第2節 金融面からみた企業部門の動向

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2008年の夏以降、世界的な金融危機が深刻化し、国内の景気が弱まる中で、金融機関の貸出をめぐる環境は変化し、企業からみた貸出態度の厳格化、資金繰り悪化が生じている。また、倒産件数の増加テンポが早まっている。ここでは、金融面からみた企業部門の動向について、金融機関側の状況にも注意しつつ検討する。

1 企業金融をめぐる環境変化

金融機関の貸出をめぐる環境は変化してきている。ここでは金融機関の不良債権の増加と自己資本比率の低下、企業の信用リスクの高まりと社債発行などの直接金融の低迷が、金融機関の貸出動向とどのようなつながりがあるかをみる。

(金融機関の不良債権は増加)

バブル崩壊後、特に1997年以降の金融危機後と比べると、日本の金融機関の経営は健全とされるが、ここではまず不良債権の推移について確認してみよう。金融機関の不良債権比率をみると、2002年以降低下傾向にあり2008年においても低水準にある。しかしながら、2008年9月11には主要行において不良債権残高が増加し、不良債権比率もやや上昇しているとみられる(第2-2-1図)。これは景気が後退する中での倒産の増加、企業収益の悪化などを反映したものと考えられる。

2008年9月中間期において、主要行等は前年同期の2倍近くの不良債権処分損を計上している。今後、景気後退が長引く場合には、潜在的な貸出先の信用リスクの高まりとあいまって、不良債権の増加が貸出の制約要因となる可能性も否定できない。こうしたなかで金融機関では、不良債権を増加させないようにリスク管理を行いつつ、企業経営支援と円滑な資金供給を進めることが課題となる。

また、業態別にみると、地域行、信金・信組の不良債権比率は、主要行と比較して依然として高い水準にある。中小企業への資金供給の多くを担う地域行、信金・信組において、不良債権比率が相対的に高いことには留意が必要である。

不良債権の内容についてやや詳しくみるため、自己査定による債務者区分について2002年以降の推移に着目すると、要注意先向け債権(除く要管理債権)、要管理債権、破綻懸念先向け債権、破綻先・実質破綻先向け債権の合計額は減少傾向にあるが、2007年以降、要注意先の増加によりやや増加している(第2-2-2図)。要注意先が増加した背景としては、企業収益が悪化したことが挙げられる。なお要管理債権の増減要因をみると、2008年3月においては債務者の業況悪化などによるものが増加している(付図2-2(1))。また危険債権以下の増減要因についてみると、正常債権から(要管理債権の段階を経ずに)危険債権となるものがやや増加傾向にある(付図2-2(2))。ここからも、企業収益の悪化を背景に金融機関の不良債権が増加している姿が浮き彫りになってくる。

(金融機関の自己資本比率は株価下落などにより低下)

次に自己資本比率が金融機関の貸出の制約要因となる懸念はないかを確認してみよう。金融機関の自己資本比率の推移をみると、2002年度以降上昇し、2006年度には主要行で13%を超え、地域銀行でも10%を超えた(第2-2-3図)。2007年度には株価下落の影響もあってやや低下し、2008年9月の主要行等の値をみると更に低下しているものの、依然として12%弱の水準となっており、国際統一基準(8%)の達成が直ちに懸念されるような状況ではないと考えられる。

ただし、2008年9月のアメリカの大手金融機関破綻以降、株価が大幅に下落し、10月にはバブル後最安値を更新した。銀行の金融資産に占める株式の割合をみると、3.5%(2008年6月末)となっており、株式含み益の大幅な減少は自己資本への影響12などを通じて融資方針に影響を及ぼす可能性も考えられる。主要行の株式評価損益をみると、2008年9月末時点では、依然として3兆円弱の含み益となっているが、10月以降株価が下落傾向となっていることを踏まえると含み損となっている可能性もある(第2-2-4図(1))。

株価下落が自己資本比率に及ぼす影響をみてみよう。主要行6グループの2008年9月末における自己資本比率は11%を超える水準となっている(第2-2-4図(2))。株価が2008年10月のバブル後最安値の水準まで下落した場合について試算しても自己資本比率は10%を超える水準となる13。試算によれば、自己資本比率が10%を下回る水準となるのは株価が東証株価指数(TOPIX)で600ポイント程度にまで下落した場合である。

なお、日本の金融機関のサブプライム関連商品等実現損失14付図2-3(1))は欧米金融機関と比較して小さく、2008年9月までは、日本の金融機関が海外金融機関へ出資を行う動きもみられた。しかしながら、10月以降の株価下落などによって自己資本が目減りする中で、日本の金融機関においても資本増強のために増資を行う動きがみられる。現時点において自己資本は国際基準からみて余裕があるが、今後、金融機関においては、不良債権や株価の動向などを踏まえながら、「自己資本比率の維持が制約となって貸出を増やせない」といった状況に陥ることを避けることが課題となる。

