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第1節 景気の現局面

2011年は3月の大震災から立ち直るために多くの努力が費やされた一年であったが、我が国経済を取り巻く環境には厳しいものがあった。まず、タイの洪水被害は、大震災で痛手を受けた我が国企業にとって、生産ネットワークが様々なリスクにさらされていることを改めて痛感させる出来事であった。また、ギリシャの債務問題に端を発する欧州政府債務危機の顕在化は、リーマンショックによって明らかになった経済の歪みがいまだ是正されていないことを示した。欧州やアメリカ経済の成長鈍化は、中国を始めとするアジアの輸出鈍化へとつながり、最終的には我が国に対しても、輸出の伸び悩みという形で影響することとなった。

本節では、こうした度重なる外生的ショックに見舞われながらも、財政出動等による下支えのある中で持ち直しの動きを持続し、2012年には回復しつつある我が国経済について、各種経済指標の動きからその特徴を振り返り、頑健に持続成長を果たすためのポイントを明らかにする。以下では、まず、マクロの視点から全体的な特徴、輸出入の状況を概観した上で、企業及び家計部門の動向を見ていく。

1 景気局面の現状

(1)回復への移行は道半ば

最初にGDP統計を用いて、これまでの経済動向を振り返っていく。景気循環の局面は2009年第1四半期が景気の谷であるから、これを始点としてこれまでの動きを見ていくことにしよう。

内需を中心に回復しつつある日本経済

2009年から持ち直しを続けてきた我が国経済は、2011年に生じた大震災による一時的な落ち込みを乗り越えて、増勢を維持してきた(第1-1-1図(1)(2))。その背景には、消費や公需(政府消費及び投資)がプラスに寄与したことに加え、2011年後半にタイの洪水被害によって落ち込んだ輸出が2012年にはプラスに転じたこともある。

さて、GDPを構成する消費や投資等の動きは増減を繰り返していることから、実質GDPに対する各需要項目の寄与度を累積した図を用いて基調的な動きを見る(第1-1-1図(3))。これによると、2009年から2010年にかけて実質GDPは輸出や消費、そして公需によって増加してきたことが分かる。設備投資は同時期にマイナス幅を縮小していったものの、寄与はほぼゼロであった。2011年第1四半期の低下は大震災の影響だが、翌第2四半期から公需と消費が持ち直しを主導した。他方、輸入のマイナス寄与は拡大し、2011年後半の実質GDPにはそれまでの増勢はみられなかった。2012年に入り、ようやく復興需要等に支えられた内需主導の上向きの動きに加え、外需の下押しも緩和したことから全体としても上向きの動きが確認できるようになった。ただし、名目GDPを見ると、デフレの影響により消費の寄与が小さくなる。また、大震災後の輸出は伸び悩み、その一方で、資源価格の上昇による輸入の下押しが顕著となっている(第1-1-1図(4))。デフレの影響は深刻であり、2012年の名目GDPは直近ピークである2007年第2四半期より40兆円弱、GDP比で7.7%少ない。

景気動向指数(CI)は約1年で大震災前の水準を回復

GDP統計は四半期のため、月々の動きをとらえることができないという弱点がある。そこで、景気動向指数(以下、「CI」という)の推移を見ると、2011年3月に大きく水準が落ち込んだ後は以前の経路に戻る動きとなっており、大震災は新たな景気循環を生み出したというよりも、一時的な水準ショックであったと解される(第1-1-2図(1))1。2011年の後半は、タイの洪水被害の影響によって生産の月次変動が大きかったものの、均して見ると緩やかな持ち直し傾向が続いた。

さて、先ほどのGDPと同様、基調的な動きを調べるために、今度は2011年3月を始点とした月次CIへの構成項目別寄与の累積図を見ると、大震災後の先行CIは、雇用関連の新規求人や投資関連である住宅着工床面積が最初に改善し、次第にマインド関連である消費者態度指数が回復した。また、マーケット関連である東証株価指数や日経商品指数は弱い動きで推移したが、2012年に入ると、多少上向きの動きをみせるようになった(第1-1-2図(2))。一致CIでは、5月から生産・出荷の回復がみられたが、7月以降になると増勢が鈍化した。一致CIは、タイの洪水被害からのばん回生産が本格化した12月に一段高となったが、2012年に入ると、生産や出荷に連動した残業時間、そして商業販売も堅調に推移したことから、改善の動きが続いた(第1-1-2図(3))。

(2)輸出入の変動と対外収支の動向

GDPやCIで概観したマクロ経済の姿は、一般的な景気拡張局面では主役となる輸出が伸び悩む一方、輸入の増加が目立つというものであった。ここでは、これら輸出入の動きについて詳しく見ていく。

収支の赤字化は輸入価格、輸出数量の影響

まず、価格と数量双方の動きを示すために、通関収支を見ると、2010年までは、過去の拡張局面と同様に黒字基調を維持していたものの、大震災以降の一年間は、輸入額が超過する傾向が続いている(第1-1-3図(1))。輸出入の両方について、それぞれの動きを価格要因と数量要因に分解すると、赤字化への寄与が大きい順に、輸入価格(価格上昇)、輸出数量(数量減少)、そして輸入数量(数量増加)となる(第1-1-3図(2))。まず、輸入価格は、素原材料や原油価格の上昇により2011年の前半に大きく上昇した。次に、輸出数量は、サプライチェーンの寸断による生産減少を受けて大震災後の第2四半期に急落した。翌第3四半期に多少は回復したものの、タイの洪水による影響もあり、年末にかけて再びマイナス寄与へと転じた。他方、輸入数量は、LNG等の品目を中心として第4四半期に大きな低下要因(輸入数量の増加)となっている。こうした要因を積み重ねた結果、我が国の貿易収支は赤字基調で推移することとなった。以下では、輸出入それぞれの動向を詳しく見ていく。

