平成15年度

年次経済財政報告

(経済財政政策担当大臣報告)

−改革なくして成長なしIII−

平成15年10月

内閣府


目次][][][年次リスト

第3節 高齢化・人口減少に対応した公的部門の構築

 第2節において検討したように、高齢化・人口減少は労働投入の減少や貯蓄率の低下等を通じて経済成長に影響を与える。しかし、それと同時に、租税・社会保障負担の主たる担い手である現役世代に対する高齢者の比率が高まることを通じ、国・地方政府や社会保障制度等から構成される公的部門の在り方に大きな影響を与える。現在の行政サービスや社会保障の給付水準を維持しようとすれば、租税・社会保険料からなる国民負担を大幅に引上げざるを得なくなるとともに、受益と負担をめぐる世代間格差が拡大する。さらに、このような国民負担率の高まりが過度なものとなれば、我が国経済社会の活力が阻害され、経済成長にも影響を与えるのではないかとの懸念がある。
 高齢化・人口減少の進行に伴い、今後ある程度の国民負担の増加は避けて通ることはできない。しかし、持続可能な公的部門を確立するとともに、経済社会の活力を維持するためには、国民負担の増加を極力抑制することが必要であり、そのためには公的部門の抜本的な変革を行うことが不可欠である。
 以上のような認識の下、本節においては、国民負担と経済活力の関係について整理することを通して、高齢化・人口減少の下における公的部門全体に共通した課題を明らかにした上で、国・地方の行財政運営、年金や医療を中心とする社会保障制度のそれぞれにおける具体的な課題を検討する。

1 国民負担の増加と公的部門の課題

●国民負担率の高まり
 高齢化・人口減少の公的部門への直接的な影響は、社会保障給付の受給者である高齢世代の比率が高まることにより、年金・医療等の社会保障給付費が増加し、それを賄うための租税・社会保障負担が高まることに現れる。実際、我が国における社会保障給付費は年々増加しており、2000年度には78.1兆円になっている(第3−3−1(1)図)。その内訳をみると、年金と医療の支給がそれぞれ全体の52.7%及び33.3%と大宗を占めており、90年度以降の年平均伸び率でみてもそれぞれ5.5%、3.5%の増加と高い伸びを示している。また、国民経済計算における一般政府(中央・地方政府及び社会保障基金)の支出総額に占める社会保障給付のシェアも年々増加しており、2001年度では44.1%となっている(第3−3−1(2)図)。
 このような支出面における社会保障給付費の増加等を反映し、国民の租税・社会保障負担が国民所得に占める比率である国民負担率は上昇する傾向にある。70年度に24.3%であった国民負担率は、2003年度には36.1%にまで上昇する見込みとなっている。また、国民負担に財政赤字を加えたものの国民所得に対する規模を示す潜在的国民負担率でみても、70年度に24.9%であったものが、2003年度には47.1%まで上昇する見込みとなっている(45)第3−3−2図)(コラム3−4参照)。その内訳をみると、租税負担については経済の低迷による税収の鈍化や減税の影響等により、90年代以降、国民所得比でみて租税による負担は低下傾向にあるのに対し、高齢化を反映して、年金・医療等の社会保障負担は増加傾向にある。さらに、90年代以降は財政赤字が増加傾向にあり、潜在的国民負担率の水準を押し上げている。
 他の主要先進国の国民負担率の水準と比較すると、アメリカを除く国々の国民負担率は我が国のそれを上回っており、国際的にみれば現在の我が国の国民負担率の水準は低い。ただし、我が国の財政赤字が大きいことを反映し、潜在的国民負担率でみると、他国との差は縮小する。しかも、我が国における少子・高齢化のスピードは他国と比べて極めて速いことから、財政や社会保障制度が現行のまま維持されれば、今後も潜在的国民負担率は増加することが見込まれる。経済財政諮問会議に提出された有識者議員の試算(46)によると、現状の仕組みを放置した場合、2025年度における我が国の潜在的国民負担率の水準は60%以上になることが見込まれている。このように、少子・高齢化に伴い予想される潜在的国民負担の増加は、公的部門の持続可能性に懸念をもたらしている。

コラム3-4 国民負担率の概念について

 国民負担率については、我が国におけるこれまでの行政改革や財政構造改革への取組の中で度々議論されてきたが、その定義や経済的意味合いにはいくつかの考え方がある。
 「国民負担率」は(租税負担+社会保障負担)/国民所得(もしくは国内総生産)として定義されている。我が国では一般的に、租税・社会保障負担の対国民所得比が用いられているのに対し、OECDの統計等においては一般に対国内総生産比が用いられている(47), (48)
 また、公債による資金調達の割合が大きい場合には、国民負担率が政府の大きさを適切に反映するものとならないことや、財政赤字は最終的には将来の租税負担によって賄われることから、通常の国民負担率に財政赤字を考慮した「潜在的国民負担率」(=(税負担+社会保障負担+一般政府の財政赤字)/国民所得もしくは国内総生産)も頻繁に用いられる。
 このほか、あまり一般的ではないものの、「国民純負担率」という考え方もある(49)。これは、社会保障給付などの移転支出は負担者から受給者への所得再配分であり、公共投資や公務員の人件費などのような政府自身の最終的な支出とは異なるとの考え方に基づき、国民負担率の分子(租税負担+社会保障負担)から社会保障制度を通じた所得移転を除いたものとして定義されている。内閣府が試算した国民純負担率の推移をみると、90年代以降、緩やかに低下している。これは、高齢化による社会保障給付の増加と比較して、その他の歳出の伸びが相対的に抑制されているためである。社会保障負担は社会保障給付を通じて国民に還元されるが、少子・高齢化が進行するなかでそれが過度なものとなれば、現役・将来世代の負担が過重なものとなり、世代間のバランスを失することとなる。したがって、活力ある高齢社会を構築するなかで、国民の安心を確保しながら社会保障給付費の伸びを抑制し、国民負担率の上昇を極力抑制することが重要であると考えられる。

図 異なる定義に基づく国民負担率の推移

●公的部門による所得再分配機能の拡大と世代間格差
 公的部門の主要な経済的機能として、(1)資源配分機能、(2)経済安定化機能、(3)所得再配分機能が挙げられる。高齢化による社会保障給付の増加により、公的部門が有するこれらの経済的機能のうち、所得再配分機能が強化される。
 厚生労働省「所得再分配調査」により我が国における所得再分配前後のジニ係数(50)の動向をみてみると、高齢化等を背景に、再分配前の所得の不平等度は年々拡大傾向にあるが、この不平等度は租税・社会保障による所得再分配により改善しており、その改善度も年々拡大する傾向にある(第3−3−3図)。
 さらに、所得の不平等度の改善度を、租税負担を通じた改善度と社会保障を通じた改善度とに分けてみてみると、1981年には両者とも同程度の改善度であったが、その後、租税負担による改善度が年々低下しているのに対し、社会保障による改善度は上昇している。これは、前述したように、近年、国民所得比でみた租税負担が減少傾向にあるのに対し、社会保障については高齢化に伴い、給付と負担が増加しているという状況に対応したものである。
 公的部門を通した受益と負担の関係を人々のライフサイクルの各段階に沿ってみると、負担面においては、就労期における所得の増大とともに税負担・社会保障負担が増加するが、受益面においては、年金の受給開始、加齢に伴う医療等の給付の増加に伴い、特に高齢期において手厚くなる。したがって、公的部門による所得再配分は、現役世代から高齢世代への世代間所得再配分としての性格が強い。
 これを2001年における世帯主の年齢階層ごとにみた一世帯当たりの受益と負担の関係でみてみると、50歳代以下の世代においてはすべての世代において負担超となっており、年齢階層が高まるほど負担超幅が拡大する傾向があるが、60歳以上の世代では社会保障関係の受益の増加等により338万円の受益超となっている(第3−3−4図)。
 高齢になるほど、所得稼得能力が低下する一方で、疾病・要介護状態等に陥るリスクは高まることから、公的部門を通した受益と負担の関係が高齢世代において受益超となることはある意味当然の結果であると言える。しかし、少子・高齢化が急速に進行し、負担の主たる担い手である現役世代に対する高齢者の比率が高まるなか、現行の給付と負担の構造を維持することは困難となっている。
 世代会計の手法に基づいて、生年世代ごとに過去から将来にかけての生涯を通じた受益と負担の関係をみてみよう。過去と将来の受益と負担は、2001年価格で評価した実質値とし、さらに一定の利子率で割り増しないし割り引いた現在価値評価額である。これによると、現在、60歳以上世代では、約6,500万円の受益超となっているが、後年世代ほど負担超幅が拡大し、将来世代(20歳未満及びこれから生まれてくる世代)においては約5,200万円の負担超となっている(51)第3−3−5図)。このような結果を解釈するにあたっては、社会保障給付は自分自身が受け取る給付以外に、老親に対する私的扶養がそれによって代替されるなどの間接的な受益もあり、逆に社会保障給付がなければその分私的負担に置き換わっていくこと等に留意する必要がある。しかし、高齢化・人口減少が進行するなかで現行制度を維持した場合には、生年世代によって受益と負担の程度が異なるという世代間格差の問題を大きくし、社会保障制度を中心とする公的部門の持続可能性に問題を生じさせることになる。

