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第4節 まとめ

本章では、金融市場が国際化し、我が国経済が人口減少時代を迎える中での財政のリスクとそれへの対応を、1我が国国債利回りが低位安定している背景、2政府債務残高の増加の要因、3財政面と機能面での社会保障制度の持続可能性を通じて検討した。

我が国も財政リスクを真剣に考える必要

リーマンショックや欧州政府債務危機などにおいて、財政リスクプレミアムは急激に変動した。金融市場でショックが発生する前までは安定していても、国際金融市場の不安定化とともに大きく変動するリスクが実感された。我が国の国債利回りは、財政状況が極めて悪化しているにもかかわらず、国内民間貯蓄が潤沢であることから低位で安定しているとみられている。その結果、外国投資家による我が国の国債の保有比率は低く、基本的に国内で消化されている。

膨大な政府債務にもかかわらず円滑に国債が消化されている背景には、潤沢な国内民間貯蓄に加えて、景気循環的あるいは制度的要因によって金融機関や中央銀行等の国債保有が拡大していることがある。景気循環的要因としては、景気の低迷による設備投資の抑制から銀行等の貸出が伸びず、国債保有に向かっていることがある。金融政策としては、量的緩和政策のように国債を大量に保有する政策を採ったり、ゼロ金利政策の時間軸効果によって国債価格が高止まりするという予想を醸成して国債保有を有利化しているという面がある。制度的要因としては、金融機関に対するプルーデンス規制により安全資産とみなされる国債を保有する誘因がある。

しかし、今後、高齢化等により国内民間貯蓄が減少する可能性がある中で、金融政策も、デフレ脱却後には金融緩和からの出口を模索し始めると予想され、さらに制度的な封じ込めがいつまでも続くという保証はない。金融市場の信認を保持することが重要な課題となろう。例えば、中期的な財政再建に向けて歳出抑制や歳入増へコミットすることなどが有効であろう。

我が国の財政悪化の要因は、社会保障費の増加と低い税収

リーマンショック後と東日本大震災後の財政出動により財政収支は悪化している。政府は2000年代を通じて基礎的財政収支の縮小を図ってきたが、再び大幅な赤字が続いている。リーマンショックに対しても、東日本大震災に対しても、財政支出を拡大することには十分な理由があるが、将来的に改善するには相当の努力が必要である。

歳入及び歳出の中期的動向をみると、まず歳出については、社会保障費及び国債費の増加傾向が著しい。前者については、急速な高齢化の進展が主な要因であり、加えて、最近では、リーマンショック後の景気動向を映じて、生活保護受給者が急増していることも増加の一因となっている。後者については、継続する財政赤字によって政府債務残高が増大していることによる。

歳入については、税収が低迷しており、歳出に見合った税収が確保されていない。所得税収及び法人税収ともに減少傾向で推移している。消費税収は横這いで推移している。国際比較をすると、所得税収、法人税収及び消費税収ともに低位にある。税収が低迷している背景には、景気の低迷もあるが、裁量的な減税政策が税収を大きく減らしている。減税政策の目的としては、労働インセンティブの改善や競争力の強化などが挙げられているが、課税平準化という要請を満たしていないと考えられる。

政府債務残高は、基礎的財政収支と利払費により変動する。政府債務残高の対GDP比を減少させるためのルートとしては、財政再建(歳出抑制や歳入増による基礎的収支の改善)、実質経済成長率の上昇、インフレ率の上昇、金利の低下、デフォルトなどがある。デフォルトは問題外である上、インフレ率の上昇は、市場金利が上昇するので、政府債務残高削減には一時的な効果しかない。

我が国では、財政再建の努力が継続してなされてきたが、政府債務残高の増大を押しとどめることはできなかった。その代わり、低金利が国債費の軽減を通じて政府債務残高の抑制に貢献した部分がある。イタリア等が、基礎的財政収支は黒字であるにもかかわらず高金利により国債費が膨張して、政府債務残高が拡大するという苦境にあるのと比較すると、この利点は極めて大きなものである。

しかし、低金利がいつまで続くかはわからない。そのため、日本の財政に対する国際金融市場の信認を確保することが重要であり、基礎的財政収支を改善する根本的な財政再建が必須である。

社会保障と税の一体改革で活路を

先に、政府債務残高の増大の要因として、裁量的な減税政策と社会保障費の増加があることを指摘した。社会保障費の内訳を確認すると、年金、医療とも高齢化の進展により増加している。「財政面」で社会保障制度の持続可能性の確保が必要となっている。

もちろん、社会保障制度は国民生活を保障する等の社会的な目的のために実施されているものであるから、社会保障費を削ればそれで良いというわけではない。むしろ、本来の目的をきちんと果たしているか、目的を阻害してしまうような逆機能が発生していないか、社会環境の変化に対応しているか、などを丁寧に検討する必要がある。言わば、「機能面」での社会保障制度の持続可能性の検討が必要である。

近年、所得分布が全体として低所得の方へシフトする中で「分厚い中間層」の喪失という問題が生じているが、世代内格差の拡大、生活保護世帯の増加、社会的排除と呼ばれる現象の発生など生活保障機能の低下が顕著になっている。

年金については、高齢化がより一層進み、経済が低調に推移する中で、制度の持続可能性が問題視されてきた。そこで、2004年の年金制度改革での保険料水準の固定や給付水準を調整する仕組みなど、世代間の負担の格差を調整する方策が採られてきた。しかし、引き続き高齢世代の給付水準が現役世代と比較して高い状態が続いており、格差を調整する現在の方策がデフレ下では十分機能していないことから、このままでは世代間の格差がより一層広がってしまう可能性がある。こうした点で「負担の先送り」が十分是正されたとは言えない。格差の調整が先送りされることは、より若い世代、より将来の世代の負担の増加によって賄われ、いまや、選挙権のない未成年者や将来世代が大きな負担を負うこととされている。

こうしたことから、所得再分配機能の強化と世代間の格差是正に向けた更なる取り組みが不可欠である。

以上のような社会保障制度の財政面と機能面での持続可能性の改善、税制面での改革を一体として行うため「社会保障と税の一体改革」を進めていくことが重要である。

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