(株価下落などを背景とした直接金融の低迷と間接金融への移行)

上記のように資金の供給側である金融機関においては、不良債権の増加、自己資本比率の低下といった貸出をめぐる環境変化がみられた。次に、資金の需要側である企業における資金調達をめぐる環境変化についてみてみよう。

我が国では1980年代以降、大企業の資金調達を中心に間接金融から直接金融への流れが生じた。しかし、2008年秋以降、アメリカ発の金融不安が危機へと転化する中、我が国の株価も大幅な下落が続き、景気も後退局面に入った。こうした中で企業の信用リスクも高まり、結果として直接金融による資金調達が困難となってきた。

まず、株式市場を通じた資金調達については、2007年後半以降、規模が縮小する傾向にある。2008年1-3月期に転換社債型新株予約権付社債による大規模な資金調達があったが、これを除けば、株式の新規公開、公募増資(新規公開以外の株式発行)を含め、極めて低調となっている。これは、株価の下落によって、株式市場を通じた資金調達が困難となっているためとみられる(第2-2-5図)。

一方、社債発行の状況をみると、サブプライム住宅ローン問題を背景とする金融資本市場の変動が本格化した2007年後半以降においても、普通社債などを中心とする資金調達の規模は堅調に推移していた。しかしながら、2008年10月においては、株式市場や為替市場などが大きく変動して社債の発行環境が不安定化したことなどを背景として、社債の発行は電力会社などを中心としたAA格以上の高格付社債に限られている。

また、信用力の高い大企業を中心として短期資金の調達に利用される短期社債(電子化されたCP)の残高の推移をみると、2007年後半以降、金融資本市場の変動が大きくなった2007年秋頃や2008年3月頃に残高が減少している。特に、日経平均株価がバブル後最安値を更新した2008年10月の短期社債残高は顕著に減少している。この短期社債の減少分について、企業は金融機関からの借入を利用することによって一部代替していると考えられ、これが大企業向け貸出の増加の一因となっている可能性がある。企業の資金繰りが悪化し、倒産が増加する中で、金融機関を通じた間接金融による資金供給の役割が重要性を増しているとみられる。

(大企業向け貸出が増加する一方、中小企業向けの貸出は減少)

企業の資金調達をみると市場を通じた直接金融は低迷しているが、金融機関からの借入れによる間接金融はどうか。我が国の企業は、バブル崩壊後に生じた過剰債務の整理を長期にわたって行い、金融機関からの借入残高を大きく減少させてきた。その後、緩やかな景気回復が続くなかで、2006年頃から借入残高が増加に転じた。

そこで、金融機関の企業向け貸出残高の推移を企業規模別にみると、大企業向けは2007年以降、前年比で増加している(第2-2-6図)。中堅企業向けは一貫して減少しているが、減少幅は縮小しつつある。これに対し、中小企業向けは、2006年~2007年半ばに増加を示したが、その後やや減少している。大企業では前述のとおり直接金融から間接金融へのシフトもあって貸出が増加する一方、中小企業では金融機関からの借り入れが主な資金調達手段であるにもかかわらず、貸出が減少傾向を続けている。

また、業種別の貸出残高について同様の動きをみると、製造業向けは2006年には増加に転じ、その後も増加が続いている(第2-2-7図)。製造業の内訳をみると増加に寄与しているのは、輸送機械、電気機械、鉄鋼、化学などであるが、2008年には輸送機械、鉄鋼の寄与が小さくなってきている。これに対し、非製造業向けも2006年に不動産業、金融・保険業を中心に増加がみられたが、その後は弱い動きとなっている。建設業向けは一貫して減少しており、2008年7-9月期には不動産業向けも減少に転じた。

このように、金融機関による貸出は大企業、製造業において増加する一方で、中小企業、非製造業において減少する傾向にある。なお、前述のとおり、設備投資は減少傾向となっていることから、金融機関の貸出の増加は運転資金によるものが中心であるとみられる。

次に企業による資金需要はどうか。ここでは、金融機関向けアンケートにおける資金需要の増加・減少を表すDIを利用して、企業規模別の資金需要をみてみる。2007年後半以降、すべての規模で減少傾向にあり、2008年には特に中小企業の減少が大きくなっている(第2-2-8図)。2008年7-9月期においては、全規模においてやや資金需要が持ち直し、大企業では増加超に転じたものの、依然として低い水準となっている。企業の資金需要減少の要因として金融機関が重要視しているものとしては、売上の減少、設備投資の減少、手元資金の取崩しなどが挙げられている。このように金融機関の視点からみると、景気後退を反映して企業の資金需要が減少していることが貸出が一部で減少している一因であるとの解釈もできる結果となっている。

