第4節 我が国のイノベーションをめぐる課題

生産性向上を図る上で最も直接的な効果が期待できる手法は、高い付加価値を産み出すためのイノベーションを継続的に創出することである。“イノベーション”とは、一般的に「技術革新」と訳されることが多いが、シュンペーターにより示された定義にもあるように59、新しいビジネスモデルの開拓なども含む一般的な概念となっている。したがって、イノベーションを生み出す主体については、企業規模の大小や業種にこだわる必要はなく、大学や政府の役割も含めて、生産性向上の観点から国全体としてその創出に注力していく必要がある。本節では、(1)イノベーションに対するアメリカ・EUの取組を整理し、(2)我が国のイノベーションの歴史的特徴と(3)現在のイノベーション創出にかかる国内環境を俯瞰し、併せて課題を把握する。

1 イノベーションを原動力としたアメリカ・EUの成長戦略

海外においては、経済成長・国際競争力を維持する上で、イノベーションが重要であることが再認識されており、国家を挙げての対応が進んでいる。我が国においても、2006年4月に2006~2010年度の「第三期科学技術基本計画」が開始され、国際競争力強化や需要創出の観点から、「基本方針2007」では、官民を挙げてイノベーション創出を促進することとしている60。イノベーションを原動力とした内外での成長戦略では、イノベーションの誘発・促進するための総合政策に主眼が置かれている。そこで共通する取組事項としては、1先端的な研究開発の強化、2理工系の高度人材の確保、3研究基盤の整備や積極的な産学連携などが挙げられる。

 アメリカの特徴:研究開発投資の大きさと多様なイノベーションの担い手

アメリカのイノベーションの特徴としては、研究開発費用が他国に比べ圧倒的に大きいことが挙げられる。90年代前半における研究開発投資額は日米共に鈍化しているが、90年代後半におけるアメリカ全体の研究開発投資額は、日本の投資額が伸び悩む一方で、急激に増加しており、開発投資費用は2003年で購買力平価換算で約39兆円と日本の2.3倍程度である61

日本と異なるアメリカの特徴として、(1)研究費全体における政府負担比率が大きいこと、(2)資本市場の存在や雇用システムの柔軟性を背景としてベンチャー企業による活動が活発であり、イノベーションを促進する主体として経済に組み込まれていること、(3)産学連携を促進する政策や政府による多大な研究開発投資の支援を受けた大学は、ライフサイエンス分野などで高い研究水準を有しており、産業の発展に大きく寄与していること、などが挙げられる。

 アメリカのイノベーション政策の変遷

近年のアメリカにおけるイノベーション政策の変遷を振り返ると、貿易赤字拡大とともに製造業部門で競争力が低下していることが指摘された1980年代にさかのぼる。当時この問題に対応するため、レーガン政権下の83年に産業競争力委員会が設立され、85年に同委員会でまとめられた「ヤングレポート」では、製造業の競争力回復のために技術、資本、人材、貿易など、様々な面の政策的な対応について、具体的な提言が行われた。

92年に発足したクリントン政権下では、ハイテク重視の競争力強化に取り組むとともに、民間企業の研究開発に対する政府からの補助金投入や中小企業の研究開発支援策(SBIRなど)が推進された。また、99年に競争力評議会から発表された「アメリカの繁栄のための新しい変化―イノベーションインデックスからの発見」という報告書では、イノベーションを生み出す源泉として産業集積機能を果たすクラスター概念が創出された。

さらに、2003年には競争力評議会の中に、アメリカのイノベーション促進のための政府の新政策を後押しすることを目的として、全米イノベーションイニシアティブが設置され、IBMのパルミサーノCEOが共同議長に就任した。2004年12月に競争力評議会が政府への提言である報告書「イノベート・アメリカ62」(通称:パルミサーノ・レポート)を公表し、イノベーションを唯一の成長原動力と位置付けて提言を行った。更に、2005年10月には科学技術政策に関し、連邦政府や公共部門などへの提言を行う全米アカデミーズが報告書「強まる嵐を超えて63」を発表しており、(1)初等中等教育における科学数学教育の改善による素養ある人材プールの増加、(2)長期的な基礎研究への国家関与の維持/強化、(3)優秀な学生、科学者、技術者を育成・誘引・保持できる環境整備、(4)製造やマーケティングなどへの投資、高賃金の職の創造のほか、イノベーションに資する税制、ブロードバンドの活用環境の整備を提言の柱としている。