我が国の輸出は世界景気に感応的

輸出数量の弱さについては、円高という価格要因と輸出先の景気という所得要因の二つが共に原因となっている。円高の影響については数多の実証分析があるが、マクロモデルによる乗数では、為替が現在よりも10%減価/増価(10%円安/円高)した状態が続くと、1年目の実質輸出は1.67%、2年目には追加的に0.44%増加/減少するとの結果が示されている2。所得効果についても前述のマクロモデルの乗数を利用すると、世界需要が現在よりも1%増加/減少した状態が続けば、1年目の輸出は0.42%、2年目には追加的に0.18%増加/減少すると見込まれている。

ここでは、こうした我が国の輸出と世界経済の関係について、世界及び主要国・地域の景気指標を用いて分析する。具体的には、世界及び主要国・地域の景気が、OECDの景気動向指数(CLI: Composite Leading Indicators)で表現されるとみなし、その動きに対する我が国の輸出数量の感応度を求めた。その結果、世界全体のCLIが1%上昇すると我が国の輸出数量は7.3%増加することが分かった。アメリカのCLIが1%上昇すると対アメリカ輸出数量は5.6%増加し、欧州地域のCLIが1%上昇すれば、対EU輸出数量は7.4%増加する。また、中国のCLIの1%上昇に対する対中輸出数量の増加は4.1%である(第1-1-4図(1)1)。

財別輸出についても同様の感応度を計測すると、世界経済のCLIが1%上昇すると、資本財は6.7%、耐久消費財は8.4%、生産財は7.0%の増加となる。ただし、非耐久消費財の感応度は小さく、世界全体のCLIが1%の上昇であれば、1.6%程度の増加である(第1-1-4図(1)2)。

また、世界経済のCLI変化率に対するアメリカ、EU、韓国における財・サービス輸出変化率の弾性値を我が国の値と比較すると、アメリカは1.3、EUは1.2、韓国も1.2であるが、我が国は2.6と大きい(第1-1-4図(2))。

以上のことから、他国と比較すると、我が国の輸出が貿易相手国の景気動向に敏感であることが分かる。なお、こうした感応度を念頭に2011年4月から2012年4月のCLIの動きを見ると、米国が+0.3%と上昇している以外は、世界全体のCLIが-0.5%、EUは-1.8%、中国が-1.9%といずれも下降している。感応度の高い地域の景気減速には注意が必要である。

輸入数量の所得弾性値は高いが、価格に対しては非弾力的

次に、輸入の特徴を見ていく。輸入数量の所得及び価格弾性値を財別に求めると、生産財、耐久消費財、そして鉱物性燃料の所得弾性値は大きく計測されるものの、非耐久財はそれほど大きくない(第1-1-5図)。価格弾性値は生産財や鉱物性燃料で小さく、耐久消費財では大きい。非耐久消費財の場合は、価格と輸入数量の関係が不明瞭(統計的に有意ではない)である。

また、消費財については海外現地生産比率の影響を考慮した。同比率は2~3年程度のラグをもって輸入増加に寄与するが、係数の統計的な有意水準は高くない。さらに、鉱物性燃料輸入で考慮した火力発電量は、輸入量とプラスの関係があり、その程度は1%の火力発電量の増加が、0.4%の輸入量を誘発する。実際は、発電用以外の鉱物性燃料輸入もあるため、大震災後に増加した具体的な品目を抽出すると、原子力発電所の停止に伴う火力発電の代替により、LNG等には増勢が見られる。こうした弾力性をベースに2011年の動きを要因分解すると、燃料輸入は所得要因(-0.6%)や価格要因(-4.6%)から下押しされたが、火力発電量の増加により+5.3%の押上げがあったため、全体としても増加したことが示される。

均衡名目経常収支の黒字幅は縮小傾向

以上をまとめると、鉱物性燃料を含む素原材料価格の高止まり、輸出数量の伸び悩み、輸入数量の増加が貿易収支を赤字化させている。他方、所得収支は依然として大幅な黒字であることから、経常収支も黒字で推移している。こうした中、最近では、経常収支についても将来赤字化するのではないかという見方もある。定義的に、経常収支は国内貯蓄投資差額に等しいから、これは、国内貯蓄投資差額が赤字化するか否かという問と同じである。ここでは、収支の動きを整理するために、仮にGDPが潜在GDPに一致する場合に実現する消費や投資から国内の貯蓄投資差額を求め、それと一致する経常収支(以下、「均衡名目経常収支」という)を推計した3。具体的には、海外所得の受取については外生的に決定しており、為替レートの変化によって輸出入や国内の物価が変動し、国内貯蓄投資差額と輸出入差額が等しくなる。

これによると、均衡名目経常収支の名目GDP比は、2000年代前半はおおむね4%程度で推移し、実績値よりも大きかった(第1-1-6図(1))。なお、均衡値と実績値の動きを見ると、緩やかに両者がバランスしていく様子もみてとれる。リーマンショック後は実績値が急落したために両者のかい離が大きくなった。2010年になると、均衡値が減少する一方で実績値が増加したことから、わずかであるが、実績値が均衡値を下回るという状態が生じた。その後はおおむね一致した動きをしている。

定義上、均衡名目経常収支の変動は、交易条件等、政府支出、その他によって生じている(第1-1-6図(2))。例えば、リーマンショック後の均衡値は黒字化しているが、最大の要因は交易条件等の変化である。交易条件等の変化は輸入デフレーターの下落であり、それは消費デフレーターを押し下げる一方、GDPデフレーターを押し上げる。その結果、名目GDPに比べて名目消費が低下し、貯蓄投資差額が黒字化する。これと符合するように均衡の輸出入差額も黒字化するというメカニズムが働いている。その後は原油価格の上昇等により交易条件が悪化したため、2011年にかけてマイナスの寄与となった。その結果、2011年後半の均衡値は2%程度となっている。今後については、原油価格が下落に転じれば均衡名目経常収支の名目GDP比率は上昇し、逆の場合は下落する。第二の要因である政府支出は、リーマンショック以降の経済対策や震災対応により増加傾向にあったため、均衡値の低下要因となってきた。2012年も政府支出は拡張すると見込まれるため、均衡名目経常収支の名目GDP比率を押し下げるが、例えば、震災対応の支出増が剥落すれば、収支の押上げ要因に転じると見込まれる。最後に、2011年は大震災の影響により生じた供給サイドの変化が潜在成長率を変動させたため、これに影響される民間消費や投資にも変化が生じ、均衡名目経常収支を一時的に押し下げたが、今後のかく乱要因にはならないと見込まれる。

