第1節 2007年における景気回復の姿

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(2002年初めから続いている景気回復を振り返って)

2002年初めから始まった今回の景気回復は2007年半ば以降も持続しており、息の長い回復が続いている1。そこで、今回の回復局面がどのように推移してきたかを、実質GDP成長率の動きを追うことで振り返ってみたい(第1-1-1図)。

まず、2003年度から2006年度までに着目すると、年度ベースの実質成長率は2%台前半で安定的に推移してきたが、その中身(需要項目別の寄与度)については、変わっていない部分と変わってきた部分がある。変わらなかったのは、財政再建が進む中で公需への依存がなかったこと、世界経済の順調な回復を反映して外需が堅調であったこと、さらに設備投資が大きく寄与してきたことである。これに対し変わってきたのは、個人消費の位置づけである。2003年度に弱かった個人消費は、その後伸びを高め、景気回復を支える重要な柱となった。

しかしながら、同じ期間を四半期ベースでやや仔細にみると、何度か弱い動きが生じたことがわかる。2004年半ば以降、外需が弱まった時期があるが、このときは情報化関連部門の調整や個人消費の減少も加わって踊り場的な状況を呈していた。踊り場を脱却した後は、企業部門、家計部門、海外部門のバランスがとれた成長がみられたが、2006年の夏場には梅雨明けの遅れなど天候不順の影響もあって再び消費の動きが鈍くなった。

(民間需要の各項目が交互に弱い動きをみせた2007年)

個人消費はその後もやや不安定な動きを繰り返した。2006年の終わりからいったんは持ち直したが、2007年4-6月期には伸びが鈍化し、7-9月期も引き続き低い伸びとなった。

また、これまで主力であった設備投資は、2007年4-6月期にはやや大きな減少となった。これには統計の標本替えという技術的な要因も否定できないが、7-9月期の伸びも低くなっており、年度計画の動向なども踏まえると、基調として増加ペースが緩やかになっているとみられる。

2007年には、7-9月期に住宅投資が大幅に減少するという異例の事態も発生した。これは6月20日の改正建築基準法の施行の影響で、住宅着工が大きく落ち込んだことによる。

他方、外需は4-6月期に幾分減速したものの、7-9月期はアメリカ向け輸出の回復などもあって大幅に増加した。

このように、2007年は民間需要の各項目が交互に弱くなり、特に4-6月期は結果としてGDP成長率がマイナスとなったが、その後は外需の堅調さによって、回復軌道が維持されている。

こうした展開を景気回復の波及経路という観点で捉えなおすと、外需の堅調さを背景に企業収益は依然高水準であり、設備投資も緩やかながら増加基調であるなど企業部門は底堅く推移しているが、このところ賃金が伸び悩む中で個人消費は天候に左右されるような脆弱さを抱えており、家計部門への景気回復の波及は足踏み状態となっている。なお、外需を背景として企業部門が底堅いことは、夏場以降、鉱工業生産が持ち直してきたことからも確認できる。

(消費者物価は横ばい圏内の動き)

この間、「経済の体温」である物価はどう動いたか。今回の回復局面を振り返ると、長期にわたって「持続的に物価が下落」するという意味で「デフレ」が生じていた。2006年半ばになって、ようやくこのような状況ではなくなった。その後の動きを消費者物価指数(CPI)でみてみよう(第1-1-2図)。

まず、「生鮮食品を除く総合」(いわゆる「コアCPI」)2は、それまで上昇していた原油価格が2006年秋以降下落した影響もあって、2007年初めには前年比マイナスに転じ、それ以降横ばい圏内(前年比伸び率が「ゼロ近傍」)で推移している。ただし今後は、9月以降の原油価格の再高騰の影響が及んでくると見込まれる。

このように「コアCPI」は原油価格の動きに直接影響されるほか、公共料金などの制度的な要因によっても変動する。そこで、国内の経済活動の「体温」の基調を捉えるために、内閣府では石油製品、その他特殊要因3を除く消費者物価(「コアコアCPI」)に注目している。2007年以降、「コアコアCPI」についても前年比ゼロ近傍で推移していた4

(様々なショックと影響のばらつき)

2007年にはまた、経済に影響を及ぼす可能性のある様々なショックが発生した。前述の住宅着工の落ち込みもその一つであるが、そのほかに、新潟県中越沖地震(7月)、アメリカのサブプライム住宅ローン(信用度の低い個人向け住宅融資)問題、それに端を発する金融資本市場の混乱(8月以降)、原油価格の再高騰(9月以降)などが挙げられる。

これらのショックがもたらした影響や今後のリスクについては、以下の各章で順次みていくこととするが、差し当たり2点を指摘しておきたい。

第一に、これらのショックの発生は、これまでのところ我が国の景気回復基調そのものの腰を折るという事態にはつながっていない。すでに生じたショックの中でも特にサブプライム住宅ローン問題に伴う円高や株価の下落、原油価格の高騰はその影響の広範な波及も懸念されるが、日本経済全体への影響は今のところそれほど大きくない。

第二に、しかしながら、多くのショックはすでに一部の部門ないし領域に強い影響を及ぼしている。たとえば、サブプライム住宅ローン問題は一部の金融機関の損失をもたらし、住宅着工の落ち込みは建設業を含む関連分野に打撃を与えた。原油価格の高騰はその他の原材料価格の上昇とあいまって、価格交渉力が弱く転嫁が難しい中小企業を中心に収益を圧迫した。

すなわち、これまで一括りにしていた「好調だった企業部門」が少しずつ切り崩されてきており、マクロの景気動向をみる上でも、これまで以上に業種別、規模別の動向をきめ細かく検討することが重要となっている。

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