「日本経済2010」刊行にあたって

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内閣府経済財政分析担当では、毎年末に「日本経済」シリーズを公表し、「年次経済財政報告」後の日本経済の現状に関する分析を提供しています。今回の報告書の特色は、足踏み状態となった景気が、「再起動」して持ち直し基調に復するかどうかを占うため、各種指標の動き、円高の影響について検討するとともに、依然として厳しい雇用情勢やデフレ状況が続く物価動向の背景を点検したことです。全体は次のような3章立てにしました。

第1章では、厳しい状況にある景気と雇用について、その背景と課題を検討しました。要約すれば、(1)景気が足踏み状態から脱するためには、輸出の弱さに伴う電子部品等の在庫調整、自動車減産の影響の早期終息が鍵となること、(2)雇用情勢には持ち直しの動きも見られるが、職種や正社員・パート間のミスマッチなどが依然足かせとなっていること、(3)これまでの雇用関連施策には一定の効果が見られたこと、などがポイントです。

第2章では、景気の下押し要因でもある円高の影響を多面的に分析しました。その結果、(1)1995年当時と比べ、今回は国内民需が脆弱で政策対応の余地も限られる一方、我が国の得意分野での韓国の追い上げ等もあり危機感が強まっていること、(2)円高は加工型業種の株価やマインドを一様に下押しするが、輸出や投資への影響は業種により差が大きいこと、(3)過去、円高メリットを活かした海外事業買収の動きは目立たず、今後の課題となっていること、などが明らかになりました。

第3章では、物価の動向を左右する要因として、需給ギャップに加えてしばしば重視される期待物価に焦点を当てています。ここでは、(1)期待物価は現実の物価を占う上で有用な情報を持ちうること、(2)現状では、期待物価に改善が見られているが、デフレ予想世帯が依然残っていることもあり楽観視はできないこと、(3)先行きの物価予想に直結する当局のメッセージが期待物価の引上げに一定の効果を持つ可能性があること、などを指摘しています。

日本経済が内外における様々なショックに晒される中で、改めてその体勢を立て直し、自律的回復へ向けた基盤を固めていくことが求められています。雇用の安定、デフレの克服も急がれます。

本報告書の分析が、日本経済の現状に対する認識を深め、その先行きを考える上での一助となれば幸いです。

平成22年12月

内閣府政策統括官
(経済財政分析担当)
齋藤 潤

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