●国民負担率の高まりの経済活力への影響

 国民負担率の過度の高まりは、公的部門の持続可能性を低下させるとともに、経済活力の低下を通じて経済成長に影響を与える可能性が懸念されている(52)
 国民負担率の高まりが経済活力に与える影響については複数の経路が考えられる(53)。まず、最も直接的な影響としては、国民負担の高まりにより現役世代を中心とする家計や企業の可処分所得が低下し、民間部門における貯蓄や資本蓄積が抑制されると考えられるほか、現役世代における労働意欲の減退や企業の競争力の低下、海外移転などを通じて、経済活力が低下する可能性が挙げられる。また、財政赤字を考慮した潜在的国民負担率は負担面からみた公的部門の大きさを示す指標となるが、一般的に民間部門に比べて非効率になりやすい公的部門のウェイトが過度に拡大すれば、経済全体の生産性が低下する可能性がある(54)
 以上のような要因が経済活力にどのような影響を与えるかをマクロ的な観点からとらえるため、OECD諸国間における潜在的国民負担率(55)と経済成長率の関係をみてみよう。これによると、両者の間には緩やかな負の相関が認められ、潜在的国民負担率が高い国ほど経済成長率も低くなる傾向にある(第3−3−6図)。
 もっとも、両者の関係は単に国民負担率の高まりが経済成長を低下させるという方向と同時に、少子・高齢化や経済の低成長が国民負担率を高めるという逆方向の因果関係も働いていると考えられることから、その解釈については慎重であるべきであり、家計や企業の行動に関するミクロ的な分析が必要である。しかし、両者の間に存在する緩やかな相関関係は、国民負担率の上昇が経済成長の阻害要因となる可能性も示唆しており、国民負担率が過度な水準とならないよう、国民の安心を確保しつつ、極力その抑制を図ることが必要であると考えられる。

●持続性と経済活力を維持する上での公的部門の課題

 高齢化・人口減少が進むなかでも国民負担率の上昇を極力抑制するため、今後、公的部門の在り方については抜本的な見直しが迫られる。我が国の行財政及び社会保障制度は、過去における経済が高い成長を続け、人口構成が若かった時代に確立されたものであり、経済の低成長や人口動態の変化に非常に脆弱な構造となっている。現在のシステムを今後も維持しようとすれば、将来世代にかかる負担が過大となり、経済活力の低下をもたらす可能性が高いほか、システム維持のための財政負担に耐えられなくなった時点において、大幅な給付削減が必要になるなど、将来に大きなコストをもたらすこととなる。
 我が国の公的部門に求められるのは、経済の低成長や高齢化・人口減少の下でも持続可能で、経済の活力を阻害せずに安定的な経済活動を可能とする新たなシステムへの変革を遂げ、「効率的で小さな政府」を実現することである。その際には、民間企業の経営手法を導入すること等を通じて行財政組織の効率化・活性化を図るというニュー・パブリック・マネジメント(NPM)の考え方を十分に活かし、「官と民」の役割分担の見直しや、予算編成プロセスの改革を通じた予算の質の改善や透明性の向上を図ること等が重要である。さらに、世代間及び世代内の受益と負担のバランスを見直すことを通じて、真に保障すべきリスクを保障し、将来世代に負担を先送りしない、効率的な社会保障制度を構築することが不可欠である。
 以下の各項においては、NPMの考え方を活かした行財政組織の効率化・活性化及び年金・医療を中心とする社会保障制度改革の在り方について検討する。


2 ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)(56)と我が国における行財政組織の改革

●行財政組織を効率化する必要性
 これまで述べたとおり、我が国は、成長率の鈍化に伴う税収の減少や景気対策、少子・高齢化に伴う社会保障給付の増加等により、国と地方を合わせた一般政府の財政赤字や債務残高がかつてないほど高い水準に達し、2002年末には債務残高対名目GDP比が140%超と、主要先進国の中で最も高いレベルにある(第3−3−7図)。
 こうした状況に対応するため、政府は、「改革と展望」(平成14年1月25日閣議決定)及び「改革と展望−2002年度改定」(平成15年1月24日閣議決定)の中で、(1)歳出の質の改善と規模の抑制、(2)2006年度までの期間中、政府の大きさ(一般政府の支出規模のGDP比)は2002年度の水準を上回らない程度とする、(3)2010年代初頭にプライマリー・バランスを黒字化する(過去の借金の返済以外の支出は新たな借金に頼らない財政構造)などの目標を立てて財政構造改革に取り組んでいるところである(第3−3−8図)。
 このように国民負担率を極力抑制しつつ財政収支の改善を進めるためには、民間企業の経営手法や市場メカニズムを活用しながら、行財政組織の効率化を図っていくことも重要である。

●政府に期待する役割の変化

 行財政組織の改革が求められているのは、財政面からだけではない。国民が政府に期待する役割そのものが変化してきていることも影響している。
 政府は国民から徴収する租税等を用いて公的な財・サービスを供給しており、政府からみれば国民は民間企業にとっての「顧客」である。したがって、政府には、国民のニーズを敏感に感じ取りながら、自身の役割を絶えず見直していくことが求められている。
 このような観点から、バブル崩壊後の十数年を振り返ってみると、国民が政府に期待する役割は大きく変化してきているといえる。
 第1に、政府が国民のニーズを迅速かつ必要十分にくみ取っているかが問われている。我が国は現在、構造改革を進めているところであるが、改革に伴う痛みを乗り越えるため、政府には金融システム、雇用等の様々な領域で、危機管理やセーフティネットの整備が求められている。国民生活を守る対策を適時適切に講じるために、国や地方の様々なレベルで国民のニーズを敏感に感じ取る行政チャンネルの確立が求められている。
 第2に、政府には、透明性と説明責任が求められている。医療、食品衛生、環境、プライバシー等、国民生活の様々な側面で、政府による規制や監督が、十分に説得性のあるものか(説明責任、accountability)、その際の手続きが透明なものか(透明性、transparency)に関心が高まっている。インターネットの普及等につれて、政府と国民の間における情報格差は縮小し、「縦割り行政」といわれるような従来型の行政運営は厳しい批判の目にさらされている。

●NPMの考え方を活かした行財政組織の改革

 上に述べたような改革の必要性が高まっていることを受けて、政府は、他の先進国の行政改革でも活かされた「ニュー・パブリック・マネジメント」(New Public Management)について諸外国の事例を検討しつつ、行財政組織の改革に取り組んでいるところである。政府は、民営化・民間委託・PFIの活用・独立行政法人化等の方策に関する検討、事業に関する費用対効果等の事前評価、及び業績や成果に関する目標設定と事後評価等により行政のマネジメント能力を高め、また、公会計制度の在り方の検討を進めて国民に対する説明責任を高めることとしている(「基本方針2001」)。また、今後の予算編成プロセスについても、「財政構造改革を進めるに当たっては、予算の質の改善・透明性の向上が重要である。このため、事前の目標設定と事後の厳格な評価の実施により、税金がどのような成果を上げたかについて、国民に説明責任を果たす予算プロセスを構築する」と明記されているところである(「基本方針2003」)。

●NPMの沿革

 NPMとは、元来、イギリスやニュージーランド等、アングロサクソン系の諸国を始めとする欧米先進国で行われた行財政改革の取組である(57)
 欧米先進各国は、1970年代前後の時期に、景気低迷、失業率上昇、財政赤字拡大、インフレーション等が同時に発生する複合的な問題に悩まされていた。このようななかで、政府の経済安定化機能や所得再配分機能を重視するケインズ主義的な政策運営が、政府の肥大化、市場メカニズムの歪み、民間活力の阻害等を通じ、経済活力の低下をもたらしているのではないかとの認識が広まった(いわゆる「政府の失敗」)。
 80年代に入ると、イギリスやニュージーランド等で、政策運営手法の見直し機運が高まった。90年代に入ると、こうした潮流はアングロサクソン系諸国にとどまらず、スウェーデン等の北欧諸国、さらには日本やフランス等にも波及した。
 NPMとは、一言でいえば、民間部門の行動原理(経済効率性、顧客満足度、説明責任等)を公的部門にも働かせて、公的部門が国民に提供する財・サービスの質を向上させるとともに、それにかかる財政負担も極力少なくしようという取組である。そのためには、政策の立案、実施、完成、見直し等、個々のプロセスがバラバラでは難しく、それらの有機的な連携を図ることが重要となる。これら一連のプロセスが相互に情報をフィードバックしながら進捗することによって初めて、国民が満足のいく財・サービスが政府により提供されることになる。また、このような有機的なフィードバック・プロセスの中では、市民参加によるニーズの吸い上げや地方自治体への権限委譲による分権化等も重要なポイントとなる(第3−3−9図)。

●NPMの目標と具体的手段

 これまでの欧米の事例をみると、NPMにより達成を目指す目標とそれを達成するための具体的手段としては以下のようなものがある(第3−3−10表)。
 第1の目標は、「政府の活動に民間企業の行動原理を反映させ、経済効率性を追求する」ことである。民間でできることは民間に任せるとの観点から、政府の活動範囲やサービスの提供方法を見直すものである。具体的な手法としては、民営化、独立行政法人(エージェンシー)化、PFIの活用(58)、バウチャー制度の導入(59)等が挙げられる。
 第2の目標は「顧客満足度(customer satisfaction)の向上」である。国民を「顧客」ととらえ直して、顧客ニーズを吸い上げて、ニーズに合った財・サービスを効率的に提供することによって、顧客満足度を高めることである。具体的な手法としては、「顧客志向のマネジメント・モデル」や「成果志向のマネジメント・サイクル」等を構築・導入することが挙げられる。
 このうち、「成果志向のマネジメント・サイクル」とは、計画(Plan)を策定、実行(Do)し、事後的に評価(See)するというサイクルを行政の現場に導入することによって、政策評価を次の計画に活かしていくマネジメントである(60)。評価基準は、「アウトプット」(政府が提供した公的な財・サービス)と「アウトカム」(そうした財・サービスが社会にもたらした効果)とされ、これらを定期的に測定する。評価の結果は次の計画(Plan)にフィードバックされる。このようなマネジメント・サイクルを予算編成に活用すれば、政策の業績評価の結果を予算編成にフィードバックすることによって、予算が効率的に使用されることを担保することができる。
 第3の目標は、「説明責任の向上」である。具体的手法としては、民間企業に倣った会計手法を取り入れ、これを、上記の「成果志向のマネジメント・サイクル」と結び付け、投入した予算に見合った成果が上がったかどうかを評価できるようにする。また、NPMでは、民間企業に倣って、貸借対照表等の財務諸表(61)の作成を試みることを通じて、予算に関係する説明責任を向上させることを目指している。