(3)政策による下支え

続いて、外需と共に景気を下支えしてきた政府支出の動きを確認しておく。2011年度は大震災からの復旧復興に向けた措置や「円高への総合的対応策」を含む累次の補正予算が編成され、2012年度予算においても震災対応の措置が盛り込まれた。なお、財政のみならず、金融政策においても震災対応の流動性供給措置が実施されたが、この点は次節で触れる。

リーマンショック以来の大幅な公共事業関係費の計上

公共事業関係費について、2009年度以降の当初及び補正予算の推移を見ると、2011年度当初予算は、リーマンショックへの対応から膨らんでいた部分を縮減すべく、前年度比マイナスとなっていた(第1-1-7表)。しかし、3月に発生した大震災への対応から補正予算が編成され、最終的な補正後予算額は、公共事業関係費で約7.8兆円、その他施設費も含めると約10兆円まで拡大した。また、2012年度予算においては東日本大震災復興特別会計が設置され、復興経費を含めた場合、当初予算ベースの公共投資関連予算は前年度を上回る水準となっている。

被災地における災害復旧は2011年の夏頃から顕在化

こうした予算の執行状況を見るためには、震災関連予算の多くが災害復旧工事請負額として現れてくることから、その推移を確認すればよい。全国計の請負額は2011年度年初から前年比マイナスとなる中、特に被害が甚大であった3県(岩手県、宮城県、福島県)の合計(以降、被災3県と略)はプラスに寄与していた(第1-1-8図)。2011年8月以降は全国計の請負額もプラスへと転じ、その後は年度末まで増加基調が続いた。2012年4月以降においても、被災3県のプラス寄与は続いている。一般に、当面必要な災害復旧工事に着手した後に復興関連の民需が発現することを踏まえると、今後は設備投資や住宅投資といった民需項目の動きも復興の進捗・進展を見る上で重要となってくると考えられる。

ここ数年の政府支出はわずかにGDPギャップの縮小に寄与

大震災への対応というやむを得ぬ事情による拡張的な財政スタンスはGDPギャップに影響を与える。GDPギャップの変化を要因分解すると、リーマンショック以前は歳出を相対的に削減していたため、政府支出はGDPギャップの拡大要因であったが、2008年の後半以降は縮小要因となった(第1-1-9図)。2010年度は公共投資を削減したため、中立的なスタンスに戻ったが、大震災後には再びGDPギャップの縮小要因に転じている。例えば、2011年第2四半期や2012年第1四半期は比較的大きな寄与となった。ただし、GDP全体の動きと比べると、政府支出は小さな動きであり、基本的に、GDPギャップの動きは民間設備投資や純輸出の変動によって決まっている。なお、いわゆる家計や企業等の民間に対する補助等は国民経済計算上の政府支出ではないため、それらの支出効果は民間消費や投資の中に含まれる。例えば、家電や自動車購入への補助金は家計への移転であり、受け取った家計経由の民間最終消費支出となって需要に現れる。

2 企業部門の動き

次に、企業部門の動きを概観する。リーマンショックによる世界景気の後退は、我が国が得意とする輸送用機械やIT関連機器の輸出を急落させることになり、製造業部門に大きな打撃を与えた。その後は持ち直してきたものの、大震災やタイの洪水被害によって生じたサプライチェーンの寸断等により、その軌跡は平たんなものではなかった。

ここでは、こうした厳しい環境下における、生産・出荷の動向や企業利益や設備投資の動きについて概観する。

(1)生産の動向

サプライチェーンは2011年内におおむね回復

鉱工業生産指数の動きから明らかなとおり、企業部門は製造業の中でも輸出ウェイトの高い業種を中心として持ち直していたが、大震災時の落ち込みは大きかった(第1-1-10図)。特に、部品のサプライチェーンが寸断されて生産ラインの止まった輸送機械工業等では、生産指数が半減する程の急落であった。2011年後半にはタイの洪水被害が発生し、一進一退の動きもみられたが、年末にはおおむね大震災前の水準を回復した。一般機械工業も大震災前の水準を回復したが、2012年に入り減少に転じている。鉄鋼業や電子部品・デバイス工業は、その後に生じた世界経済の成長鈍化の影響もあり、一時、弱い動きがみられた。2012年前半には上向きの動きが見られるものの、いまだ大震災前の水準を回復していない。また、化学工業については、一時的に大震災前の水準回復を果たしたものの、原材料価格の高騰や世界需要の鈍化により、2012年にかけて横ばい圏内の動きとなっている。

一方、非製造業については、大震災後に交通運輸や小売業を含む第三次産業活動指数が急低下したが、その活動制約は比較的早期に解消したため、落ち込みの程度は製造業に比べると軽微であった。大震災後に急落し、回復に転じた消費者マインドやサービス支出に歩調を合わせた動きとなっており、足元でこのところは横ばいとなっている。

海外現地生産比率は上昇

2011年は欧州政府債務危機の深刻化などを背景に、リーマンショック後から続く円高が加速する局面もみられた。こうした円高の持続は、我が国企業の海外現地生産高の上昇テンポを速める結果、国内生産の縮小や国内設備投資の減少要因になるとの懸念がある。過去の分析からは、海外現地生産比率(海外現地生産による生産高/(国内生産高+海外現地生産による生産高))の動きと繊維業など一部の業種の生産量の動きにはマイナスの関係が見られるため、こうした懸念には一定の妥当性があろう4

