平成20年度

年次経済財政報告

(経済財政政策担当大臣報告)

−リスクに立ち向かう日本経済−

平成20年7月

内閣府


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第1節 国際的にみた日本企業のリスクテイク

 「日本企業はリスクを取らないから収益力が弱い」「日本の企業や家計がリスクを取らないから日本経済の成長力が弱い」としばしばいわれる。しかし、ひとくちに「リスクを取る」といっても様々な場面がありうる。そこで、ここではまず「リスクを取ること」(リスクテイク)の度合いを一定の指標で表すことを考える。その上で、「日本企業がリスクを取らない」のかどうかを国際比較により検証するとともに、リスクテイクと収益率、経済成長の関係を概観する。
 なお、計測可能なものが「リスク」、不可能なものが「不確実性」で、「不確実性」に挑戦する企業家が利潤を手に入れるとされる1。しかし、ここでは「リスク」と「不確実性」を特に区別しないこととする。

●リスクを取っている企業ほど収益率が高い
 まず「日本企業の収益力が弱い」という点について、「保有資産をどれだけ効率的に使って収益を上げているか」を示す総資産利益率(ROA)で確認しよう。ここではアメリカと比べているが、それによれば、1990年代以降、一貫して日本の方が低水準で推移している(第2−1−1図)。また上場企業について日米欧の比較が「平成18年度年次経済財政報告」でなされているが、やはり日本企業のROAは相対的に低くなっている。
 次に、企業のリスクテイクの度合いをどう測るかであるが、最も包括的な指標として企業ごとのROAの「ばらつき」(標準偏差)を使う2。すなわち、ROAが年によって大きく変動する企業が、結果的にみて、よりリスクを取っていると考えるのである。日本の上場企業をこの「ばらつき」によって「ハイリスク企業」と「ローリスク企業」に分類すると、「ハイリスク企業」の方が平均すればROAが高くなっている。「ハイリスク企業」は「ハイリターン」、「ローリスク企業」は「ローリターン」であることが確認された(第2−1−2図)。

●企業がリスクを取っている国ほど成長している
 企業レベルのリスクテイクは、マクロ経済の成長とどう関係しているのだろうか。リスクを取っている企業ほど収益率が高いとすれば、そうした企業が多いほど一国全体の生産性、ひいてはGDP成長率も高まると考えられる。マクロ経済の成長には様々な要因が影響するため、企業のリスクテイクだけを取り出してその影響を調べることは困難であるが、単純に両者の相関をみると、上場企業のROAの「ばらつき」が大きいほど実質GDP成長率が高くなっている(第2−1−3図)。日本はROAの「ばらつき」、成長率のいずれも低い水準にある。
 ところで、個々の企業がリスクを取っているからといって、マクロ経済の変動が不安定になるとは限らない。実際、アメリカの研究では、長期的にみると企業レベルの売上高伸び率の「ばらつき」が高まっている一方、マクロレベルでの売上高伸び率の「ばらつき」は低下したとされている3。また日米比較をすると、個別企業レベルでは日本の方がROAの「ばらつき」が小さいが、マクロレベルでは逆に日本の方が「ばらつき」が大きいことが報告されている4
 ROAの「ばらつき」は既存企業のリスクテイクの度合いを示すものだが、そのほかに起業活動の形でのリスクテイクも重要である。ここでは起業活動を行っている人が労働力人口に占める割合をその指標として考えよう。この指標と最近の実質GDP成長率の関係をみると、起業活動従事者シェアが高い国ほど成長率が高くなっている。起業が盛んであれば、経営資源が速やかに移動し、イノベーションが進みやすい。したがって起業が経済成長にプラスの影響を及ぼすであろうことは容易に推察される。日本はここでも「ローリスク、低成長」の位置にある。

●その他の指標でも日本はリスクテイクが低水準
 以上、ROAの「ばらつき」や起業活動従事者のシェアでリスクテイクの度合いを測ってみたが、そのほかにも幾つかの国際比較可能な指標が存在する。ここでは3つの指標を眺めてみよう(第2−1−4図)。
 第一は、既存企業のリスクテイクを示す「同業種間M&Aの割合」である。企業の「事業ポートフォリオ」を考えると、特定の事業分野への「選択と集中」はリスクテイク、多角化はリスク分散と解釈することができる。ただし企業内での「選択と集中」を国際比較可能な形で把握することは困難である。そこで、M&Aのうちで同業種間のものを事業の「選択と集中」への取組を示すと考えるのである。日本は、先進国の中では低い水準となっている。
 第二は、起業という形でのリスクテイクを示す「開業率」である。ここでも日本は先進国の中で低い水準となっている。ちなみに、リスクテイクとは直接関係しないが、「廃業率」についても日本は比較的低い。廃業が少ないことは必ずしも望ましいことではなく、非効率な企業の廃業は経営資源を解放し、新たな開業につながるという視点も必要である。
 第三は、起業の中でも特にベンチャーに着目した、「ベンチャーキャピタル投資」(GDP比)である。この指標でみると、日本はイタリア並みであるが、他の主要先進国と比べ低水準となっており、とりわけ英国やアメリカとの差は「開業率」の場合以上に大きい。


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