日本経済2006(全文)第1章 長期化する景気回復とその先行き

第1章 長期化する景気回復とその先行き

第1節 長期間にわたる景気回復と持続性

(2002年から持続する長期的な景気回復)

2002年初めから始まった今回の景気回復は、2006年11月に57ヶ月を超え、これまで戦後最長であったいわゆる「いざなぎ景気」における景気回復期間(1965年10月~70年7月:景気拡張期間57ヵ月)を上回る回復期間となっている1。今回の景気回復はその期間が極めて長いものとなったという点に加えて、デフレ下で実現したという点でも過去の景気回復と比較して異なる特徴を有している。

今回の景気回復局面では、企業がリストラにより収益体質を改善する中で、雇用・設備・債務の3つの過剰を解消するという構造調整も進展した(第1-1-1図)。この企業部門の回復の成果が家計部門へと波及することにより、企業と家計がバランスよく回復した。景気回復を支えた要因としては好調な世界経済の回復基調をあげることができる。さらに、政策的な取組として金融再生の取組による信用不安顕在化の回避、金融政策を通じての低金利環境の維持などもあげられる。

今回の景気回復期間中の政府の対応を振り返ると、政府は2001年度から2004年度を「集中調整期間」として、不良債権処理を中心とした負の遺産の清算に取り組んできた。これに続く2005年度から2006年度については、これを「重点強化期間」として、新たな成長基盤を重点的に強化していくことを優先課題として構造改革を加速・強化してきた。こうした政府による取組と民間部門の厳しい合理化努力が相互に結びついた結果、長期的な景気回復が実現し、1990年代末から続くデフレは脱却が視野に入るなど、新たな成長へ向けたしっかりとした基盤が整った。

(企業、家計の動向と今後の景気回復の持続性)

景気回復が長期化する中で成熟化の動きもみられるなど、これまでの景気動向をめぐる変化について確認することは今後の回復の持続性を見るための有効な手段と考えられる。我が国経済を取り巻く外部環境を見ると、これまで低金利を背景として世界経済は高い成長率を維持してきたものの、最近の主要国の金融政策の動向を見ると、アメリカでは2004年半ばから、ユーロ圏でも2005年の終わりから金利引上げ局面に入っている。金利上昇を反映して、今後、世界経済は緩やかに減速していくことが見込まれる。このような海外経済の変化は今後の我が国にとって外需面からの影響として現れてゆくことになる。国内を見ると、これまでは企業・家計ともにバランスのとれた回復が続く一方、2006年半ばには天候不順などの影響から個人消費の増加に対する押下げ圧力もみられた。労働市場では人手の不足感が高まっているにもかかわらず賃金の上昇は緩やかなものにとどまり、経済全体で見た雇用者所得の伸びにも鈍化の動きがみられる。一方で、企業部門では大企業を中心に増収増益が続き、設備投資計画も増加基調となっている。

景気回復を今後も持続させていくためには、特に2005年夏以降の踊り場脱却の際に明確に現れたような企業部門の回復成果の家計部門への波及が続くことが必要とされる。こうした観点からこれまで続いてきた長期的な景気回復が現在どのような状況にあるのか、今後その持続性を確保するための環境は十分整っているのかという点について、直近までの経済指標に基づき整理していくこととする。

第2節 長期的な景気回復下での2006年の日本経済

(2006年の我が国経済の動き ― 成長が続く中、消費には鈍化の動き)

最近1年程度の経済動向を振り返ると、2005年半ばに踊り場的な状況を脱した後、企業部門、家計部門、海外部門がバランスよく回復し、順調に回復を続けてきた。企業部門では、売上高の増加に伴って企業収益の改善が続いており、こうした企業収益の改善や需要の増加等を受けて、企業は旺盛な投資活動を行っている。また、家計部門では、2006年に入ってから、完全失業率が4%台前半で推移するなど雇用情勢は改善に広がりがみられる。同時に賃金は緩やかな増加傾向で推移するなど、家計をめぐる環境は改善が続いている。これを受けて、2005年後半から2006年半ばにかけて個人消費は緩やかな増加が続いた。

こうした中で、2005年度の実質GDPは、3.3%と引き続き堅調な成長が続いており、2006年に入ってからも、消費と設備投資が成長に大きく寄与する中で、実質GDP成長率は第1四半期で年率3.2%、第2四半期で同1.5%、第3四半期で同2.0%となるなど引き続きプラス成長が続いている。ただし、第3四半期の民間最終消費支出が年率▲2.9%となるなど弱い動きとなっていることから、今後の消費動向には注意しなければならない(第1-2-1図)。

