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第3節 今後の復興と経済システムの在り方

ここまで被災3県における生産の立て直しやサプライチェーンの回復、雇用や消費を中心とした人々の生活について確認してきた。今後、被災地の復旧・復興がより本格化していくが、被災地はどのように復興していくべきであろうか。ここでは、被災地のトレンドを踏まえた復興、集積の効果、「質」を実現した成長について確認する。

1 復旧・復興と被災地の社会的トレンド

大震災は大きな被害をもたらす一方で政府支援や保険金、義援金などの各種支援や援助を被災地にもたらした。ここでは、大震災による損失と支援を確認した上で、復旧の進捗状況、さらには復興を考える上でかかすことができない大震災前の経済社会のトレンドについて見ていく。

政府の政策支援や保険金・義援金などの支援が被災地へ

大震災は大きな被害をもたらしたが、その一方で、全国各地からの義援金などが被災者の生活の下支えをしている。また保険加入者にとって保険金の存在も大きい。ここでは、大震災による我が国のストックの毀損を確認するとともに、保険金や義援金など、被災地への支援について確認する(第2-3-1表)。

まず、大震災によるストックの毀損であるが、様々な主体が推計を発表している。どの推計についても被災3県のみならず茨城県や青森県なども含めた被災地全体でおおむね16兆円を若干上回る程度としており、この程度の額がストックの被害と考えられる。16兆円の相当程度が被災3県における被害であることが推測されること、内閣府「都道府県別経済財政モデル」における被災3県のストック合計額が90兆円程度であること等を考慮すると、今回の大震災のストックへの影響がいかに大きかったかが分かる。

次に被災地への支援額について見てみよう30。まず政府支援であるが、平成23年度補正予算等及び平成24年度当初予算により、18兆円程度の復旧・復興対策に係る予算を措置している31。また保険金を見ると、2011年7月時点で約1.8兆円の支払いが終わっている。最終的な保険金の支払い総額見込は約2.6兆円となっており、阪神・淡路大震災に比べても多い。義援金の多さも今回の大震災の特徴である。全国的な被災地支援の助け合い精神の高まりから募金額が増加しており、2012年4月時点で3124億円が既に配布されており、前節で見たように被災者の生活を下支えしていると考えられる。

災害廃棄物の搬入は進むも、処分本格化はこれから

次に、被災3県における震災関連予算の推移を見るとともに、被災地における災害廃棄物処理の進捗状況について確認する(第2-3-2図)。

まず、被災3県における震災関連予算の推移32を見ると、3県ともに大震災後に累次の補正予算を着実に成立させるとともに平成24年度予算も成立させたため、震災関連予算は2012年4月1日時点で、岩手県で1兆3千億円程度、宮城県で2兆6千億円程度、福島県で2兆2千億円程度と、大震災前の各県の予算に比べて2倍強程度の水準となっている。阪神大震災後の兵庫県が同期間経過後に当初予算並の予算額であったことを考慮すれば、今回の被災3県における予算手当は早く行われていると評価できよう。これらの補正予算等の効果もあり、被災3県における災害復旧分の公共工事費も増加傾向で推移しており、2011年10月以降は、全国の公共工事請負金額を10%弱程度押し上げている。

しかし、災害廃棄物処理の進捗状況を見ると、発生した災害廃棄物の内容や被災地域の広さ、被災地域内の処分場の容量などの違いから単純に比較はできないものの、阪神大震災の時に比べて処理に時間を要している。災害廃棄物の搬入率を見ると、大震災から400日経過時点で災害廃棄物発生量の8割程度となっている。ただし、居住地近傍にある災害廃棄物の搬入33については、2011年8月末時点で被災3県(原子力災害対策特別措置法に基づいて警戒区域に指定されている自治体を除く)の全ての市町村でほぼ完了している。また、居住地近傍以外の災害廃棄物を含めて見た場合でも、解体した上でがれき処理をする必要がある家屋などのがれき推計量を除いたベースでの進捗率が、2012年3月12日時点で既に96%に達している34。こうしたことに鑑みれば、災害廃棄物の搬入については進捗していると考えられる。一方、処分が完了した災害廃棄物は発生量の2割弱程度となっている。被災3県では膨大な量の災害廃棄物が大震災により発生35しており、仮置き場の多くが防波堤の予定地など復興計画の街づくりに関わる場所に設置されていることなどを踏まえると、今後の復興のためには災害廃棄物の処理を速やかに進める必要がある。政府は2014年3月末までを目途に災害廃棄物の最終処分を進める計画を立てている。この計画が着実に達成されるためには、岩手県、宮城県の災害廃棄物の広域処理が円滑に進むことも重要である。

