平成10年度の経済見通しと経済運営の基本的態度

平成10年1月19日

閣議決定

1. 平成9年度の我が国経済と国際経済情勢

(1) 平成9年度の我が国経済

  我が国経済は、バブル期の後、累次の経済対策の実施により景気を下支えしてきたにもかかわらず、未だ力強い景気回復の軌道に乗っていない。平成9年度には、4月の消費税率引上げ前の駆け込み需要の反動等から減速し、さらに、企業や消費者の我が国経済の先行きに対する信頼感の低下から景気は足踏み状態となった。また、複数の金融機関の経営問題が起きており、金融システムの安定性確保が重要な課題となっている。

  これに対し政府は、11月、規制緩和を中心とした経済構造改革、土地の取引活性化・有効活用、中小企業対策等からなる「21世紀を切りひらく緊急経済対策」を決定した。12月には、所得課税の特別減税の実施を緊急に決定した。さらに、財政投融資の適切な活用等により、民間金融機関におけるいわゆる「貸し渋り」に対応するとともに、金融システムの安定化策の具体化を進めている。

  経済対策の実施、所得課税の特別減税の実施、金融システムの安定化策の具体化などにより経済の先行きに対する信頼感が回復し、我が国経済は次第に立ち直っていくとみられる。この結果、平成9年度の我が国経済は、国内総生産の実質成長率が0.1%程度になるなど、別添の主要経済指標平成9年度の欄のとおりと見込まれる。

(2) 我が国経済を取り巻く国際経済情勢

  平成6年以降堅調な拡大が続いている世界経済は、途上国で成長率の鈍化がみられるものの、先進国の拡大持続から、全体としては拡大傾向で推移している。

  米国経済は、7年目に入った景気拡大が続いている。平成8年後半から緩やかに改善してきた西ヨーロッパ経済は、総じて回復が続いている。アジア経済は、総じて通貨が減価し、減速している。

2. 平成10年度の経済運営の基本的態度

以上のような情勢を踏まえ、平成10年度の経済運営の基本的態度は次のとおりとする。

(1) 自律的な景気回復の実現

  強靭で活力に満ちた日本経済を実現するためには、民間活力を中心に21世紀に向けた新たな経済政策の展開を図る必要がある。このような観点に立って、「21世紀を切りひらく緊急経済対策」の確実な実行など、適切かつ機動的な経済運営に努めることにより、我が国経済を民間需要中心の自律的な安定成長軌道に乗せていく。

(2) 金融システムの改革と安定性確保

  我が国金融システムに対する内外からの信頼回復を図る観点から、緊急の課題として、預金保険法の改正や新法の制定、預金保険機構に対する国債の交付等の措置を講ずることにより、預金者保護と金融システムの安定性確保に万全を期すとともに、自由で公正な金融システムを目指して、証券取引法の抜本的改正等の改革を進める。また、有価証券取引税の大幅軽減等金融関係税制の改正を行う。

(3) 経済構造改革の推進

  経済のグローバル化の進展、我が国の急速な少子・高齢化の進展等に対応するため、経済構造改革を強力に推進する。具体的には、国際的に魅力ある事業環境の創出、新規産業育成基盤の強化等を図るため、規制の撤廃と緩和に力を入れ、法人課税の改革を実施するとともに、研究開発、雇用労働対策及び中小企業対策等を推進する。さらに、競争政策を積極的に行う。

(4) 行財政改革の推進

  行政改革については、行政改革会議最終報告を最大限に尊重するとともに、規制緩和、地方分権等を行い、21世紀型の行政システムの構築を推進する。

  また、危機的な財政状況、少子・高齢化の進展等に対応し、経済の活力低下、将来世代の大きな負担増を防ぐ観点から、財政構造改革の推進に関する特別措置法を踏まえ、全力を挙げて財政構造改革を推進する。平成10年度においては、一般歳出を平成9年度より減額しつつ、経済構造改革に資する分野などに重点を置きながら、歳出構造を見直す。

(5) 国民生活の充実

  社会保障については、給付と負担の関係を幅広い観点から見直しつつ、効率的で質の高いサービスを提供できる安定的な制度の確立に向け構造改革を進める。公共投資については、生活関連や経済構造改革関連社会資本への配分の重点化を図るとともに、各省庁間連携、建設費用低減、費用効果分析の活用などを通じ、効率的、効果的かつ着実な社会資本整備を進める。また、現下の土地問題に対応し、土地の有効利用や土地取引の活性化等を推進するため、大幅な規制緩和の実施、不動産等資産の証券化の促進、土地税制の見直し等を行う。さらに、ゆとりある住宅・住環境の形成を図るとともに、災害に強い国づくり・まちづくりを推進する。環境問題については、地球温暖化防止対策を始めとする取組みを進める。

(6) 国際的役割の遂行

  世界貿易機関(WTO)を中心とする多角的自由貿易体制の維持・強化への寄与、アジア太平洋経済協力(APEC)における貿易・投資の自由化・円滑化及び経済・技術協力の推進、政府開発援助を含む資金協力等を通じて、世界経済の持続的発展に貢献する。また、市場アクセスの改善等により調和ある対外経済関係の形成に努める。また、アジアの金融市場の安定性確保に向けたIMFを中心とする金融支援に対し、できる限りの協力を行う。

3. 平成10年度の経済見通し(概要)

  平成10年度の我が国経済は、駆け込み需要の反動等の要因が剥落するとともに、経済対策の実施、所得課税の特別減税の実施、法人課税の改革、金融システムの安定化措置などの政策対応も加わって、企業や消費者の我が国経済の先行きに対する信頼感の回復が見込まれることから、回復軌道に復帰してくるものと考えられる。この結果、平成10年度の我が国経済は、国内総生産の実質成長率が1.9%程度となるなど、おおむね別添の主要経済指標平成10年度の欄のとおりと見通される。