●我が国における新たな取組

 我が国における行財政改革への取組について、先にみたNPMの3つの目標に沿って再整理を試みると(第3−3−11表)、第1の目標(「民間企業の行動原理を反映した経済効率性の追求」)については、PFI事業件数が既に100件を超えたほか(62)、独立行政法人についても、2001年4月に制度が発足して以来、2003年4月までに62法人が設立された。今後も2004年7月までに新たに45法人の設立が予定されている。
 第2の目標(「顧客満足度の向上」)については、政策評価法が2002年度から施行され、初年度となった2002年度は、各府省合わせて1万1千件近い事業が評価対象となり、その結果は国会に報告された(63)。また、公共事業関係計画について、計画策定の重点をアウトカム目標に変更することとしているなど、成果志向のマネジメント・サイクルの構築に向けた取組が進んでいる。一方、「基本方針2003」では、「モデル事業」を実施することとしている。「モデル事業」とは、政策目標を国民に分かる形で明確に示し(「宣言」)、目標達成のために事業の性格に応じて弾力的執行を行うなどにより予算を効率的に活用(「実行」)、目標達成の状況を厳しく評価する(「評価」)という予算編成プロセスを導入するものである。2003年8月時点で9つの省庁から「モデル事業」(64)の提案があり、内閣府との意見交換を踏まえて、10項目の概算要求を行っている。さらに、「モデル事業」と並び予算編成プロセスのイノベーションと位置付けられる「政策群」の取組(65)も、複数省庁にまたがる政策目標の実現に向けて、民間活力を引き出すために規制改革・制度改革等と予算を組み合わせ、効果を最大限発揮させることを目指すものである。その成果について、事後に厳格な検証を行い、次なる政策に反映させることが重要である。
 第3の目標(「説明責任の向上」)についても、「国の貸借対照表(試案)」の作成が試みられている(66)ほか、新たな特別会計財務書類の公表や、特殊法人等についても、「行政コスト計算書」の作成が継続して行われるなど(67)着実な進展がみられる。さらに、「基本方針2003」で実施することとされた「モデル事業」も国民に対して分かりやすい予算を実現することにより、説明責任の向上に資するものである。
 我が国でこうした改革が始まったのは欧米先進国よりも遅かったが、上でみたように、政府の各方面で着実な取組が始まっている。行財政組織を効率化する財政上の必要性が高まっていることに加え、国民が政府に期待する役割が変化してきていることも踏まえると、今後ともこうした改革は、後戻りさせることなくたゆまなく取り組んでいくことが重要である。

コラム3-5 欧米諸国におけるNPMへの取組

(1)アングロサクソン系諸国の改革
 アングロサクソン系諸国で最初に行財政改革に着手したのは、イギリスであった。70年代に財政赤字、インフレ、高失業率といったいわゆる「英国病」に陥っていたイギリスは、80年代になると一転して「小さな政府」を目指して、政府部門の縮小、徹底した競争原理の導入、規制緩和・自由化政策を行った。
 その特徴は、国営企業の民営化・エージェンシー化と財政・予算関連の改革である。特に、88年のエージェンシー化では、政策を立案する部門と財・サービスを提供する部門とを分離し、後者に大幅な裁量権を与えた。
 財政・予算関連の改革については、98年に「財政安定化規律」を制定し、持続可能な財政運営を最優先課題として、それを達成するための目標やルールを策定した(68)。また、中長期的な課題に柔軟かつ効率的に対応できるように、3年を1タームとして歳出を見直すこととした。財務管理面でも、公会計に発生主義を導入したほか、アウトプット・アウトカムに関する業績報告を行うことで、行政評価と予算編成をリンクさせ透明性の向上に努めた。

 ニュージーランドは、エージェンシーの導入に加えて、政府部門法(88年)および財政法(89年)において、役所における大臣と次官の役割分担を明確化するなど、組織面でも改革を行った。大臣には、社会が求める「アウトカム」を達成することが求められた。そうした「アウトカム」を達成するために必要な財・サービス(=「アウトプット」)を提供するのは、次官以下の役目となった。次官には、アウトプットを提供するために必要となるインプット(予算配分、人員配置)に関する裁量が与えられた。

 オーストラリアは、97年に発生主義に基づくアウトカム・アウトプット・フレームワーク(Accrual-based Output Outcome Framework)による予算編成を導入した。この制度は、各省庁が達成すべき目標を予算とリンクさせ、予算面から業績評価を行うシステムであり、予算配分の効率化を目指すものだった。

(2) スウェーデンにおける取組
 スウェーデンは90年代初頭に金融・通貨危機に見舞われ、財政赤字も拡大したため、NPMによる改革に着手した。具体的には、憲法改正を含め、予算編成過程から議会の審議過程に至るまで、短期間で抜本的な見直しを行った。また、95年に「コンバージェンス・プログラム」を策定した。このプログラムでは、98年までに財政赤字を解消することを目指すとともに、予算編成も分野ごとの積み上げ予算をやめ、マクロ経済見通しを踏まえて、先に歳出総額を決定する方式に変えた。こうして決定された歳出総額をいかに効率良く配分するかにあたっては、インプットの最小化というよりは、アウトプット、アウトカムを最大化することに軸足がおかれた。一方、すべてのエージェンシーに業績報告、財務分析等の公表を義務付けるなど、説明責任も徹底した。

 もっとも、これら諸国でもNPMは試行錯誤の連続であり、見直しと改善を重ねながら進められてきた点が重要である。これまでに明らかとなった課題としては、例えば、民間企業の行動原理(参入自由化等)を徹底し過ぎると、一時的に競争が過熱し、それに耐えられなくなった財・サービスの提供者が次々に市場から撤退して、結果的に寡占化が進み国民が不利益を被る、といった現象もみられた。また、エージェンシー化によって政策立案部門と現業部門が分離されるケースのように、権能を分離・委譲すれば、それに伴って新たな管理ノウハウが必要になってくることも分かってきた。このほか、アウトプットについては説明責任を求めやすいのに比べて、アウトカムについての政策評価が容易ではない、といった問題も再認識されてきている。
 これらの国々におけるNPMの成果を測るのは必ずしも容易ではないが、今日までに各国でNPMが浸透し、政府の様々なレベルで試行錯誤を繰り返しながら、取組が継続している。

コラム3-6 地方自治体におけるNPM 〜三重県〜

 我が国においては、国レベルよりも地方自治体レベルの方がNPMの考え方を活かした行政改革に比較的早い時期(95年頃)から着手した。
 総務省の調査では、政策評価の導入については、都道府県では79%が、指定都市では58%が2001年時点で既に導入している。これに対し、市区町村レベルでは、導入済みは5%にとどまっている。ただし、市区レベルでは、導入済み、導入予定の自治体は65%(対象都市670市及び東京23区)となっている。また、民間企業に倣った会計手法(発生主義会計)の導入については、71%の市区が導入済みまたは導入予定となっており、NPM的な手法による行政改革が浸透していることが分かる。
 三重県では1995年から独自の行政改革を展開しており、政策評価制度の導入等、NPMの理念と重なる改革が多いため、注目されてきた。

○マネジメント・サイクルの確立・組織改革
 95〜2010年までの14年間を目標期間として、総合計画「三重のくにづくり宣言」を軸に改革を推進している。現在は、第2次実施計画を推進中で、より効果的に実施するための仕組みとして「政策推進システム」を位置付けている。
 「政策推進システム」は、「みえ政策評価システム」を中心とした三重県独自の改革パッケージであり、そこでは、施策、基本事業、事務事業、といった事業の種類別に評価の対象・基準、評価指標の考え方、評価者(主担当のマネージャー)等を決めている。さらに、総合計画のマネジメントとの一体化、予算等の行政経営資源の配分との連携(例えば、政策評価は事後だけでなく、予算時期には事中、事前評価も行うなど)、住民参加等、包括的なシステムとなっている。また、人事制度についても抜本的な改革を行い、2002年度から課制を全廃しチーム制に切り換え、権限と責任を明確にしたフラットな組織を構築している。これにより、業務の目的をはっきりさせ、インセンティブを高める効果を期待している。

○住民参加
 政策推進システムを構築したところで、実際の行政運営が組織内部で完結してしまっていては顧客である県民が参加しているとは言い難い。そのため、すべての評価表を公表するなど県民の意見を反映させる努力をしてきた。2002年には、より県民の参画を現実的なものとするため、「三重のくにづくり白書」を県議会に報告している。また、懇談会の開催等県民との直接対話にも乗り出し、パブリックコメントの積極的な活用を試みている。