物価の動向については、消費者物価2は前年比で上昇が続いており、石油製品、その他特殊要因を除く消費者物価をみても前年比で下落幅の縮小が続き、ゼロ近傍で推移する状態となっている(第1-2-2図)。GDPデフレーターの推移を見ると、前年比マイナスが続くものの下落幅の縮小は続いている(第1-2-3図)。こうした物価指標の動向をみると、1990年代末から日本経済において顕在化した物価が持続的に下落するという意味でのデフレ状況にはない。

ただし、今後の海外経済の動向によっては、デフレ状況に後戻りする可能性が残っていることから、デフレを脱却したとまでは言えず、引き続き、物価の動向には注視していく必要がある。将来的に再びデフレ状況に戻る可能性がないという意味でのデフレ脱却を確認するためには、消費者物価やGDPデフレーターの物価関連指標に加えて、国内市場の需給状況なども踏まえた総合判断が必要となる。その際にはマクロ的な需給状態を把握するためにGDPギャップや費用側からの物価押上げ圧力を把握するために単位労働費用などの指標の動きをみていくことになる。

第3節 回復の動きを続ける企業部門

企業部門は、今回の景気回復の初期段階から積極的なリストラを実行することにより雇用コストを切り下げながら収益体質の改善に努め、回復のけん引役を果たした。ただし、増収増益により確保された利潤は専ら過剰債務の圧縮のために返済に回され、設備投資をキャッシュフローの範囲内に抑えるという慎重な設備投資姿勢を維持してきた。

しかしながら、企業部門の収益構造の改善は著しく、3つの過剰も解消される中で潤沢なキャッシュフローを背景に設備投資は高い伸びを続け、2006年に入ってからも良好な状況が持続している。第2章でみるように、企業部門内部で規模別の収益状況などについて格差が存在するという点に留意は必要であるものの、マクロ的には企業部門の好調さは持続している。

(大幅な増加が続く設備投資)

企業収益の改善や需要の増加等を受けて、企業は旺盛な投資活動を行っている。法人企業統計季報をみると、全規模・全産業の設備投資(ソフトウェア除く)は、1-3月期は前年比13.6%の増加、4-6月期は同18.4%の増加と、企業が設備投資を増加させ続けていることがわかる(第1-3-1図)。

こうした設備投資増加の動きはキャッシュフローに対する設備投資の割合を見ても確認できる。企業は依然として設備投資をキャッシュフローの範囲内で行っているが、このところ製造業、非製造業ともにその割合が高まっている(第1-3-2図)。製造業では、設備投資が増加していることを反映して、有形固定資産は2005年度に増加に転じ、その後も増加し続けている(第1-3-3図)。2004年度以前は設備投資が減価償却及び除去額を下回っていたため、企業の有形固定資産が減少傾向で推移してきたことに比べると大きな変化といえる。

設備投資の動きを規模別に見てみると、これまでの大企業・製造業を中心とした設備投資の増加が、製造業から非製造業、さらには大企業から中小企業にまで広がりつつあると考えられる。大中堅企業においては、2005年以降、製造業で前年比15%を超える高い伸びで推移しており、非製造業においても前年比10%前後の伸びで推移している。中小企業においては、2005年半ば以降、製造業が前年比30%や40%を超える時期もあるなど、おおむね高い水準で推移している。中小・非製造業については、一進一退の状況が続いていたが、2006年4-6月期に、前年比30%を超える大幅な増加を示している。

企業の設備投資意欲も昨年以上に強い状況となっている。「日銀短観」によれば、昨年度の設備投資実績は1991年度以来の高い伸びを示したが、9月調査時点で比較した場合には、今年度の設備投資の伸び率は昨年度の伸び率を上回っている。規模別・業種別の動きでは、大企業では製造業・非製造業ともに2005年度の9月調査時点の伸び率を上回っている。中小企業では、全産業で2005年度の9月調査時点の伸び率を若干下回っているものの、製造業においては、9月調査時点としては設備投資実績が非常に高い伸びを示した2004年以来、2年ぶりにプラスの伸び率となっている(第1-3-4表)。

このように大企業から中小企業へ設備投資を積極化させる動きが広がっていると考えられ、引き続き設備投資の増加が期待できるといえよう。

一方、機械投資の先行指標である機械受注(船舶・電力除く民需)の動きを見ると、2006年に入って増加傾向で推移してきたものの、このところやや弱い動きとなっていることから、こうした点には留意が必要である(第1-3-5図)。

