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第4節 まとめ

本章では、経常収支の赤字が問いかける論点を整理した上で、製造業や事業所向けサービス産業が外で「稼ぐ力」を高めていくための課題、個人向けサービス産業が人口減少・高齢化に対応したニーズに応え、生産性を高めていくための課題について検討した。要点をまとめると次のようになる。

経常収支の赤字が浮き彫りにした構造的課題への対応

経常収支の赤字は、リーマンショック後の円高方向への動きとデフレの下で進んだ日本経済の構造変化と課題を浮き彫りにした。一つは国内の供給制約である。経常収支の赤字は、家計部門の貯蓄減少や設備投資の増加等を背景に貯蓄投資バランスが変化しつつあることを示している。これを需給バランスの観点からみると、日本経済の潜在成長率が低下する中で、消費、住宅投資等の内需を中心に景気が回復してきたことから、供給制約を受けやすくなっていることになる。デフレ下で隠されてきた労働と資本の供給制約が経常収支の赤字により改めて浮き彫りになったといえる。

もう一つは比較優位と外で「稼ぐ力」の変化である。海外生産の拡大や比較優位の変化に伴い、輸出数量は増加しにくくなっている。2012年秋以降円安方向への動きが進む中で、日本企業は輸出財一単位当たりの利益を重視するようになっている。国内の供給制約が顕在化する中で、今後は数量よりも価格で「稼ぐ力」を一層高めていく必要がある。一方、主要国では知識集約的なサービスに強みを持つようになっているが、日本のサービスは海外の需要の取り込みが限定的となっている。対外資産を通じて外で「稼ぐ力」についても高める余地がある。

経常収支の赤字は既に存在していた構造的な課題も浮き彫りにした。エネルギー価格の上昇は経常収支が恒常的な黒字の際も海外への所得流出の最大の要因となってきた。大震災後の原子力発電所の停止に伴い、エネルギー価格の上昇等により交易損失がこれまでよりも拡大するおそれもある。また、経常収支の赤字が生じる中で、海外から安定的に資金をファイナンスできるかという点も意識されつつある。日本の現状をみると、経常収支の赤字拡大が危機を招いた新興国等の事例には当たらないものの、より安定的な資金調達である対内直接投資の拡大や財政健全化への取組は一層重要となっている。

国内の供給制約の顕在化や外で「稼ぐ力」の変化は生産性を高めるとともに、内外の生産資源を最大限活用することが必要であることを示している。また、既に構造的課題となっていたエネルギー問題や財政健全化については、経常収支の赤字を一つの警告と捉えて、取組を一層強化する必要がある。

製造業とサービス業の柔軟な連携を通じて世界経済の活力を取り込むことが必要

比較優位の変化に対応して外で「稼ぐ力」を強化していくためには、どうすればよいだろうか。企業は、国内外の生産工程を見直すことで、付加価値生産性の向上に向けた取組を進めている。

第一に、企業は、複数国にまたがって財やサービスの調達・供給を行うGVCの形成を進めている。GVCの前方への参加は、自国からの資本財等の輸出の増加を通じて、グローバル市場の需要を取り込みやすくする。また、GVCの後方への参加は、安価で質の高い輸入中間財を活用する一方、自国は比較優位を有する工程へ特化することで、国内拠点の生産性向上につながる。今後、GVCへの参加度を、前方、後方共に高めることで、国内外の生産工程を最適化し、付加価値を生み出す力を高めていくことが重要である。

第二に、企業は、国内拠点の見直しの一環として、ICTや研究開発等、専門に特化した事業所向けサービス部門の活用を進めている。これまでのところ、我が国企業はICT関連サービスを中心とした外部化を進めているが、今後、コンサルティング等の専門職サービスの活用を進め、企業の組織改革や新陳代謝の促進につなげていくことも重要である。また、製造業企業は、事業所内部においてもサービス機能を高めているが、例えば先端素材の加工品等、研究と製造の一体型製品においては、両方の拠点を国内に立地することで、高付加価値化を図ることも期待される。

このように、GVCへの参加度を高めるとともに、製造業とサービス業の柔軟な連携を深化させ、両者がともに成長することで、生産性向上が図られ、国内市場の成長に寄与するだけでなく、グローバル市場の活力を取り込むことにも資すると考えられる。

個人向けサービス産業は民間サービスの発展により経済成長と財政健全化の両立が可能

個人向けサービス産業は、人口減少・高齢化に伴う需要の変動に対応していくことが課題である。個人向けサービスはサービスの中でも「生産と消費の同時性」という特徴を強く持つことから、人口減少による需要密度の低下が生産性の低下につながる可能性がある。一方、高齢化により、医療・介護への需要は着実に高まるとみられるほか、高齢者の旅行関連サービスへの需要の高まりも小売業や飲食サービス業等の下支えになることが期待される。

個人向けサービス産業の生産性上昇率は一般的に低いと考えられており、そのシェアの拡大がマクロの生産性上昇率を抑制することが懸念される(ボーモル効果)。これまでのところボーモル効果はほぼ顕在化していないものの、生産性上昇率を高めていくためには、供給面での取組に加えて、今後拡大する医療・介護需要や海外需要を積極的に取り込む需要面での対応が重要である。「課題先進国」として日本で開発したビジネスモデルは、今後高齢化が進む諸外国でも有用であり、外で「稼ぐ力」になることも期待される。

医療・介護は財源の多くを公的財源に依存しており、現行制度のまま需要が増加すれば歳出に増加圧力がかかる。医療・介護に関する歳出の重点化・効率化を進めるとともに、医療・介護周辺産業への多様な経済主体の参入を促進することが求められる。また、健康等のリスクへの対応について、公的保険を基本としつつも、官民で分担していくことが国民の暮らしの安心の確保にもつながる。

個人向けサービス業の生産性上昇に向けた対応は地方経済の自立にとっても重要となる。卸小売業や宿泊・飲食サービス業の集積効果を高めていくことは地方経済の自立性の向上に寄与すると考えられる。また、健康長寿な高齢者の就業促進は地方経済の自立と財政健全化の双方に寄与することが期待される。

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