(資金繰り悪化が目立つ建設業)

このように、企業の金融機関からの貸出は2008年に入ってからも、全体では運転資金の必要から増加しているが、中堅・中小企業では減少している。また業種別では、非製造業で弱い動きとなっている。このような状況の中で、企業の資金繰りは、中小企業を中心に悪化している。

まず、企業の資金繰り判断DI(日銀短観)を規模別でみると、いずれの規模でも2007年半ばから悪化しているが、特に中小企業ではDIがマイナス、すなわち「苦しい」と答えた企業の数が「楽である」と答えた企業の数を上回っている(第2-2-9図(1))。その程度(DIの値)を過去と比べると、過去の最悪期(98年後半)や前回の景気の谷(2002年1-3月期)ほど厳しい状況にはないが、北海道拓殖銀行や山一証券が破綻した1997年10-12月期、あるいは2000年、2003年とほぼ同程度の水準となっている。

中小企業について、更に業種別に分けた場合、製造業と非製造業ではほとんど動きや水準に差はみられない(第2-2-9図(2))。しかし非製造業のうち建設業に着目すると、97年以降、すう勢的に悪化している姿となっている。2008年には一段と悪化し、全産業平均の過去の最悪期と同じ水準にまで至っている。なお、不動産業は2007年半ばまでDIがプラスであったが、その後急速に悪化した。ただし、その水準は全産業平均と同程度にとどまっている。

前述のとおり金融機関向けアンケート結果をみると中小企業を中心に資金需要は減少傾向にあることになるが、企業向けアンケート結果をみると中小企業を中心に資金繰りが厳しいことになる。こうした結果の違いの要因については、明確な説明は困難であるが、金融機関と企業の意識の差が現れている可能性もあり、今後、円滑な資金供給の取組を更に進める余地があると考えることもできる。

(中小企業、建設・不動産業を中心に金融機関の貸出態度は厳格化)

企業からみた金融機関の貸出態度DI(日銀短観)も、2007年半ばから低下、すなわち「緩い」と答えた企業の数と「厳しい」と答えた企業の数の差が縮小しつつある。企業規模別では、いずれも同じ方向に動いているが、中小企業は2008年7-9月期にはDIがマイナスに転じている(第2-2-10図(1))。このように企業側からみると、金融機関の貸出態度は厳格化している。これは企業の信用リスクが高まったことによるものだろうか、それとも金融機関が貸出の審査基準を厳しくしたことによるものだろうか。

中小企業について業種別にみると、2003年以降では非製造業の方が製造業より幾分「厳しい」超が多いが、おおむね同じ動きを示している(第2-2-10図(2))。非製造業の中で特徴的な業種は、建設業と不動産業である。建設業は、この間の景気拡張局面に貸出態度がほとんど緩和しないまま、2007年半ばから厳格化が進んでいる。また、不動産業は産業平均の貸出態度が厳格化の方向へ動く際には大幅な厳格化が進む傾向があるが、2007年半ば以降はまさにそのような動きとなっている。このように倒産や収益悪化が著しい建設・不動産業において、貸出態度の厳格化が顕著であることから、企業の信用リスクの高まりが貸出態度の厳格化に影響している可能性がある。

以上は企業側の意識であるが、金融機関側の貸出スタンスもみておこう。それによれば、2005年後半以降、すべての規模で「積極化」と答えた銀行の数と「慎重化」と答えた銀行の数の差が縮小を続けている(第2-2-11図)。しかも、その縮小テンポは、中小企業向け、中堅企業向けの方が大企業向けに比べて速い。これまでは中小・中堅企業を相手とした貸出の開拓に積極的であった銀行が、急速に後ろ向きになりつつある姿がうかがわれる。

このように、貸出態度厳格化の要因は、借り手側(企業)における信用リスクの高まり、貸し手側(金融機関)における貸出姿勢の変化のいずれもありうると考えられる。今後、景気が後退する中で、企業収益の悪化、不良債権の増加、自己資本比率の低下が続いた場合には、借り手、貸し手の双方の要因から貸出態度厳格化が更に進む可能性があることに留意が必要である。