内閣府の「企業行動に関するアンケート調査」では、現在及び5年後の海外現地生産比率や採算円レートの水準について、上場企業を対象に集計している。そこで、1988年以降について、現在及び5年後の海外現地生産比率と採算円レートに対する回答を業種別にプロットすると、両者の間にはマイナスの関係が見られる(第1-1-11図(1)及び(2))。これは、採算円レートが円高の(円高耐性のある)企業(業種)ほど、海外現地生産比率が高いという傾向を示している。また、海外現地生産比率を5年後の見込み値に変えてもこの傾向は同様である。仮に、申告された採算円レートが当該業種の価格競争力又は生産性とおおむね同義とすれば、価格競争力のある生産性の高い企業が既に海外生産を展開していることになる。そして、こうした企業(業種)は、為替変動に応じて国内外での生産を調整するが、そうでない企業は海外事業展開が不十分であり、為替変動に応じた国内外の生産調整をする余地が少ないことになる5

また、同じ海外現地生産比率について、世界と我が国の成長率格差とともにプロットすると、国外の成長率が国内よりも高ければ海外現地生産比率は高まる傾向が見られる(第1-1-11図(3)及び(4))。これは、成長する海外市場へ参入した結果が海外現地生産比率の高まりとなっていることを意味している。したがって、相対的に国内の成長力が鈍化すれば、輸出ではなく現地生産の拡大を進める可能性を示唆している。

(2)設備投資の動向

設備投資の回復が遅れた背景には企業利益の低迷

生産や出荷が増加した後には設備投資の増加が期待されるが、今次の景気拡張局面では設備投資の動きが鈍い状態が続いていた。そこで、設備投資の背景にある経常利益の動きを業種別規模別に見ると、いずれの業態、規模においても2011年は伸び悩んでいたことが分かる(第1-1-12図)。大震災のあった第1四半期以降、製造業では、中小企業で売上高が利益の押下げ要因となっている。非製造業においても、大中堅企業では売上高がプラスに寄与しているものの、中小企業においてはマイナスに寄与している。投資が低迷してきた背景には、こうした売上高が低迷することによる利益の伸び悩みがあると見られる。

ただし、2012年第1四半期では経常利益が増加しており、持ち直しの動きが見られている。

資本ストック循環は今後の拡大を示唆

次に資本ストック循環の状態を確認すると、製造業では、リーマンショック後に大幅下落が続き、設備投資の前年比がプラスに転じたのは2010年の後半からである(第1-1-13図(2))。この結果、資本投資比率は7%近い水準から4%程度に低下した。2011年は伸び率が鈍化しているもののプラスを維持し、投資水準に対応する期待成長率もマイナスを脱しつつある。他方、非製造業の落ち込みは製造業ほどではなかったものの、反動増も大きくはなく、2010年後半には、設備投資の前年比が再びマイナスに転じた(第1-1-13図(3))。いずれの業種においても、投資・資本ストック比率は潜在成長率との関係からは極めて低い水準となっており、自律反転の動きも期待される。この点に関連して、2012年度の設備投資計画(短観)を見ると2012年6月時点における年度計画値は前年度比4.0%と、2011年度実績の横ばいから増加に転じる見込みである。また、この伸び率は、過去10年の中でも2007年度を上回り、3番目に高い値である(第1-1-14図)。

投資回復にはキャッシュフローや実質金利要因が効く

設備投資が低迷した背景として、売上低迷による利益の伸び悩みがあったことは指摘したが、それを含め、投資の背後にある要因をより定量的に把握するために、ストックの過不足感、キャッシュフロー状態、有利子負債や実質金利、そして株価からなる関係式を製造業と非製造業に分けて推計した(第1-1-15図)。推計結果からは、製造業は有利子負債額や実質金利の影響を相対的に強く受け、非製造業はストック要因やキャッシュフローの影響を強く受けることが示唆される。最近の動きを見ると、2010年後半から数四半期には、キャッシュフローや実質金利要因を経由した設備投資の押上げがみられたものの、震災後ではこれらの要因が剥落している。また、ストック要因は引き続きマイナスに寄与している。過去の変動からは、設備投資の変化率が持ち直しに転じる頃に寄与を拡大する要因はキャッシュフローとみられるが、キャッシュフローの動きは経常利益の動きでおおむね説明できる。経常利益の伸び率は設備投資におおむね2~3四半期先行する性質があることから、設備投資が増加に転じる前に、キャッシュフローや利益に変化が期待されることになる6

3 家計部門の動き

これまでマクロ経済の変動と政策対応、そして企業部門の動きを概観してきたが、今次の景気拡張局面における家計動向は、企業に見られた売上の伸び悩みから設備投資を抑制するといった動きとは対照的である。政策等による消費の押上げもあるが、実質所得によって下支えされている面もある。ここでは特に、非勤労世帯が多い高齢世帯が増加する中、安定的な所得環境のもとにある高齢世帯による景気の下支えに焦点を当てて見ていく。

(1)所得と消費の動向

政策効果による押上げもあり、消費は緩やかに増加

消費動向を国内家計最終消費支出によって確認すると、生産・出荷と同様に大震災により、2011年第1四半期に大きく落ち込んだ。しかし、その後は、消費マインドの改善と共に、第3四半期には大震災前の水準へと回帰した(第1-1-16図(1)及び(4))。消費支出を形態別に見ると、大震災後の回復は、半耐久財と耐久消費財の増加によって実現している(第1-1-16図(2))。これには、地デジ移行に向けたテレビの特需が含まれており、また、2011年の年央や年末には、エコカー補助金等による自動車購入の増加も寄与している。サービスについても、大震災以降緩やかに持ち直しており、2012年に入り、大震災前の水準を回復した。

一方、実質雇用者所得は底堅い動きとなっているが、デフレの影響が強く、物価要因が持続的にプラスとなっている(第1-1-16図(3))。このところの動きとしては、雇用者数はマイナス寄与であるが、所定内外の賃金がプラス寄与となっている。