人口、鉱工業生産ともに水準が低下傾向

被災地では復興計画も制定され、予算上の手当てが進んでいることから、今後、復興がさらに進んでいくことが期待されるが、大震災からの街づくりを考えるに当たっては、大震災前に戻すのではなく、大震災前の経済社会のトレンドを踏まえた上で望ましい街の姿に再建していく必要がある。

まず、被災3県の人口の推移を見ると、2000年代初頭をピークに年々人口が減少している(第2-3-3図)。大震災があった2011年にはさらにその減少が加速している。東北地方の鉱工業生産の推移を見ても90年代末からほとんど水準が変わっておらず、2000年代後半からはリーマンショック、大震災等の影響もあり水準が低下している。ただし、サービス業なども含めた県内総生産の推移を見ると、おおむね横ばいで推移しており、人口や鉱工業生産は減少傾向であるものの、経済活動全体では一定規模を維持していることが分かる。

資本ストックは増加が続いていたものの、2000年代には増加テンポが鈍化したことに加えて、今回の大震災により大きく資本ストックが毀損したと考えられる。当然ながら必要な資本ストックについては早急な回復が必要ではあるが、県民総生産は横ばい傾向で推移していることに加え被災3県の人口や東北地方の生産活動が低下傾向にあったことを踏まえると、必要な資本ストックが大震災前の水準であったのかを精査した上で、資本ストックの復旧・復興が必要である。潜在成長率を高め設備投資を増加させることは経済活性化に重要ではあるが、必要性の低い投資はコスト増とともに非効率も生み出し、競争力の低下を生み出すためである。

県庁所在地の占有率が高まるものの、事業所密度は低下傾向

人口減少により労働者数や事業所数が減少する中、労働者や事業所を集積させ、効率化を高めることが考えられる。ここでは、東北地方における市区町村ごとの事業所数と従業者数の密度並びに占有率(東北全体の事業所、従業者数に占める当該地域の割合)の推移を確認する(第2-3-4図)。

まず、市区町村ごとの事業所密度の推移を見ると、各県ともに県庁所在地を中心に密度が高い部分が集まっている。ただし、県庁所在地の周辺では時間の経過とともに事業所密度が低下しており、全国的な事業所密度の低下傾向の中、県庁所在地の周辺市においても事業所数を維持するのが厳しくなってきていることがうかがえる。

次に、政令指定都市(仙台市)、県庁所在地、県庁所在地以外の市、県庁所在地以外の町村ごとに分類し、それぞれのカテゴリーの事業所、従業者密度と東北地方における占有率の数位を見てみよう。県庁所在地以外の市や町村のみならず、政令指定都市の仙台市や県庁所在地においても事業所数密度や従業者数密度が低下傾向にあり、事業所や従業者の集積が進んでいないことが分かる。県庁所在地の占有率はわずかに上昇しているものの、その効果を超える事業所数や従業者数の減少がおきている。

次項で詳細に扱うが、集積は生産性の増加に効果があり、特に人口減少下では限られた事業所や労働者を集積させるメリットが高いと考えられる。集積のメリットを活かすためには事業所密度や従業者数密度の上昇が不可欠であり、今後、東北地方においても、集積のメリットを活かすべく、事業所や労働者の集積が期待される。

コラム2-3 被災3県の復興計画

大震災で大きな被害を受けた被災3県では、8~10年間における復興への道筋を示すために復興計画を制定した。今後、3県においては本計画に基づいて復興が加速していくことになるが、ここでは復興計画の概要について見ていく(コラム2-3表)。

まず、被災地において全国に占める割合が高い農業や水産業については、生産性を高め収益性を高めることや生産・加工・流通を一体化したり、2次・3次産業と連携して地域ビジネスの展開や新たな産業を創出する「6次産業化」を推進することを柱としている。

商工業や街づくりについては、医療などの次代を担う産業分野の集積を進めること、産学官連携による産業人材の育成などにより、地域経済・産業を活性化するとともに雇用の創出を達成し、災害に強い街づくりや住民生活、企業活動に必要な機能を一定エリアにコンパクトに集約することを掲げている。

また、環境への影響、安全面なども考慮し、再生可能エネルギーに力を入れているのも復興計画の特徴と言えよう。風力や水力だけでなくバイオマスなどの最先端のエネルギーの積極的な活用を目指している。

復興計画は震災前の状態に戻すだけではなく、人口減少社会や環境保全など震災前からの社会的なトレンドやニーズを満たすものとなっており、被災3県の中長期的な成長が期待される。

