「日本経済2009」刊行にあたって

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内閣府経済財政分析担当では、毎年末に「日本経済」シリーズを公表し、「年次経済財政報告」後の日本経済の現状に関する分析を提供しています。今回の報告書の特色は、景気が持ち直している中で、経済活動が依然低水準にあることの意味について、名目値と実質値をかい離させている物価の動向などを含め、総点検を行ったことです。全体は次のような3章立てにしました。

第1章では、世界的な金融危機に伴う急速な景気悪化のあと、我が国の景気がどのように持ち直してきたかを振り返っています。要約すれば、(1)景気の落ち込みが深かった結果、景気が持ち直してきても経済活動水準が低い状態が続いていること、(2)各国の経済対策や新興国等の需要増が先進諸国の景気をけん引してきたが、我が国ではこれらの影響が相対的に大きく現れていること、(3)経済活動水準の低さが、設備投資や雇用の先行きにとって重石となっていること、などがポイントです。

第2章では、自律的回復への課題を探るため、景気回復における企業と家計、外需と内需との関係を分析したほか、供給面の論点として生産性と産業構造の関係を調べました。その結果、(1)過去の例では、回復初期の企業収益の改善が弱いとその後の雇用者報酬の増加も弱い傾向があること、(2)輸出の増加が設備投資を誘発する効果が大きいこと、(3)産業のシェアの変化や労働移動がマクロの生産性を高める動きが最近は目立たないこと、などが明らかになりました。

第3章では、物価や財政金融政策の動向について検討しています。その上で、(1)現在のデフレは、デフレスパイラルが直ちに懸念される状況ではないが、大幅な需給ギャップの存在などから長期化の懸念もあること、(2)日本では景気持ち直しによる受動的な財政収支の改善に限界がある一方、財政収支の長期金利への影響にも注意が必要であること、(3)景気や物価の動向を踏まえた試算によれば、低金利政策による下支えは相当程度の長期間にわたり必要であること、などを指摘しています。

日本経済は、外需や経済対策にけん引された姿から、自律的な民需による回復軌道への移行が課題となっています。そのためには、内外の様々な下振れリスク要因に適切に対応するとともに、家計や企業が将来への展望を見出せるような環境の整備が重要です。

本報告書の分析が、日本経済の現状に対する認識を深め、その先行きを考える上での一助となれば幸いです。

平成21年12月

内閣府政策統括官
(経済財政分析担当)
齋藤 潤

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