平成11年度

年次経済報告

経済再生への挑戦

平成11年7月

経済企画庁


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第2章 リストラの背景と実態

第6節 企業の体質改善

(三つの過剰の相互関連)

本章では,雇用・設備・債務の過剰について個別に検討してきたが,これらは相互に関係した問題である。既にみたように設備過剰感は雇用過剰感と密接に関係している。これは,過剰設備の維持費のかなりの部分がそこで働いている人々の人件費であり,長期雇用慣行のもとでこれが固定費と企業に認識されていることを示唆している。こうした雇用が別の方向で活用される途が開ければ,設備の処理も進み易くなると考えられる。また逆に設備の売却などの企業再編に伴う障壁を低下させることが雇用の有効活用につながる可能性も考えられる。

企業の債務の中にも,結果的には過大となった設備投資をファイナンスしてきた部分がある。債務の重圧が軽減されれば,これまでのいきさつにとらわれずに企業活動の再構築が進め易くなる可能性があろう。

(三つの考え方)

これまでの考察をまとめるといわゆるリストラの在り方については以下のように考えられる。

第一は,企業の体質改善は不可避であるということである。これまでの資本効率を軽視し,規模拡大を志向する戦略は多くの面で限界に来ている。非効率な生産要素をそのまま保蔵しているだけでは景気は回復しない。仮にこうした状況の下で,企業が含み益を使い続け,また政府の需要面の刺激策に頼り続けるならば,いずれ含み益が完全に払底し,財政も破綻し,一層急速な調整を迫られることになろう。こうした言わば籠城型のシナリオでは,兵糧が滅少していく状況が企業の従業員や国民にも推察され,将来の不安が高まっていく。企業の体質を改善し,本来の意味での生産的な業務を増やすことで,希望と安心感が生まれていくことになろう。

第二は,体質改善に伴う副作用を小さくすることである。特に中高年のホワイトカラーは人口構造上も,情報化の影響という面でも,また職業転換能力面でも不利な立場に立たされており,いわゆるリストラの影響を集中的に受けかねない。職場の都合で現職を離れる場合には,能力と適性にあった業務に就きやすいよう労働市場を整備するとともに,職業能力開発や雇用保険などの分野においても十分な配慮が必要であろう。

第三は,企業の前向きな再編努力の促進である。需要が低迷するなかで,現在の業務の需要に応じて雇用や設備を調整するとすれば,単純削減型のものとなり,経済全体ではこれが相乗効果を持って不況の一層の深刻化になりかねない。企業は従業員の特性を熟知しており,その活用にもっとも有利な立場にいることにかんがみ,新規業務の実施や業務再編,合併や吸収など,資本設備も含めて前向きの形で効率を上げる努力が期待される。そのためには,企業再編の制度的環境を整備するとともに,前向きの挑戦と雇用や設備の再利用をファイナンスするための資金の流れが必要になる。三つの過剰の裏側には,貯蓄超過の下でのリスクマネー不足がある。

リスクに挑戦する行動が増加し,資金面でも,これを支えるリスクマネーの流れが太くなれば,新しい成長の時代が開けてくる。単純な縮み志向ではなく,長期的視野の下に企業を再編し,創造的な人材の育成を行った企業が報いられていくことになろう。

第3章ではこうした前向きの挑戦に関し,リスクという観点から現状と整備方向について検討してみよう。


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