2 集積の効果と推進

被災3県を含む東北地方は、大震災前から人口や鉱工業生産活動が既に減少傾向であったことや、事業所や従業員の集積も低下傾向にあった。被災地に限らず我が国は人口減少が始まっており、今後、全国的にも限られた人口や事業所の効率性を高めることが求められる。人口減少社会において生産性を高め、活力ある社会を作るためには、人口や産業の集積を行うことで効率性、利便性を高め、より住みやすい社会を作ることが考えられる。ここでは、復興のみならず今後の日本社会のキーワードとなりえる、集積の効果及び集積を推進するための必要施策について見ていく。

我が国においても事業所の集積や高度人材の集積は生産性を高める効果

人口の集積、産業の集積など、集積は様々なメリットが期待される。先ほどの復興計画で確認したコンパクトシティは、都市機能をコンパクトにまとめることで住民が移動をそれほどすることなく買い物ができる、レジャーを楽しむ、通勤できるなど住みやすい社会が実現できること、さらには公共サービスも集中できるために行政サービスの効率化も期待される。特に、被災地を始め人口減少が始まっている我が国では集積の効果は大きいと考えられるが、ここでは、我が国における事業所の集積の生産性への影響、高度人材の集積の効果について分析する。

まず、我が国製造業における市町村ごとのデータを利用し、生産性を事業所密度で回帰することで事業所密度と生産性36の関係を見ると、事業所密度が高い市区町村ほど生産性が高い結果となっており、事業所の集積は生産性と正の相関があることが分かる(第2-3-5図)。

また、都道府県別に高度人材比率37と労働者一人当たりの付加価値産出額の関係を見ると、高度人材の割合が多い都道府県ほど一人当たりの付加価値産出額が高いという結果が導き出された。

このように、事業所の集積や高度人材の集積は、生産性にとってプラスの効果があり、被災地を含め我が国では今後、この集積の効果を活かすことを考えていく必要がある。

大都市部においても事業所密度や従業者密度は低下

集積の効果を確認したが、我が国では事業所密度や従業者密度はどのように変化しているだろうか。全国における事業所密度及び従業者密度の推移並びに同占有率の推移を第2-3-4図同様に確認する。ここでは、各地方の中心都市(札幌市、仙台市、東京23区、名古屋市、大阪市、広島市、高松市、福岡市)、政令指定都市、県庁所在地、県庁所在地以外の市、県庁所在地以外の町村に分類した(第2-3-6表)。

まず、東北地方同様、全国の市町村においても、大都市を含め、事業所数密度や従業者数密度は低下傾向にある。大阪市や名古屋市などの中心都市や政令指定都市、県庁所在地においては、事業所や従業者数の占有率が低下傾向にあり、集積が期待される都市部においてむしろ事業所密度や従業者密度の低下が相対的に大きいことが確認できる。

我が国は人口減少が始まっており、今後、従業者数や事業所数の減少が予想される。効率性を高めるためにも限られた従業者や事業所を集中させ、集積の効果を享受できる社会の構築が求められる。

高度人材を近距離に集積させることが重要

ここまで集積の効果を確認するとともに、我が国では事業所や従業者の集積が進まず、むしろ集積が弱まっていることを見てきた。今後、集積を進めることが求められるが、集積にあたって重要な点、また集積を進めるために必要な施策について、先行研究も利用して確認する(第2-3-7表)。

まず、アメリカのデータを使った分析を見ると、集積に当たっては高度人材(先行研究では大卒)の集積が重要であることを指摘している。大卒未満の集積は、集積によるメリットを集積によるデメリット(都市の混雑に伴い通勤環境が悪化し、その結果生産性が減少するなど)が上回るため、逆に賃金にマイナスの影響をもたらすという研究もある。また、一定規模以上の範囲(先行研究では約9km)を超える範囲に集積してもその効果は確認できないこと、近距離に集積するほどその効果が高くなることを指摘しており、高度人材を近距離に集積させることが重要である。

では、集積を促進させるためにはどのような施策が必要であろうか。先行研究では、集積を促進させるためには、政府による環境整備や高度人材の育成、企業間のコーディネートをする機関の必要性を挙げている。また、若い高度人材は賃金が高い社会に集まりやすく、逆に高齢層では住環境がいい社会に集まる傾向があるとも指摘している。なお、高度人材の育成には、企業と教育機関の連携を高め、企業で求められる高度な知識を習得する機会を提供することなどを目的とした英国のナレッジ・トランスファー・パートナーシップなどの施策も有効である。さらには前章で確認したように、日本で起業が低迷している理由として、起業家の具体例が周囲に少ないことなどがある。そのため、起業家の集積というのも有効であると考えられる。これらを踏まえると、高度人材を生み出すための環境づくり、企業間のコーディネートをする機関の創設、産業と教育機関の連携に加え、生産性が高い産業を地域に作ることで当該地域の賃金水準を高め、優秀な若手人材を集めること、社会的なインフラを整備し魅力的な住環境を実現することで高齢層の高度人材を集める方策が重要であり、我が国でもこれらの取組をより一層進めることで高度人材を中心とした集積を高める必要がある。

