まとめ

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本章では、自律的回復への課題を探るため、景気回復における企業と家計の関係、外需や直接投資と内需との関係を調べたほか、供給面での成長の鍵を握る「生産性」について、産業構造との関係を中心に分析した。

内外における過去のパターンを見ると、景気拡張局面の前期で営業余剰の伸びが高いほど、後期では雇用者報酬が大きく伸びる傾向がある。この結果を踏まえると、前回の景気拡張局面における「実感のなさ」の背景には、企業が十分に成長機会を捉えきれず、経済全体として成長力が弱かったことがあったともいえよう。一方、個人消費は拡張局面の前後で意外に安定しており、回復の初期には雇用者報酬が伸びない状況でも可処分所得の増加等によって伸びることが可能である。その意味で、回復初期において家計を支援する政策の役割は重要であると考えられる。また、我が国では失業率の遅行性が知られており、これが景気回復力の弱さをもたらすとの見方もあるが、アメリカでも最近は失業率の低下が景気の谷に遅行する傾向があり、我が国特有の現象とは必ずしもいえないことが分かった。

自律的な景気回復の展望に当たっては、現状では輸出にけん引されて景気が持ち直してきていることを踏まえ、これをいかに国内民需へ「波及」していくかも重要な論点となる。実際、輸出が設備投資を誘発する効果は大きく、我が国における設備投資の変動は主として「輸出型」の業種によって演出されてきた。また、その輸出もまったくの「海外頼み」で動くものではなく、長期的には、対外直接投資を進めることなどで伸びる傾向がある。こうしたことから、グローバル化のメリットを積極的に取り込みつつ、内需の拡大につなげていくことが望ましい。

90年代以降、日本におけるマクロ的な生産性上昇率は鈍化している。その要因は、主として業種ごとの生産性上昇率の鈍化である。業種別のシェアの変化や生産性の高い業種への労働移動によるマクロの生産性への影響は小さくなっている。最近の状況を見ると、生産性上昇率が高いと考えられるサービスに対する需要の増加、あるいは生産性の水準が高く賃金も高い業種への労働移動が一部では生じているものの、全体の中でのウエイトは小さい。イノベーションを進め業種ごとの生産性を高めるとともに、生産性を意識した産業構造の転換を図ることで、マクロ的な成長力を発揮していくことが課題である。

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