第4節 消費は緩やかに増加してきたが、年後半にかけて横ばいの動き

(個人消費は2006年半ば頃から伸びが鈍化)

踊り場を脱却した2005年後半から2006年半ば頃にかけて、雇用情勢の改善や所得の緩やかな増加など、家計をめぐる環境が改善していることを受けて、個人消費は緩やかに増加してきた。2006年半ばには、梅雨明けが遅れたことなどの天候不順の影響もあって個人消費の伸びに鈍化がみられ、その後も個人消費の伸びに顕著な回復はみられず、年後半にかけて横ばいで推移している(第1-4-1図)。

家計をめぐる環境についてみると、2006年中は基調としては雇用環境の改善が続いた。完全失業率が4%台前半で推移しており、雇用情勢は依然として厳しい状況にあるものの、有効求人倍率についても2005年12月から1倍を超える水準で推移するなど、改善に広がりがみられた(第1-4-2図)。また、消費者態度指数をみると、2006年半ば頃から若干ながら悪化したものの、総じて見ればほぼ横ばいで推移している。景気ウォッチャー調査における家計動向関連の動きをみても、2006年半ばにかけて横ばいを示す50を超えて推移するなど、雇用情勢の改善や所得の緩やかな増加を背景に、消費者マインドは総じてみれば安定的な動きをみせた(第1-4-3図)。2006年半ば頃までの消費の緩やかな増加はこうした家計をめぐる環境の改善を反映したものと考えられる。

しかしながら、2006年前半は、消費の伸びは緩やかなものにとどまり、2006年半ば頃から消費の伸びは鈍化している。2006年前半に伸びが緩やかなものにとどまった要因の一つとして、全国的に春先から夏にかけて例年に比べて雨天の日が多く、また梅雨明けも遅かったなどの一時的な天候不順が挙げられる。家計調査の実質消費支出の動向をみると、6月は前年比▲1.7%、7月は前年比▲1.3%であったが、このうち、天候不順の影響を受けた可能性のある品目の寄与をみると、全体の減少分のうち、6月は約6割、7月は約4割強が天候不順による消費支出減であったと考えられる。しかしながら、8月の実質消費支出減少分のうち天候不順の影響を受けた可能性のある品目の寄与は全体の約1割にまで縮小するなど、梅雨が明けた8月以降は、天候不順による影響は限定的なものとなってきている。それにもかかわらず、その後も消費は振わず、このところ横ばいで推移している(第1-4-4図)。

2006年半ば以降に消費が鈍化した要因を考えるとき、その背景の一つとして雇用者所得の伸び悩みがあると考えられる。実質雇用者所得の推移をみると、2005年以降、実質雇用者所得は緩やかな増加を続けており、それと歩調を合わせて消費も緩やかに増加を続けてきた。しかしながら、2006年半ば頃から、実質雇用者所得の伸びは鈍化し、その動きと合わせるように、消費の伸びも鈍くなっている。実質雇用者所得の伸びを賃金の伸びと雇用者数の伸びに分解して、それぞれの寄与をみると、2005年末にかけては、賃金と雇用者数はともに雇用者所得の増加にプラスの寄与となっていた。2006年に入った後も、雇用者数の伸びは雇用情勢の改善を反映して引き続き雇用者所得にプラスの寄与となっており、寄与の大きさもほとんど変化がない。しかしながら、賃金については、2006年以降、その寄与は徐々に小さくなり、2006年半ば以降はマイナス傾向となっており、こうした動きに沿って実質雇用者所得の伸びが小さくなっていったと考えられる(第1-4-5図)。

雇用者所得をめぐる動きとして、2006年に入ってからも労働分配率の低下の動きが依然として続いていることが指摘できる。労働分配率は、企業と雇用者の間で企業収益がどのように配分されているかを示す指標である。その推移を見てみると、2002年以降、労働分配率は低下傾向で推移しており、企業収益の伸びほどには労働者の賃金が伸びていない状況が続いている。

日銀短観9月調査の結果をみると、企業の経常利益は16四半期連続の増加となるなど、企業の業績は大幅な増収増益で推移している。それにもかかわらず、2006年半ばから雇用者所得の伸びが鈍化している点には留意が必要である。先行きについては、足下で企業の間に雇用不足感が更に広がっており、これを受けて今後、企業が採用を積極化させるようになれば、雇用者数の増加、さらに労働への需要が高まることから賃金が増加することが期待される。これが実現すれば、再び消費の伸びが高まり、景気回復の持続性を高めることに貢献すると考えられる。こうした雇用者の所得環境に関しては第3章で更に詳しく検討する。