3 「質」を実現する成長

日本経済は、今回の大震災の前から、人口減少やグローバル化など大きな潮流の変化の中でその在り方を再検討することを迫られてきた。大震災を契機にそうした対応を加速させることが重要である。特に、成長の量のみを追求するのではなく「質」を重視し、人々の幸福を高めるとともに、持続可能な社会を作っていくことが求められる。

また、大震災は我々にリスクへの備えの重要性を再認識させた。リスクを正しく認識し、その対応力を高めることは生活の「質」を高めるためにも重要である。このため、リスクと金融の在り方についても確認する。

(1)成長の質的な充実

従来のような成長の量ばかりでなく、成長の質を重視していくことが求められる。所得を大きくすることだけによって人々は必ずしも幸福にならない。もちろん、GDPのような量的な面での成長も重要である。しかし、それはあくまで目的のための手段であり、そうした成長によって得られる量的な豊かさを利用して、健康や安全・安心な社会の構築などの質的充実を達成することが必要である。ここでは、成長の質的な充実を図るために重要な幸福度や厚生水準について確認する。

経済力は幸福度に大きな影響を及ぼすものの、一定水準以上では差がない

経済的な豊かさだけでなく、健康状態や社会とのつながりなど生活の様々な要素を考慮した幸福度の指数化の研究が近年活発であるが、人によって幸福を感じる要素が異なるため幸福度を総合して指数化することは難しい。Stiglitz et al.(2009)においても、GDPがサービス等の質を考慮していない点などの問題点を指摘し、経済や社会の成果の測り方の提言をしている。同報告書では幸福度に関係するものとして、健康、教育、家事や仕事などの個人の活動、政治的な発言権、社会的つながり、環境、経済的な安定の7つの項目が挙げられている。これらの項目等と幸福度の関係を経済産業省「生活者の意識に関する調査」(2005)によって見てみよう(第2-3-8図)。

まず、世帯年収については、400万円以上において200万円未満の世帯に比べて幸福を感じる(「幸せを大いに感じる」と「幸せをやや感じる」)という回答を選ぶ確率が高くなる。ただし、400万以上の年収で比較すると各階層において確率の増加に大きな差はなく、年収200万未満の層に比べると、一定水準以上の年収は幸福度を高める効果があるものの、それより上の水準の違いは幸福度には大きな影響を及ぼすわけではないといえよう。

健康状態については、健康状態が良くなれば良くなるほど幸福を感じるという回答を選ぶ確率が高まる結果となった。また、課外活動については、課外活動を行っている場合には幸福を感じるという回答を選ぶ確率を高める効果がる。

7つの項目以外として不平等について、「日本は公平な社会であると考えるか」という質問に対する回答を見ると、公平と感じるほどに幸福を感じるという回答を選びやすい結果となっており、不平等感は幸福度にマイナスの影響を及ぼすと考えられる。

厚生水準の把握には、質的側面が重要

成長の質を考慮した時にどのような指標を構成すべきかについてはまだ手探り状態と言え、今後さらに検討が進められるべき課題である。ここでは、質を考慮する一つの例として、Jones and Klenow(2011)の計算を紹介しよう(第2-3-9表)。この手法が必ずしも適切という意味ではなく、質を数値化できるために質を考慮することが重要であることを実感する一例という趣旨である。同研究は、オーソドックスな経済学の枠組みを利用して、人々の経済厚生が、寿命、消費・GDP比率、余暇、不平等度に依存するとしている。背景となる考え方は、次の通りである。消費額や余暇が多いほど経済厚生が高まることは分かりやすい。また、長く生きることができれば、各年の消費額を一定とすれば、生涯にわたって消費する総量が増加する。不平等度が経済厚生に関係するのは、所得分配が不平等であるほど、自分が低所得になるリスクが高くなるためである。平均的な所得が高くても、極端に低い所得しか得られないリスクが高ければ、個人として望ましいとは感じない。

2000年時点でアメリカを100として水準を見ると、日本は一人当たり所得では72.4であるが、上記のような質を考慮した厚生水準では88.3となる。これは、日本はアメリカに比べて、消費比率が低いものの、寿命が長く、余暇も長く、不平等度も低いためである。ドイツも同様である。一方、韓国や中国については、一人当たり所得よりも質を考慮した厚生水準が低くなっている。これは、寿命や余暇が短いほか、特に中国については不平等度が高いためである。

