の短期マクロモデル12別ウインドウで開きますの分析結果を基に為替レート変動の日本経済への影響を見ると、円が10%増価すると、財・サービスの輸出は1年目に-1.67%(2年目は-2.11%)減少し、実質GDPは1年目に-0.19%(2年目は-0.38%)減少する。円高は少なくとも短期的には景気に悪影響を及ぼすことが分かる。

他方、円高によるメリットも生じている。為替レートが円高に振れることにより、輸出は減少するが、輸入物価が低下し、輸入が増加するため、円高は輸入面にはプラスの影響を及ぼすという側面がある。そこで、日本の輸入金額の月次データ(2000-11年)を用いて、為替が前年同月と同じ水準であったと仮定し、為替レートが輸入を通じて通関収支に与える影響を計算した。その結果、2008年以降の円高局面ではプラスの収支益が生じており、2011年には約6.8兆円の円高メリットが得られたことになる。

こうしたことから、円高は景気に対してはマイナスの影響を与えるものの、輸入面ではメリットを生み出していることが示唆される。

コラム1-3図別ウインドウで開きます

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