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第4節 まとめ

本章では、東日本大震災後の復旧・復興の現状と将来への展望を、被災地における生産や全国的なサプライチェーンの立て直しの状況、被災地における雇用や消費など生活の動向、さらには今後の復興と目指すべき経済社会システムの在り方について検討した。

被災地における生産はほぼ回復

大震災直後、被災地における生産は大幅に減少し、この影響は全国的にサプライチェーンを通じて波及した。しかし、被災地の生産や全国的なサプライチェーンの立て直しは迅速に進展し、両者ともほぼ震災前の水準に回復した。

しかし、被災地の生産の回復の程度は、地域や産業によって大きく異なっている。地域別に見ると、津波被害を受けた沿岸部では生産停止に陥った事業所も多く、また、現在でも回復が大きく遅れている。大きな被害を受けた事業所を再び立ち上げることは相当の困難が伴うことがうかがえる。一方、内陸部では、震災直後の生産の落ち込みも相対的に小さく、また、現在では全国とほぼ遜色ない水準となっている。

産業別に見ると、製造業や小売業等多くの業種では上記のように沿岸部と内陸部で格差が生じているのに対して、建設業など復興需要が強い産業では、沿岸部においても震災前を上回る売上げを見せている。なお、復興需要がもっとも強いのは建設業であるが、その他の業種においても復興需要を享受するようになってきている。また、本社が被災3県にある地元企業で復興需要が強い。

被災地の生産の回復のプロセスにおいて、事業所の集積地域では立ち直りが早いという現象が観察された。今後の被災地の復興に当たっては、事業所の集積が一つのポイントとなると考えられる。

今回の大震災により部品の調達先の集中化は大きなリスクを伴うことが露呈したが、調達先の分散は規模の経済を失わせるため効率性を損なう恐れもある。このようなトレードオフの中で、どのような形でサプライチェーンを再編成するかは、被災地域の企業のみならず、日本経済全体にとっての重要な課題である。

現在までのところ、サプライチェーンの取引先を変更している企業は多くない。今後について、部品調達先の多様化に関しては、多くの企業、特に中小企業では、多様化をしたいという意向はあるものの、コスト面や取引先との関係から変える予定がないと回答している。しかし、大企業ほど部品調達先を多様化する意向は強くなる。さらに、海外からの部品調達については、大規模の企業ほど海外からの調達割合を高める予定としている。もっとも、この傾向は震災前から見られるものであり、必ずしも大震災による変化とは言えない面はある。

被災地における生活も戻りつつある

大震災は、雇用や消費など人々の生活に大きな影響を及ぼした。

被災3県の就業者数、失業率は大震災直後に大きく悪化したものの、その後回復を続けており、大震災前に戻りつつある。

労働需給に関しては、地域間のみならず、産業間や職種間のミスマッチが大きい。沿岸部では、内陸部に比べて全体の有効求人倍率が低い。また、製造業では求人数の不足があるものの、建設業・土木業では逆に求人数に比べて求職者数が圧倒的に少ない。また、事務的職業では求職者数超過であるのに対して、専門・技術的職業は求人数超過である。バランスのとれた雇用を実現するためには建設業だけでなく、求人数が求職数に比べて少ない製造業などの需要を高める必要があるとともに専門・技術的職業の求職者が増えるよう高度人材の育成が重要である。こうした産業の復興や人材の育成をどのようにして実現するかが今後の課題である。

被災3県の消費は大震災により急落後、急速に回復した。全体としては、震災前の水準を上回るほどである。しかし、津波浸水域は営業停止店舗の影響により販売が低迷している。沿岸部は人もいなくなり店舗も再開されないという状況であるが、今後被災3県としてどのような形での復興を図っていくかは重要な検討事項である。

家計において、雇用の喪失や家財の損壊等にどのように対応したかは、被災地の復興のみならず、今後の震災等への対策を考える上で重要な情報である。モニター調査なので代表性に関して留意する必要があるが、いくつかの興味深い現象が見られた。震災により消費の削減を余儀なくされたことは全般的に言えることであるが、とりわけ非正規雇用者や自営業者で影響が大きかった。

また、震災により必要になった支出に対してどのような方法で資金を調達したかを見ると、家屋の補強や医療費の支払いについては、その半分近くを生活費のやりくりで対応しているが、家屋の修理・家財の購入については、義援金や保険金の割合が高い。ただし、地震保険による家屋被害の補償状況を見ると、全額補償されている世帯は少なく、必ずしも十分な額の保険に加入していたわけではない。

今回の大震災後に被災3県からの人口流出が加速したが、人的資本が失われないようにすることが重要である。宮城県では県内の就職を希望をする大卒学生が減少し、宮城県と福島県で県外に就職を希望する中・高卒生徒が大幅に増加した。人的資本は地域発展において鍵となる要素であり、むしろその増強を図っていかなければならない。

新たな復興の在り方を実現する段階に

今後、被災地の復旧・復興がより本格化していくが、ただ単に被災地を復興させるだけではなく、大震災前の社会的なトレンドやニーズを踏まえた上で、どのような社会を目指すべきかをしっかりと整理し復興を進めることが不可欠である。

被災地の人口流出や生産活動の低下は、今回の大震災で加速した面はあるが、震災前から減少傾向にあった。今後の少子高齢化の進行を考えると、人口や生産の適切な水準を見極め、効率的な投資を推進する必要がある。

生産性の向上には、産業の集積と人的資本の向上が鍵となる。今後の復興に当たっては、集積を高めるような産業・商業の復興を進めるとともに、前節でみたように人的資本の流出を止め、一人一人の能力の向上に努めることが重要である。東北のみならず、日本全国においても集積は進展しておらず、集積を推進するため、官民をあげた取組が求められる。

こうした新しい成長を実現するに当たって重要なことは、単に量的な側面ばかりでなく、成長の質を重視していくことが求められる。所得を大きくすることだけでは人々は必ずしも幸福にならない。もちろん、GDPのような量的成長も重要である。しかし、それはあくまで目的のための手段であり、そうした量的余裕を利用して、健康や公平な社会の構築などの質的充実を達成することが必要である。

また、震災などの災害にとどまらず、リーマンショックのような経済的変動などリスクに強い経済システムを構築することが必要である。人々や企業は必ずしもリスクを正確に認識しているわけではなく、また、リスクを認識しても適切な対応を採ることができているわけではない。2000年代のアメリカを中心とする金融の大変動は、そうしたリスク認識の歪みがもたらした悲劇の例である。もちろん、市場経済の特徴はトライアル・アンド・エラーであり、一度の失敗によってすべてが否定されるものではない。人々や企業のリスク認識のクセを踏まえて、頑健な金融システムを構築することにより、リスクマネーを適切な形で供給することが可能となると期待される。

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