2012年度の家計負担・給付は、おおむね横ばい

雇用者所得は、名目では伸びない中で物価下落によって実質では伸びているが、家計の消費動向にとっては、可処分所得の動きが重要である。

そこで、家計負担率(租税・社会保障負担/家計所得)及び家計給付率(家計給付/家計所得)の増減を見る。その際、租税・社会保障負担についてはそれぞれの項目を「負担率要因」と「所得要因」に分解する。また、家計給付については年金、労働保険、その他に分類した上でそれぞれの項目を「給付率要因」と「所得要因」に分解する7

まず、租税負担については、景気変動によって変動する程度(所得要因)が大きい。例えば、2008~2009年度のリーマンショック後は、家計所得が大幅に減少(負担率に対しては上昇要因)する中、ビルトイン・スタビライザー効果を発揮することで負担上昇を抑制した。なお、2009~2010年度は連続して負担率要因による上昇が見られる。次に、社会保障負担は、所得要因による変動は小さく、2006年度以降は負担率要因が継続して上昇に寄与している(第1-1-17図(1))。

次に、給付側を見ていこう。給付のうち労働保険については、失業給付が景気循環と逆方向に動くため所得の動きと反対(図の家計所得要因は逆符号であることに注意)に動くものの、年金やその他を含めた全体は所得要因による変動は小さい。リーマンショックや大震災のあった2009年度、2011年度については、労働保険の給付率が増加することで、家計の所得減少を下支えしている姿となっている。他方、年金給付率は高齢化の進展に伴う受給者数の増加を反映して増加基調である(第1-1-17図(2))。

消費の底堅さを維持することが景気を腰折れさせないためのポイントになる中、2012年度の家計負担については、所得要因による変化が大きいものの、租税負担率及び社会保障負担率要因はおおむね横ばいとなる見込みである。また、家計給付についても、所得要因による変化が大きいものの、給付率要因はおおむね横ばいとなる見込みである。

消費の変動要因は高齢世帯と非高齢世帯で違い

家計負担の動向に続き、ここでは高齢化が消費に与える影響を見る。まず、家計消費について、世帯主年齢が60歳以上の世帯を高齢世帯、60歳未満の世帯を非高齢世帯として分割し、それぞれの世帯当たり消費支出の動きを所得等の要因で説明した。その結果、高齢世帯の消費は、相対的に、可処分所得や純金融資産、さらにはマインドの変化に対する感応度が高く、それほど安定的ではないことが示唆される(第1-1-18図)。背景としては、必需品消費以外の部分に支出シェアが大きいことが影響していると考えられる。マインドや資産による消費の動きが非高齢世帯に比べると顕著に大きい点は、高齢世帯の増加に伴って、消費マインドや資産価格の動向が消費を通じて実体経済に影響する程度が高まる可能性を示唆している。

コラム1-1 「定額給付金の経済効果」について

過去20年を振り返ると、地域振興券の配布や大型の所得税減税、又はエコカー補助金や家電エコポイント等、景気対策においては、家計の消費を刺激する策が幾つも実施されてきた。ここで取り上げる定額給付金事業は、経済不安や物価高騰などに直面する家計への緊急支援策として、2009年に実施された事業である。内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2012)では、定額給付金の給付が家計の消費行動に与えた影響について、総務省が実施する「家計調査」の個票データを用いて検証した。その主な結果は以下の通りである(コラム1-1表)。

1) 定額給付金によって、受給月に(受給額の、以下同じ)8%分に相当する消費増加。他の月の分も合わせた累計では、受給額の25%分に相当する消費増加。

2) 個別品目について見ると、「耐久財」の消費については累計で受給額の36%分の消費増加。

3) 世帯属性を考慮すると、子どもがいる世帯では累計で受給額の40%分、高齢者がいる世帯では累計で受給額の37%分となり、全世帯をサンプルとした場合を上回る消費増加。

このように、定額給付金の給付は、家計にある程度の消費増加効果をもたらしたと考えられるが、その大きさは世帯属性や財/サービスにより異なる。

(2)高齢世帯の消費

高齢世帯の消費が所得・資産動向やマインドに感応的であることを示したが、具体的に高齢世帯による消費の構造を見ていく。

増加する60歳以上世帯主世帯

最初に確認することは、世帯数の推移である。2010年以降、世帯主年齢が60歳以上の世帯数は、世帯主年齢が35~59歳の世帯数を上回り、今や全体の4割以上を占めている(第1-1-19図(1))。高齢世帯の平均的な世帯当たり支出額は全世帯平均より少ないものの、世帯主年齢が20~30歳の世帯よりも多い(第1-1-19図(2))。最近の世帯あたり支出動向を見ると、定額給付金等が支給された2009年に増加した後に下落へと転じている。ただし、世帯数が増加しているため、世帯階級としてのマイナス寄与は小さい(第1-1-19図(3)及び(4))。

高齢世帯増加によりサービス関連の支出は増加

次に高齢世帯の消費を品目別に見ると、有業無業を問わず、非高齢世帯とは大きく異なる点がある(第1-1-20図)。当然であるが、非高齢世帯では、養育関係支出(授業料、仕送り金、学校給食、補習教育等)が固定的な支出として計上される一方、高齢世帯ではほとんど不要である。したがって、これらの項目への支出変化は高齢世帯に移行する際に-100%に近い減少率となり、支出ウェイトも低下する。自動車等の購入や維持についても支出額は半減するが、有業高齢世帯では下落幅が小さくなる。これは一般外食や洋服代についても当てはまる傾向である。

さて、不要となった支出が新たに向けられる先は、交際費や家の設備修繕・維持、そして健康保持用摂取品、パック旅行費、保健医療サービス、医薬品、生鮮果物といった品目である。これらへの支出額は、平均所得の水準が低いにもかかわらず、60歳未満世帯よりも増加する。今後見込まれる高齢世帯数の増加とこうした支出行動の変化から、我が国の消費には持続的かつ大きな構造変化が発生することになる。具体的には、財の場合であれば、医療や健康関連の商品への支出が増加し、旅行費や交際費といったサービス関連の支出も大幅に増加する。また、住宅修繕費も増加しそうである。こうした動きは既に現れているものだが、その流れは今後も続くことになる。