(2)持続可能性と「質」の実現

「質」を重視した成長で欠かすことができないのが、持続可能性である。地球温暖化問題等を考えると、環境面での持続可能性のある社会を目指すことが急務である。ここでは、持続可能性について考える。

持続可能な環境のため再生可能エネルギーや住宅の省エネ性能の向上等が必要

「質」を実現する成長を考える際の一つのキーワードが持続可能性である。大震災前から地球温暖化問題が世界的な問題として注目されており38、我が国においても温室効果ガス排出削減に向けた取組は、地球が持続可能な成長を達成するためにも不可欠である。ここでは、環境面での持続可能な社会とするために必要な方針について確認する(第2-3-10表)。

まず、重要なのは再生可能エネルギーのさらなる普及である。再生可能エネルギーは、コストが火力発電などと比べて割高などのデメリットもあるものの、今後、規模の経済の効果が期待されること、環境面での負荷が少ないことや石油などの資源の有限性を考慮すると持続可能な社会づくりには不可欠である。

建物の躯体の高断熱化、高効率空調の導入などを取り入れたゼロエネルギー住宅の普及も重要となる。太陽光発電などの再生可能エネルギーを利用し、建物自体の高断熱化など環境に優しい構造にすることで、少しでも環境への負荷を抑えて生活することを目指すべきである。また、コンパクトシティなど集約型のまちづくりも、人々の移動距離の短縮化による温室効果ガスの排出削減が期待される。

さらに環境問題がグローバルな問題であることを踏まえ、世界的な環境問題の解決に向けて我が国が主導的役割を果たすことが重要である。我が国は優れた環境・エネルギー技術を有しており、これを世界に普及させることで環境問題の解決への貢献だけでなく、新たな経済成長の可能性にもつながる。

環境問題は持続可能な社会の構築には避けて通れない問題である。経済成長との両立を図るためにも、再生可能エネルギーのコストの低下や我が国の環境技術の諸外国への普及方法について早急に検討が必要である。

(3)家計・企業のリスク認識と金融

大震災のようなリスクのみならず、リーマンショックのような経済的なリスクも我々の生活には存在し、リスクを排除することは不可能である。安全・安心を実現した「質」の高い成長のためには、リスクを適切に把握し、保険などを活用しリスクに備えることで、リスクに強い経済システムを構築することが必要である。ここでは、リスクの認識や保険、並びに金融の在り方について確認する。

企業のリスク認識:テール・イベントへの備えが重要

今回の大震災のみならず、2008年に発生したリーマンショックについても、世界中の企業や投資家にとっては、これまで経験したことのない大きな出来事であった。大震災やリーマンショックのような事象は、発生確率は低いものの、起こると非常に大きな影響を及ぼすテール・イベントと呼ばれている。このテール・イベントを適切に予測し、そのための対策をとることは企業にとって重要であるが、企業のリスク認識はどの程度適切であっただろうか。ここでは、内閣府の「企業行動に関するアンケート調査」の個票データを用いて、各企業にとっての対外的なリスクファクターである実質GDP成長率や為替レート(円ドルレート)をどの程度予想できていたかを調べよう。また、金融システムがリスクをきちんと認識できていたかについて、リーマンショック前後の株式市場の動向を利用して確認する(第2-3-11図)。

まず、実質GDP成長率の動向39と各企業の実質GDP成長率の予測をプロットすると、実績、企業予測ともに中央値付近が最も高い密度となっているものの、企業予測の方では尖り度が強く、特に多くの企業の予測が中央値付近に集中している。一方、実績の方は尖り度が弱く、分布がプラスにもマイナスにも大きく広がっている。中央値付近から少し離れた成長率(例えばプラスマイナスそれぞれ5%を超える成長率)では予測している企業数が大幅に減少しているが、実績を見るとこれらの大幅な成長率も一定程度発生していることが分かる。

次に、為替レートについても同様のことが分かる。企業予測は中央値付近で密度が非常に高くなっており、前年比でプラスマイナス25%を超えるような大きな変動を予測している企業はほとんど皆無であるが、実績ではこの水準を超えるような変化は一定程度起きている。

最後に、金融システムがリスクを的確に認識していたかを株式市場の動向を利用して見てみよう。株式市場においては、将来の当該企業の収益を織り込んで株価が形成されている。もし株式市場が的確に将来のリスクを把握しているならば、ショックが起きる前から株価がそのリスクを織り込み下落が起こっているはずである。リーマンショック以前にもパリバショックなど、その後の大きなショックを予想させるようなイベントがあったにもかかわらず、業種別の動きにおおむね大差はなく、リーマンショック後に、影響の大きかった銀行株や輸出が多い輸送用機器を中心に急激に落ち込んでいる。この動向を見る限り、個別の企業のみならず金融システムとしての株式市場も将来のリスクを的確に認識できていなかったといえよう。