なお、2007年10月以降に信用保証についての責任共有制度が導入され、従前の信用保証協会が100%保証する制度から、原則として金融機関が信用リスクの2割を負担する制度に移行した。この制度変更によって貸出が厳格化したとの企業側の声も聞かれるが、現時点ではデータが不十分であり、これを確認することはできない。また、2008年10月には緊急保証制度(信用保証協会の100%保証。責任共有制度の適用なし。6兆円規模)が導入され、11月には保証枠の拡大(20兆円まで)及び対象業種拡大(73業種追加を追加し618業種に)がなされたことから、今後はこうした中小企業の資金繰り支援策の効果が現れてくるものと考えられる。

(助成的な信用を受けている企業の割合は低下)

一般的に、金融機関が不良債権の処理を先延ばしし、投資機会の少ない企業へ「追い貸し」を行う場合には、健全な企業に対して貸し渋りが発生し、90年代の日本が経験したような長期的な生産性の低迷につながる可能性がある。したがって、今後の長期的な経済動向を見通すためにも、このところ不良債権が増加しているにもかかわらず銀行貸出の増加がみられることが、金融機関による追い貸しによるものかどうかを検討する必要がある。

追い貸しの状況を直接把握することはできないので、ここでは、本来支払うはずの水準を下回る金利を支払っている企業、すなわち「助成的な信用を受けている企業」の割合を推計することでこれに代えよう。ただし、これには政策的に優遇を受けた場合も含まれることに注意する必要がある。

その結果をみると、「助成的な信用を受けている企業」の割合は、90年代前半に大幅に上昇した後、90年代後半以降は緩やかな低下傾向となっている(第2-2-12図(1))。これは、90年代半ばまでは、バブル経済が崩壊する中で、地価の下落による担保価値の低下を受け金融機関が損失処理の先送りを行ったこと、一方で90年代後半以降は、住専の巨額損失が明るみにでたことやその後の大手金融機関の相次ぐ経営破綻などをきっかけに、金融機関の抱える不良債権問題の深刻さが社会的に認識され、政策面からも不良債権処理が促進された15ことが要因として考えられる。業種別の詳細をみると、特にバブル崩壊の痛手が大きかった不動産業や金融・保険業向けなどで、不良債権の処理が進むとともに「助成的な信用を受けている企業」の割合が低下した(第2-2-12図(2))。

最近の動きをみると、2007年夏場にサブプライム住宅ローン問題が発生した後も、この割合の上昇はみられない。アメリカ発の金融危機は日本においても不動産業の一部などに大きな影響を与えたと考えられるが、金融機関は厳格な資産査定を求められていることから、融資先の支援に際しては単なる損失の先送りにならないよう慎重な判断を行っていると考えられる。

コラム2-2 バブル崩壊後の金融危機における日本の経験16

アメリカの大手金融機関が9月に経営破綻して以降、欧米の金融機関は、不良債権を含めた財務状況に対する疑念から取引相手への信頼を失った状態に陥っており、流動性の不足が生じているほか、自己資本不足が懸念される状況が生じている。こうした中、各国では流動性の供給、資本注入等の政策措置が採られている。

今回の金融危機への対応を論ずる際、しばしば日本におけるバブル崩壊とその後の金融システム不安の経験が参考として挙げられる。日本の金融機関の不良債権残高は、ピーク時には約43兆円(2002年度:名目GDP比8.5%)に達していた。この状況に対し、政府は、厳格な資産査定の下での不良債権買取、資本注入等の対応策を実施した(コラム表2-2)。また、この間、預金保護や企業再生等を図った。日本銀行は、ゼロ金利や量的緩和政策の時期を含め潤沢な流動性供給を行うとともに、金融機関経営における保有株式の価格変動リスクを軽減するために株式買入を行った。

このような政策対応の下で、金融機関において不良債権処理が進められた結果、92~2008年3月までの処理額累計は約99兆円となっており、公的資金の投入実績等は約47兆円となっている。

2 倒産

企業の資金繰りが困難化するのに伴い、倒産件数が増加している。以下では、最近の倒産の特徴とその背景を分析する。

(建設業などのほか原油高の影響で運輸業の倒産が増加)

2007半ばから緩やかな増加傾向に転じた倒産件数は、2008年半ば以降そのテンポを速めている。ここでは、最近の倒産の状況について、過去の倒産急増期である1997年~98年、2000年前後と比べよう。なお、景気拡張局面であった2000年に倒産が急増したのは、緊急経済対策の一環として、98年10月から2001年3月まで創設された「中小企業金融安定化特別保証制度」によりいったんは99年に倒産が減少した後、再度倒産が増えてきたことによる。

まず、業種別寄与をみると、倒産増加の中心が建設業であることや、製造業、卸売業など幅広い業種で倒産がみられることに変化はない。一方、今回の景気後退局面の特徴としては原油高騰の影響から運輸通信(大部分がトラック運送などの運輸業とみられる)の増加が目立っている(第2-2-13図(1))。