第5節 堅調な住宅投資と低調に推移する公共投資

(高水準で推移する住宅着工)

住宅着工は、景気回復が持続する中で、所得環境の改善や低い水準にある金利の動向等を反映して、2006年中は年率120万戸半ばから130万戸の高い水準で推移している。

利用関係別に2006年1-10月期の着工の動きをみると、持家と分譲マンションが小幅ながらも増加に寄与する中で、貸家は大幅な寄与となっている。地域別にみると、首都圏、東海、近畿という三大都市圏でいずれも貸家の伸びが目立っており、その他の地域でも貸家を中心に住宅着工戸数はほぼ増加傾向で推移している。三大都市圏や地方都市を中心に貸家が高い伸びを示している背景には、低金利や所得環境の改善を背景に貸家への投資意欲が高まっていることがあると考えられる(第1-5-1図)。これに加えて、J-REIT(日本版不動産投資信託)を始めとした不動産投資市場の活発化もその背景にあると考えられる。J-REIT保有物件の推移をみると、用途別では住宅の増加が目立っており、更に住宅の物件数を圏域別にみると、三大都市圏のみならず、地方圏においても増加がみられる(第1-5-2図)。

分譲マンションの販売は引き続き好調な動きを示しており、2006年1-10月期の分譲マンションの契約率は、首都圏で79.6%、近畿圏で73.6%といずれも高い水準で推移してきた。こうした動きは、都心回帰の動きとして、都市部への人口流入が増えていることなどが要因として挙げられ、バブル崩壊後の継続的な地価下落により利便性の高い都市部の物件の魅力が増したことなどを反映していると考えられる。

住宅投資に関する環境変化として、最近の地価上昇には注意が必要である。平成18年都道府県地価調査を見ると、全国平均では、昨年よりも下落幅が縮小するとともに、三大都市圏では、住宅地、商業地ともに16年ぶりに地価が上昇に転じている。地方圏では、地価の下落幅は縮小するとともに、地方ブロックの中心都市では上昇地点が増加しており、その他の一部の地方中心都市にも上昇・横ばい地点が現れている(第1-5-3図)。今後、更に地価上昇が進めば、住宅着工の動きに影響が出てくる可能性がある。

首都圏では、マンション建設に適した用地が都心部を中心に減少していることを反映して、東京で分譲住宅着工戸数が徐々に減少する一方、千葉、埼玉などの郊外では着工戸数は増加している。このように首都圏の分譲住宅着工総数に占める東京の割合が低下する動きが出てきており、特に分譲住宅着工については郊外化の進展が確認される。今のところは、東京における分譲住宅着工の減少を千葉や埼玉などの郊外における着工増加が支えていることから、首都圏全体の分譲住宅着工は横ばいで推移している(第1-5-4図)。ただし、こうした郊外化の進展に需要側がついてこられなくなるような状況に至った場合には、全体の住宅着工を減少させる要因となる可能性があることから、今後の分譲住宅の郊外化の動向には注意が必要である。

(低調に推移する公共投資)

公共投資は、国と地方による財政健全化に向けた取組を反映して、総じて低調に推移している。公共投資の関連予算をみると、平成18年度予算では、公共投資関係費について、前年度比4.8%減としつつ、雇用・民間需要の拡大に資する分野へ重点化している。また、平成18年度地方財政計画では、投資的経費のうち地方単独事業費について、中期的に計画的な抑制を図る中で前年度比3.2%減(規模是正後は、19.2%減)としつつ、重点的な配分を行うとしている。

今後も、国・地方の公共投資は低調に推移するものと見込まれる。これは2006年7月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」において、国の公共事業関係費については、これまでの改革努力を基本的に継続するとともに、地方単独事業における投資的経費についても、国の公共事業と同じ改革努力を行うこととしていることにより説明される。

実質GDP成長率における公的固定資本形成の寄与度をみると、公共投資の減少を背景にマイナスとなっている(第1-5-5図)。実質GDP成長率は景気の回復に伴って上昇傾向で推移していることから、公的固定資本形成がマイナスの寄与にもかかわらず、民間需要を中心とした経済成長が続いていることがわかる。

第6節 生産は緩やかな増加を続けるものの情報化関連生産財の在庫は増加

(堅調な出荷に支えられ、引き続き在庫は抑制されている)