このような流れを受けて、(1)研究投資、(2)科学技術能力の向上、(3)イノベーション環境の構築を柱とする国家イノベーション法案(National Innovation Act)が提出され、また、2006年初の大統領一般教書演説においても「米国競争力イニシアティブ」への言及が行われた。

 アメリカを意識した競争力強化の取組を進めるEU

EUでは90年代後半、IT化の進展の下で、アメリカなどと比較して、経済成長や労働生産性の伸びが低位にとどまっていることが判明し、各国首脳間ではEU全体としての競争戦略が必要であるとの認識が高まった。

EUでは、2000年3月に経済・社会政策に関して、世界でも最も競争力があり、完全雇用を達成する社会となるためのアクションプラン(10カ年計画)として「リスボン戦略(Lisbon Strategy)」が策定された。この戦略の中では「知識経済の構築」に必要な投資として、「2010年までにR&D投資をGDPの3%に引き上げる」ことを具体的な目標として掲げていた。その他にもモニタリングすべき指標が極めて広範にわたっており、2004年に中間評価を行ったところ、進捗(目標達成度)が芳しくないことが明確となり、2005年にはより簡素化したプロセスを設定し直した「新リスボン戦略」が再設定された。ここでも「R&D投資のGDP比3%の達成」目標は維持された。さらに実施の枠組みについては欧州委員会が共通のガイドラインを提示し、加盟各国がそれに則った国別改革プログラムを作成・実行することとなった。またEUにおいては、研究開発における総合計画である第7次フレームワークプログラム(2007~2013年)が策定され、優先テーマに沿ったプロジェクトを募集・遂行することとしている。その中では中小企業への成長機会の拡大への注力も謳われている。同時に「競争力・イノベーション・フレームワークプログラム(Competitiveness and Innovation Framework Programme)」ではICT政策への支援などに加えて、中小企業・起業家への支援を通じたイノベーション促進を図ることとしている。

2 我が国におけるイノベーションの変遷と特徴

 「日本的」経営の下でのイノベーション

 国のイノベーションの在り方(以下、イノベーション・システム)は、その国の要素賦存の量や質、地理的な条件、制度や慣行など様々な要因によって影響される。我が国のイノベーションの特徴としては、終身雇用制のような長期雇用の慣行やメインバンク制、安定株主が多く内部出身の経営者の裁量が高いといったような、いわゆる「日本的」経営と呼ばれるものとの密接な関連が指摘できる。日本的経営にみられる制度や慣行は、企業における長期的な視野での研究開発投資を可能としてきた。企業間の長期取引慣行や内部労働における現場の連携は、自動車のように開発陣と生産現場の協調的作業が必要とされるような「擦合せ型(インテグラル型)製品」において優位性を発揮してきた64

 90年代の経済停滞に直面した我が国のイノベーション・システム

しかしながら、日本的経営にみられる制度や慣行に対しては、90年代のバブル崩壊とそれに続く長期的な経済停滞において、逆にそれに対する否定的な見方も多くなった。イノベーションに対する取組をみると、企業リストラの下で、研究開発費も削減される傾向にあり、短期的に企業利益に直結しにくいような基礎分野での取組は低下することとなった。また、日本的経営と呼ばれるような制度や慣行が、イノベーション創出にとってむしろ硬直的な要素としてとらえられるようになった。特にパソコンなど一部のIT製品のような汎用部品を組み合わせて作る「組合せ型(モジュール型)」の製品分野では、必ずしも日本的経営の利点が生かされないとの指摘がみられている65。日本型のイノベーション・システムが直面する課題を整理すると以下のとおりである。

