平成11年度の経済見通しと経済運営の基本的態度

平成11年1月18日

閣議決定

1. 平成10年度の我が国経済と国際経済情勢

(1) 平成10年度の我が国経済

 我が国経済は、金融機関の経営に対する信頼の低下、雇用不安などが重なって、家計や企業のマインドが冷え込み、消費、設備投資、住宅投資といった最終需要が減少するなど、極めて厳しい状況にある。

 これに対し政府は、4月に総事業規模16兆円超の総合経済対策を、11月には、総事業規模にして17兆円を超える規模の緊急経済対策を取りまとめた。(注:減税全体の規模を含めれば27兆円規模。)

 今後はこれらの効果などが現われて来るものの、平成10年度の我が国経済は、国内総生産の実質成長率がマイナス2.2%程度になるなど、別添の主要経済指標平成10年度の欄のとおりと見込まれる。

(2) 我が国経済を取り巻く国際経済情勢

 世界経済の現状は新興市場諸国における通貨・経済の混乱をはじめとして、欧米においても先行きに対する不透明感が見られるなど、依然として厳しい状況にある。

 アジア経済は、金融・通貨危機の影響を受け、大きく減速した。米国経済は、景気は拡大しているものの、先行きにやや不透明感が見られる。西ヨーロッパ経済は、総じて拡大が続いているものの、一部にそのテンポに鈍化懸念がみられる。

2. 平成11年度の経済運営の基本的態度

 以上のような情勢を踏まえ、平成11年度の経済運営の基本的態度は次のとおりとする。

(1) 我が国経済の再生

①基本的考え方

 我が国経済の再生の道筋の中で、平成11年度は、はっきりとしたプラス成長へ転換する年と位置づけられる。不況の環を断ち、3年連続のマイナス成長を回避し、回復基盤を固める年にしなければならない。

 したがって、平成11年度の経済運営の基本的態度としては、経済の回復基盤を固めるために、まず、景気の底割れ要因となりかねない金融システム不安・信用収縮のリスクに対して万全の対策を講じる。また、景気回復の動きを中長期的な安定成長につなげていくために、短期的に十分な需要喚起を行うとともに、供給サイドの体質強化を図るための構造改革も進める。このため、機動的弾力的な経済運営を行う。

②金融システム安定化・信用収縮対策・不良債権処理策

 喫緊の課題である金融システムの安定化を実現し、我が国金融機関に対する内外の信頼を回復するため、金融機能再生法及び金融機能早期健全化法を車の両輪とし、金融機関の資本増強等これらの制度の的確な実施に取り組むとともに、金融機関への検査監督の一層の充実を図る。また、貸し渋り・融資回収等による信用収縮を防ぎ、中小・中堅企業等に対する信用供与が確保されるよう、信用収縮対策を強力に推進する。さらに、土地・債権流動化のスキームの活用を図りつつ、金融機関の不良債権等の早急かつ実質的な処理を促す。

③景気回復策

 平成11年度において、はっきりプラス成長と自信を持って言える需要を創造すること、失業者を増やさない雇用と起業を推進すること、国際協調を推進すること、の三点を目標とし、平成10年度第3次補正予算を円滑に執行するため、その手続きを可能な限り早める等、緊急経済対策を始めとする諸施策を強力に推進する。

 具体的には、引き続き積極的な内需拡大を図り、個人所得課税及び法人所得課税の恒久的な減税や、住宅借入金等に係る税額控除制度の改組(住宅ローン控除制度)、情報通信機器の即時償却制度の創設を行う等、景気回復を最優先とした経済運営を行う。

(2)「21世紀型社会」実現のための構造改革

 我が国経済の再生の道筋の途上において、21世紀型社会の実現に向けて、供給サイドの体質強化を図る構造改革を推進する必要がある。財政構造改革については、これを推進するという基本的考え方は守りつつ、財政構造改革法を当分の間凍結することとした。

 また、今後の中期的な経済の姿と政策対応の在り方について、展望を策定する。

①21世紀に向けた施策の展開

 21世紀を開く夢のある先導的なプロジェクト、ゆとりとうるおいのある生活空間を拡大する生活空間倍増戦略プラン、新事業の創出などを図る産業再生計画等を推進する。また、21世紀を見据えて真に必要な分野に社会資本整備を重点化する。

②小さな政府・競争型社会の構築

 行政改革については、2001年1月の新体制への移行開始との目標の下、内閣機能の強化など中央省庁の再編を推進する。併せて、中央省庁のスリム化のため独立行政法人化等や業務の徹底した見直しに全力で取り組むとともに、地方分権を強力に推進する。また、規制緩和推進3か年計画を推進し、官の関与を縮小し、高コスト構造の是正を図る。

 金融システム改革を着実に実施し、ニューヨーク、ロンドンと比肩し得る自由で公正な金融システムの構築を図る。その上で、間接金融中心から間接・直接金融の両立への転換を図る。

 労働移動の円滑化を図るため、有料職業紹介事業、労働者派遣事業等に係る規制の見直し、職業能力開発の促進等を推進する。また、労働移動に対応したポータビリティの確保を含め、年金制度の一環として確定拠出型年金の導入の検討を進める。

③生活者の視点の重視・効率的なセーフティーネットの構築

 社会保障については、国民に信頼され、将来にわたって安定的に運営できる制度を構築することが必要であり、経済との調和を図りつつ、必要な給付は確保しながら、制度の効率化や合理化を進めるなど、年金、医療等の社会保障構造改革を推進する。さらに、失業による生活不安を回避する諸施策を推進する。環境問題については、地球温暖化やダイオキシン類・内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)問題等への取組みを進める。

(3) アジア諸国への積極的な支援等

 アジア諸国に対する融資等を通じて、これら諸国の実体経済回復や経済構造改革の努力を支援する。また、短期資本移動への対応等国際金融システムの在り方について国際的な場での検討に積極的に参加していく。さらに、世界貿易機関(WTO)を中心とする多角的自由貿易体制の維持・強化への寄与や、アジア太平洋経済協力(APEC)における貿易・投資の自由化・円滑化及び経済・技術協力を推進する。

3. 平成11年度の経済見通し

(概要)

 平成11年度には、金融システム安定化策等により、不良債権処理、金融機関の再編が進み、我が国実体経済の回復を阻害していた要因が取り除かれる。緊急経済対策をはじめとする景気回復のための諸施策の実施により、公的需要が十分下支えし、民間需要が緩やかに回復する。この結果、平成11年度の我が国経済は、国内総生産の実質成長率が0.5%程度となるなど、おおむね別添の主要経済指標平成11年度の欄のとおりと見通される。

(個人消費)

 個人消費については、政策対応等により雇用者所得の落込みが避けられること、恒久的な減税の効果が現れること等から、緩やかながら回復に向かう。

(民間設備投資)

 設備投資については、設備過剰感が強く、資本ストック調整が長引くことから、減少する。

(住宅投資)

 住宅投資は、住宅建設促進施策の実施等により、拡大する。

(公需)

 公需は、10年度第3次補正予算の効果もあり、増加する。

(外需)

 世界経済は、欧米経済は若干減速すると見込まれているものの、アジア経済が総じて下げ止まると見込まれること等から、輸出については、僅かながら増加に転じる。輸入については、内需等の動向を反映して増加に転じる。この結果、貿易サービス収支及び経常収支の黒字は若干減少する。