需要や為替相場の大幅な変動は、企業の生産計画や設備投資計画の大幅な見直しにつながり、ひいては企業収益の損失に結び付く可能性がある。経済成長や為替レートの大幅な変動を多くの企業が予測するのは現実問題として難しいと考えられるが、どの企業もその事象を想定していないことは、テール・イベント発生時の混乱をより増幅させることが予想される。本分析で使用したデータは、企業が想定している成長率や為替レートであったテール・イベントを予測しているか否かは明確に分からないものの、企業のメインの想定としてテール・イベントを予想している企業がほぼ皆無であることを踏まえると、テール・イベントが発生した際に混乱しないように、万が一への備えが重要であるといえよう。

家計のリスク認識:保険によるリスクへの備え

リスクに対しての備えとして重要なのは保険である。しかし、人々はある程度リスクを認識して保険に入るという行動をとるものの、被害の発生確率を過小評価すること、発生した時の被害額を深刻なものと考えないこと、発生確率の低い災害は長い期間で保険の必要性を判断すべきところを短期的な視野で判断することなどが指摘されている(Kunreuther(2006)など)。

そこで、今回の大震災で特に注目が高まった地震保険について確認しよう。地震は我々の生活の大きなリスクではあるが、地震災害は、いったん発生すればその損害が甚大となり、また広範囲にわたり大きな影響を及ぼすなど、他のリスクとは異なる性格を持っている。ここでは前出の内閣府「インターネットによる家計の意識調査」(2012)を活用して、被災3県における地震保険加入世帯の特徴を調べる(第2-3-12図)。なお、ここでいう地震保険加入世帯とは大震災前に加入していた世帯である。また、既述の通り、本調査はネットモニター調査であるため、サンプルの偏りの可能性があることなどに留意が必要である。

最初に損害保険料率算出機構統計を利用して被災3県と全国の新規保険契約数の推移をみると、被災3県では大震災後に新規保険の契約数が大幅に増加していることが分かる。「日本経済2011-2012」(2011)によれば、阪神・淡路大震災後の兵庫県や宮城県中部地震後の宮城県などでも同様の現象が起きており、大きな震災の発生後に当該地域の地震保険加入率が増加することが分かる。ただし、大震災後に1年を経たないうちに大きく増加幅が減少しており、大震災時には人々の地震保険への関心が高まるが、その後は関心が低下していくといえよう。

地震に対する備えとしては事前に居住地の地震リスクを認識し、地震保険に加入しておくことが重要であるが、人々は地震に対するリスクを的確に認識していただろうか。住居の被害状況別に地震保険への加入状況を見ると、家屋が被害を受けた世帯ではおおむね半分の世帯が地震保険に加入していたという高い割合になっていたのに対して、家屋の被害がなかった世帯ではその加入率が30%にとどまっている。被災3県の世帯においては、自らの居住場所の地震リスクを一定程度把握した上で地震保険の加入を決めていた可能性がある。ただし、地震保険による家屋被害の補償状況を見ると、全額補償されている世帯は少ない。地震保険は一定の役割を果たしているものの、加入していたとしても必ずしも全ての損失を補てんできているわけではないといえよう40。また、津波の被害があった世帯と津波被害がないものの地震によって住宅が被害を受けた世帯で地震の保険の加入状況を比較すると、津波被害があった世帯の方がやや低くなっている。過去何度か経験した地震に対しては、リスク意識が高まっていたであろうが、経験したことのない被害に対しては自らリスクを認識することは容易ではない。

次に金融資産別に地震保険の加入率を見ると、金融資産残高が1千万円以上の世帯では加入率が50%を超えるのに対して、1000万円未満では4割程度と加入率が低くなっている41。金融資産の少ない世帯の方が地震保険で守るべき家屋の価値が低いため、地震保険に加入する必要性が相対的に低いという面はあるものの、保険以外の方法によって被害を補てんすることができる程度を高く見過ぎている可能性は否定できない。

「日本経済2010-2011」(2011)によれば、地震保険に関するアンケート調査42における地震保険に加入していない理由や地震保険を不要とする理由から、Kunreutherが指摘したように、人々が大規模災害の発生確率を過小評価していたり、短期間でしか災害の影響を考慮していない可能性43が見い出せる。地震保険は災害前後の所得移転を適切に実現するという効果を持つため、大震災のようなリスクへの備えとしてさらなる有効活用が期待される。