3 公的年金制度の改革

●公的年金制度の現状
 公的年金制度は、高齢、障害あるいは主たる働き手の死亡時における所得稼得能力低下のリスクを社会全体で軽減(リスク・プーリング)する制度である。そのうち高齢化・人口減少との関連で問題となる老齢年金制度は、「高齢により所得を失うリスク」に対する保険であり、個々人の死亡時期が不確実であるという「長生きのリスク」にも対応している(コラム3−7参照)。
 我が国の公的年金制度は、急速に進行する少子・高齢化や経済低迷の長期化等の影響によって各制度とも厳しい財政状況にあり、その持続可能性が大きく揺らいでいる。厚生年金を例にとってみると、生産年齢人口の減少や企業のリストラ等によって雇用者数が減少していること等を受けて被保険者数が減少しているほか、一人当たりの雇用者報酬についても名目額で減少を続けていること等から、保険料収入は98年度以降減少を続けている。一方、年金給付のための支出については、高齢化による受給者数の増加を受けて着実に増大している。この結果、2001年度には積立金の運用環境の悪化とあいまって時価ベースでは収支が赤字となった(第3−3−12(1)図)。
 公的年金制度は、将来の給付に備えるとともに、運用収入により保険料を低くするため、積立金を保有している(69)。しかし、その運用をめぐる環境もまた厳しくなっている。低金利や株価の低迷等の運用環境の悪化により、97年度以降、運用収入は減少を続けており、2001年度には、大幅な株価の下落等による運用収入の減少や運用資産の評価減の影響から、積立金は時価ベースでみると減少した(第3−3−12(2)図)。
 公的年金の保険料(率)は、1999年の年金制度改革以降、厳しい経済情勢に配慮して引上げが凍結されているが、それが保険料収入の減少の一因となっている。したがって、2004年に予定されている年金制度改革においては、その凍結解除の取扱いが重要な課題とされている。しかし、既に現時点においても公的年金の保険料負担は他の租税・社会保険料負担の中でも最も重いものとなっており、公的年金の負担と給付の水準を今後どの程度としていくのかという問題は、国民負担率の在り方をめぐる議論においても中心的な位置づけを占めるものと考えられる。

コラム3-7 我が国の公的年金制度の概要

 我が国の公的年金制度は、86年の年金制度改革により、満20歳以上60歳未満の国民はすべて国民年金(基礎年金)の被保険者となる仕組みとなっている。国民はそれぞれの職業等に応じて、国民年金第1号被保険者から第3号被保険者までのいずれかの種類の被保険者となることが決められており、加入した制度によって将来の給付の種類が決まる。
 また、我が国の公的年金制度は2階建ての構造となっており、国民年金の上の2階部分には民間のサラリーマンに適用される厚生年金保険と、公務員等に適用される共済年金があり、いずれも国民年金と合わせて加入することになる。また、公的年金を補完するものとして、民間のサラリーマンには企業年金(厚生年金基金・確定給付企業年金・確定拠出年金・適格退職年金)が、自営業者等には国民年金基金、確定拠出年金(個人型)があるほか、その他に個人年金と呼ばれるものがある(図1)。
 年金保険料については、国民年金が月額13,300円と定額になっているのに対し、厚生年金・共済年金は年間総報酬(標準報酬月額及びボーナスの合計)に比例する形で徴収される(厚生年金の場合、年間総報酬の13.58%を労使で折半)(表2)。
 年金支給額については、国民年金が40年の加入に対し月額66,417円(2003年度)の定額給付であるのに対し、厚生年金・共済年金においては、定額部分と報酬比例部分を合わせた年金給付額が、現役世代の手取り収入の約6割(59%)に設定されている。またこれらは、毎年、消費者物価の上昇率及び現役世代の手取り収入の伸び率によって調整されている(それぞれ、「物価スライド制」、「ネット賃金スライド制」。ただし、既に年金を受給し始めた既裁定者については、物価スライドのみが適用されている。)。
 年金の支給開始年齢は、定額部分については94年、報酬比例部分については99年の年金制度改正の際に、60歳から65歳に段階的に引き上げられることが決まっている(70)

●高齢化・人口減少の下における我が国の公的年金制度の問題点
 我が国の公的年金制度は、積立金を保有しているが、民間保険のように加入時に保険料負担と年金給付額を固定するのではなく、少子・高齢化の下でこれらを段階的に変更できるものとして、一般に「段階保険料方式」と呼ばれている。しかし、実態としては、高齢世代の生活維持に必要な年金給付を現役世代の保険料負担で賄う「賦課方式」に近い財政方式となっている(71)
 賦課方式に基づく年金制度は、少子・高齢化によって保険料を支払う現役世代(被保険者)に対する年金を受取る高齢世代(受給者)の比率が上昇した場合、現在の給付水準を維持しようとすれば被保険者一人当たり保険料の引上げが必要となるなど、人口動態の変化に脆弱であるという問題がある。高度成長期のように、人口が順調に増加し、高齢者に対する現役世代の比率が高い経済社会の下では賦課方式は高いパフォーマンスを発揮するが、現在の我が国のように、少子・高齢化の下で制度の支え手が減少し、賃金の動向を左右する経済成長も鈍化する経済社会においては、おのずと賦課方式による年金制度の持続可能性は低下せざるを得ない。
 財政方式がそもそも人口動態の変化に脆弱なものであることに加え、我が国における少子・高齢化が当初の予想をはるかに上回って進行したことも、公的年金制度の運営を一層困難なものにしている。我が国では、5年ごとに公表される「将来推計人口」に基づき公的年金の財政再計算が行われ、人口推計の2年後に保険料(率)や給付額(率)の改訂等の年金制度改革が行われる。しかし、出生率の低下と平均寿命の伸長の実績は、一貫して人口推計における予測を上回って進行しており、結果として、年金制度を持続するために必要となる負担と給付の水準の改定が不十分なものにとどまった。

●公的年金の負担と給付をめぐる世代間格差

 以上のように、賦課方式に近い財政方式に基づき運営されている我が国の公的年金制度の下では、少子・高齢化が進行すれば、現在の給付水準を大幅に切り下げない限り、保険料負担を引き上げざるを得ない。それは結果として、先に生まれた世代ほど拠出した保険料負担に対する給付水準の比率が高く、後世代ほどそれが低くなるという世代間格差をもたらす。
 公的年金制度を通じた世代間格差がどの程度存在するかを検証するため、世代会計の手法(72)に基づき、厚生年金に加入している世帯の生年世代別にみた生涯保険料負担と生涯受給額の生涯賃金に対する比率をみてみよう(73)第3−3−13(1)図)。まず、専業主婦世帯についてみると、50年度に生まれた世代では、自らが支払った年金保険料以上に年金を受給しているのに対し、70年度に生まれた世代では、自らが受け取る年金受給額以上に年金保険料を支払っているという結果となり、前(後)に生まれた世代ほど給付比率(年金給付/保険料負担)が大きく(小さく)なるという結果となる(74), (75)
 また、単身世帯についてみてみると、50年度生まれの世代で既に自ら受け取る年金受給額以上の年金保険料を支払うという結果となるほか、その後の世代における給付比率は専業主婦世帯と比べて大きく低下している(第3−3−13(2)図)。これは、専業主婦世帯では、専業主婦の妻は保険料を負担しなくとも基礎年金の給付を受けることから給付比率が相対的に高くなるのに対し、単身世帯ではそれがないためである(76)
 このように生まれた世代ごとに公的年金の給付と負担に大きな格差が生じるのは、過去においては保険料率が低く抑えざるを得なかったなかで(77)給付水準が大幅に引き上げられたのに対し、今後については保険料の引上げが想定されている一方で、最近の改正において支給開始年齢の引上げや給付水準の引下げ等の給付抑制策が取られていることによるものである。
 公的年金制度は、世代間扶養を前提とせざるを得なかった面がある(78)。したがって、世代間における負担と給付の格差の問題をことさら強調することは適当ではない(コラム3−8参照)。しかしその一方で、急速な少子・高齢化に伴う負担の増加を現役・将来世代のみに求めれば不公平感が拡大し、若年層を中心に制度への信頼が大きく揺らぐことにより、公的年金制度の持続可能性が低下する。ある程度の世代間の格差が生じることは不可避であるにせよ、高齢世代に対しても給付水準の引下げや相応の負担を求めるとともに、保険料負担の増加を許容可能な範囲に抑制することを通じ、世代間の受益と負担の公平を図ることが重要である。さらに、今後進展すると見込まれる高齢化・人口減少や経済成長の鈍化といった経済社会情勢の変化に対しても柔軟に対応できる、恒久的に安定した制度を構築する必要がある(79)(コラム3−9参照)。

コラム3-8 公的年金制度の財政方式としての積立方式

 少子・高齢化の進行に伴う公的年金制度における世代間格差を是正するため、公的年金制度の財政方式を積立方式に変更すべきとの主張がしばしばなされる(80), (81)。積立方式は、個々の世代ごとに老後の生活に必要となる年金額をあらかじめ現役世代のうちに積立て、支給開始年齢に到達後は積立金及びその運用収入を取り崩して年金給付に充てるというものである。
 積立方式の最大の特長は、賦課方式が世代間の所得再配分を前提としているのに対し、所得再配分が同一世代内にとどまることから、人口構造の変化に頑強であり、高齢化・人口減少の下でも負担と給付をめぐる世代間格差が生じないことである。また、その他の特徴として、賦課方式においては現役世代により拠出された掛金は貯蓄されることなく、すぐさま引退世代の年金給付に充てられるのに対し、積立方式においては将来の年金給付に備えるための積立金として貯蓄されることから、一国全体の貯蓄水準を高め、長期的に国内総生産の水準を高めることも期待されている(82)
 しかし、現行の制度は実質的に賦課方式に近い方式で運営されていることから、厚生年金だけでみても、過去の保険料拠出に対応する給付債務が1999年度末時点で720兆円存在しており、このうち積立金170兆円、国庫負担100兆円を差し引いた450兆円(うち報酬比例部分は330兆円)は将来の保険料収入により賄うことが必要となる(83)。このようななかで、賦課方式から積立方式に移行しようとすれば、移行期における現役世代は自らの老後に備えるための拠出に加え、すでに引退している高齢世代に年金給付を行うための拠出を同時に行う必要がある(いわゆる「二重の負担」の問題)(84)。このように、年金給付債務の償却のための負担が特定の世代に集中することを避けるためには、保険料の引上げや給付水準の引下げ等により段階的に移行していく方法や、国債の発行等により一挙に必要な積立額を確保し、その償却のための財源は増税等により現在及び将来世代に広く薄く求めていくといった方法が提案されているが、いずれにしても積立方式への移行を行うためには、現実的に許容可能な年金給付債務の償却方法と合わせた検討が必要となる。