(3)住宅投資の動向

家計支出の中で一定の割合を占める住宅向け支出に対応する住宅投資は、年間の新設住宅着工戸数が100万戸を超えていた2008年度以前と比較すると低い水準で推移している。大震災後は、建設資材のサプライチェーンが寸断されたことから着工が低迷した。2011年7月には、資材流通の回復や住宅エコポイント等による押上げもあり、大幅増となった。その後は反動減を経た後に再び持ち直しの動きとなっている。以下ではこうした短期の動きに加え、住宅投資の先行きを考える幾つかの試算を紹介する。

住宅着工戸数は大震災後に弱い動きも見られたが、年明け以降は復興需要等により持ち直し

住宅投資の動きを着工戸数で見ると、2011年は、大震災後に生じた建設資材の供給制約等から着工戸数の伸びが鈍化した。同年の年央までには供給制約が緩んだことや、住宅エコポイント等の駆け込みもあり、第3四半期の着工戸数は持家と貸家を中心に大幅増となったが、翌四半期は反動から減少した。2012年に入ると再び持ち直しへと転じ、第1四半期の着工戸数は年率86万戸程度となった(第1-1-21図(1))。住宅エコポイントについては、その申請が住宅の完成後に行われることから、着工戸数の動きよりも数ヶ月遅れる傾向がある。そこで、住宅の着工から完成までの期間を3、4ヶ月程度と見込み、2ヶ月移動平均により振れも補正した申請戸数の動きを着工戸数と比較した。その結果、ある程度は、申請戸数の増減が住宅着工戸数の駆け込みとその反動を説明することが分かる8第1-1-21図(2))。

また、2011年第3四半期以降は、災害復旧関連の事業が立ち上がるにつれ、建設労働需要の増加も見られるようになった。そこで、建設労働過不足率9の動きに注目すると、同不足率と着工戸数(後方5か月移動平均)の間にはプラスの関係が見られ、着工戸数の上昇に合わせて不足率が高まる傾向がある(第1-1-21図(3))。また、リーマンショック以前のデータでは、過不足率0%に対応する着工戸数が117万戸弱であったのに対し、2009年以降は83万戸程度へと減少している。建設労働過不足率の不足労働者数は事業主の主観的な過不足判断であるため、実際の人員過不足と一致するとは限らない点に注意は必要であるが、0%に対応する戸数は、事業量に対して必要な労働者数が無理なく確保できる着工水準とみなせる。この水準を超えると、例えば、着工後の工期が延びたり、労務費が上昇したりするとも考えられる。こうした供給側の要因が、2011年年央以降の不安定な着工戸数動きと関係しているかもしれない。今後は、被災県においてもこれまで以上に住宅需要が出てくることも見込まれることから、特定職種や部門における労働不足問題が一層顕在化することに注意が必要であろう(第1-1-21図(4))。

住宅投資の低下には世帯当たりストックも影響

住宅投資は、新設住宅着工戸数や同床面積といった数量面から把握するだけでなく、価値を反映した実質住宅投資額から見ることも必要である。住宅投資を説明する要因としては、実質金利、実質所得、住宅ストック、そして地価や家賃を取り上げた。なお、建築基準法の改正等による駆け込みやその反動減といった一時的な変化については、個別のダミー変数を用いることで、その動きをとらえるよう工夫している(第1-1-22図)。推定結果からは、まず、所得や金利要因は想定通りの方向に住宅投資を変動させていることが確認される。ただし、2008年から2009年は、建築基準法改正後の減少とそれからの戻りやリーマンショックといった影響が重なっており、取り上げた要因では、半分程度しか説明できない。2010年以降の動きについては、地価や家賃、そして所得や金利が押上げ要因となる一方、世帯当たり住宅ストックが押下げ要因となっている。

現在の住宅着工戸数は5年前の7割程度

世帯当たりストックが投資の抑制要因という結果を別の角度から確認してみよう。2000年代半ばまでは、労働者数の過不足率0%に対する住宅着工戸数が年率117万戸程度であったが、2010年代に入ったころには83万戸程度と約7割に低下した姿になっている。この間には、建築基準法の改正による駆け込み需要とその反動減や、先にも触れた大震災の影響等もみられたものの、いずれも労働者数の過不足0%に対する住宅着工戸数を下方屈折させる要因であるとは考えにくい10。他方、滅失住宅戸数については、住宅の質的改善による長寿化効果もあることから減少傾向がみられたものの、このところは横ばいで推移している(第1-1-23図(1))。

これらフローの増減が定義的に住宅ストックを変化させるが、住宅ストックは、これまで世帯数変化とおおむね似た動きをしてきた(第1-1-23図(2))。現在のところ、人口は減少しているものの、世帯当たり人数も減少していることから総世帯数の増加が続いている。こうした中、世帯当たり住宅ストック数は約1.1戸である。

今後は世帯数の増加テンポが緩やかになる一方、単身世帯や高齢世帯の増加といった構造的な変化が続くことが見込まれる11。こうした人口・世帯動向を踏まえた各機関による試算結果をまとめると、2020年度前後の着工戸数は65~90万戸程度と見込まれている。

(4)就労行動と雇用構造の変化

消費や住宅の動きを見る際は高齢化や人口要因に留意したが、この点は就労行動や雇用構造を考える際にも変わらない。以下では、労働供給のプロセスを労働力率(労働市場に参加するか否か)、失業率(就業できるか否か)、雇用形態(どのような形で働くか)という三段階に分けて概観していく。

高齢化の進展により労働力人口は減少

最近の労働力人口は、減少が続いている。この変化を年齢構成の変化と労働力率の変化(ある労働力人口階級の全体に占める比率変化の寄与)に要因分解すると、65歳以上の人口構成要因が下落の基調を形作っており、このところは労働力率要因もマイナスの寄与に転じている(第1-1-24図(1))。先行きについては、若者・女性・高齢者等の労働市場への参加が促進されない場合、2012年から2014年にいわゆる団塊の世代が65歳という厚生年金の本格的な支給開始年齢に達することから、労働力人口の減少幅は大きくなるものと見込まれる。生産年齢人口に対応する労働力人口は、年率-0.7%で減少しているが、団塊世代が65歳へと移行する期間は-1.3%程度の減少となる。その後は少し持ち直すものの、年齢階級別の労働力率が現状と変わらないとした場合は、マイナス圏内で推移することになる(第1-1-24図(2))12