健康が損なわれるリスクに対しては、医療保険が重要な対応策となる。我が国においては、公的医療保険に強制的に加入することになっているので、医療保険に対する人々の行動様式を検証することは難しい面がある。ここでは、民間医療保険に対する加入行動を検証することにより、人々の医療保険への態度を確認する(第2-3-13図)。

まず、前提として公的医療保険のリスクシェアリング機能について見てみよう。公的医療保険制度の評価と医療費の支出との関係では、医療への支出頻度が高く支出金額が高い高齢層ほど公的医療保険給付に対して「充実していない」という回答が多くなっており、医療費の負担を賄うため民間医療保険の果たす役割が大きいと思われる。また、家計調査を利用し、品目別の消費支出の動向を可処分所得及び医療サービス支出で回帰すると、医療サービス支出の増加は耐久財の支出を下げる結果44となっている。このような結果となる背景としては、自己負担により消費に振り向けることができる所得が減少することや、病気になることにより物理的あるいは精神的に消費ができなくなることなどが考えられる。

次に、民間医療保険に対する加入行動を検証しよう。ここでは、公益財団法人生命保険文化センター「生活保障に関する調査」を利用して、年齢、世帯収入、金融資産、持ち家、子供の数、ケガ・病気に対する評価などが民間医療保険への加入に影響があるかどうかを確認する。年収や金融資産などは民間保険への加入に影響を与えているが、過去の入院経験や病気に対する不安を持っている人でも積極的に民間医療保険に加入しようとはしていない。これは、入院歴がある場合保険料が高くなるというコスト面の影響もあるものの、病気になった際の損失を低く見積もっていたり、仮にリスクを意識していたとしても現実の行動に結びつかない慣性が働いている可能性もある。ただし、民間医療保険の制度設計が、医療ニーズそのものでなくアメニティなど高所得者のニーズに対応するように設計されていることが理由である可能性もある。

頑健な金融システム

頑健な金融システムを構築し、リスクマネーを適切な形で供給することは「質」の実現に重要である。ここでは、金融の在り方について確認する。まず、主要国・地域における金融部門が生み出す付加価値の動向を、一国・地域のGDPに占める割合を利用して確認しよう(第2-3-14図45

我が国においては、90年代、2000年代とほぼ横ばいで推移していたものの、米英では90年代、2000年代と上昇傾向で推移した。これは、主に投資銀行部門において世界的な低金利を背景に低コストで調達した資金を、高いレバレッジで投資することにより収益を拡大してきたことが要因と考えられる。各国のROEの前年比を寄与度分解すると、日本ではレバレッジがプラスに寄与していなかったのに対し、アメリカの投資銀行や英国の金融部門においてはレバレッジがROEの押し上げに大きく寄与していた。

その後、米英の金融部門における付加価値ウェイトの上昇は、サブプライムローン問題やリーマンショックなどを背景に2000年代後半にはとどまっている。デリバティブや証券化などの新しい金融商品は、非常に高度かつ複雑な手法であるために金融監督当局においても規制をしにくい側面があったことや、当時の金融規制が自己責任と市場規律を重視していたことなどから、多くの金融部門では収益拡大のために投資先を際限なく増加させた。この中で、本来は返済能力が乏しく融資をすべきでない人等に対しても貸出債権を証券化することで融資したことや、不動産価格が下落するリスクへの備えが不十分となる問題点があった。

次に、2000年代後半の金融危機の特徴を見ることで、金融セクターが抱えていた問題について見ていこう(第2-3-15図)。

まず、対象企業のデフォルトの際に当該企業向けの債権などを保証するCDSの取引残高を見ると、既述の通り2000年代後半に大きく増加した。リーマンショック後には取引残高が減少したものの、依然として年間30兆ドル程度の残高であり、これは世界第一位の経済規模を誇るアメリカGDPの約3倍程度である。CDSは債券などのリスクヘッジの手法としては有効ではあるが、保証提供者の資本などに比べてあまりに膨大な金額の契約は、万が一の際の保証能力が危ぶまれるため、保証者の支払能力の範囲内での取引を行うことが重要である。

また、相対取引でCDSを含むデリバティブ商品を持ちあっているために、一つの金融機関が倒産するとその影響が連鎖する、システミック・リスクが発生する可能性がある。加えて、リーマンショック後には、誰がどの程度どの金融商品を保有しているかが分からないということもあり、危機が予想以上に深刻化した。