コラム3-9 スウェーデンにおける公的年金制度改革

 他の主要国においても、少子・高齢化が進展し、年金給付額が増大するなかで、公的年金制度の持続可能性を高めるための改革が行われている。これらは、(1)給付建ての賦課方式といった制度の基本的な骨格は維持しつつ、保険料の引上げや給付水準の切下げ等の調整により対処する「調整的改革」(日本、ドイツ等)と、(2)拠出建てを導入するなど現行の制度設計そのものの変更を伴う「制度大改革」とに分類できる(付表3−5)。ここでは、制度大改革の例として、スウェーデンにおける公的年金制度改革の内容とその意義について簡単に検討してみてみよう(85)
 スウェーデンは、99年の年金制度改革において、それまでの「給付建て賦課方式」に替え、賦課方式を維持しつつも、拠出建てで年金給付を行う制度を導入した。拠出建ては、通常は積立方式の年金に用いられる仕組みである。しかし、スウェーデンでは個人ごとに拠出した金額を個人勘定に記録し、その拠出額が賃金上昇率により運用されたかのように位置づけて「みなし運用益」をつけ、拠出総額と「みなし運用益」の合計額を基に給付額を算定することで、保険料拠出額と年金受給額が対応するようにした。このように拠出分を将来のために現実には積み立てることなく(86)、拠出建ての年金計算を行うことから、「概念上の拠出建て」と呼ばれる。
 また、新制度では、従来の基礎年金が廃止され、国庫負担の役割が最低限度の年金給付を確保するための保証年金制度の維持に限定されたほか、概念上の拠出建て部分が年金制度の1階部分を、また、積立方式により運営される部分が2階部分を形成する体系をとっている。さらに、新制度では保険料率を18.5%(賦課方式分16%、積立部分2.5%)で固定しており、現役世代の負担を一定水準に維持するとともに、少子・高齢化等により負担と給付のバランスが崩れる場合には、バランスを回復するために給付水準を自動的に切り下げる仕組み(自動財政均衡メカニズム)を導入している()。
 これら改革により、各人の支払う保険料と年金給付額が直接対応するようになり、制度の透明性が高まったことに加え、保険料が長期間固定されることで現役世代の公的年金制度に対する信頼感が高まること、負担と受給に関する世代間の不公平が解消されることが期待される。また自動財政均衡メカニズムにより、将来にわたる年金資産と債務を考慮しながら給付引下げが自動的に実施されることで、公的年金制度の長期安定が図られることが期待される。
 ただし、新しい制度はまだ導入されたばかりであり、20年かけて旧制度から新制度に切り替わっていくため、その効果については今後十分な検証を要する。また、新制度の財政方式も基本的には賦課方式であり、経済成長が想定を大きく下回る場合や、予想を上回って少子・高齢化が進展する場合には、制度の維持が困難になることに変わりはない。特に、自動財政均衡メカニズムによる給付水準の引下げが摩擦を生じることなく実施されるかどうかについては注意深く見守っていく必要がある。

●世代内格差の問題
 公的年金制度に対する人々の信頼を高め、制度の持続可能性を高めるためには、世代間格差の問題とともに、世代内における負担と給付の関係を公平なものにすることが求められる。現行の制度は、人々の就業の形態やライフスタイル等によって年金の負担額や受給額に格差が生じる仕組みとなっている。このような格差の存在は、人々のライフスタイルの選択に対し無視し得ない影響を与えているほか、制度の支え手の範囲を狭めることにより、公的年金制度の持続可能性の低下の一因ともなっている。以上のような問題意識の下、ここでは、(1)基礎年金の費用負担をめぐる制度間の違い、(2)女性のライフスタイルの違いによる格差、(3)高齢者世代内における格差の3点について検討する。

●世代内格差の問題:(1)基礎年金の費用負担をめぐる制度間の違い

 我が国の公的年金制度の1階の定額給付を行う部分にあたる基礎年金は、その給付額の一定割合が国庫負担により賄われる以外は、国民年金(第1号被保険者分)や厚生年金等の各被用者年金からの拠出金によって賄われている。しかし拠出金を算定するにあたり、被用者年金では加入者(国民年金第2号被保険者)に対し定率の保険料が適用され、加入者の被扶養配偶者(国民年金第3号被保険者)を含めた当該被用者年金に属する基礎年金被保険者数に応じた定額の基礎年金拠出金を負担する。この結果、被用者年金制度においては、基礎年金拠出金を通じて、高所得者から低所得者、被用者から専業主婦へと、世代内における所得再配分が行われている。一方、国民年金第1号被保険者は個人単位で定額保険料を支払うのみであり、所得再配分は行われない(第3−3−14表)。
 このように、同じ基礎年金の定額給付に対し、国民年金第1号被保険者と被用者年金の間で費用負担の方法が異なっているほか、被用者年金においては、基礎年金部分と報酬比例部分が一括して徴収されていることから、保険料負担と年金給付の対応関係が明確でないとの問題が指摘されている。
 以上のような基礎年金給付のための負担に係る違いは、国民年金第1号被保険者の未納・未加入問題により更に大きなものになっている。国民年金は制度上強制加入となっているが、保険料の未納や制度そのものへの未加入等により国民年金の保険料の徴収率が低下している。具体的には、2001年度末時点における保険料の未納者は327万人、制度への未加入者は63万人、合計390万人となっており(第3−3−15(1)図)、国民年金被保険者の対象者7,080万人の5.5%(約18.2人に1人)にあたる人々が納付すべき保険料を納めていない。なお、国民年金第1号被保険者と被用者年金加入者との保険料支払い方法の違いを考慮して、これを国民年金第1号被保険者の対象者2,270万人に対する割合としてみると、17.2%(約5.8人に1人)にあたる人々が納付すべき保険料を納めていないことになる。さらに保険料納付者のうち、全額納付した人は2001年度末時点で81%であり、残りの19%の人は一部納付にとどまっている。
 以上のような要因がどの程度国民年金制度に影響を与えているかをみるために、国民年金第1号被保険者における保険料の納付率(納付月数/納付対象月数×100)をみてみると、すう勢的に低下する傾向にあり、直近の2002年度では62.8%になっている。(第3−3−15(2)図)。
 このような背景には、定額の保険料の下、厳しい経済状況が続くなかで被保険者の保険料負担能力が低下しているほか、若年層を中心に公的年金制度に対する認識の不足や制度の将来への不安があるものと考えられる。
 また、以上のような未納・未加入者の増加に加え、保険料免除者が増えていることが国民年金の財政状況をより厳しいものにしている。国民年金制度においては、経済的に保険料を納付することが困難であるなどの理由がある場合には保険料の納付を免除されるが、近年における厳しい経済・雇用情勢を背景に、保険料を納付することのできない人々が増えており、2001年度末時点で524万人となっている(前掲第3−3−15(1)図)。
 国民年金制度においては、未納者や免除者は拠出金算定対象者から除かれることから、このように未納者や免除者が増えれば厚生年金等の被用者年金制度の被保険者や保険料を納付している国民年金第1号被保険者の一人当たり拠出金単価の上昇を招き、基礎年金給付のための費用負担が高まることとなる(87)
 もとより、保険料免除者については、その保険料負担能力に配慮して、制度上保険料納付を要しないものとされているものであり、その増加を未納者や未加入者と同列の問題として扱うことは適当ではない。しかし、保険料負担能力があるにもかかわらず保険料を納付しない未納者や未加入者の増加は大きな問題であるといえる。世代内格差の問題を是正するとともに、将来未納・未加入による無年金者を発生させないためにも、未納者・未加入者からの保険料徴収の徹底を図る必要がある。

●世代内格差の問題:(2)女性のライフスタイルの違いによる格差

 我が国の公的年金制度においては、保険料負担や支給条件が専業主婦を優遇する仕組みになっており、それが女性のライフスタイルの違いによる世代内格差を生み出している。
 国民年金制度において、自営業者、農業者、学生等からなる第1号被保険者は個人単位で保険料を負担するのに対し、被用者の配偶者からなる第3号被保険者(2002年3月末で1,133万人)は基礎年金の受給権を持つにもかかわらず、これに対する保険料負担はしていない。第3号被保険者の基礎年金給付に係る保険料負担はその配偶者が所属する被用者保険制度全体で負担されている(88)。その結果、専業主婦が年金保険料の負担と年金給付において優遇される結果となっている(前掲第3−3−13図(1)(2))。また自らの保険料負担を要さない第3号被保険者制度が、扶養手当といった他の制度とあいまって、女性の就労意欲を阻害しているとの問題が指摘されている(89)
 第3号被保険者制度は女性の無年金問題を解決する点において意義があったものの(90)、女性のライフスタイルの多様化が進むなか、専業主婦が自らの保険料負担なくして給付が保証されるのは不公平ではないかとの問題が指摘されている。また、今後生産年齢人口が減少して行くなか、専業主婦であることを優遇する年金制度の存在により女性の就労意欲が阻害されることは、労働力の確保や社会保障制度の支え手を増やすといった観点からも問題がある(91), (92)。第3号被保険者の問題を改善するため、厚生労働省が2004年の年金改革に向けて、改革の骨格に関して今後の議論のたたき台として発表した、「年金改革の骨格に関する方向性と論点」においては、(1)夫婦間の年金権分割案、(2)負担調整案、(3)給付調整案、(4)第3号被保険者縮小案からなる4つの改革案が示されている。また、短時間労働者についても、厚生年金の適用を行う方向での検討が進められている。以上のような取組を通じ、女性のライフスタイルの違いにより生じる格差是正に向けた努力を行っていく必要がある(93)