年齢構成効果により全体の労働力率が低下する中、女性の労働力率は上昇傾向

こうした高齢化の影響もあり、労働力人口が減少し、全体の労働力率も低下している。しかし、労働力率が上昇すれば、人口動態の影響を多少は緩和できる。生まれ年毎(5年毎)の労働力率の推移を調べると、男性の場合はほとんど変化がない一方、女性の場合は、60年代後半生まれの者が20歳台後半だった時は66%が労働力化していたが、70年代後半生まれの者は75%、80年代前半生まれの者は77%が労働市場に参加している。四半世紀の間に、女性の労働力率は11%ポイントの上昇を記録している(第1-1-25図(1))。ただし、女性の労働力率は高まっているものの、OECD諸国との比較ではさらに高まる余地もある。男性の労働力率は、学生比率の高い20歳台前半までは相対的に高くないものの、25歳以降になると、OECD諸国内ではトップクラスの水準で推移している。他方、女性の労働力率は、20歳台前半では相対的に上位に位置するものの、20歳台後半以降では横ばいとなり、相対的な順位を落としていることが分かる。過去に比べると率は高くなっているものの、我が国ではM字カーブ(結婚・出産に伴う一時的な非労働力化)が観測されており、いまだ、出産・育児が継続的な労働参加や就業を妨げることになっている(第1-1-25図(2))。こうした点が是正されるような変化が引き続き求められる。

循環失業率は低下傾向も水準は高く、長期失業者の割合が上昇

次に、冒頭に整理した三段階のうち二段階目に当たる失業率の動きを見ていく。リーマンショック後に急速に高まった失業率は、循環失業部分が低下傾向にあるものの改善テンポは緩やかである。構造失業率がおおむね3%強で推移していることから、2012年前半においても循環的失業が1%以上残っている(第1-1-26図(1))。また、失業期間が1年を超える長期失業者の全失業者に占める割合は高まっており、4割弱となっている(第1-1-26図(2))。

リーマンショック後、急激な製造業の生産下落に対応するために雇用調整助成金制度の機能拡充がおこなわれた。その効果もあり、急速に高まっていた失業リスクが一挙に顕在化することを防ぎ、労働者を企業の内部に止めることにはある程度成功した。一定の仮定を置いて試算すると、拡充された雇用調整助成金制度により、2009年後半の失業率は最大で1%ポイント程度抑制されたと試算される(第1-1-26図(3))。ただし、時間の経過、経済の持ち直しと共に回復した労働需要にも助けられ、雇用調整助成金等の対象者数は減少しており、失業率(実績値)と雇用調整助成金等下支えのない失業率(試算値)のかい離幅も縮小している。

一部の職種や業種では雇用のミスマッチにより人手不足

失業の長期化という状況が見られる一方、人手が不足している職種や業種もある。職種別の過不足感を見ると、事務や管理系の仕事はあまり不足感も変動もないものの、専門・技術系や技能工系には2010年以降恒常的な不足感が生じている(第1-1-27図(1))。こうした職種間でのミスマッチを解消するためには、知見や技能・技術の習得といった教育投資や訓練投資が必要である。我が国では、訓練についての公的な支援策として、職業能力開発促進法に基づく公共職業訓練(離職者訓練)が実施されている。その事業成果を就職率(2010年度)で確認すると、施設内訓練(金属加工や電気設備等)は77.6%、委託訓練(介護サービスや情報処理等)は63.7%となっている(訓練期間はおおむね3か月~1年)。

また、業種別ミスマッチについては、恒常的に不足超過となっているのは運輸業、郵便業であり、最近の動きには一服感がみられるものの、建設業や情報通信業の不足超が高い水準にとどまっている(第1-1-27図(2))。建設業については大震災の影響という特殊要因も関係しているが、先の建設労働過不足率の動きと整合的である。また、情報通信業についてはいわゆるIT技術が様々な業種の中に浸透してきた結果、新たな製品開発から既存製品の保守管理に及ぶ情報通信関連の雇用機会が増加していることに関連しているとみられる。職業訓練の在り方を含め、人材育成政策を再構築するに際しては、こうした労働需要の変化を踏まえていくことが求められている。

非正規雇用は増加

最後に、冒頭の整理では三段階目に相当するどのような形で働くかという雇用形態別の動向を見ていく。まず、「労働力調査」では、正規の職員・従業員とは、勤め先で一般職員あるいは正社員などと呼ばれている人と定義されており、それ以外のパート・アルバイト、派遣社員、契約社員、嘱託その他を非正規の職員・従業員と区分している。また、「賃金構造基本統計調査」では、正社員とするか否かが事業所の判断で決まり、それ以外の常用労働者を非正社員として定義している。他方、労働時間からは、フルタイムかパートタイムかという区分があり、後者を非正規と呼ぶ場合もあれば、雇用契約に着目し、有期か無期かということから正規と非正規を分類する例もある。それぞれの定義が包含する労働者の比率について最近の動きを「労働力調査」の非正規雇用比率という定義で見た場合には、2010年第4四半期の34.9%から2011年第4四半期は35.7%(2012年第1四半期は35.1%)へ増加、また、労働時間でパートタイム労働者を見ると同期間において、28.7%から29.6%へ増加していたが、2012年第1四半期は26.5%と急落している。他方、契約期間で1年以下の労働者比率を見ると、15.3%(2012年第1四半期は14.8%)という結果になっている(第1-1-28図(1))。