第一に、内部人材による研究開発や社内一貫の研究・生産・販売体制など、社内資源に依拠したイノベーションの在り方は、企業間あるいは企業と大学など、組織間の新しい連携や協働を促進しづらい状況を生んできたことが挙げられる。

これまでは、欧米の技術を吸収して低費用で製品化することを目的としていたため、こうした社内完結型の研究開発管理体制は高い効率性を発揮してきた。しかし技術水準が欧米に追いついてしまえば、明確な成果目標を設定することができなくなり、社内外から広くアイデアや知識を吸収し、他社にない独創的な技術・製品を開発する必要が生じる。また、製品に必要とされる技術水準が高まり科学技術との関連が深くなってくると、生産現場において着実な問題解決を図るよりも、普遍的な科学的・工学的知識を持つ研究者・技術者の力を引き出すことが重要になってくる。こうした状況下では、他企業や大学・研究機関との協力関係を築けない自前主義66は、技術開発競争を勝ち抜くことへの足かせとなりかねないとの評価もみられるようになった。

第二に、日本の金融システムが、メインバンク中心の間接金融を主体としており、ベンチャーキャピタルのような直接金融によるリスクマネーの供給に乏しかったことが挙げられる。アメリカでは、大学や研究機関の周辺からベンチャーキャピタルによる初期投資を受けたベンチャー企業が大量に生まれ、この中から巨大企業に成長するものも現れた。特にITやバイオなどの新産業については、日本では研究開発の中心的な役割を担ってきた大企業に代わって、中小のベンチャー企業によるイノベーション活動を活発化させることができず、大きな差がつくことになった。

第三に、従来我が国における知識資産の蓄積は、企業内での幅広い職場間の配置転換などを通じて、経験や熟練から生じる文書化しにくいノウハウや微妙な調整を行う「暗黙知」の共有・活用という形で行われてきた。しかしながら、企業外の様々な組織と連携・協働を進めながら、知識を蓄積して一早く製品開発過程に繋げていくためには「暗黙知」を分かりやすく外部に伝えていくための「形式知」化が必要となる67第3節コラム9「知識創造経営」からみた情報ネットワークの質を参照)。

3 イノベーションを創出する経済社会環境と制度設計

上記の点を踏まえて、我が国が有効なイノベーションを継続的に生み出す上で前提条件となる環境が、現在どのような状態にあるのか、(1)人材面、(2)研究開発費、(3)ネットワーク(クラスター活動状況)、(4)ベンチャー企業の動向、について国際比較などを通じて俯瞰し、併せて課題を把握する。

 理工系の高度人材の確保に不安

イノベーションが新製品開発の形を採る場合はもちろん、新たなビジネスモデルの開拓を通じて発揮される場合でも、その実現については技術の裏付けの下で成立している場合が多い。イノベーションの創出及び具現化において、社会全体として理工系の高等専門知識を持った人材を豊富に有し、かつ今後とも持続的に提供する環境が必要である。仮に理工系の人材の供給が十分行われないような場合、社会全体としての技術的知識保有が失われるおそれがある。

OECDのデータで研究者について国際比較した場合、日本の現役の研究者比率は高い(第2-4-1図)。ただし、高度知識の保有者という意味で、大学における博士号の取得者比率をみると日本は低位である。さらに、今後のイノベーションを担う層に目を転じると、若年層の理数系離れが懸念される。大学・短大学生の数は増加しているが、学科別にみると工学部、理学部など、減少している学部もある(第2-4-2図)。

イノベーションの創出を目指すためには高度人材の獲得は各国の重要課題となっている。特に即戦力となる研究技術者を、国境を跨いで採用することは難しく、人材確保対策として外国人の高度人材獲得に対する国際的競争が激化している68