負債額別の特徴をみると、過去においては1000万円以上、5000万円以上、1億円以上がほぼ同じ程度に寄与している。これに対し、今回は1億円以上の中規模倒産の寄与が比較的大きいウェイトで定着してきている。(第2-2-13図(2))。

さらに倒産原因別の件数をみると、最近は「過小資本」(運転資金の欠乏が含まれる)による倒産が増加している。また、「連鎖倒産」も増加しており、その背景として、不動産業界の不振が他の建設業者、不動産業者へと連鎖している点を指摘できる17。(第2-2-13図(3))。

なお、こうした倒産の増加を反映して、信用保証協会による代位弁済18は、件数、金額ともに2007年度は前年度を上回っている。また、代位弁済率についても、2007年度は前年度を上回り、代位弁済の回収率19は前年度を下回っている(第2-2-14図)。これは企業の倒産が増加していることと整合的な動きであり、今後、金融機関においては急速に業績が悪化した取引先の与信管理や新規融資における審査、融資先の経営サポートなどが益々重要になってくると考えられる。

(上場企業の倒産件数は不動産・建設関連を中心に大幅増)

今回の特徴として、上場企業の倒産が急増したことも指摘できる。上場企業の倒産件数は、2008年度4~10月期において前年度の同期間と比較して20件増の25件と大幅に増加した20。以下では、今回の上場企業倒産の増加について、その特徴を整理しよう。

第一に、業種別にみて不動産・建設関連の倒産が多いことがあげられる。不動産・建設関連の倒産は8件と、上場企業倒産の過半を占めている。この背景には、不動産価格が上昇し消費者の買い控えが生じ始めたところに、昨年夏に発生したサブプライムローン問題21や改正建築基準法による混乱が直撃したことなどがあげられる。

第二の特徴として、企業が黒字を維持しているにもかかわらず倒産に至る「黒字倒産」の増加があげられる22。2008年度の黒字倒産件数は前年度から大幅に増加しており、上場企業倒産が大量に発生した2000年度前後と比べても高い水準にある(第2-2-15図(1))。

では、黒字倒産はなぜ増加しているのだろうか。黒字であるにもかかわらず倒産に至るのは、事業環境の急変などにより急速に資金繰りが悪化したためと考えられる。そこで、資金繰りが悪化した要因として金融機関による「貸し渋り」の可能性を検討してみよう。倒産企業のうち借入金が前年度比で減少していた企業がどの程度あるかをみると、2005年度頃からほぼ横ばいとなっており、また、貸し渋りが問題となった2000年度前後と比較すると低い水準にある(付図2-5)。この結果からは、金融機関による貸し渋りが生じている可能性は否定できないものの、現在の黒字倒産の増加には他の要因による影響が大きいと考えられる。

貸し渋り以外に黒字倒産を引き起こしている要因として、棚卸資産の増加が考えられる。事業環境の急変などにより予定のとおり棚卸資産を処分できなかった場合には、棚卸資産を抱えていることが資金繰りを大きく圧迫するためである。実際に、棚卸資産が増加した後倒産に至った件数をみると、黒字倒産と同様、2008年度に大きく増加しており、2000年前後と比べても高い水準にある(第2-2-15図(2))。不動産・建設関連を中心に、景気後退による事業環境の悪化が急速に進み、見込んでいた売上げを達成できないなかで、棚卸資産の増加が資金繰りを圧迫し倒産に至るケースが増加しているとみられる。

(まとめ)

アメリカ発の金融危機に伴う大幅な株安等を受け、大企業を中心に直接金融による資金調達が困難となっている。これに代わるように、大企業向けの銀行貸出は増加を続けている。一方、中小企業向け貸出は減少傾向にある。これには資金需要が減少している結果という面もあると考えられる。ただし、中小企業、特に建設業を中心に資金繰りが悪化し、建設業や不動産業を中心に金融機関の貸出態度が厳格化したとみられることに注意が必要である。

現在のところ、我が国金融機関のバランスシートは相対的には健全であるとみられるが、景気が後退するなかで、株価は下落傾向となり、不良債権処分損は急増した。こうした状況が続けば、自己資本比率の低下、ひいては貸出姿勢の消極化につながる可能性がある。

一方、こうしたなかで金融機関では増資によって資本充実を図る動きがみられる。また、政府としても緊急保証制度の保証枠及び対象業種拡大、セーフティネット貸付の枠拡大などの対策23を講じているところであり、今後、その効果の発現を注視していく必要がある。

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