●世代内格差の問題:(3)高齢世代内における格差

 高齢者の平均的な所得・資産の状況は現役世代のそれと比較し同等ないしより恵まれている状況にあるが、一方で同じ高齢世代内における所得・資産の格差が大きいという特徴もみられる。人々の所得稼得能力は異なることから、長年に渡る勤労生活の結果として、このような格差が生じるのは当然であるが、被用者保険における報酬比例部分が現役時代の総報酬に応じて支給されることにより、現役時代の報酬の多寡が引退後においても維持されていることによる面もある(第3−3−16図)。
 社会保険方式による年金の給付額は、現役時代の拠出額に応じて決められることから、現役時代の所得が高く、より多くの保険料を拠出した人が引退後により多くの給付を受けるのは制度が予定するところであるが、我が国のように少子・高齢化が進むなかで公的年金制度が賦課方式により運営されている場合には、現役時代に所得水準の高かった人ほど、引退後に現役世代からより多くの所得移転を受けることとなる。
 このような状況を踏まえ、年金給付を含む総収入の高い高齢者については、年金の給付段階での優遇措置の適正化に取り組み、担税力のある高齢者に現役世代と同じように、能力に応じた負担を適正に求めていくことが考えられる。しかし、現在の税制では、給与所得控除の最低保障額が65万円であるのに対し、公的年金等控除の場合、65歳以上の受給者に対する最低保障額は140万円と高い水準に設定されていることや、老年者控除等により、現役世帯と比べて高齢者世帯の課税最低限が著しく高くなり、高齢者の多くが所得税・住民税をほとんど負担しないという状況が生じている。また、高齢者の経済状況は様々であるのにもかかわらず、年金収入であれば公的年金等控除が一律に適用されるため、高所得者であっても課税ベースからの脱漏が生じることとなり、他の収入との間で負担にアンバランスが生じており、世代間のみならず高齢世代内でも不公平が生じている(第3−3−17(1)表第3−3−17(2)図)。
 高齢者にも経済力に見合った負担を求め、世代間及び高齢世代内における負担の公平を図るため、年金収入のみで生計を立てる低所得者に配慮した上で公的年金等控除の在り方を見直していく必要があると考えられる。
 また、高齢者と公的年金制度の在り方を議論する際には、高齢者の就労所得を制度上どのように取扱うかも重要な論点となる。公的年金制度は高齢期における所得稼得能力の低下をリスクプールするための制度であるから、高齢期においても賃金収入のある者に対し年金支給を一律に行うことについては、賃金から今後より重い保険料負担を求められる若年世代との均衡を考えると、必ずしも適切とはいえない。このため在職老齢年金制度により、60〜69歳の在職受給者(94)につき、賃金に応じて厚生年金の全部又は一部が支給停止されているが、これが働くことに対する一種のペナルティーとして作用し、高齢者の就労意欲を損ねるとの指摘もなされている。
 94年の制度改正において在職老齢年金制度は改正され、賃金の増加に応じて賃金と年金の合計収入が増加するなど、高齢世代内の就労・引退の意思決定に対しより中立的な制度に改められたが、高齢者間における格差の是正と高齢者の就業意欲を阻害しないという2つの目標間でのバランスを図りつつ、引き続きその改善を図って行く必要がある。

●持続可能な公的年金制度の構築に向けて

 高齢化・人口減少が進行するなかで、我が国の公的年金制度の持続可能性は大きく揺らいでおり、従来のように「低い負担で手厚い給付」というわけにはいかない。負担と給付の在り方の見直しを通じて世代間格差を許容可能な範囲に是正するとともに、人口構造の変化や経済変動のリスクに頑強な制度を構築することが必要である。さらに、世代内の公平性を確保するため、人々の就業やライフスタイルの選択に対して中立的な制度への見直しを図ることが必要であるほか、未納・未加入問題に対しては、その是正のため強力な措置をとることが必要である。以上のような取組を通じて、制度に対する国民の信頼を高め、高齢化のピーク時においても持続可能で、国民の「安心」と「活力」の基盤となる公的年金制度を構築することが求められる。


4 医療制度の改革

●国民医療費の増大
 我が国の医療機関等における傷病の治療に要する費用を推計した「国民医療費」をみると、年々増加し続けている。介護保険制度が導入された2000年度は減少したものの、2001年度は増加して31兆3,234億円、国民一人当たりにすると24万6千円となっている(第3−3−18図)(コラム3−10参照)。
 国民医療費の伸び率を国民所得の伸びと比較すると、92年度以降、国民医療費の伸びが国民所得の伸びを上回っており、国民医療費の国民所得に対する割合は上昇を続けている(95)。このような国民医療費の伸びや厳しい経済状況に伴う保険料収入の伸び悩みを反映して、各医療保険制度の財政状況が悪化しており、制度の持続可能性は大きく揺らいでいる。例えば、政府管掌健康保険の収支状況をみると、被保険者数が減少し、平均標準報酬月額も減っていることから保険料等からなる収入は99年度以降減少している。一方、高齢化の進展により老人医療費拠出金が増えていること等から支出は増加している。このため、2002年度の決算は過去最大の赤字となり、84年度以降生じてきた剰余による積立金(96)が枯渇するなど、非常に厳しい状況が続いている(第3−3−19図)。
 医療費の支出の伸びが収入の基礎となる賃金所得の伸びに見合ったものとなっているならば、収支均衡のために必要な保険料率を定めた後は、その他の条件が一定であれば保険料率の変更をする必要がない。しかし、高齢化が更に進行し、国民医療費の伸びが国民所得の伸びを上回る状況が続けば、保険料率や給付内容等の変更が必要とならざるを得ない。

コラム3-10 国民総医療支出について

 国民医療費とは、当該年度内の医療機関等における傷病の治療に要する費用を推計したものである(97)。この額には診療費・調剤費等を含んでいるが、医療費の範囲を傷病の治療に限っているため、正常な妊娠や分娩に要する費用、予防や健康の管理にかかる費用、一般用医薬品にかかる費用等については含まれていない。傷病の治療に要する医療費にとどまらず、健康増進・疾病予防、健康管理、あるいは医療保障の運営費や設備整備などを含めた指標として、医療経済研究機構において「国内総医療支出」を推計している(98)。これによると、99年度の総医療支出は38兆114億円となっており、同年度の国民医療費30兆9,337億円の約1.2倍の規模となっている。

図 総医療支出と国民医療費の推移

●国民医療費増加の背景
 国民医療費の増加の要因を明らかにするため、国民医療費の増加を「診療報酬改定及び薬価基準改正による影響」、「人口増」、「人口の高齢化」、「その他(医療技術の進歩等)」に寄与度分解してみよう。
 これによると、まず、「人口の高齢化」が国民医療費の伸びを毎年2%ポイント程度高めている(第3−3−20図)。また、国民医療費のうち老人医療費(99)の占める割合も年々上昇し続けており、国民医療費が増加する要因は、老人医療費の増加によるところが大きい(前掲第3−3−18図)。年齢階級別に一人当たり国民医療費をみると、50歳未満の者は年額20万円以下であるが、高齢となるほど増加し、70歳以上では年額60万円を超える。このため、高齢化が進むなかで老人医療費は、国民医療費の伸び率を超える対前年比6〜9%程度で増加し続けており、2001年度では11兆6,560億円と、国民医療費の37.2%を占めている(100)
 今後高齢化が進み、一人当たり医療費の高い高齢者が増加することを考えると、国民医療費はいっそう増加することが見込まれている。そのため、老人医療費を中心とする国民医療費の伸びをいかに適正化するかが重要な課題となっている(101)
 また、国民医療費が増加する背景には、高齢化のほかにも医療の高度化等の要因も考えられる。入院、入院外別のレセプト(102)一件当たり平均点数(1点=10円)は、診療報酬の引下げ改定等により入院外がこのところ減少してはいるものの、これまですう勢的に上昇してきた。また、入院レセプトの点数階級別構成比の推移をみると、10万点以上の構成割合が拡大しており、医療の高度化等により、医療費が高額化していることが分かる(103)第3−3−21図)。

