平成17年度 日本経済2005 第2章 第3節 まとめ

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第3節 まとめ

バブル崩壊後に残った債務、設備、雇用の過剰などの問題に対しては、これまでの構造改革の進展により家計部門、企業部門それぞれで正常化の動きが進んでいる。こうした経済構造面の改善の中で日本経済は緩やかな回復を続けている。第2章では、このような認識に立ち、やや中長期的な観点から、日本経済の今後の動向をみる上でも重要になると考えられる論点について考え方を整理した。一つは、内外の金融市場の動向であり、ここでは、とりわけ金融資産価格の回復の動きと今後予想される金利上昇リスクに焦点を当てて分析した。もう一つは、金融市場と裏表の関係にある、企業の資金調達・利益処分の動向であり、日本の企業部門が貯蓄超過となっている背景について、海外との比較も交えて分析した。

(景気回復が続く中で金融市場にもデフレ脱却の動き)

第1節の金融市場の分析からは、以下のようなことが示された。第一に、金融市場では、株価が景気の回復を素直に反映するかたちで上昇した一方で、長期金利は秋口まで低位安定傾向にあった。長期金利の低位安定の背景には、(1)量的緩和継続期待と(2)米国等の海外長期金利安定という二つの要因が考えられ、今後はこれらの要因が剥落していく中で、長期金利の上昇リスクに留意する必要がある。第二に、金利上昇リスクが顕現化した場合、様々な経路を通じて実体経済に影響を及ぼすことが考えられる。金利上昇という動き自体は構造問題の解決による金融政策の正常化、景気回復の持続を反映した自然な流れともいえる。ただしこれまで長期にわたり低金利が維持されてきた後の金利上昇の影響について様々な観点から確認することは重要であると考えられる。経済部門別にみると、企業部門や銀行部門などで、有利子負債の削減や不良債権問題の正常化を通じて、金利上昇に対する耐性力を増してきているが、実際の影響は、個々の経済主体の資産負債の状況によっても異なると考えられる。第三に、銀行貸出は、銀行部門の資金仲介機能が正常化しつつある中で回復している。ただし、大企業向け貸出の伸び悩みや貸出金利低下等にみられる需給環境にあらわれているように、今のところ景気回復に伴う本格的な資金需要として貸出が増加している状況ではない。また、不動産市場についても、J-REIT市場の拡大などの影響もあり、都心部地域を中心に地価が上昇に転じているが、依然として地域格差もみられている。

(過剰債務の解消により企業の資金調達・利益処分行動は正常化へ)

第2節の企業部門の分析からは、以下のようなことが示された。第一に、企業部門が1990年代後半以降、貯蓄超過(資金余剰)の状態になっているのは、設備投資の抑制と利払い費の減少によるものであり、そうして蓄積された資金のほとんどは、債務の削減に充てられた。こうした動きは、バブルの崩壊によって過剰債務を抱えたことを背景に、企業が投資、配当等を抑制し内部留保を蓄積するようなインセンティブを強く持っていることを反映したものである。第二に、最近では、過剰債務がほぼ解消しつつある中で、債務負担による投資や配当への重石がとれつつあり、企業行動は正常化しつつある。第三に、過剰債務への対応という要因以外にも、企業行動が変化しつつある背景には、企業がキャッシュフロー管理を重視し資産効率を上げる努力を行なっていることや、労働市場の流動性の高まりに対応して、賃金や雇用のあり方が変化しつつあることがある。

(今後の展望)

以上のような分析結果を踏まえて、今後の動向について展望する。第1節で分析した金利上昇リスクは、それが経済実体と離れた過度な変動につながるならば景気の大きなリスクとなり得ると考えられる。しかし金利上昇が経済の回復に沿ったものであれば、金融市場の機能正常化に資するものであるという視点は重要である。こうした金融市場の機能回復は、経済全体として資源配分の効率化につながるとともに、外的ショックに対する柔軟な対応を可能とするものであり、中長期的にみれば経済成長に資するものである。第2節で分析した企業部門の正常化の動きについては、企業収益が投資、賃金、配当へと流れていくことで、企業・家計両部門の好循環をもたらし、内需中心の回復に資するものである。ただし、その場合でも、かつてと比べて企業が資金効率の追求を重視する中では、投資の盛り上がり方や賃金の伸びの面においてかつての回復期とは異なるものとなる可能性がある。

このような流れに沿って日本経済全体として、金融市場及び企業部門がともに正常化するということは、資源配分の効率化を通じて、中長期的な経済成長を支える環境を提供することになると期待される。

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