(個人消費)

  個人消費については、駆け込み需要の反動等の要因が剥落する中で、雇用者所得の回復などから、回復していくものと見込まれる。

(民間設備投資)

  民間設備投資については、バブル期に積み上がった資本設備の調整(ストック調整)の進展により回復の基盤がととのっていること、企業収益が引き続き改善していくことなどから、製造業を中心に緩やかな増加が見込まれる。

(住宅投資)

  住宅投資は、駆け込み需要の反動といった要因がなくなることに加え、住宅取得環境が改善されることなどから、回復するとみられる。

(公需)

  公需は財政構造改革による歳出削減措置を受けて減少が見込まれる。

(外需)

  世界経済は、アジアの景気減速が見込まれるものの、全体としては、拡大基調を維持すると考えられること等から、輸出については、9年度に比べて伸び率が鈍化するものの増加が見込まれる。輸入については、我が国の景気回復により増加が見込まれる。この結果、貿易・サービス収支及び経常収支の黒字はほぼ横ばいとなる。

主要経済指標

1.国内総生産
平成8年度
(実績)
名目・兆円
平成9年度
(実績見込み)
名目・兆円程度
平成10年度
(見通し)
名目・兆円程度
対前年度比増減率
平成9年度
%程度
平成10年度
%程度
民間最終消費支出 303.0 307.6 317.8 1.5 3.3
民 間 住 宅 27.9 23.1 24.4 17.4 5.7
民間企業設備 78.5 80.4 82.8 2.4 3.0
民間在庫品増加* 0.7 1.0 0.7 (0.1) (0.1)
政府支出 90.5 88.8 87.3 1.9 1.8
最終消費支出 48.5 49.3 50.0 1.6 1.5
固定資本形成 41.9 39.6 37.2 5.6 5.9
財貨・サービスの輸出 51.2 57.3 60.5 11.8 5.6
(控除)財貨・サービスの輸入 48.9 50.4 53.8 3.1 6.6
国内総生産 503.1 507.8 519.7 0.9 2.4
(同・実質) - - - 0.1 1.9
国民総生産 509.0 514.3 526.7 1.0 2.4
(同・実質) - - - 0.2 2.0

※注)民間在庫品増加の( )内は国内総生産に対する寄与度

2.労働・雇用
平成8年度
(実績)
万人
平成9年度
(実績見込み)
万人程度
平成10年度
(見通し)
万人程度
対前年度比増減率
平成9年度
%程度
平成10年度
%程度
総人口 12,578 12,610 12,640 0.3 0.2
15歳以上人口 10,593 10,670 10,725 0.7 0.5
労働力人口 6,737 6,785 6,830 0.7 0.7
就業者総数 6,512 6,555 6,605 0.7 0.8
雇用者総数 5,347 5,395 5,455 0.9 1.1
3.鉱工業生産
平成9年度
(実績見込み)
%程度
平成10年度
(見通し)
%程度
鉱工業生産指数・増減率 2.6 1.8
4.物価
平成9年度
(実績見込み)
%程度
平成10年度
(見通し)
%程度
国内卸売物価指数・騰落率 1.1 0.8
消費者物価指数・騰落率 2.0 0.7
5.国際収支
平成8年度
(実績)
兆円
平成9年度
(実績見込み)
兆円程度
平成10年度
(見通し)
兆円程度
対前年度比増減率
平成9年度
%程度
平成10年度
%程度
貿易・サービス収支 1.9 6.3 6.2 - -
貿易収支 8.8 13.1 13.4 - -
輸出 44.8 50.1 52.8 11.7 5.3
輸入 36.1 37.0 39.4 2.7 6.3
経常収支 7.2 12.1 12.4 - -

(備考)上記の諸計数は、現在考えられる内外環境を前提とし、本文において表明されている経済運営の下で想定された平成10年度の経済の姿を示すものであり、我が国経済は民間活動がその主体をなすものであること、また、特に国際環境の変化には予見し難い要素が多いことにかんがみ、これらの数字はある程度の幅をもって考えられるべきである。

参考資料

第1表 実質国内総支出
平成9年度
(実績見込み)
%程度
平成10年度
(見通し)
%程度
農林漁業生産指数・増減率 0.1 2.9
国内貨物輸送(トン・キロ)・増減率 0.4 1.7
国内旅客輸送(人・キロ)・増減率 0.8 1.4

第3表 生産関係(除く鉱工業生産)

第2表 国民所得
対前年度比増減率
平成9年度
(実績見込み)
%程度
平成10年度
(見通し)
%程度
主要項目 民間最終消費 0.4 2.5
民間住宅 18.9 4.9
民間企業設備 2.9 3.5
政府支出 3.0 1.9
財貨・サービスの輸出 10.7 6.9
財貨・サービスの輸入 0.1 8.0
国内総支出(=国内総生産) 0.1 1.9
国内総支出(=国内総生産)のうち 内需寄与度 1.2 1.9
外需寄与度 1.3 0.0
国民総支出(=国民総生産) 0.2 2.0
第3表 生産関係(除く鉱工業生産)
平成8年度
(実績)
兆円
平成9年度
(実績見込み)
兆円程度
平成10年度
(見通し)
兆円程度
対前年度比増減率
平成9年度
%程度
平成10年度
%程度
雇用者所得 281.1 288.7 297.4 2.7 3.0
財産所得 20.4 17.0 15.2 16.6 10.9
企業所得 91.1 91.9 92.8 0.9 1.0
合計:国民所得 392.6 397.6 405.4 1.3 2.0