●医療保険制度の改革の必要性

 我が国の医療保険制度は、1961年、国民がいずれかの健康保険制度に必ず加入する「国民皆保険」を達成したが、それまで職域・地域ごとに個別の保険制度が分立してきたという歴史的経緯等から、現在の健康保険制度もいくつかの制度に分かれており、その制度ごとに保険料負担や国庫負担が異なっている(104)付表3−6)。
 また、現行の制度では、被用者とその被扶養者が被用者保険に加入し、被用者保険に加入しない者が、居住地の国民健康保険に加入することで国民皆保険を達成している。つまり、大多数の被用者は、勤務している間は被用者保険に加入し、退職後、地域保険(国民健康保険)に加入することになる。この結果、被用者保険には現役世代が多く、国民健康保険に高齢世代が多くなるが、医療費は高齢になればなるほど多くなることから、被用者保険に比べて保険料収入が少なく、かつ医療費支出の多い国民健康保険に負担が集中することになる(第3−3−22図)。そこで、厚生年金保険等の被用者年金の老齢年金受給権者等とその家族のうちで、退職して国民健康保険(市町村)の被保険者となり、老人保健法の適用を受けていない者について、「退職者医療制度」が講じられている。この制度の適用を受ける加入者は、国民健康保険から給付が受けられるが、その費用については退職者の保険料と各被用者保険からの退職者給付拠出金で賄われている(第3−3−23図)。
 さらに、75歳以上の高齢者等(老人医療受給対象者)に対しては、原則として患者負担を1割とし、残りを各保険者ではなく市町村が医療給付を行うことになっている。その財源は国、都道府県、市町村が支払う公費と、各医療保険の保険者が支払う老人医療費拠出金により、共同して負担することとなっている(前掲第3−3−23図(105)
 このように、現在の我が国の医療保険制度においては、制度間において保険料負担や給付水準、国庫負担の在り方が異なっている。また、退職者医療制度や老人保健制度を通じて、現役世代と高齢世代とで高齢者の医療費を賄っている(106)。実際に、年齢階級別に医療費と負担の関係をみてみると、59歳以下では医療費より負担の方が多いのに対し、60歳以上になると、医療費が負担を上回り、70歳以上では、年額40万円以上医療費が負担を上回っている(107)第3−3−24図)。
 退職者医療制度や老人保健制度は現役世代が高齢者の医療費の多くを負担する仕組みになっていることから、高齢化の影響により、今後も老人医療費が大幅に増加すれば、現役世代の負担が過度に高まり、医療保険財政の維持可能性が低下する懸念がある。高齢化・人口減少が進むなかで医療制度を持続可能なものとするため、高齢者医療を中心に医療保険制度を改革していくことが重要である(コラム3−11参照)。

コラム3-11 高齢者医療の改革案について

 医療保険制度の改革を図るため、2003年3月28日に基本方針が閣議決定された(108)。この基本方針の中で、高齢者医療制度については、65歳以上の者を対象とし、75歳以上の後期高齢者と65歳以上75歳未満の前期高齢者のそれぞれの特性に応じた新たな制度とすることとした。高齢者については、現役世代との均衡を考慮した適切な保険料負担を求めることとし、高齢者世代内および高齢者と若年者の世代間の負担の公平を図ることとした。具体的には、(1)75歳以上の後期高齢者については、加入者の保険料、国保および被用者保険からの支援並びに公費により賄う制度を設けるとともに、(2)65歳以上75歳未満の前期高齢者については、国保又は被用者保険に加入することとするが、制度間の前期高齢者の偏在による医療費負担の不均衡を調整し、制度の安定性と公平性を確保することとしている。さらに、高齢者の一人当たり医療費が現役世代と均衡のとれたものとなるよう、国、都道府県、地域の関係者等の取組を一層推進するとともに、保健、医療、介護等の連携による各サービスの効率化等を進め、医療費の適正化を図ることとしている。

図 高齢者医療改革案の概念図

●医療費適正化のための課題
 医療保険制度の改革を通じ、高齢者世代内及び高齢者と若年者の世代間の負担の公平を図ったとしても、今後も急速に進展する高齢化等により国民医療費の増加は避けられない。したがって、需要面・供給面双方における効率化や適正化を通じて、サービスの質を維持しつつコストを削減し、医療費全体が経済や財政と両立可能なものとなるようにすることが不可欠である。医療サービスにおいては、需要側・供給側の双方において適正水準以上のサービスを需要・供給する誘引が働きやすく、医療費を拡大させる傾向にあることから、需要側・供給側の双方に医療費の適正化を促すインセンティブが働くように医療制度を設計することが改革を進める上での一つのポイントとなる。

●医療費適正化のための課題:(1)需要側における診療行動の適正化

 まず、医療サービスを受ける患者側における課題を検討しよう。
 医療サービスの提供による費用は、そのほとんどが保険によって賄われていることから、通常の財・サービスと比較して患者側のコスト意識が希薄となりやすく、必要以上の医療サービスを受診するという行動につながる面がある。したがって、患者負担の適正化を通じて医療サービスに対するコスト意識を喚起し、診療行動を適正化する必要がある。
 2002年度の制度改正では、厳しい状況にある医療保険財政を健全化するとともに、このような診療行動の適正化を図るため、医療保険各制度の自己負担割合が、若年者は3割、老人は1割(109)に引き上げられた。今回の制度改正が患者の受診行動にどのような影響を与えるかについては、施行が2003年4月であったことからまだ十分なデータがそろっておらず、試算することはできないが、前回自己負担割合が引き上げられた97年9月改正(110)の影響を分析した研究によれば、健康保険組合員(若人)の外来では、慢性病や風邪の診療日数やレセプト枚数が減少したことが報告されているほか(111)、高齢者についても一部負担の増加が医療費の適正化に効果的であったことが報告されている(112)
 ただし、自己負担割合を引き上げ、医療費の適正化を図ることは、低所得者や高齢者等への負担が増えることになることから、それらの人々への一定の配慮を図っていくべきであることは言うまでもない(113)

●医療費適正化のための課題:(2)医療サービス供給の効率化

 稀少な医療の資源や財源を効率的に活用するためには、診療行動の適正化と同時に医療サービス供給の効率化を図ることも重要である。一般に医療サービスの供給に際しては、通常の財・サービスと比べて需要者である患者と供給者である医療機関との間における「情報の非対称性」が大きく、医療機関の側に必要以上の医療サービスの供給を行うという結果につながり易い可能性がある。
 実際に、都道府県別の国民健康保険加入者について、人口10万人当たり病床数と一人当たりの医療費の間の関係をみてみると、病床数が多いほど医療費が多くなるという傾向が認められ、医療機関が多く存在することが、より多くの診療を生み出している可能性が示唆される(第3−3−25図)。
 したがって、情報の非対称性が存在するなかで、いかに医療機関が質の高い効率的な医療サービス提供をするためのインセンティブを付与するかが改革のポイントとなる。以下、(1)診療報酬制度、(2)薬価制度、(3)医療提供体制、(4)医療機関の経営の面から、医療サービス供給効率化のための課題を簡潔に検討する。

(1)診療報酬制度の在り方
 現在の診療報酬制度は、基本的に、診察や投薬などの診療行為が多くなるほど医療機関の収入が多くなる「出来高払い制度」となっており、このため、医療機関にコストを削減するインセンティブが働きにくく、過剰診療・過剰投薬になりやすい。この欠点を解消するため、出来高払い制度に替えて、あらかじめ疾病ごと、入院・外来一単位ごとに一定額の支払いとする「包括払い制度」を導入すべきとの意見があり、既に一部に導入されている。包括払い制度の下では、事前に価格が定まっていることから、医療機関側において診療に係るコストをその価格の範囲内に納めようとするなど、効率化に対するインセンティブが働きやすい。
 もっとも包括払い制度の下では、実際の診療内容に関わらず一定の収入が得られることから、費用のかからない医療サービス提供へのインセンティブが働くことや、標準以上の費用がかかると見込まれる患者の診療の忌避が生ずる可能性がある点には留意する必要がある。
 これらの制度の長所、短所や疾病の特性等を踏まえ、出来高払いと包括払いとの適切な組合せのもとに、疾病の特性等に応じて包括払いの適用範囲を広げていくべきであると考えられる。
 現在の医療サービス供給において診療内容が医療機関や医師ごとにバラツキが大きく、標準化が進んでいないことが指摘されている。このことが要因となり、同じ属性や重傷度の患者間においても、サービス提供にかかる現実の原価(114)と診療報酬点数との間にかい離が生じていることが物価構造政策委員会医療価格に関する作業委員会最終報告書(115)で指摘されており、医療サービスにおいて過剰供給や過小供給を行うインセンティブになり得る(第3−3−26図)。医療供給における歪みを是正するとともに、患者本位の医療サービスを提供するため、診療報酬点数をより実勢に近づける努力とともに、科学的証拠に基づく情報を積極的に活用する「根拠に基づく医療(EBM)」(116)の推進等を通じ、医療サービスの標準化を図っていくことが重要である。

(2)薬価制度の在り方
 現在の薬価制度において、政府が個々の医薬品について定める価格(薬価基準)と医療機関の実際の購入価格との間に価格差(薬価差)が生じる場合、医療機関側に必要以上の医薬品を処方するというインセンティブがある。
 医療費に占める薬剤(117)の比率は、80年代半ば頃までは30%を超えていたが、このところ低下し続けており、2001年には19.9%にまで低下した(第3−3−27図)。これは、おおむね2年に1回行われる薬価基準の改正や、薬価差の縮小、薬剤使用の適正化等による効果の現れであると考えられるが、引き続きその適正化を図っていく必要がある。
 なお、薬剤使用の更なる適正化のための方策としては、先発医薬品に比べ安価に提供される後発医薬品(いわゆるジェネリック医薬品)の使用促進が考えられる(118)。我が国の後発医薬品の市場規模は欧米諸国と比べ低くなっており、今後、その市場規模の拡大が期待される(119)

(3)医療提供体制の改革
 我が国の医療提供体制については、医療機関の機能分化が十分に進んでおらず、医療サービス提供の効率が低下する可能性もあることから、全体として重点化を進めるべきといった課題が指摘されている。このため、病院・診療所の機能分化(例えば、慢性期・急性期の機能分化、かかりつけ医機能の充実、在宅医療の推進、包括的地域医療体制の整備等)の促進、高額医療機器等の医療資源の効率的利用の促進、公的な医療機関の役割に沿った運営等により医療提供体制の効率化を図る必要がある。
 また、高齢者医療については、依然として入院の長期化等の問題が指摘されており、高齢者医療から介護サービスへの間の円滑な移行と連携を促進すること等により、高齢者に医療給付と介護給付が効率的に提供される仕組みとしていく必要がある。