留学生交流については、世界的な広い視野に立って大学等の教育研究の内容や水準を改善することを促し、国際競争力強化やイノベーションの創出に寄与するものである。近年、留学生の受入れ数は大幅に増加しているものの、高等教育機関の在籍者数に占める割合はOECD諸国の平均を下回っている。なお、その教育分野をみると、工学系は他国と同等も、理学系は少ない。これら留学生については、卒業後、我が国の企業等に就職する者が増加傾向にあり、今後、高度人材として活躍することが期待される(第2-4-3図)。

 増加に転じる研究開発費

企業では基礎分野における研究は成果が明確になるまでに要する時間が長く、短期での企業利益に直結しにくいために、短い期間内での成果創出(株主還元など)を求められる状況の下で、これまで研究開発費が削減される傾向にあった。また、世界に占める特許シェア(25.7%(2003年))はアメリカ(36.4%(同))に次ぐものの、90年代にかけてのシェア低下はOECD中で最も大きく(1991年→2003年 -4%)、特許当たりの引用論文の数である「サイエンスリンケージ」も欧米に比べて低いとされている69

90年代に入っていったん低下した研究開発費は、90年代後半には緩やかに増加し始めている。さらに、2000年代に入ると、企業の研究開発費用については、好調な企業業績を受けて、社内使用分、外部支出ともに増加を見込む企業が増え始めている。特に分野別でみると、大学向けなど外部支出研究開発費も増加させつつ、基礎研究開発費を増加させる予定の企業が増えている点が着目される(第2-4-4図)。

一方で、研究費の政府負担割合をみると、日本は主要国と比して低めである70。これは民間での活動が活発である証左である一方、短期的な景気動向に研究費が左右されやすいリスクもある。成果創出の結果が不透明であり、かつ長期間を要する基礎研究には、国家の継続的な関与が要求される。実際に、2000年以降の政府負担研究開発費の動きをみると、新興国は基礎研究強化の観点から政府が積極的に関与している。その他先進国においても冷戦後いったん政府負担比率が減少したものの、イノベーション創出の源泉としての基礎研究の重要性再評価に伴い、政府関与の度合いを増している。これに対して、我が国における政府負担研究開発費の比率は依然として横ばいで推移している(第2-4-5図)。

 産業のネットワーク化における課題

イノベーションについては、携わる人材の知識・技術水準も重要であるが、実際の研究開発の現場における多様な分野の人材・研究をつなぐネットワークの重要性を強く認識する必要がある。

特に中小企業や創業間もないベンチャー企業などにおいては、イノベーションの源泉となり得る技術や発想を持っていても、実際に研究開発レベルでイノベーションを創出し、それを活用したビジネスを単独で成立させることについては、極めて困難を伴う。しかしながら、社会全体でのイノベーションを促進していくためには、これらの企業群が参画していくことが不可欠であり、そうした活動を支える仕組みとしての企業間、産学官のネットワーク形成についても注目していく必要がある。

我が国においても、産業の国際競争力を強化するとともに、地域経済の活性化に資するため、産学官、産産・異業種連携の広域的なネットワークを形成し、イノベーションを創出する産業クラスターの形成が図られている。産業クラスターの評価としては、情報の確保、異業種ネットワーク作りの点で一定の効果は出ているものの、現段階では、資金調達・人材確保などの点では相対的に低い効果にとどまっている(第2-4-6図)。この点を産学の連携について研究開発費の推移でみると、大学が使用する研究開発費の対GDP比率はEU諸国よりは低位であるがアメリカと同等程度である。先に述べたとおり、経年的には企業による外部支出研究開発費は増加傾向がうかがえるが、国際比較でみると企業の支出比率はアメリカや韓国が高いのに対して日本は低めである(第2-4-7図)。

 海外と比較して低調なベンチャー企業の活動

企業の資本別研究費(平成17年度12.7兆円)の構成比をみると、9割近くは資本金が10億円以上の大企業が支出しており、さらに7割強は資本金100億円以上の相当規模の企業が支出している71。このように研究開発費の金額でみる限り、我が国におけるイノベーション・システムでは中小企業よりも大企業が中心的な役割を果たしている。一方、各国においては、大企業だけではなく、競争力を有する中小企業、特にベンチャー企業がイノベーションの担い手として重要な役割を果たしている。シリコンバレーのハイテクベンチャーに代表されるように付加価値が高く成長性の大きい需要や質の高い雇用を創出することによって、国全体の生産性を引き上げ、競争力を強化するという点で、ベンチャー企業の果たす役割は大きい。

