はじめに

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我が国経済は、デフレ状況ではなくなる中で、およそ四半世紀ぶりの良好な状況に達しつつある。この背景として、「三本の矢」の政策の一体的推進により、デフレ脱却・経済再生と財政健全化の双方を進めてきた下で、マクロ経済環境が大きく転換し、企業や家計のマインドが大きく変化したことが挙げられる。企業収益の改善が雇用・所得環境の改善に結び付き、消費や投資の拡大に結び付く「経済の好循環」が生まれ、景気を前向きに進めるメカニズムとなってきていた。2014年は、4月の消費税率引上げの影響を受けて、夏以降には景気回復力に弱さがみられたが、2014年末頃の原油価格下落の影響などもあり、2015年に入って景気は緩やかな回復基調が続いている。

今後については、好循環のメカニズムが強化され、景気が緩やかに回復していくとともに、マクロ経済環境の好転と成長戦略の着実な実行が好循環をなして持続的な成長へつながることが期待される。

こうした現状認識のもと、本報告では、日本経済の好循環を進展させ、成長力向上につなげていく課題は何かという問題意識から、経済財政を巡る短期、中長期の課題について、現状の把握と論点の整理を試みる。

第1章「景気動向と好循環の進展」では、最近の我が国の経済財政の動向を振り返り、今後の展望を探る。具体的には、経済再生の進捗を概観した上で、消費税率引上げや原油価格の下落の中での景気動向、好循環の進展とデフレ脱却に向けた動きの検証、金融及び財政政策の対応を取り上げる。

第2章「成長力強化に向けた労働市場の課題」では、生産年齢人口が減少する中で、限られた労働力を確保し、更に活用していくための課題を分析する。具体的には、近年の女性・高齢者の労働参加の上昇など、最近の労働力確保の状況を概観した上で、新しい雇用形態に関する企業意識の変化、産業・企業間における労働移動の課題、といった論点を検討する。

第3章「イノベーション・システムと生産性の向上」では、成長力向上の取組の中で、生産性向上の源泉としてイノベーションの促進について分析する。具体的には、1990年代以降の低成長期に生産性上昇が伸び悩んだことを振り返った上で、イノベーションの果実を得るための経済システムの視点から考察する中で、研究交流、株式資本の活用、コーポレートガバナンスの取組といった論点を検討する。

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