はじめに

日本経済はバブル崩壊後に残された雇用・設備・債務という3つの過剰を解消し、正常な経済環境を回復することを目指して構造調整を進めてきた。その成果は2002年初めから始まる今回の景気回復に現れることとなり回復期間は2006年で5年目を迎えている。その姿を見ると、企業部門、家計部門、海外部門がバランスよく回復し、安定した景気回復の基盤が確保されている。こうした景気回復は、その当初は企業の厳しいリストラを通じた効率性の回復を通じて企業面での収益改善などの成果に現れた。しかし企業側の好調な業績などの回復の成果は次第に家計にも波及し、雇用・所得環境が改善する中で消費の増加などに現れるに至った。

今回の白書ではこのような長期化した景気回復の実態を解き明かすために、企業面と家計面の双方から経済活動の変化を見ている。今回の景気回復はデフレという特殊な環境の下で実現した点で、通常の景気回復とは異なる様相を持っており、多面的な接近方法が有効であると考えられる。さらに景気回復という循環的な要因以外にも構造調整という長期的な視点からの認識も今後の日本経済の方向性を議論する際には重要な意味を持ってくるものと考えられる。

上記の問題意識を踏まえ今回の白書では3つの章が組み合わされる形で日本経済の動きについて分析している。

第1章では、日本経済の現状を中心に様々な視点から包括的な分析を行う。今回の景気回復が長期化した要因、デフレのもとで景気回復が実現した背景、デフレ状況が改善する中での金融政策の動向などについて分析するとともに、必要に応じて中長期的な視点から分析も行う。実体経済の正常化にともない回復しつつある金融・資産市場についての分析も行う。

第2章では視点を企業面から見た構造調整という観点に移し、よりミクロな立場から今回の景気回復の動きを分析するとともに、構造改革の評価を試みる。ここでは3つの過剰を解消し正常化に向かった構造調整の仕組みについて、企業の合理的な行動原理から説明する。経済が成長する過程でいわゆる日本型経営がどのように維持され、今後の可能性としてどのような展開が期待できるかという点についての分析も行う。

第3章では企業側で行った構造調整という大きな変化が家計側にどのような結果となって表れたかを検証する。構造調整の結果は家計面では当初は雇用の多様化、若年雇用情勢の厳しさをもたらした。しかし景気回復の成果が家計にも波及する中で、安定的な雇用の増加など明るい動きも出てきている。家計が景気回復の成果をより一層享受するためには労働者としての質的な能力向上を目指した人間力強化が有効であり、そのための職業訓練教育の充実などが期待される。景気回復が進む一方で、家計面での経済的格差の拡大を懸念する指摘もある。経済統計上把握できる長期的な所得格差の拡大の動きについては、高齢化などの人口構造の変化による影響が強く現れている面があることには留意が必要である。しかしニート、フリーター現象も含めて若年層にみられる厳しい雇用環境の問題は将来的な格差拡大につながる可能性が高いため、積極的な雇用政策なども含めて対応が迫られる重要な政策課題と考えられる。

コラム 1 経済財政諮問会議

<経済財政諮問会議とは>

経済財政政策に関し、内閣総理大臣のリーダーシップを十全に発揮することを目的として、2001年1月に設置された。

<現在のメンバー>

小泉純一郎内閣総理大臣(議長)、安倍晋三内閣官房長官、与謝野馨経済財政政策担当大臣、竹中平蔵総務大臣、谷垣禎一財務大臣、二階俊博経済産業大臣、福井俊彦日本銀行総裁、牛尾治朗ウシオ電機(株)代表取締役会長、奥田碩トヨタ自動車(株)取締役相談役、本間正明大阪大学大学院経済学研究科教授、吉川洋東京大学大学院経済学研究科教授

<最近の主な活動>

最近の主な活動