(4)医療経営の近代化・効率化
 医療分野においては、IT化の推進や用語・様式等の標準化が遅れており、医療サービスに関する比較可能な客観的情報の提供を困難にし、医療の近代化・効率化を結果として妨げているという指摘がある。このため、医療サービスのIT化の促進、電子カルテ・電子レセプトの推進を図るとともに、医療機関の経営に関する情報の開示・外部評価等を通じ、その組織や運営方法等について近代化や効率化を図っていく必要がある。なお、医療機関の経営形態ごとの生産性を推計した研究によれば、公立病院よりも民間病院(主として医療法人)の方が高く(付表3−7)、また病院ごとに効率性の差が大きいという結果となっている(120)。したがって、医療機関の効率化を図るためには、効率化のインセンティブを踏まえつつ、その経営の在り方を見直していく必要がある。
 我が国では、医療法により株式会社等による営利を目的とした医療機関の開設が禁止されている(121)。これは、株式会社による医療機関の経営については、医療費の高騰を招くおそれがあること、利益があがらない場合の撤退により、地域の適切な医療の確保に支障が生じること等様々な懸念があることによるものである。一方、多様な主体の参入による生産性の向上や患者のニーズに対応した医療サービスの質の向上、株式発行等資金調達の多様化による経営基盤の強化等が期待されるとの意見もある。
 いずれにしても、構造改革特区における株式会社による医療機関経営の状況等をみながら、全国における取扱い等について更に検討を進める必要がある(122)

●医療費適正化のための課題:(3)保険者機能の強化

 さらに、医療費の適正化のためには、以上のような需要側・供給側における取組に加え、本来保険者が行うべき機能を強化し、医療機関の情報の収集・評価、被保険者への情報提供、保険者と医療機関との診療報酬に関するいわゆる直接契約、レセプトの1次チェック、診療報酬の医療機関への直接的な支払い等を進めることが必要である。
 医療における医療機関と被保険者の間の情報の非対称性の存在から、医療サービスの適正な提供は医療機関側の裁量にゆだねられる面もあるが、被保険者の代理人として保険者がその本来の機能を発揮することにより、医療サービスの効率化や質の向上が図られることが期待される。

●持続可能な医療制度の構築に向けて

 今後更に高齢化が進展するなかで、高齢者医療を中心とする国民医療費の増大は避けられない。少子化による医療保険制度の支え手の減少や経済の低成長による保険料収入の減少といった状況においても、安定的で持続可能な医療制度を構築することが課題である。そのため、以上検討した、高齢者医療制度の見直し、需要側における診療行動の適正化、質の高い効率的な医療の提供といった取組を通じ、必要な医療を確保しつつ、増大する国民医療費の伸びを適正化し、経済・財政とも均衡の取れたものにしていく必要がある。


5 社会保障制度の一体性と相互関連性を踏まえた改革

●人口動態、経済成長等の不確実性に対応した社会保障制度の確立
 我が国における高齢化・人口減少は、歴史的にも世界的にも類をみないスピードで進行しつつある。これは今後の我が国の経済成長の姿にも大きな影響を及ぼすことは第2節でもみたとおりである。しかし、具体的にどの程度の成長を期待することができるかは多くの要素に依存している。まず、人口動態そのものに不確実性が伴う。また、人口動態が与えられたとしても、それが経済成長に及ぼす影響は、女性や高齢者の労働力率の動向、国内貯蓄率の動向や海外貯蓄の利用可能性、全要素生産性の動向等に大きく依存している。しかも、それぞれに対して、今後の政策努力が及ぼす影響も大きい。したがって、今後期待できる経済成長の姿については、相当な幅を持ってしてしか論じることはできない。
 他方、本節でみてきたように、高齢化・人口減少は、経済成長への影響ともあいまって、我が国の財政・社会保障制度に持続可能性の問題を生じさせている。財政・社会保障制度は直ちにその破綻がみえてこないという側面もあるため、改革が途半ばのまま今日に至っている。しかし、将来世代にこれ以上の負担を先送りしないためにも、早急に制度の抜本的な改革を進めなければならない。
 その制度改革に際しては、人口推計に一定の幅があることや経済成長にも不確実性があること等を踏まえ、将来にわたって持続可能で安定的な社会保障制度を確立する必要がある。それによって初めて、安心で信頼できる制度が確立することになる。

●社会保障制度の総合的な改革の必要性

 制度改革は、ともするとそれぞれの分野ごとに別個に行われ、全体としての統一的なビジョンが失われがちである。しかし、特に社会保障制度は、年金、医療、介護、生活保護等の全体を通じて国民にセーフティネットを提供するものであり、諸制度ごとの縦割り的な発想で考えられるべきものではない。諸制度間の整合性を取りつつ、総合的に検討していく必要がある。
 社会保障制度の総合的な改革を行うにあたって直面する課題は、厳しい財政制約の下で、いかに社会保障制度が保障すべきリスクを効率的に保障するかということである。これまでは、個々の分野において手厚い給付や制度間における重複・不整合があったとしても、若年人口の増加による支え手の増加や経済成長による租税・保険料収入の増加により、顕在化することはなかった。しかし、そのような幸福な前提がなくなった現在においては、社会保障の総合化という視点に立った給付の効率化や各制度相互間の整合性の強化、さらに社会保障制度が果たすべき役割についての原理原則に立ち返った再検討を行うことが不可欠である。

●社会保障制度間における連携の強化

 限られた社会保障財源を効率的に配分するためには、制度間で給付の重複があるものや他の制度でより効率的に給付が行われ得るものについてはそれを調整し、必要な給付が効率的に提供される体制を整備する必要がある。例えば、年金制度では、住居も含め生活に要するコストを保障している一方、長期に入所している者のいわゆる居住費用は、介護保険においても賄われている。このように、制度間で給付の重複があるものについては、それぞれの制度の趣旨を踏まえ、給付調整を行うことが必要である。また、医療と介護の連携の強化を通じて、本来の目的に反して医療機関で行われている高齢者向けのケアを円滑に介護保険制度の下でのケアに移行していくとともに、介護サービスの提供も極力、施設から在宅へのシフトを図っていくことが望まれる。
 このような、社会保障制度全体を通じた調整は、給付の重複是正のためだけではなく、真に必要な給付水準を維持するためにも必要であることはいうまでもない。例えば、今後、公的年金の給付水準を引き下げていくといった場合に、医療やその他制度における保険料や自己負担割合がどの程度の水準にあるかによって高齢者世帯への影響は大きく異なる。したがって、負担や給付水準の見直しにあたっては、個々の制度ごとの収支のみならず、社会保障制度全体として給付と負担の姿がどのようになるかを踏まえた上で対応することが必要である(123)

●社会保障制度が果たすべき役割の再検討

 厳しい財政制約の中で社会保障制度が持続的にセーフティネットとしての機能を果たしていくためには、社会保障制度が果たすべき役割の再検討を通じて制度の重点化・効率化を図り、給付を負担可能な水準に見直していく必要がある。
 具体的には、社会保障制度全体を通じて負担と給付の水準を見直すことに加え、社会保障の分野を、引き続き公的保障を通じて行う部分と、条件さえ整えば民間部門や自助努力にゆだねるべき部分とに峻別して考えることが必要となるであろう。その上で、引き続き公的保障を通じて行うべき部分については、給付面における現金給付と現物給付の組み合わせ、負担面における保険料負担、税負担、利用者負担の組み合わせの在り方を制度横断的に検討し、全体として最も効果的なものになるよう、制度を見直していく必要がある。また、公的な社会保障サービスの提供にあたっては、サービスの質や安定的な供給の確保等に十分配慮しつつ、利用者の選択の拡大やサービスの質の向上につながるもの等については、民間部門のより一層の活用を図ることも重要である。
 さらに、社会保障制度の在り方を検討するにあたっては、税制の在り方と整合的に検討する必要がある。高齢化の進行に伴い増加する社会保障給付を賄うためには、社会保障負担と税負担の適切な組み合わせの下、持続可能な財政・社会保障制度を構築していく必要がある。今後見込まれる負担の増加を現役世代に求める構造を維持した場合、将来の現役世代の負担が過重になることから、できる限り多くの人々が負担を分かち合う負担構造とすることが求められ、高齢者であっても負担能力のある者には能力に応じて公平に負担を求めることが重要となる。社会保障制度は、税制との整合性を図りながら、受益と負担の適切なバランスを図っていく必要がある。

●支え手の増加を通じた社会保障制度の持続可能性の向上

 以上のような社会保障制度全体を通じた包括的な改革により、高齢化・人口減少の下でも社会保障制度の持続可能性を高めることができると考えられる。しかし、それをより中長期的に安定的なものにするためには、社会保障制度全体を通じて制度の支え手を増やすという基本的な問題に立ち返る必要がある。社会保障制度に世代間扶養を前提とする面がある以上、制度を維持するためには将来を担う世代が順調に育成されることが不可欠である。第1節でみたように、現在の行き過ぎた少子化は、女性の社会進出や人々の価値観との変化等の現実に、現在の諸制度・慣行が対応しきれていないことにその根本の原因がある。政策的支援を強化することを通じて、低下する家族の出産・育児機能を補完し、社会全体として次世代の扶養力を高めていくことが必要である。以上のような次世代育成支援のほかに、女性や高齢者の就労の促進、持続的な経済成長の促進による安定雇用の確保・所得水準の向上等の施策は、それ自身として重要な政策目標となるものであるが、回りめぐって社会保障制度の持続可能性を高めることに貢献する。将来にわたって国民の「安心」と「活力」の基盤となる社会保障制度を持続可能なものとするため、総合的に諸施策を講じていくことが求められる。


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