はじめに

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2008年9月のリーマンショックから2年近くが経過した。この間、我が国経済は、世界的な経済危機を背景に大幅に悪化した後、2009年春頃を底に持ち直しを続けている。2010年に入ると、企業収益が改善し、家計所得にも底堅さが見られるようになったが、民間需要を中心とした自律的回復には至っていない。一方で、危機の爪あとは大きい。経済活動水準が依然として低いこともあって、デフレや厳しい財政状況といった重荷を背負ったままの持ち直しとなっている。
今後、景気が自律的回復に向かうとすれば、新興国を中心とする世界経済の成長が続き、所得面からの需要への浮力が明瞭となる道筋が考えられるが、それだけでは脆弱さを抱え続けることになる。前回の景気回復において、企業から家計への波及が弱く、回復が実感されなかった点を踏まえ、家計を中心に据えた内需拡大の道を探ることが課題である。家計の回復を確かなものとするには、将来の所得増が展望できることが鍵となる。それは、供給側における広い意味でのイノベーション、生産性の上昇なしには考えにくい。同時に、デフレや財政の問題に正面から取り組む必要がある。
こうした現状認識の下で、本報告では、日本経済がいかに重荷を軽くして元気を取り戻し、国民生活の向上をもたらすことができるかについて、以下の3章立てで分析や論点整理を進めることとする。
第1章「着実に持ち直す日本経済」では、日本経済をいかに自律的な回復軌道に乗せ、デフレや厳しい財政の状況にどう対応していくのかを考えるため、景気の現状、物価や金融資本市場の動向、財政の現状と歴史的推移を取り上げる。具体的には、「実体面から見た景気の特徴はどこにあるか」「主要国の中で我が国だけがなぜデフレに陥ったのか」「長期金利の先行きを含めて財政の持続可能性をどう評価するのか」などの論点を検討する。
第2章「景気回復における家計の役割」では、家計を中心とした好循環の可能性を探るため、過去の景気拡張局面における個人消費や住宅投資の挙動、個人消費、住宅投資それぞれの構造変化等を扱う。具体的には、「家計の回復パターンにはどんなものがあるか」「高齢化などを踏まえた消費活性化策はどうあるべきか」「住宅投資やリフォームの活性化策はどうあるべきか」といった論点を検討する。
第3章「豊かさを支える成長力」では、需要面の回復を支える供給面はどうあるべきかを調べるため、雇用・賃金と生産性、環境問題への対応と生産性・雇用、新たな国際分業と日本経済について分析する。具体的には、「生産性の向上を通じて質の高い雇用をどう創出するか」「環境規制を逆手に取った生産性の向上は可能か」「新興国の台頭などを踏まえ、我が国の競争力はどうあるべきか」といった論点を検討する。

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