緊急経済対策について経済企画庁長官へのインターネット・FAX代表質問(平成10年12月4日)

本稿は、12月14日以降発売された週刊誌等に掲載された「緊急経済対策」に関する政府広報です。

PDFファイルを見ることができる環境をお持ちのかたは、以下をクリックして下さい。
PDFファイル(220KB)

《緊急経済対策》
インターネット・FAX代表質問

危機克服・経済再生のために総結集された多岐にわたる政策。
その効果は。そして展望は。

回答 : 経済企画庁長官  堺屋 太一

日本の未曾有の危機に迅速に対応するために策定された、財政・税制をはじめとする政策の“総力戦”である《緊急経済対策》。
インターネット・FAXで直接寄せられた多くの質問に、経済企画庁長官・堺屋太一が答える。

【緊急経済対策の3原則】
平成11年度の日本経済について
  • 1) 自信をもってはっきりプラス成長にする
  • 2) 失業者を増やさない雇用と起業の推進
  • 3) 対外経済摩擦を激しくしない
Q. 今回の緊急経済対策には、はっきりとした目的とそれを実現するシナリオはあるのでしょうか。

内田 みちる様  東京都世田谷区在住
A. 多くの人々からの質問に含まれていた点、つまり11月16日に決定された緊急経済対策の目的とシナリオを申し上げたいと思います。
まず、今次の緊急経済対策では明確な目的を定めました。
  • 1) 来年度(平成11年度)には、はっきり自信をもってプラス成長になるといえること
  • 2) 失業者を増やさない雇用と起業を推進すること
  • 3) 貿易経済摩擦を抑えて国際協調を推進すること
の3つです。
次に、これを実現するためのシナリオも明確に考えました。それは、
  • 1) まず、金融システムの再生策
  • 2) 需要の拡大を目指した景気回復策
  • 3) 産業再生と雇用対策の促進
を行うことで、「不況の環」を断ち切ることです。
Q. 景気対策に加えて、21世紀の日本経済はどのようなものを目指すべきなのか、大きなビジョンを示し、将来の展望を開いて欲しい。

木村 哲様  神奈川県鎌倉市在住
A. 今回の対策では、経済に対する即効性、波及性と共に、未来性を重視しました。日本が21世紀においても活力と創造性と楽しさを持ち、すべての人々が安全で安心して暮らせる国であることを目指して、「生活空間倍増戦略プラン」と「産業再生計画」と共に「未来創造型プロジェクト」をも発足させることとしています。
日本は高い技術と強い国際競争力を持つ豊かな国です。目下の不況を克服すれば、21世紀の多様な知恵の時代にふさわしい国になると信じています。
【21世紀先導プロジェクト】
~未来先取りで日本元気~
  • 1) 先端電子立国の形成
  • 2) 未来都市の交通と生活
  • 3) 安全・安心、ゆとりの暮らし
  • 4) 高度技術と流動性のある安定雇用社会の構築
Q. 次の機会には2~5年にわたるビジョンをもとに、中期的な景気対策を策定・実施するべきではないでしょうか。

鈴木 俊之様  東京都足立区在住
A. 今回の対策では、平成11年度、同12年度の経済再生の道筋を示しています。これに続いて年明けから経済審議会において、今後の中期的な日本経済のあるべき姿とそのための政策対応についての検討に着手したいと考えています。
Q. 今回の対策の中心となっている「21世紀先導プロジェクト」「生活空間倍増戦略プラン」「産業再生計画」の位置付けがはっきり分かりません。説明してください。

三村 義一様  東京都葛飾区在住
A. 「21世紀先導プロジェクト」とは(1) 先端電子立国、(2) 未来都市の交通と生活、(3) 安全・安心、ゆとりの暮らし、(4) 高度技術と流動性のある安定雇用社会の構築、という4つのテーマのプロジェクトです。これは省庁の枠を超えた総理大臣の直轄するバーチャル・エージェンシー(注)ともいうべき組織で取り組むものです。
「生活空間倍増戦略プラン」と「産業再生計画」も総理大臣から基本的な考え方が示されたもので、具体的内容は明年1月を目途に策定することとなっています。
今回の対策では、社会資本の整備においてはこれら3つを踏まえて情報通信・科学技術や環境、福祉・医療・教育などの分野に重点的な投資を行うこととしています。
(注)特定の部屋を作らずに、総理から直接指示を受ける組織。
【景気回復策の重点方針】
  • 1) 21世紀先導プロジェクト
  • 2) 生活空間活性化策
  • 3) 産業再生・雇用対策
Q. 失業対策を景気対策ですりかえてはならないし、消費刺激のような泡のようなもので雇用創出しても、それはすぐに消えてしまいます。ワークシェアリングを強力に推し進め、今後ますます必要となる職種の養成に投資すべきではないでしょうか。

中野 桂様  カナダ バンクーバー在住
A. 高齢化や情報化の進展等を背景とした産業構造の転換により、必要とされる職種が変わっています。また同じ職種でも高度な知識や技能が求められることも増えています。
このため緊急経済対策においては、新技術、新種起業、産業転換に対応した「流動性のある安定雇用社会」への転換に向けた勤労者教育訓練を推進することとしています。
具体的には、中高年のホワイトカラー離職者を重点に、職業能力の開発向上を通じて再就職を手助けすることです。また中高年を受け入れた企業に、賃金や教育訓練費用を助成する新たな制度を創設する予定です。なお、ワークシェアリングの実施には、賃金など労働条件も含めて、社会的なコンセンサスを得ることが必要でしょう。
Q. 金融機関に対する公的資金投入もやむを得ませんが、2~3年後に再建できなければ経営者の責任を即刻取らせるべきではないでしょうか。

