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第4章 識者の意見

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山重 慎二
一橋大学大学院経済学研究科教授

「老後を保障する社会保障制度の充実が少子化の要因」

少子化への対応策の議論を進めるに当たっては、そもそも少子化がどうして起こったのかという議論が不十分ではないか。少子化の原因は、価値観が変わったからだとか、女性の社会進出が進んだからだという話にとどまっていて、科学的な分析に基づく理解が不十分なまま少子化施策の議論がなされているように思う。

私は、社会保障の充実が少子化をもたらした大きな一因と考えている。つまり、社会保障が充実して老後の生活を政府が面倒を見るようになり、子どもはかわいいから持ちたいと思うが、もし子どもを持つ機会がなければ、それでもあまり困らないので、それも一つの人生であるという選択が行われる時代になったと言える。そして、適齢期に結婚をして子どもを持つという選択が、必ずしも行われなくなってきたと考えられる。しかし、社会保障の充実で子どもを持つことは必要ではないということになると、将来の社会保障の持続可能性が低くなる。つまり、社会保障の充実という政策の副作用が起こっていると言える。この副作用を取り去るのが子育て支援なのだ。

原因を考えることなく、ただ子育て支援をしましょうということになると、「産めよ増やせよ」政策をしているようにも聞こえる。しかし、そうではなく、高齢者の生活保障を社会化したのだから、その副作用を緩和するために、子育ても社会化することでバランスのとれた社会にすることが必要なのだと説明する方が、より強い根拠を持って説得できるのではないか。

出生行動や少子化に関心のある経済学者の間では、社会保障政策の副作用を緩和するために子育て支援が必要という認識は共有されているが、幅広いコンセンサスが得られているとは言えない。私も、1973年の福祉元年宣言前後の意識調査を比較し、社会保障が充実した2000年代には「子どもは老後の支え」と答える世帯が大きく減少しており、社会保障の充実により子どもを持つ動機が低下していることや、子ども及び家族向け社会支出と高齢者向け社会支出の割合と出生率を比較し、高齢者向け社会支出がより大きい国ほど出生率が低くなる傾向があることなどを明らかにしてきた。

子育て支援の出発点は、若い人たちが平均的に2人ほどの子どもがほしいと考えているという希望が叶うような環境を整えていくということだろう。そこはしっかりと国民、特に女性の声に耳を傾けて、何が障害になっているのかということをはっきりさせていくことが大事である。

環境を整えるためには、子どもを育てていくのにおよそどれくらいの支出が必要で、そのうちどれだけ社会全体で支援できるかということを考える必要がある。十分な支援をしていこうとすれば、諸外国の事例を踏まえると、私は現在の約2倍の10兆円程度の追加支援が必要ではないかと考えている。ただ、10兆円という額も高齢者向けの社会支出の額と比べるとかなり小さい。いかに日本の社会保障が高齢者向けとなっているかということがわかる。

また、共働きで子どもを育てられるようになることが、若い人たちの希望を叶えることにもつながる。そのためには保育施設の整備が重要だ。例えば、スウェーデンでは保育所の利用率が大変高く、出生率も女性の労働参加も高いのだが、このように対応するには大変お金がかかる。子ども子育て新システムではニーズ調査を行うことになっており、これは大変良い方向だ。見込みも徐々に変化するので、定常的にニーズ調査は行うべきだろう。ただ、現在の追加予算では、現時点のニーズも満たせないのではないだろうか。

さらに言えば、子育て施策、特に保育施設を充実することは、効果的な成長戦略であることに気づくことも重要だ。ミュルダールが「消費の社会化」と表現したように、増税の税収の一部を保育サービスの拡充に使えば家計の消費は下がるが保育サービスへの公的支出が増えて一国の総支出は増加する。さらに、女性が社会で働くことで、家事サービス等への新たな需要も生まれ、これまでカウントされなかった付加価値が生み出されるだろう。その結果、税収や社会保険の拠出も増大し、財政的にもプラスになると考えられる。もちろん、将来的に子どもが増えることでのリターンも大きい。保育施設の拡充は、需要と供給を大きく刺激する効果的な成長戦略と考えられる。

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