第4章 識者の意見

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深尾 昌峰
龍谷大学政策学部准教授、
公益財団法人京都地域創造基金理事長
-「選択する未来」委員会 委員

「社会的投資手法を用いて、成長と持続可能性の実現を」

人口減少をある意味で「チャンス」と捉えて、地域の構造を変える、経済の質を変えていけるような取り組みが求められている。活力あふれる地域社会をつくっていくためには何が必要か。それは、高度経済成長期型の成功体験を一旦横におき、地域社会に「ある」ものを再確認し、そこからその地域ならではの持続可能な循環型社会を構築する必要がある。その中で、私は地域が持っている金融力を引き出す、お金の流れをデザインしていく、ことが必要だと考えている。地方が自ら知恵を絞り、「地域にあるお金」がレバレッジを効かせながら地域の中をぐるぐる循環するようなデザインを考えないと、これまでと同様東京一極集中の構造のもとに地方の疲弊はとまらない。地方創生のお金も未来から前借りしているお金なのだから、従来のばらまきや補助金型であってはならない。具体的な成果目標を設定し、成果を実現するための手段を設計できる人材も必要となる。

そういった観点で「社会的投資」を積極的に地域社会に導入していく必要がある。社会的投資は単なる収益(利回り)だけを目的とする投資ではなく、社会的収益を投資指標の一つの軸に据える投資手法だ。

既に、地域では萌芽的な動きが進んできており、例えば、クラウドファンディングによって被災地で商店が壊滅した人たちに対して、多くの人たちがお金を寄せて再建がなされている。投資家に支払われる利子やリターンは、その商店の商品で払われるケースもあり、そういうものに人々が関心を寄せ始めている。地域の中で共感をベースとしてそうしたものを循環させていくこと、また今まで税金でやっていたような事業の担い手が増えていけば、利子分のところに税金を投入したとしてもトータルのコストは下がっていく。

そういったある意味でのパラダイムシフトは、地域にとってはものすごく大切なパラダイムシフトだろう。そうしたものをもう少し大胆に引き伸ばしていくことで地域内の雇用が生まれ、東京ほど稼がなくても地域で豊かに生きていけるという価値の発信も含めて、非常に大事になってくるのではないか。その核として社会的投資のフレームを入れ込むのが有効だと考えている。

現在、地域金融機関の預貸率の低下が問題となっている。地域外に流出している資金を地域内で循環させる必要があるが、長期的にみるとより大きな危機が見えてくる。相続による地域からの資金流出である。都市に住む相続者が地域金融機関から都市の金融機関に預金を移動させることで、様々な推計があるが、数十兆単位で首都圏に地方から流出すると言われている。こういったことを踏まえて、地域再投資法や社会投資減税などの制度的議論も必要になってくる。

地域の中に資源や知恵というものは埋もれている。「ないモノ探し」から、「あるモノ」に気づいてそれらを活かす。こういうところに呼び水となる政策を展開していくべきだ。私は失敗したっていいと思う。地方がチャレンジし、競い合える環境をつくっていくことが重要である。今取り組み始められた地方創生が一過性のばらまきにならずに、未来のための投資につながっていく仕組みを構築できるかが問われている。

地域の課題解決を担ってきた地方政府も大きな岐路にたっている。人員削減や税収減少、寄せられる市民ニーズの多様化と量的拡大。加えて、人口動態の急激な変化による新たな課題の発生は容易に予想できる。それらの課題解決を行政責任だけにおいて解決するのは不可能である。

つまり、「まちのカタチ」自治のあり方、まちの経営方針と実現方法が問われているといっても過言ではない。このようなパラダイムの変化は往々にして、小規模なまちから起こる。地方をバカにせず、こういった変化に学ぶことが必要だ。内閣府でも「共助社会づくり懇談会」が組織され、社会像の議論と具体的な政策の議論が展開されている。グローバルな経済展開と持続可能な地域社会の形成という一見相容れなさそうに見えるが、新たな資本主義像の模索が続く中で、私は重要なポイントだと考えている。人口減少・高齢化社会への構造変化はやがて多くの先進国が経験することとなる。「課題先進国」としての日本の役割は、この難局を乗り越えその智慧と経験を世界と共有することだ。

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