 低調な我が国のインキュベーションの状況

ベンチャー企業を支援する仕組みとしてのインキュベーション72を確認するため、我が国におけるベンチャーキャピタル投資活動を国際比較でみると、OECDからの指摘73にもみられるとおり、低調である(第2-4-8図)。

海外では政府調達を、中小企業・ベンチャー企業育成の仕組みとして積極的に使うことに力を入れ始めている。アメリカにおいては、事業化支援の仕組みとしてSBIR(Small Business Innovation & Research)制度があり、一定額以上の外部研究開発予算を持つ連邦省庁に対し、一定比率以上をベンチャー企業に供与することを義務付けるなど、政府調達を通じてのインキュベーションを行っている。この結果、2005年度の連邦政府の調達額における中小企業からのシェアは25%を超えている74

EUについても、2006年12月に公表したイノベーション促進のための、戦略的優先事項として知的財産やリスクキャピタル市場の改善への取組に加えて、中小企業が調達手続に参画しやすい環境作りの観点から政府調達の有効活用を明言している。

 ベンチャー企業の新規株式公開後に求められる資金の有効活用

長期的に成長性や生産性の高いベンチャー企業を輩出していくためには、ベンチャーキャピタル投資活動に加えて、ベンチャー企業向けの証券市場の整備が重要である。世界的にみると、ハイテクベンチャー企業など成長性の高い企業から成るアメリカのナスダック市場を範として1990年代後半から世界各国でベンチャー企業向けの市場設立が相次いだ。我が国においても東証マザーズ(1999年12月売買開始)、ナスダック・ジャパン(2000年6月売買開始、2002年12月に「ヘラクレス」に改称)が設立された。1963年に日本証券業協会が制定した店頭登録制度を前身とするジャスダックを加えた新興3市場では、2000年に株式の新規公開ブームがみられたが、同時期の新規公開企業の中には、公開後の業績が伴わず、結果的に株価が大幅に下落した先がみられた75

間接金融を主体とする我が国の金融市場では、ベンチャー企業が創業やその後の成長に必要な資金の調達が難しい点を指摘した。しかしながら、株式公開(あるいは増資)によって多額の資金調達を実施したにもかかわらず、資金が十分に活用されておらず、総資産回転率(売上高/総資産)の悪化がみられている。

新規公開銘柄の株価の動向を確認するため、市場開設後時間が経過し公開前後の財務データの取得が可能なジャスダックの新規公開企業(1999年~2003年)に関して、公開後3年間のベンチマーク(JASDAQ指数など)対比での株価収益率(累積超過収益率)を分析した。これによれば、新規公開銘柄では、(1)株価収益率が日経平均株価と比べて大幅に下回っている、(2)同じ市場であるJASDAQ指数との対比でみても、公開後一貫して株価収益率が下回っている、(3)業績との関係をみると、ROAが悪化した企業を中心に株価収益率の悪化がみられる、(4)財務面以外の属性との関係をみると、ベンチャーキャピタルの投資先企業であっても、非投資先企業に比べて株価収益率に大きな違いはみられない。また、公開所要年数との関係でみると、公開後半年程度の間は公開所要年数の短い企業ほど株価収益率が高い。(5)業種別にみると情報・通信で特に大きな株価収益率の悪化がみられる76第2-4-9図付注2-6)。

長期的に株価のパフォーマンスが良くない企業が市場で増加していくこととなれば、市場そのものの信認が損なわれることで、流動性の低下や価格形成の歪みといった市場機能の低下を招き、結果的に成長性や生産性の高いベンチャー企業の資金調達を制約することにつながると考えられる。

今後、長期的に成長性や生産性の高いベンチャー企業を輩出していくための新興市場における制度設計が期待される。