日本経済の再生シナリオについて

平成13年6月21日
経済財政政策担当大臣 竹中 平蔵


 本年1月に発足した経済財政諮問会議は、半年にわたる活発かつ真剣な議論を経て、本日「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(以下では「基本方針」と呼ぶ)を公表した。

 本資料は、「基本方針」に示された改革プログラムを実行するにあたって、想定されているマクロ経済の中期的シナリオについて、有識者議員の方々と相談しながらとりまとめたものである。(したがって、「基本方針」の参考資料ではなく、平成13年度の政府経済見通しの改訂、または「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」の「(参考)2010年の経済社会」で示した内容の改訂を意味するものでもない。)

 海外経済の動向が流動的であることなどから、経済シナリオを厳密に定量化して示すことはきわめて困難である。ここではおおよそのイメージを示すこととする。
 
 

(日本経済は当面低い成長、だからこそ構造改革が必要)

 本年1−3月期は前期比で0.2%のマイナス成長となり、平成12年度の経済成長率は0.9%であった。残念ではあるが、これが構造問題を抱える日本経済の現実である。また、もう少し長い目でみても、80年代の平均成長率は4%を上回っていたのに対し、90年代は1%強にとどまっている。過去10年の日本経済のパフォーマンスは、日本の経済社会が本来持っている成長力を下回るものだった。

 重要なことは、まず、不良債権問題を2〜3年内に解決することを目指すとともに、前向きの構造改革をパッケージで進めることである。こうした取り組みが中期的な日本経済の発展基盤を構築することになる。なお、主要行の不良債権を2年以内に最終処理することによって失業する人は、概ね10万人から20万人程度との試算がある。(業種別の負債や雇用の特性を考慮した推計による。詳細は後日公表予定。) 失業の発生は所得面への影響を通じて家計消費に影響を及ぼすこととなるが、セーフティーネットによって影響は最小限にとどめられると考える。

 今後2〜3年を日本経済の集中調整期間と位置づけ、国民の生活水準が継続的に低下するような事態を回避しつつも、平均して0ないし1%程度(海外経済の減速が長期化しないとの想定)の低い経済成長となることを甘受しなければならない。このようなシナリオにおいて、足元の平成13年度成長については、こうした範囲の中で低めになると見込まれる。
 
 

(構造改革によって中期的には民需主導の経済成長を実現)

 中期的にみると、日本経済は、プライマリーバランスを黒字にすることを目標とした政策運営の中で、構造改革を通じた経済活性化や将来に対する不安感の軽減などにより、民需主導の経済成長を実現し、潜在力を十分発揮していくものと予想される。また、雇用面でも新規分野における雇用機会の創出(試算によれば、新規分野を含むサービス分野においては、5年間で530万人が期待)や労働移動の増加に対応する制度改革によって就業機会の拡大が期待される。今日でも、成長性が高く専門的な技術を必要とする業種や職種(例えば、医療や介護関連、情報等)においては、求人が旺盛で人手が不足しているという事実が、将来の動きを示唆している。

 私としては、構造改革を進め、再生シナリオが実現していけば、少なくとも概ね2%成長程度の実力を日本経済は有していると考えている。具体的な検討は、今後深めてまいりたいと思っている。

 「基本方針」の冒頭で述べているように、グローバル化した時代における経済成長の源泉は、労働力人口ではなく、「知識/知恵」である。「知識/知恵」は、技術革新と「創造的破壊」を通して、効率性の低い部門から効率性や社会的ニーズの高い成長部門へヒトと資本を移動することにより、経済成長を生み出す。構造改革が相当進展した段階において、こうしたダイナミズムが定着してくれば、たとえ人口要因を考慮しても、潜在的な成長能力は2%台半ば〜3%程度に高まることも十分可能になると思われる。
 
 

(改革へのキックオフとなる平成14年度予算)

 以上のような展望に立つとき、「基本方針」のキックオフとなる平成14年度予算はきわめて大きな役割を担っている。ここに示された基本的考え方や重点分野に即して、メリハリの効いた予算編成が行われるものと考えられる。
 
 

(経済の再生シナリオに関する今後の検討)

 以上、「基本方針」の理解を助けるためにある程度の数量的目安を与えることが有益であるとの認識から、私なりの見解をとりまとめた。しかしながら、アメリカ経済の動向等、先行きについては多くの不確定要因があり、的確な数量化は困難がつきまとう。今後とも、マクロモデルの分析を深めるとともに、的確な経済情報の収集に努め、再生シナリオの検討を継続してまいりたい。

 さらに、そもそも政府経済見通しのフォローアップをシステムとしてどのように行っていくべきかに関して、引き続き今後検討したいと考えている。また、年内を目途に作成する中期経済財政計画の中で、再生シナリオの見直しを行ってゆくこととしたい。