55~64歳の非正規雇用比率が上昇

続いて「労働力調査」の定義に基づいて非正規雇用比率が高い労働者の属性について確認する。在学中の者を除く値について、年齢階級別に非正規雇用比率をみると、最も比率が高いのは65歳以上の年齢層であり、2012年第1四半期の非正規雇用比率が68.7%である。ただし、人数は少ないため、非正規の職員・従業員全体に占める構成比は9.8%にとどまる。次に比率が高いのは55~64歳の46.3%であり、その構成比は25.0%である。三番目には15~24歳の33.3%が続き、その構成比は6.4%である。55~64歳の非正規雇用比率がこのところ高まっており、大震災前の2010年第4四半期と比べると2.5%ポイントの上昇、2002年第1四半期との比較では9.2%ポイントの上昇である。

男女別の非正規雇用比率については、男性の19.6%に対して女性は54.6%と高く、2002年第1四半期から2012年第1四半期の10年間での上昇幅は、男性が4.8%ポイント、女性が6.5%ポイントとなっている(第1-1-28図(2))。

また、産業別区分では、卸・小売、飲食、サービスといった非製造業における非正規雇用比率が高く、金融・保険業や不動産業でも高まっている(第1-1-29図(1))。規模別では、小規模企業では従前から非正規雇用比率は高く、40%を超えるものの10年間で5%ポイント程度しか上昇していない。一方、500人を超える大企業では、20%以下の水準から10%ポイント以上の上昇をみせており、今や30%を超える水準に達している(第1-1-29図(2))。こうした雇用形態の違いと賃金の関係については次節で見ていくことになる。

コラム1-2 「労働力調査」の標本と失業率

「労働力調査」は、全国の約10万人(約4万世帯)を対象にした標本調査である。標本抽出の詳細は調査概要に譲るとして、ここでは標本の入替方法に工夫がある点に注目している。標本調査区は4組×2(年)の8グループで構成されており、各グループについて、4ヵ月連続して調査するが、毎月4分の1ずつ新しい調査区に交代することで前月からのサンプル替えの影響を抑えている。また、2年調査を前提として、半数は1年後の同時期に再び調査することで、前年比にある程度の連続性を維持している。その他に、標本調査区を4ヵ月連続して調査する際には、2ヵ月ずつ異なる住戸を調査することで、世帯への負担軽減を図るとともに、前月比にもある程度の連続性を維持している。

さて、こうした標本入替の結果、ある月で見た場合、「労働力調査」は1ヵ月目と2ヵ月目という二つの標本から推定される。同じ母集団から抽出された標本だが、それぞれの失業率を見ると、標本毎の推定量はバラつきやすく、2010年以降における、1ヵ月目と2ヵ月目の乖離幅は最大で0.4%ポイントである(コラム1-2図)。全数調査ではない統計であれば、標本入替や当初想定した推定乗率が結果に与える影響は無視できず、標本誤差が生じることは一般的である。本来はこうした点も含めて評価、利用されるべきであろう。


(1) 正確には、内閣府経済社会総合研究所による景気基準日付の決定を待たねばならない。
(2) 引用した計数は、対ドル円レートが10%減価した場合の乗数値であり、線形性があるという前提で利用している。無論、乗数分析は、過去の経済統計から得られる平均的な関係を示したものであるから、ある程度の幅を持ってみるべき数字である。出典は、佐久間隆他(2011)。
(3) このモデルは、内閣府(2009)、経済産業省(2002)、千明・深尾(2002)と同一のフレームを用いている。ただし、過去の事例が潜在的な消費や投資を実績値から直接求めていたのに対し、ここでは潜在GDPの伸び率に依存するようにしている。体系はマクロモデルのようになっているが、金融政策による需給調整メカニズムは含まれていない。
(4) 例えば、内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2011)第1章1節3を参照。
(5) 我が国企業の輸出価格設定における為替のパススルー(輸出価格への転嫁)率を求めた最近のものとしては、内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2011)がある。それによると、パススルー率は産業・商品によって異なり、我が国の主たる輸出品である加工型業種の中でも、一般機械は約60%、輸送用機械は約40%、電気・電子部品は約20%である。こうした違いは、当該輸出品の現地市場における価格競争力や商品差別化の程度等がかかわっているとみられる。
(6) 内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2011)第1章第1節(第1-1-5図(2))を参照のこと。
(7) 「負担率・給付率」要因とは負担率・給付率の変化による寄与、「所得」要因とは負担率・給付率が前年度と同じ時に、所得の変動によっておこる負担額・給付額の変化による寄与。
(8) この方法は、平均的な着工から完成、申請までの期間を想定した補正であり、完成時期や申請時期に固有の季節性は除外できない。例えば、2010年12月及び2011年1月の補正後申請戸数は、2011年3月及び4月の実績申請戸数に対応して大幅に伸びているが、同時期の着工戸数には、こうした変動がみられない。
(9) 建設労働過不足率とは、(確保したかったが出来なかった労働者数-確保したが過剰となった労働者数)を(確保している労働者数+確保したかったが出来なかった労働者数)で割った値と定義される。建設労働過不足率は、道路建設等に従事する労働者等、他の建設事業に従事する労働者も含まれており、住宅に関する建設労働者に限ったものではないことには留意が必要である。
(10) 建築基準法の2007年改正では、基準の厳格化が一部の業者の撤退を促し、質を高めた結果として供給能力を引き下げた可能性はあるものの、同時期の事業所数や雇用者数には、こうした大きな変動はみられない。
(11) 国立社会保障人口問題研究所(2008)。
(12) 経済制度が労働力人口の動きから独立に組み立てられている(例えば一人当たりで仕組みが出来ている)のであれば、労働力人口の減少は、あまり重要な意味を持たないかもしれない。しかし、現在の経済社会では、明示的かどうか、意識的かどうかはともかく、一定の規模や増加率を前提にして成り立つ仕組みが多数存在する。例えば、前者は公共サービス一般の提供が効率的になる条件であり、後者は医療保険制度や年金制度が持続可能になりやすい条件である。労働力人口の減少により、制度の制定時に想定していた諸前提との乖離による弊害が生じているが、労働力率の向上により、このような問題が緩和されるものと期待される。
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