さらに、金融機関が手元に現金などの流動性が高い資産をあまり持たずに、デリバティブなどの金融商品に投資していたことも問題を深刻化させた要因となった。通常時に比べ、金融機関がカウンターパーティリスクを意識することで、銀行間市場での資金調達が困難となる。また、各金融機関が流動性を求めたため、保有金融商品の売却が困難となったことも資金繰りの悪化の要因となった。金融機関が資金調達する際のリスクプレミアムの推移を見ると、リーマンショック時には大きく上昇している。

今回の金融危機の一つの要因として、金融規制が金融危機を防ぐ役割を果たせなかったという指摘がある。金融危機を踏まえ、世界の金融への規制はどのように変わっていくのだろうか。現在、G20などで議論されている金融規制の方針について確認しよう(第2-3-16表)。

まず、自己資本に比べて過大な運用を行っていた反省を踏まえ、バーゼルIIIではレバレッジ規制が盛り込まれている。またデリバティブの保有状況が不透明で、危機が予想以上に伝播したことを踏まえ、店頭デリバティブ市場の改革が各国で検討されている。

また、危機時に流動性が不足したことを踏まえ、平時より一定程度の流動性を義務付ける流動性規制を導入することや、プロシクカリティに対応するため好況期に自己資本を多く積み立てることで不況期の貸出減を和らげるカウンターシクリカル資本バッファーなどもバーゼルIIIでは含まれている。

このように、金融危機後は規制が強化される方向へと転換していることが分かる。ただし、自己勘定取引規制やヘッジファンド等への投資規制など、リスクの高い業務をそもそも規制するような、金融機関の業務を大きく制限する規制も見受けられる。金融市場の効率性と安定性はトレードオフの要素も持っており、金融市場の成長のためには規制の強化と競争の促進のバランスを取ることが重要であり、今後の金融規制の動向を注意深く見る必要がある。


(30) 原子力発電所事故の賠償金については今後の支払い等が未定のため本項では含めていない。
(31) 政府支援は、震災関連で予算措置された金額であり、全国防災対策費等、被災地に限定しない項目を含んでいる。また、電力会社への求償が想定される経費を含む。
(32) 各県公表資料により作成。
(33) 現在、住民が生活を営んでいる場所の近傍にあるがれき等の仮置き場への搬入状況を指す。津波の被害地域は広大であることや兵庫県に比べて被災3県の人口密度が低いことを考慮すれば、まずは居住地近傍の災害廃棄物の処理状況が重要であると言える。
(34) 今回の東日本大震災では津波により多くの家屋が半壊するなど大きな被害を受けたが、これら家屋は、原則、解体する前に持ち主の許可を得る必要があり、がれき処理を完了するまでに相当の時間がかかる。
(35) 例えば、岩手県では約525万トン(県内で2010年度に排出された一般廃棄物の約12年分)、宮城県で約1,154万トン(同14年分)発生している。
(36) ここでは、各市町村の付加価値額を従業員数と有形固定資産で説明できる部分を減ずることで生産性を算出した。詳細は、第2-3-5図を参照。
(37) ここでは、15歳以上の有業者に占める大学院、大学、高専、短大の卒業の有業者の割合。
(38) なお、2012年5月のG8においても、『我々は、科学に沿った形で、産業化以前の水準と比べて世界全体の気温の上昇を摂氏2度より下に効果的にとどめるための我々の役割を果たすことを目的として、気候変動に対処する取組を継続していくことに合意するとともに,2020年までの期間において緩和に関する野心を引き上げることの必要性を認識する。』(外務省 キャンプデービット宣言 仮訳より)と宣言している。
(39) 1994年第1四半期から2011年第4四半期までの四半期の成長率を年率に修正してプロットした。
(40) なお、地震保険は、被災者の生活の安定に寄与することを目的としている制度であり、火災保険の保険金額の30%~50%の範囲内で地震保険の保険金額を設定することとなっていることには留意が必要。
(41) なお、金融資産別に家屋の被害状況を見ると、どの階層も同じ程度の被害となっており、金融資産が少ない世帯の方が家屋被害の少ない地域(安全な地域)に住んでいるというわけではない。
(42) 株式会社野村総合研究所「地震防災対策に関する意識調査」(2009)より。
(43) 人々が地震の発生頻度を過小評価しているのではなく、自らが想定するリスクに比べ、地震保険の料金がリスクに対して過大に設定されている可能性も否定できない。
(44) 2001年1月から2012年3月のデータ(実質前年比)を用いると、医療サービス支出前年比1%の増加は、教養娯楽用耐久財を約0.5%押し下げ、家庭用耐久財を約0.4%押し下げる結果となった。
(45) 日本以外は、年金基金が金融部門に含まれるなど金融セクターの詳細な定義は各国で異なることに留意が必要。
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