民需主導の景気回復に対応し、供給面でも生産は緩やかな増加を続け、水準でも既往最高水準を更新した。景気局面を判断する際に重要な情報を提供する在庫循環の状況を見ると、2005年半ばに世界的な情報化関連財需給の改善を背景に情報化関連の生産が在庫調整局面を脱した後、堅調な出荷に支えられて、鉱工業全体としては引き続き在庫が抑制されている(第1-6-1図)。出荷と在庫の間のギャップをみると、2006年初から出荷の伸びが在庫の伸びを上回る水準で推移しており、全体として在庫が大幅に増加する状況にはないと考えられる(第1-6-2図)。

財別の動きをみると、2006年半ば以降から、情報化関連生産財の在庫が積み上がってきている。これは、デジタル家電の需要が増加していることや年末商戦に向けたメーカーの強気の姿勢を反映したものとみられる。特に、電子部品・デバイスについては、2006年半ば以降、在庫の伸びが出荷の伸びを上回っていることから、在庫が大きく積み上がってきており、こうした動きが情報化関連生産財の在庫増に寄与してきたと考えられる(第1-6-3図)。ただし、在庫はITバブル後の水準を上回っており、今後の動向に注視していく必要がある。

第7節 これまで増加基調を続けてきた輸出は横ばいへ

(2006年半ば以降から横ばいの動きを示す輸出と輸入)

輸出については、2006年初から、アジア向け、アメリカ向けを中心に増加基調で推移してきたが、2006年半ば以降は、アメリカ経済の減速を背景に、横ばいで推移している。

また、輸入については、全体として、2006年初以来、ほぼ横ばいの動きを示しており、アジアから輸入は2006年半ばにかけて増加傾向で推移していたが、その後は横ばいで推移しており、アメリカ及びEUからの輸入については、いずれも2006年初から横ばいで推移している(第1-7-1図)。

輸出について主要品目別の動きをみると、これまで増加基調を維持してきた自動車が横ばいで推移しているものの、依然として輸出の伸びへの寄与は大きい。一方で、同じく横ばいで推移している電気機器については、その寄与が過去にみられた輸出増加局面と比べて小さなものであり、更にこのところ寄与の幅も小さくなってきている。こうした電気機器の輸出に対する寄与低下が輸出全体の伸びを鈍化させている一因となっていると考えられる(第1-7-2図)。

輸出の先行きを見る場合、アメリカ経済の動向に注意する必要がある。アメリカ向け輸出は、2006年初から増加傾向で推移していたが、2006年半ばに伸びが鈍化し、このところは横ばいで推移している。これは、アメリカ経済が2006年第2四半期以降、GDP成長率が鈍化していることを反映している。今後の成長率についても、アメリカの民間エコノミストの予測3では、3%をやや下回る成長率で推移すると予測されている。また、輸出数量指数に先行する動きを示すOECD景気先行指数を見ると、アメリカの景気先行指数は、2006年初から減少している。北米製半導体製造装置BBレシオ4やISM製造業新規受注指数5の動向を見ても、2006年半ば頃から低下傾向にあることから、今後は、アメリカ向け輸出や生産拠点的な位置づけの強いアジア向けの輸出を注視していく必要がある。

コラム1-1 円安が輸出に与える影響

一般に円安になると、輸出数量が増加し、輸出依存型の企業部門の収益も増加することなどから、日本経済全体の景気にとって円安は好ましいと考えられている。最近の為替の動向は実質実効レートで見て歴史的にかなりの円安水準で推移しており、その景気刺激効果を指摘する声もある。実際に、現実の円安が輸出や企業所得にどの程度の影響を及ぼしているかをみるために、ここでは、2004-05年度のデータを基準として、円安が輸出や企業所得に与える影響を内閣府経済社会総合研究所「短期日本経済マクロ計量モデル」(以下、短期マクロモデル)の乗数表6に基づいて試算する。

企業が2005年度事業計画の前提としていた円/ドル想定為替レート(105.01円)と2005年度平均為替レートの実績(113.26円)の差は、企業にとっては予想を上回る円安であったと考えられる。2005年度に為替水準が企業の想定どおりに推移していたと仮定すると、2004年度から2005年度にかけての輸出増加分に対する円安の寄与率は、短期マクロモデルの乗数表から14.3%と試算される(コラム表1-1)。