南 充広様  東京都大田区在住
A. 資金は経済の血液であり、その循環をつかさどる金融機関は、心臓の役割を担っています。日本経済の再生のために、バブルの崩壊で弱り果てた金融システムの再生を急がねばなりません。このためには公的資金の投入によって、金融機関の資本力を増強することが必要であることにご理解をいただきたいと思います。
これに対し金融機関の側では、だめなところは統廃合し、健全なところも抜本的なリストラに取り組んで、経営基盤を強化することになっています。
もちろん、自分の勤める銀行をだめにしたような経営者は全員解雇すべきです。今は健全な銀行でも、2~3年の内に再検査し、経営の合理化や社会の公器としての責務を果たさなかったとすれば、経営者の退任を含む経営の抜本的改革を迫ることとなっています。公的資金により資本が増強された後も、金融機関が提出した経営健全化計画がきちんと実行されているかどうかを厳しく監視していくことになっています。
Q. 今回の緊急経済対策は過去の経済対策に比べて規模が大きくなっていますが、具体的に何が変わったのでしょうか。また今回の緊急経済対策の効果が現れるのはいつ頃でしょうか。

橋本 智就様  愛知県日進市在住
A. 今回の対策のポイントは第一に、平成11年度には自信をもってはっきりプラス成長として経済再生の基盤を固める年であり、同12年度は確実な回復軌道に乗せる年であるとするなど、今後の経済再生の道筋を明示しています。第二に金融システム安定化に取り組み信用収縮対策に取り組むなど、前述のような「不況の環」を断ち切るシナリオを明確にしています。そして第三のポイントは規模で見ても過去最大であるということです。
また今回の対策の効果は主として平成11年度に現れると思われますが、それ以前にも家計や企業に対する心理的な好影響を与えるものと期待しています。
Q. 消費税を0%にし、景気回復後税率を段階的に戻してはどうですか?この間の財源は、やはり赤字国債にし償還を消費税に求めるべきです。

澤田 正好様  千葉県松戸市在住
A. 昨年4月に大幅な増税をしたのはタイミングが悪かったと、私(堺屋)は思っています。しかし消費税率を5%へ引き上げたことは、少子化・高齢化の進展に備えた直間比率の見直しという観点から、我が国の将来にとって重要な意味があります。
日本は諸外国に比べて所得税や法人税など、収入にかかる直接税の比率が高く、消費にかかる間接税の比率が低いのです。したがって減税をするなら消費税は5%に据え置き、所得税や法人税の方を引き下げるべきだと考えています。
消費税率を一時的に引き下げ、その後また引き上げるとなればその都度、相当の周知期間・準備期間を設ける必要があります。しかも税率引き下げや引き上げに際しては、買い控えや買い急ぎが発生して流通は混乱するでしょう。そのうえ企業の経理システムを歪め、自動販売機や商品カタログも変更しなければならないなど、社会的なコストもかかります。これらが価格に跳ね返ると、消費者が損をすることになります。
Q. 地域振興券は福祉対策なのか景気対策なのか、位置付けがはっきりしません。またその効果を疑問視する声もあるようです。長官はどのように考えられますか。

村上 由佳様  大阪市淀川区在住
A. 地域振興券は、低所得のお年寄りなど可処分所得が少なく、税制上の恩典に浴しがたい層に対する配慮もあって採用されたものです。これにより個人消費の喚起や地元商店街の活性化への効果は少なくないと考えています。何しろ前例のないことなのでその効果を定量的に示すことは難しいのですが、仮に所得税減税と同様の効果を持つとすると、実質GDPを0.1%程度押し上げるものと見込まれます。
Q. 情報化投資は今後極めて重要になります。政府が情報化のビジョンを示し、官民一体となった情報化投資を推し進めていくべきです。

柳下 幹生様  東京都世田谷区在住
A. ご指摘の通り情報化投資は今後極めて重要と考えています。そのため今回の政策では、総理直轄の「21世紀先導プロジェクト」のひとつとして、先端電子立国の形成を揚げています。具体的には、(1) 次世代インターネット構想を推進し、強力な電子政府、ワンストップ行政サービスなどによる情報化を図ること、(2) 通信コストの引き下げと通信容量の大幅な拡大などで、日本のネットワーク環境を一変させること、のふたつです。
また、情報化を促進する税制改革も重要だと考えています。
Q. 恒久減税には賛成していますが、その財源は赤字国債の連発ではなく、予算の削減により小さな政府を目指すことによるべきです。

伊倉 義郎様  アメリカ ニュージャージー在住
A. 減税の財源としては、当面は赤字国債を充てることとしていますが、中長期的には、財政構造改革による小さな政府を目指すこととしています。
財政問題を中長期的に考えると、まず経済の成長による税の自然増収、第二に歳出の削減、第三には国有財産の処理など多様な選択肢が考えられます。
今、赤字を出すと、次には必ず増税と考えるべきではありません。アメリカの財政も10年前には3000億ドルの大赤字でしたが、今年度は800億ドルの黒字になるといいます。増税もいくらかはありましたが、主として経済が成長して税の自然増収が大きかったからです。日本も経済が立ち直れば、いろいろな可能性が考えられるわけです。

  • おかげさまで、合計343通(電子メール182通、FAX161通)のご意見・ご質問をいただきました。紙幅の都合上、残念ながらそのすべてをここに掲載することはできませんが、いくつかの質問等については、インターネット上でお答えしていきたいと思います。また、いただいたご意見・ご質問は今後の経済運営の参考とさせていただきます。
    ご協力ありがとうございました。

この企画について、ご感想をお寄せください。

宛先 経済企画庁長官官房広報室
   FAX 03-3581-0838