同様に、企業所得7については、短期マクロモデルの乗数表に従うと、こうした企業の予想を上回る円安は企業所得を1.8%程度押し上げたことになると試算される8

第8節 景気の先行きリスクと回復の持続性

(今後の先行きリスクの評価と回復の持続性)

日本経済は、長期的な景気回復が続いており、企業部門の体質改善と家計部門への回復効果の波及の結果として新たな成長に向けた基盤が固められつつある。一方で、今後の景気動向を見る上で幾つかのリスク要因があることには留意が必要である。

今後の先行き下振れリスクとして考えられるのは、海外経済が予想されている以上の速度で減速することがあげられる。既に、輸出については、アメリカ経済の動向や、OECD景気先行指数等の各種指標から、アメリカ向けやアジア向け輸出の動きに注視する必要がある点について指摘した。現状では、輸出は横ばいの動きを示しているが、アメリカ経済の成長が更に鈍化するようなことになれば、輸出が更に減速していく可能性もあると考えられる。

その他の海外からのリスク要因としては高値で推移する原油価格が挙げられる。2006年7月に70ドル台後半の高値をつけた後、下落基調で推移し、2006年11月には60ドル前後まで下落したが、依然として高い水準で推移しており、引き続き企業収益や個人消費など経済に与える影響には注意していかなければならない。原油の世界的な需給状況は世界経済全体の減速傾向の中で改善が期待されるものの、地政学的なリスク要因による価格上昇の可能性も残っており、価格動向には注意が必要と考えられる。

このような海外要因以外に国内経済でも幾つかのリスク要因を指摘することができる。2006年後半以降、消費の伸びが鈍くなっているのは、雇用者所得の伸びが鈍化していることが要因としてあると説明した。今のところは、失業率や有効求人倍率など雇用環境を示す指標は堅調に推移している。しかし、賃金の伸びが鈍化していることから、雇用環境の動向には注意が必要と考える。

これらの景気下振れリスクは現時点ではあくまで想定されるリスク要因であり、現時点では必ずしも景気回復の持続可能性を失わせるものと考えられるべきではない。しかしながら、国内経済に関する所得環境の変化については、雇用者所得の伸びの鈍化自体は現実の動きとして現れており、今後の展開によっては景気回復を下押しすることになるおそれもある。雇用者所得に関する動きについては企業側から見た労働需要、家計側から見た賃金など様々な観点から検討する必要があり、第2章、第3章で更に詳しく見ていくこととする。

ただし、こうした先行きのリスクが現実のものとなった場合に、日本経済がバブル崩壊後の負の遺産を抱えていた頃のように長期的な停滞に陥ってしまう可能性は小さいと考えられる。バブル崩壊後10年以上にわたって経済の足枷であった不良債権問題が正常化するなど、企業部門における3つの過剰問題が解消し、企業は体力強化に成功した。さらに、デフレ脱却が視野に入るなど、日本経済は長期停滞のトンネルを抜け出し、正常な経済環境へと戻りつつある。事実、今回の景気回復局面においても、中東での紛争勃発や石油価格高騰といった外的ショックがあったが、堅調な成長を続けており、外的なショックに対する日本経済の耐性は強化されている。

(景気回復の評価)

今回の景気回復局面の特徴として、景気が回復しているという実感が乏しいとの指摘がある。今回の景気回復局面と過去の回復局面における年平均の実質経済成長率を見ると、例えば「いざなぎ景気」で年平均11.5%、「バブル景気」で年平均5.4%と過去の景気回復局面では高い成長率を実現しているが、今回の景気回復局面における年平均成長率は2.4%と、「いざなぎ景気」や「バブル景気」と比べれば低成長が続いている(第1-8-1図)。このように、回復局面が長期化しているものの、過去に比べて回復に力強さが欠けていることから、景気回復を実感できていないものと考えられる。

さらに今回の景気回復はデフレ下で実現したという特殊事情もあり名目賃金などで見た場合に前年比での増加を実感しにくいという点にも留意が必要である。「いざなぎ景気」時には期間中の前年比平均5%を超える物価上昇率の下で名目賃金は前年比平均12.8%の増加であった。これに比べると今回の景気回復局面では物価は期間中の前年比平均▲0.3%の低下となり、名目賃金も前年比平均▲0.1%の低下となっている。

その他にも景気回復の実感を阻害する要因としては、企業規模別、地域別では依然として回復にばらつきがみられることや、また、長期的には雇用の非正規化の動きがみられたことが挙げられ、こうした点にも注意を払わなければならない。ただし、正規雇用については2006年に入ってから前年比で増加に転じている。